第七話 遺跡
お読みいただきありがとうございます。
下記HPにネタバレ込みのあらすじ(約一万字)を掲載しています。
興味を持っていただけましたら、是非一度お目通しいただければ幸いです。
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バルが指し示した場所には、炭化して地面に倒れていた巨木の後ろにある岩のような何かがあった。
二人で近づいて見てみると、それが岩とは別物である何かであることが分かった。
「これは……構造物だろうか。これが君の目当てのものかい?」
「だと……思う」
凡そ三メートルほどの高さがある大きな岩のように見えるが、その表面はツルリと滑らかだ。
丸みを帯びたそれは何かの構造物のように見えるが、今まで俺が見てきたどんな物とも違うものだった。
一体これは何なのか。
俺は恐る恐るそれに手を触れてみた。
ひんやり冷たい、まるで金属のような感触が伝わってくる。
「妙にツルッとしてるな……。この感触は岩じゃない、やっぱり何か金属っぽい……何かのようだ」
こいつに俺は呼ばれた……?
俺がこいつを呼んだ……?
いや、そんなまさか……。
「うぉ!」
突如、その構造物から細い赤い光が放たれ俺の眼が照らし出された。
「アーベル!」
「な、なんだこれ……。気持ち悪ぃな」
痛みも刺激もないただの赤い光だが、気色悪い事に変わりはない。
不気味な赤い光から目を逸らせようとすると、さらに予想外な事が起きた。
「……網膜認証…………網膜パターン認証中……」
「うわぁ、しゃっべったぁぁぁ!」
騎士として修練を積みある程度は荒事の耐性がある俺も、これには驚きを隠せなかった。
目の前の構造物から、男とも女のものとも違う、まるで金属を思わせるような無機質な声で話しかけられたのだ。
「網膜認証……? 一体何を意味している言葉なんだろうね。そもそも今の声はどこから発せられたんだろ」
慌てて後ずさりしている俺とは対照的に、バルのほうは構造物らしきものに近づき、しげしげと眺めている。
「おい、危ねぇぞバル。何が起こるかわからんぞ」
「やらかし屋の君にそんな事言われたってまるで説得力がないよ、アーベル。そもそも僕を巻き込んでここまで引っ張ってきたのは君じゃないか。今更ビビっても何も始まらないんだから、ここは腹を括って調べるべきでしょ」
「……お前、変なとこ度胸あるよな」
思い付きで行動しやすい俺を止めるために、バルは普段は口やかましく慎重な対応をとるように言ってくるが、いざとなると冷静になって状況を見極めようと情報を収集したり、大胆に動いて見せたりする。
こいつの土壇場に強い性格は、こういうヤバい時とても頼もしく感じられるものだ。
俺とバルは子供の頃から一緒の環境で育てられてきた。
意見の相違から俺たちはよく口論や喧嘩もするが、感情を引きずるような事態になったことはない。
これはお互いに思う事がある時は、すぐに口や行動にだすよう心がけているためだ。
腹に思いを溜めて黙っているのは、意思疎通の面から見てよろしくないケースが多い。
溜めこんだ感情というものはいつかどこかで必ず爆発する。
それはとても危険な事だと俺は経験で学んでいる。
俺が焦ったり慌てるようなシチュエーションの時は、大概バルが冷静でいてくれるため対応を間違わずに済むのが有難い。
確かにバルの言う通り、こうも予想外な事態が続いている状況では今更目の前で何が起きようが驚くほどのことではない。
バルを見習って俺も落ち着くとしよう。
「……適合者である事を確認…………ゲートを解放します……」
先ほどと同じ無機質な声が流れると同時に、今度は構造物の正面にぽっかりと穴が空いた。
人一人が普通にくぐって通り抜けられるほどの穴だ。
その先に明かりはなく、真っ暗な闇に包まれている。
「開いたね」
「……ここから中に入れってことだよな」
「だろうね、じゃ入ろうか」
言うなりさっさと先に進もうとするバルを俺は慌てて制止した。
「待て待て。入るのはいいけど、未知の場所に行くんだから近接タイプの俺が先に進むのがセオリーだろ。なんで遠隔タイプのお前が先に入ろうとしてんだよ」
「僕だって最低限の近接戦ぐらいこなせるよ。それに何が起こるか分からない場所に足を踏み入れる時は、従者がまず安全確保するのが当然でしょ」
「そりゃそうだが……」
俺と同じように戦闘訓練を積み、同じく“騎士”の資格を得ているバルの能力に疑いはない。
近接戦闘において剣や槍などの武器を用いた戦法はあまり得意ではないが、格闘戦闘なら俺と同じくらいにこなせる。
むしろ俺があまり得意ではない魔法や弓による遠隔戦闘が得意な分、総合的な戦闘力はバルのほうが上と見ていいくらいだ。
しかし主人である俺が従者であるバルの後ろに庇われて常に安全圏にいるというのは、どうにも納得がいかないのだ。
部下に危険に侵させる時、人の上に立つ者が同じく危険を侵さずして誰がそれに従うというのか。
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