表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/12

言葉じゃわかりあえない

 カレンは、会議室の椅子に背筋を正して座っていた。

 しかし、隣にいる男は、開始から十分が経っても一言も喋らない。


「……説明くらいしてくれてもいいと思いますけど」


 そう言っても、ゴルザンは腕を組んだまま、無反応だった。


 業務としての初回ミーティング。

 バディ制の名のもとに与えられた共同任務は、文書整理と現場観察の混合タスク。

 本来なら役割分担と連携手順を詰めておくべき時間だが——会話が成立しない。


「あなた、言葉、使えないんですか?」


「使える。ただ、必要がないだけだ」


「必要、大ありですよ」


 静かに睨み合う空気の中、カレンは自分の苛立ちに気づいていた。

 冷静さが自分の強みだと思っていたのに、ゴルザンと向き合うと、それが削られていく気がした。


(……やっぱり、納得できないわ)


 


***


 


「またか。今度はなんだ?」


 ロランは、書類の束をめくりながら、やや呆れたように言った。


「私たち、本当にバディとして成立してるんですか?会話もない、連携もない。

 こんな状態で“試験運用”って、意味ありますか?」


 カレンは真正面から抗議する。怒っているわけではない。けれど、言葉は鋭くなる。


「……ロランさん、三ヶ月経ったら、私はこの役目から外していただけるのですよね?」


 ロランは書類を伏せた。


「カレン。お前は賢いから、言わなくても気づいてるはずだ」


 彼は椅子の背にもたれ、手を組んだ。


「三ヶ月ってのは、建前だよ。

 最初から“続けさせるつもり”で組ませてる」


「……!」


「上はな。お前とゴルザンの組み合わせが“やっかいすぎる”のを知ってて、だから試したいんだよ。

 どれだけ理屈があっても、どれだけ現場が動けても、組んだときに潰れるなら、組織として意味がない」


 カレンは何か言いかけたが、口を閉じた。

 ロランの目は、真剣だった。


「“合わない”を超えられるか。それを見たいんだ、俺たちは」


 


***


 


 その夜、ゴルザンは一人、訓練棟の片隅で剣の感触を確かめていた。


 バディ。

 言葉でのやりとりは苦手だ。だが、それが言い訳になるとは思っていない。


(……伝える努力を、放棄してたのは、俺か)


 カレンの苛立ちは、正論だった。

 だが、それでも口から出る言葉がうまく選べない。

 そんな自分が、ただ情けなかった。


 思い返すと、昔も似たようなことがあった。

 

 初めてバディを組まされたあのとき——あいつは、やけに明るくて、うるさくて、勝手に距離を詰めてくるやつだった。


 何も言わなくても、俺のペースに合わせて、勝手にしゃべって、勝手に納得して、勝手に笑ってた。


『お前、無口な割に、顔に全部出るから楽だよな〜』


 うるせぇって思ってた。最初は。


 でも——あいつは、俺が“わかろうとする前”から、わかってくれてたんだ。


 あの距離の詰め方を、もう一度できる自信はない。

 けど……今のままじゃ、何も届かない。


 ——なら、やるしかないか。


 手元の木剣を下ろし、目を閉じる。


 言葉じゃわかりあえない。

 けれど、それでも、わかろうとすることは、やめてはいけないのかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ