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初めての戦略

 今回の任務内容は、拠点近くで頻発している獣害の調査と、小規模な魔物の駆除だった。

 通常なら、若手班が対応するような依頼だが、現地には少し妙な報告が上がっていた。


「討伐対象の魔物が“隊列を組んで移動していた”って、どう思います?」


「獣にしては、知恵が回りすぎるな」


 ゴルザンは地図を睨みながら、短く答える。

 一方のカレンは、資料の端を指でなぞっていた。


「この付近、過去にも“集団行動”があったという記録があります。……そのときは、“罠”を使って殲滅ししたようです」


「今回やつらは、その罠が“あるものとして警戒していた”ってわけか」


「ええ。……しかも人間の戦術を、学習した可能性があります」


 その言葉に、ゴルザンがわずかに目を細めた。


「だったら、待ち伏せてる可能性もあるな」


「地形的には、この丘の下ですね。遮蔽が多く、退路が限定されている。……群れが待ち構えるにはうってつけです」


「……だが、気になる。こっちの浅い窪地にも“通った形跡”がある。陽動かもしれん」


「確率で言えば、丘下の待ち伏せが本命です。けれど……確かにその痕跡も、見過ごせませんね」


 二人は一瞬だけ視線を交わした。


「よし、分担しよう。俺が窪地を確認しつつ、誘導の流れを作る。お前は丘の地形で迎え撃て」


「……了解。合図は三手目で」




***




 現地は、思った以上に静かだった。


 風に揺れる草の音。鳥の気配すら薄い。


「これは……やっぱり“いる”わね」


 カレンの予測通り、群れは“罠を張って待つ”ように地形を活かしていた。

 だが、やつらの奇襲は成功しなかった。


「左、先制くるぞ」


 ゴルザンの短い声とともに、カレンが指示を出す。


「左端、煙玉!右、退避準備!三秒後、前進!」


 煙が上がり、視界が遮られた次の瞬間、ゴルザンの大剣が火を吹いた。

 地響きとともに、先頭の魔物が崩れ落ちる。


「いいタイミングだ」


「そちらこそ、対応が速いですね」


 二人の声が、初めて“並んでいた”。




***




 任務終了後、拠点の戻り道。


「……今回は、噛み合ってましたね」


 カレンが珍しく、自分から話しかけた。


「お互い、相手の動きが読めるようになってきた。悪くない」


 ゴルザンの答えも、少しだけ柔らかかった。


「……理屈だけでは、相手の行動は読めません。けど、あなたの直感が“それ”を埋めました」


「俺は、お前の理屈を信じた。それだけだ」


 風が吹いた。

 初めて、視線が自然と交差する。


「お前の記録がなけりゃ、あの地形を選ぶ理由が立たなかった」


「私は、あなたの勘がなければ、裏手の増援には気づけませんでした」


「理屈だけでも、直感だけでもダメってことか」


「……ええ。今までで一番、戦略らしかった気がします」


 ——次も、任せられる。


 そんな“無言の了解”が、そこにあった。

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