第六話 発見
お読みいただきありがとうございます。
下記HPにネタバレ込みのあらすじ(約一万字)を掲載しています。
興味を持っていただけましたら、是非一度お目通しいただければ幸いです。
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「さっきのエンジェルの爆発、アーベルの機体でしょ。アークエンジェルをあの爆発で引き寄せてる間に片付けておけってことなのは分かったよ」
「さすが相棒、説明しなくても分かったか」
「都合のいい時だけ相棒扱いするのやめてよ、まったく……。で、これからどうするわけ? さすがにこの黒の森のど真ん中からエンジェル無しで脱出するなんて無茶もいいところだよ」
「そうなんだけどよぉ……痛っ!」
今までにない激しい頭痛が俺の頭を襲った。
視界がグラグラと揺れ平行感覚が失われたらしい。
とても立っていられず片膝をついてその場にうずくまる俺に、バルが駆け寄ってきた。
「アーベル、どうしたの!? さっきの戦闘で怪我でもしたのかい?」
「わかんねぇ……。この森に入ってから、ずっとこの調子でさ……。頭は回るんだが、頭痛がずっと……つうぅ」
「ちょっと、しっかりしてよ! 救急キットなんか持ち出してきてないよ」
頭の痛みは激しくなる一方だが、俺の頭の中である思いがはっきりしてきている。
この先にある場所に向かわないといけない。
なぜだか理由は分からない。
分からないのだがどうしてもこの先にいかなければならない。
その想いがどんどん強くなっていく。
バルが伸ばしてくれた手を払いながら、俺は何とか立ち上がり前方を指さした。
「あっちだ、あっちにいかなきゃいけない……気がする」
「気がするってちょっと……。アーベル、そんなふらついた足で危ないよ!」
「うるせぇ、どいてろ!」
まとわりつくバルに苛ついた俺は、思わず付き飛ばした。
しまった。
やってしまった。
驚いた顔で地面に付き飛ばされて尻もちをつくバルに駆け寄り、俺は手を伸ばした。
「悪ぃ、大丈夫か?」
「アーベル、そうとうキてるね。……わかった、指示に従うよ。あっちの方角でいいんだね」
俺が先ほど示した方角にバルが視線を向けた。
そこは先ほどのアークエンジェルが放ったビームによって樹木が薙ぎ払われ、むき出しになった地面が広がる場所だ。
「どう見てもただ地面しかなさそうな場所だけど構わないんだね?」
「……ああ、あそこにいかなきゃいけないって思いがさっきからずっとするんだ」
頭痛は少しおさまってきたが、この先に進まなければならないという思いは強まるばかりだ。
俺が差し伸べた手につかまり身を起こしたバルは、深々とため息をついた。
「それじゃ、行こうか。主人である君が決めた事だからね。これ以上は何も言わないよ」
「なら、最初から四の五の言わずにさっさと従えよ」
「無茶言わないでよ。君の無茶ぶりのおかげで普段どれだけ僕が苦労したと思ってるんだい」
「そういうなよぉ。退屈しないでいいだろ?」
「平穏な日々を望むよ、僕は」
俺とバルは暗い森の中を歩き出した。
「大体、僕が諫めなかったら誰が君のやらかしを抑えるんだい。お館様から君を託された身としてはとんでもないことをされる度に肝が冷えるんだからね」
「人聞きの悪いことを言うなよ。まるで俺がワザとやらかしてるように聞こえるじゃないか」
「…まさか本当に自覚ないとか、言わないよね?」
あ、ヤバい。
バルの目が据わってる。
「冗談、冗談だってば。そりゃまぁあれはちょっとやり過ぎたかなぁとは思ってる」
「ちょっとどころじゃないよ。エンジェルを限界速度以上の出力を出させて、どれだけの時間稼働できるか試してみるとか無茶にもほどがあるよ」
「そりゃ実戦で自分の機体がどれくらい出力だせるのか、予め把握しておくべきだろ?」
「そうだけど、リューネブルク侯爵家の嫡子が相手の時に、わざわざ見せつけるようにやる必要なかったんじゃないかな」
「あの坊、調子に乗ってたからなぁ。ちょっと驚かしてやろうと思っただけだぜ」
アルデンフォーフェン王国の貴族家の中でも最上位の位置する門閥貴族の一つリューネブルク侯爵家。
王国建国時に功績を上げた名家であるが、最近は落ち目の貴族であると言われている。
とはいえ名家であることに変わりなく、たかだが地方の騎士爵である俺の家とは比較にならない家格の差がある。
騎士学校時代同学年にいたこの家の嫡子がやたらにイキっていたので、ちょっとからかってやろうと俺が模擬戦用エンジェルをフルスロットルで飛ばしたら、そこそこヤバいことになったのだ。
「相手のエンジェルは大破、アーベルが搭乗していたエンジェルも無理をさせたせいで各関節がガタガタで修理不能な状態に陥っていたじゃないか。あの一件のせいで学校中が騒然となって、学校を退学処分にされるところだったよね」
「あの時は兄貴や親父の口利きで何とか休学処分で済んだよな」
「大騒動だったよ、あれは……。おかげでリューネブルク侯爵家に目を付けられて配属先がこんな辺境の国境警備隊にされるとかとんだ貧乏くじ引かされたじゃない。挙句に着任して一年もしない内に帝国の侵攻が始まるなんて、僕からしたらアーベルは疫病神としか思えないね」
「最後のは俺の責任じゃねぇし、表現かなり酷くねと思うんだが」
「本当の事なんだからしょうがないでしょ。それでどこまで歩けばいいわけ? むき出しの地面と焼け焦げた樹々しか見当たらないようだけど……」
「う~ん、ここらへんでいいはずなんだけどなぁ」
しばらく歩いてきたが、バルの指摘どおり俺たちの周囲にはビームで焼かれた跡の光景が広がるだけだった。
先ほどまで続いていた頭が割れるような痛みも嘘のように治まり、ここにこなければならないという衝動も静まっている。
あれは戦闘で高揚した俺の気のせいだったのだろうか。
俺が自分の考えに不安を感じ始めたとき、バルが声を上げた。
「……? アーベル、あそこの樹の影に何か見えない?」
「あれは……岩か何か、か?」
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