第八話 探索
お読みいただきありがとうございます。
下記HPにネタバレ込みのあらすじ(約一万字)を掲載しています。
興味を持っていただけましたら、是非一度お目通しいただければ幸いです。
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「お前が後ろにいてくれたほうが安心できるんだよ」
「背後や側面からの強襲にはどうするのさ?」
「まったくああ言えばこう言う……。わかった、もういい。お前は俺の後をついてこい。これ主人命令な。はい、おしまい」
「それ横暴だよ、アーベル! ハラスメント反対」
「うるせぇ! いいからお前は俺の後ろについてこい!」
俺は一方的に話し合いを打ち切ると、バルよりも先に穴を潜って中に入る。
「肝心な時だけ主人面するとかずるいよ、アーベル! 僕たちは五分の友じゃなかったの? あーもう、しょうがないなぁ」
文句を言いながらも、バルはいつもどおり後からついてきてくれる。
どうしても俺はバル相手だと甘えてしまうのだ。
子供の頃は二人でよく館の周辺の森などに冒険ごっこと称して遊びにでかけたものだが、バルは危険だとかお館さまに確認取らないといけないとかなんやかんや言いながらも、必ず俺の後についてきてくれた。
バルが後ろにいてくれれば何も心配いらない安心感がある。
穴の先は光一つない真っ暗な空間が広がっており、さすがにこの環境では“暗視”のみで視界を確保するのは十分ではない。
「“光よ”」
光属性の初歩である照明の魔法により、俺は光の球を創り出した。
この光の球は自分の周囲十メートルほどの広さを明かりで照してくれる。
しかもこの魔術は物体に付与することで、松明のような光源として用いることもできる。
自分の剣に光の球を付与し、俺は周囲を照らし出してみた。
「ここは……ホールか何かか?」
そこは半円形の奇妙な空間だった。
天井までの高さはおよそ五メートル。
縦と横の長さはそれぞれ八メートル。
床と壁は外の岩のようなものと同じく、ツルリとした灰色の鉱物とも金属とも言えない独特な材質のもので出来ているようだ。
「……何とも言えない場所だけど、これといって特に気になるものはないね。行き止まりかな?」
「みたいだな。どうしたもんか……。うわぁ!」
さすがにこれ以上何が起きても驚くことなどないだろうと思っていたのだが、甘かった。
今度はズゥンという重い音と共に床が勝手に下へ降り始めたのだ。
「これは昇降機……かな? 地下に向かっているようだけど、かなりの速度だね。相当大きな精霊石を使っているのかな」
滑車とロープを使って物を引き上げる昇降機は、エンジェルの運搬などにも使用されるため、これといって珍しい代物ではない。
かつては人力で引き上げられていたという昇降機も、現在は魔力機関が使用されるようになり、多くの物量を一度に運搬できようになっているのだが、安全面の問題からあまり速度が出せない。
速度を上げすぎると今度はロープが切れやすくなるなど耐久性に問題が起きるのだ。
しかしこの昇降機は、そんなことお構いなしの速度でどんどんと地下へ降りている。
「ったく、こんな速度で降下して事故らねぇだろうな……。入り口であんな声が出せるんなら、せめてこれから下に降りますぐらい言ってみたらどうなんだ」
俺が腕組みしながら降下する床に文句をいうと、バルは肩を竦めて苦笑した。
「さすがにそれは無理そうだね。これは僕の勘みたいなものだけど、あの声はこの建物が出しているというよりは、なんらかのメッセージを自動で読み上げているだけの……そうだね、音声を再生しているんじゃないかな」
「音声の再生?」
「人間の声を機械などで疑似的に再現する技術のことさ。騎士学校の技術指導で話が出てなかった?」
「ああ、そういえばそんな話が出てたような……。確かあの技術はまだ研究中のもので、実際に声のような音はできてないって話じゃなかったか」
「うん、僕もそう記憶している。技術先進国の帝国でも音声の実用化についての発表はなされていないから、先ほどの声が音声ではないかというのは僕の憶測レベルでの話なんだけどね」
「ここが遺跡だとしたら、まぁ不思議じゃないかもしれないな」
かつて五百年以上前にこの大陸に存在したアルトナ共和国の文明であれば不思議はないのかもしれない。
エンジェルを含め今大陸にある技術の大半が、このアルトナ共和国時代の存在した構造物“遺跡”から発掘された遺物によって支えられている。
「確かにそうだね。この建物の壁や床に使われている物の材質なんかを見ても高度な技術が用いられているし、この昇降機らしき仕掛けにしても降りる時の振動とかほとんど感じられないね」
「なるほどな」
見た事もない材質にまだ実用化されていない音声と思われる声での応答、そして音がほとんど出さず静かに降りることができる昇降機。
ぱっと見ただけでも、今の大陸にある技術を遥かに超えている。
そして先ほどの頭痛と急に冴えわたる頭。
それからあの声。
俺の眼に光を当ててそれは“適合者である事を確認”と言っていった。
適合者とは一体何に適合しているというのか。
その答えはこの昇降機が降りた先にあるのだろうか。
そんなことを取り留めもなく考えていると、床が降りていく感覚が感じられなくなった。
どうやら目的地に到着したらしい。
今度は先ほどこの場所を訪れた時に潜った穴の反対側の壁に音も無く穴が開いた。
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