第三十話 サルベージ艦
お読みいただきありがとうございます。
下記HPにネタバレ込みのあらすじ(約一万字)を掲載しています。
興味を持っていただけましたら、是非一度お目通しいただければ幸いです。
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なるほど確かに民間の艦であればそれも当たり前か。
民間人で構成させるサルベージ艦で、エンジェルの搭乗に風魔法の習得を義務付けるのは無理がある。
騎士学校ではエンジェル乗りを目指す場合風魔法習得が必須項目となるため、エンジェルの搭乗に足場やゴンドラなどを用いられることはないので、ある種の新鮮味を感じてしまった。
「ゴンドラ等による搭乗は上級騎士や高位貴族など一部のやんごとない方々のみに許される特別な乗り方なんで吃驚したな。ちなみに艦外でエンジェルに搭乗するときはどうするんだ?」
「ワイヤーを使うね。俺たち整備士もゴンドラが使えない時はワイヤーで移動する」
言われてみると、ハンガーデッキで作業に当たっている整備士たちも腰につけたワイヤーガンでエンジェルに上り下りしている。
王国軍では整備士も風魔法で移動することがほとんどなので、この光景も俺にとって珍しいものだった。
「ようこそ、サルベージ艦プリスキラへ。整備担当のラケルだ。よろしく」
ラケルから手を伸ばされ、俺は握手に応じる。
「王国軍騎士アーベル・グラッツェだ、よろしく」
「同じくバルトロメオ・ディアスです。よろしくお願いします」
続いてコクピットを降りたバルもラケルと握手を交わした。
握手をしながらちらりとナフタリのコクピットを覗き見たラケルは、座席が複数あることに驚いたようだ。
「この機体、複座式なのか。変わってるな」
「まぁな。こいつは発掘兵器で色々変わってるんだよ」
「へぇ、そいつは興味深いな。俺たちがこいつのメンテナンスしてもいいのか?」
ナフタリに興味をもったようで、やや食い気味にラケルが聞いてくる。
確かに整備士であれば未知の部分だらけのナフタリに惹かれる気持ちは分かるが、さてメンテナンスついでに中身まで見せてしまって良いものかどうか。
一人で判断するのはどうかと思いバルのほうを見ると、苦笑してラケルの質問に答えていた。
「発掘兵器を許可なく見せることは軍規に抵触する恐れがありますね。その件に関しては、そちらの艦長殿と話し合った後にご返答したいのですが……」
ドヤ顔対応でちょっとムカつくが、こういう微妙な質問を投げかけられた時はバルが上手く対処してくれるので助かっている。
「おっと、あんたらは王国の軍人だったな。不躾な質問をしてすまなかったな。では許可がでるまで手を出さないように皆にいっておくよ」
「いや、気を回してくれてありがたいぜ。ほんとは修理してもらいたいんだがな」
やはりナフタリの扱いには色々と悩まされる。
ラケルがコンソールを操作すると、ゴンドラが下降し始めた。
「それにしてもあんた、その年で整備士をやれるなんてすごいな。俺より年下だろ、あんた?」
「いや、俺はとっくに成人してるぞ、たぶんあんたらより年齢は上だ」
「え? いや、でもその見た目で……」
「俺はハーフドワーフでな。こんな見た目だがもう三十年以上生きている」
「マジか、ハーフドワーフってガキの外見のままなのかよ」
「アーベル!」
バルに窘められてしまった。
ドワーフ、それもハーフドワーフとは珍しい。
ドワーフとは人間に比べてもはるかに頑強な体を持ち、石や鉱物の扱いに長けた種族だ。
男性のドワーフは大半が髭を生やしているので、少年のような見た目のドワーフとは考えになかった。
「すまん、失礼な事を口にした」
「別に気にしてない。大半の人間は俺を見て子供だと誤解する。この体のお陰で狭いところに苦労せず入れるから、整備をする身としてはむしろ得をしているがな」
「なるほど……」
よく見てみればラケルの体は細身ながらよく引き締まり、縄のような筋肉がみっしりと全身についている。
ドワーフの強靭さと人間のしなやかさを併せ持った種族がハーフドワーフか。
ゴンドラが床につくと、今度は狼のような耳を生やした長身の男が俺たちを待っていた。
獣人と呼ばれる動物の特性を備えた人種である。
「ほう、あんな化け物を倒すからにはどんな豪傑が乗っていたのかと思いきや、随分とお育ちの良さそうな坊ちゃん方じゃないの」
ニヤリと肉食獣を連想させる笑みを浮かべる男の声に聞き覚えがあった。
ここまで案内をしてくれたエンジェルの操縦士の声だ。
「悪かったな、ガキっぽい見た目でよ」
「おっと、すまねぇ。つい思った事が口に出てしまうタチでな」
「おい、フォローになってねぇぞ」
「はは、まぁそう怒るなって。さっき自己紹介したな、サウルだ。この艦のエンジェル乗りをやってる。あんたらは王国の騎士さまらしいな。先ほどは艦を助けてくれてありがとよ」
こいつも気さくに手を伸ばしてきたので握手で応じる。
先ほどの格式ばった話し方は、魔物との戦いぶりからナフタリの操縦士がそれなりの武人なのではという判断からくる対応だったようだ。
よく言えばざっくばらん、悪く言えばがさつな性格が素のようだ。
初対面の人間にも物怖じしない物言いからして、恐らくはどこかの国の元軍関係者か傭兵の経歴の持ち主なのだろう。
無礼な態度ではあったが、どことなく愛嬌があり人に憎まれにくい雰囲気がある男だ。
「じゃ、艦長のところに案内するんでついてきてくれ。今はブリッジにいるはずだ」
サウルの案内に従い、俺とバルはプリスキラのブリッジに向けて歩き出した。
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