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第十九話 化け物

お読みいただきありがとうございます。

下記HPにネタバレ込みのあらすじ(約一万字)を掲載しています。

興味を持っていただけましたら、是非一度お目通しいただければ幸いです。


https://ncode.syosetu.com/n9080jj/

「そんな!? ちくしょおぉぉぉぉ、この化け物がぁぁぁ!!」


 化け物、ね。

 ついさっきまであんたら帝国のアークエンジェルの事をそう罵っていた俺自身が今度は化け物呼ばわりされるとは何とも言えない気分になるな。

 最後に残ったソードは半ば自棄になって力任せに斬りかかってきた。

 その気持ちはよく分かるが判断が悪すぎる。

 ナフタリの体を少しだけ逸らせて攻撃を回避し、ダガーを胸甲に差し込んで終わらせた。


「あんたら、運が無かったな。恨むならあんたらの上司か神さまにでもしてくれ」


 俺たちが今相手に取られて一番痛かった手は、どれか一機が戦場から離脱し残りの機体が足止めに残るというものだ。

 特にシールドが守りに徹せられると攻めにくい状況に陥るところだったのだが、馬鹿正直に俺たちの相手をしてくれて助かった。


「敵全機反応ロスト。周辺に敵影なし。僕たちの勝利だね」

「サンクス。じゃ、西門に向かうわ。少し飛ばすぞ」

「今は緊急事態だからね。なんとか耐えてみるよ。周囲の警戒は任せて」

「頼む」


 スラスターを八十パーセントほどの出力で飛ばすイメージで飛行させながら、俺はダガーを握ったナフタリの手をモニターに映し出し、握っているダガーに目をやった。

 銀に輝く刃にはべったりと人の血と油と肉片がこびりついていた。

 全て先ほど倒したエンジェルに搭乗していた帝国兵たちのものである。

 エンジェル乗りの末路は哀れなものだ。

 頑強なエンジェルの動きを完全に止めるには、コクピットを潰して中の操縦者ごと破壊してしまうのが確実だ。

 そのためエンジェル乗りは大概の場合コクピットの中で潰されることが多く、多くの騎士や兵士(エンジェル乗りの階級は国ごとに違う)は戦死した場合遺体を回収されることもされず戦場に打ち捨てられるケースが後を絶たない。

 これはコクピットが破壊されたエンジェルは、修理するよりも新規に建造したほうが最終的にコストがかからないという事情も影響している。

 ともあれその結果として戦死した騎士や兵士の遺族に届けられるのは、遺体ではなく死亡を告知する紙切れ一枚というケースだ。

 俺が今ナフタリによって壊滅させた小隊の遺族もまた、死亡告知書が国から送られるだけで処理されることになるだろう。

 無情であるが、それが今のアルトナ大陸の実情を物語っている。

 人間同士の争いに魔物との戦闘。

 この世界は死と暴力に満ちている。

 自分もその世界にどっぷりつかり過ぎて、凄惨な人の死体を見ても感情一つ動かなくなってしまった。

 騎士となって初めて戦場に立ち、自分が殺した兵士の死体を見て胃の中身を吐き出していた頃の自分が今となっては遠い存在に感じられる。

 戦場に立つようになってまだ一年ほどだというのに慣れとは恐ろしいものだ。


「ところでアーベル。さっき言ってたナフタリの運用についてだけど、今聞いてもいいかな?」

「あ、ああ。そうだな。俺はこいつの機体性能は既存の兵器をはるかに超えるものだと感じている。少なくともそこらのエンジェルとは比較にならないレベルだ」


 血まみれのダガーを見て奇妙な感傷に浸っていた俺は、バルの言葉を受けて思考を現実に戻した。


「確かに。飛行速度、安定性、パワー、装甲、それに何よりも関節部分の柔軟性と剛性が凄まじいほどのレベルだね。恐らく遺跡で発掘された“原形”と言われている兵器の中でもトップクラスなんじゃないかな」

「だな。あのアークエンジェルよりも性能は上だと思っている。で、これほどの性能であれば格闘戦闘の要領を取り入れてもいけるんじゃないかと思ってさ」

「なるほど、確かに君のイメージする戦闘スタイルに機体が追いついているように思えるね。今も機体のチェックもしてみたけど、今のところ目立った損傷はほとんど出てないね。僅かに装甲の損傷が発生したようだけれども、それも二次装甲で止まってる。骨格である一次装甲にはまったく問題が生じてないよ」

「は? まさかこいつこの装甲の薄さで損傷は外格で留まってるのかよ。異常なまでの硬さだな」


 エンジェルの機体は基本的に骨格をなすメインフレームの一次装甲と、それを護るための鎧というべき二次装甲で覆われている。

 ナフタリは見た目がかなり華奢で圧倒的な移動速度から見ても、装甲をかなり犠牲にしているのではないかと思っていたが、装甲の強度も相当なようだ。


「恐らく使われている素材の違いなんだろうね。エンジェルに使われている精霊鋼より遥かに強靭かつ柔軟、耐久性も優れていて内部に伝わる振動を外に逃すような構造になっているようだよ。まさに遺失技術の塊だね」

「俺たちの手には余る代物だな……」


 俺とバルは立場上王国の騎士であるとはいえ、その実態は領地すらもたない田舎の武家貴族の三男坊とその従者という身分である。

 貴族社会の中では最下級の存在であり、平民と大差のない身分と見られている。

 そんな立場の人間が今、国家機密級の発掘兵器を操縦しているのだ。

 こんな事を軍に知られれば、たちまちの上に拘束されてナフタリを取り上げられることだろう。


「同感だね。こんな物騒なものは早々に手放したいところだけど、問題はそう簡単にアーベルはこの機体を手放せないってところなんだよ」

「なんだと?」

「このナフタリは、どうも搭乗者の専属登録を行うシステムが組み込まれていてね。一度登録されると、その人間の生体データと一致する者でない限りシステムが動作しなくなるみたいなんだよ」

「……おい、それってまさか俺以外の誰かが操縦しようとしてもまったく反応しないってことか?」

「正解。アーベルがこの機体に搭乗して操縦しない限り、誰が操縦席につこうがナフタリを操縦することができないわけだ」

「マジかよ……」

お読みいただきありがとうございました。

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