集中力を乱すな!
三戦の構えから、周りに気つがれないよう息をスゥ〜っと細く静かに吸い込む。空気の麺を食べるように細く長く息を吸い⋯⋯回転を加えながら勢いよく息を吐き出し正面に向かって拳を突き出し‥‥
打つべし!
打つべし!
打つべし!!
躊躇っては駄目だ。呼吸が乱れる。何も考えては駄目だ。集中が途切れる。
ただ拳を突き出す事だけを強くイメージし、呼気を整え狙い打つのみなのだ。
周りは全て敵と思え。踏みしめる大地は時に激しく揺れる。油断なく構えて、足裏に根を生やすつもりで踏みしめる事で、不意の横揺れにも耐えられるのだ。
解放の鐘が鳴り、敗残者が項垂れながら戦いの場を後にしてゆく。新たな挑戦者がやって来ようと、次の一撃で勝負は決する。
──次は、市役所入口。市役所入ぐ⋯⋯ピンッポーン
「──またやられた!!」
あれほど準備し集中し、じっくりと呼吸を整え気を練り、この一撃にかけたのに⋯⋯またしても先を越された。
バス内部に設置されたブザー。降車の意思を運転手さんに伝えるためのベルを鳴らす事は、私の朝の楽しみだった。
それが小学生に押しまける。正々堂々勝負する私に、奴はルール無視で先押しする。
勝負は無情。でもたまには勝たせてくれよぉ。
お読みいただきありがとうございました。