第二話 逃走
お読みいただきありがとうございます。
下記HPにネタバレ込みのあらすじ(約一万字)を掲載しています。
興味を持っていただけましたら、是非一度お目通しいただければ幸いです。
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自己紹介が遅れた。
俺の名はアーベル・グラッツェ。
アルトナ大陸の西方に位置する小国アルデンフォーフェン王国の一応“騎士”の立場にある。
見た目はというと、黒髪碧眼、眉目秀麗といえれば良いのだが生憎そこまで整ってはいない(自分ではそこそこイケてるんじゃないかと思うのだが)。
身長百八十センチ体重六十七キロ。
これといって目立つガタイではないが、それなりに引き締まった体つきだと思っている。
先年見習いの期間を終了し、西の隣国にして強大な軍事大国フレンスべルク帝国と王国の国境線付近を警備する第三師団所属第六小隊に配属された。
第六小隊の任務は主に国境線付近の哨戒だ。
王国と帝国両国の関係はというと、ここ百年の間に度々領土権争いが発生しているような良好とはとてもいえないものだが、三年前に休戦条約が締結されている。
締結後の帝国は南方のデルシュテット戦線に専念しているようで、王国側に兵力を展開するような事態は起きなかった。
休戦解除までまだ一年以上期限がある。
帝国軍に動きがない以上、王国西部国境線の哨戒などという任務はほとんどトラブルが起きない地味なものだ。
たまに出没する魔物や野盗の類の討伐任務がせいぜいで、俺たちは完全に油断しきっていた。
そこを帝国軍の電撃的な攻撃に突かれた。
相手は恐らく帝国の精鋭なのだろう。
無駄のない動きで一機ずつ確実に火力を集中させて墜としていく戦術により、小隊所属の半数近くのエンジェルが破壊された。
からくもその攻撃から逃げ延びた俺たちではあるが、帝国の突然の襲撃を伝えるため国境の砦ヴロームへと撤退させてくれるほど相手は甘くなかった。
エンジェルの上位機種であるアークエンジェル。
そのジェネレーター出力はエンジェルの三倍以上だと言われている。
アルトナ大陸の戦争で現在主力兵器とされている人型起動兵器、通称“エンジェル”は各国でそれぞれ独自の発展を遂げているが、アークエンジェルに単機で勝てるエンジェルはないと言っていいだろう。
エンジェル十機が相手をしたとしても、熟練した操縦士が駆るアークエンジェルには勝てないと言われているのだ。
そんな化け物のような機体と正面切って戦うなど無茶以外の何物でもない。
第六小隊のエンジェルで現在無事なのは五機。
各機散会し、スラスターを全開にして飛ばせばどれか一機ぐらいは生きて戦場を離脱してヴローム砦に急報を届けることができるのではなかという小隊長の判断は正しかったと思う。
しかしアークエンジェルの性能とそれを駆る操縦士の技術はその想定をはるかに超えていた。
閃光が三つ。
闇夜を切り裂きながら走ったかと思うと、続けざまに三つの爆音が辺りに轟いた。
ちくしょうが。
誰だ。
誰がやられた?
「小隊長! オムリ! アブドン! バル! 誰か返事をしてくれ!!」
「「「……」」」」
俺の呼びかけに、帰ってくる声はない。
皆、今のでやられちまったのか。
絶望的な思いに胸が締め付けられていると、通信機から今一番聞きたい声が聞こえてきた。
「アーベル、無事!?」
「バル、生きてたか! 心配させやがって!」
良かった、バルの機体はまだ無事だ。
不覚にも目から涙が出そうになるが、ぐっとこらえて前方のモニターを目をやる。
まだ危機は去っていない。
第六小隊をほぼ壊滅させたアークエンジェルは、今も闇夜に紛れて俺たちを確実に追跡してきている。
生き残っているのは俺たち二人だけ。
これからどうすればいい。
「お前はどこに向かってる?」
「少し遠回りになるけど、ヴァーダーンの森に入ってそこから砦を目指すことにしたよ」
「危ないルートをとったな……。いや、アークエンジェルに平地で追っかけ回されるよりはマシか」
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