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第三話 異変

 ヴァーダーンの森とはヴローム砦の東側に位置する広大な針葉樹林帯で、別名「黒の森」と呼ばれる。

 森を構成する樹木の大半がモミなのだが、この樹の葉が遠目には黒く見えるため、森全体が黒く染まっているように見えるところから名づけられたそうだ。

 闇夜の中、背の高いモミの木々の中に紛れ込めればエンジェルの機体であろうとある程度は姿を隠してくれるだろう。

 しかしこの森は魔物が多数生息しており、王国では危険地域に指定されている場所でもある。

 対魔物用の兵器でもあるエンジェルに搭乗しているとはいえ、危険な場所であることには変わりない。

 バルの判断はアークエンジェルの執拗な追跡を振り切るための策として悪くないと思うが、魔物の巣窟を突っ切るというリスクも冒している。

 この判断が吉と出るか凶とでるか、今の時点では分からない。

 俺はというと街道を突っ切って砦への最短ルートをとっていた。

 一番目立つ動きをとっている俺が真っ先にアークエンジェルに狙われると思った(皆の囮になるつもりだった)のだが、予想に反して最後まで放置されることがモニターの画面を見て分かった。

 ヴァーダーンの森の樹々の中を眩い閃光が貫いたのだ。

 まずい。

 アークエンジェルの奴、バルの方に向かっていきやがった。


「おい、バル! そっちいったぞ!」

「みたいだね! すこしかすったけどギリギリ回避できた!」

「よっしゃ! ……いやしかし、冗談じゃねぇぞ! あのアークエンジェルのパイロットは射撃の腕まで化け物クラスだっていうのかよ」


 障害物がある森の中、高速移動するエンジェルを正確に狙い撃ちするなどとんでもない技量を要求される事だ。


「……とんでもない操縦士だね。これは振り切るのが難しいな。アーベル、僕ができるだけ引き付けるからその間に君だけでも……」

「……痛っ」


 その時、俺の頭を激しい痛みが襲い、脳裏に不思議な光景が鮮明に浮かび上がってきた。

 バルの機体の右後方からビームが放たれ、機体中央のコクピットが抉られ爆発四散するという光景だ。

 なぜだか分からないがこの光景がこれから起きることであり、今行動すれば回避できると俺の勘が告げている。


「左に避けろ、バル!」

「え…? と、突然、何!?」

「いいからとっとと左に避けろつってんだよ、このノロマエルフ! さっさとしやがれ!!」

「え、それ酷くないアーベル……」


 俺の突然の指示に困惑するバルだが、なんとか従ってくれたようだ。

 またしても黒い森の中をビーム砲の閃光が走ったが、爆発が起きることはなかった。


「間に合ったか……」

「またしてもギリギリだったよ……。でもアーベル、なんだって左に避けろなんて言ったんだい? まさか右から攻撃がくるのが分かったとか?」

「それよりお前の機体の前方にでかい樹がないか?」

「え、でかい樹? ……ああ、確かにかなり大きなモミの樹があるね。それが?」

「よし、そこの付近にエンジェルを着陸させて、お前はすぐにその機体から降りろ」

「は? え、何言っているのアーベル。この森に生身で降りるなんてそんな……」

「武器の携帯忘れるなよ。俺もすぐにそこに向かうから、エンジェルから降りたら適当な茂みにでも隠れていろ。いいな? 通信切るぞ」

「え、ちょ、待っ……!!」


 バルはまだ何か言いかけたようだが、それには構わず俺は通信機のスイッチを切った。

 困惑する気持ちがとてもよく分かるというか、俺自身、自分の思考速度の上昇に困惑している状況なのだ。

 しかし今はそんなことを気にしている場合ではない。

 操縦桿を握り、自機をバルに向わせた場所へと移動させながら、俺は必死に頭痛と戦っていた。

 正直言って今も激しく頭が痛い。

 頭が割れるような痛みだ。

 額がギリギリと締め付けられるような痛みが走り続けている。

 しかしその痛みに共に俺の思考はクリアになり、研ぎ済まれていくような感覚を感じていた。

 今の俺には森の木々一つ一つの大きさや間隔もはっきりと認識できるし、バルと自分の機体同士の距離や位置感覚も把握できる。

 アークエンジェルの姿はエンジェルのカメラセンサーではなぜか視認できないが、ビームの軌跡とスラスターの駆動音を聞き分ければ自ずとその位置は掴めた。

 バルの機体を確実に捉えたはずのビームが、まるで後ろに目があったかのようにあっさりと回避されたことに、アークエンジェルの操縦士は警戒しているようだ。

 悪くない反応だ。

 無暗な攻撃を控え、バルのエンジェルの動きを見ながら慎重に次に攻撃するタイミングを模索している。

 標的が予想外な行動にでるや無駄弾を撃つことを控え動きの分析に入るあたり、感覚ではなく頭で考えて行動するタイプの操縦士なのだろう。

 それが読めたからこそ、逆にその慎重さにつけ入る戦術をバルに指示した。

 ここからもう一手。

 更なる予想外な行動を行うことでより混乱に拍車をかける。

 そうすればこの危険な追跡を振り切る機会が訪れるはずだ。


「俺の頭はどうなっちまってるんだ……?」

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