第十六話 国境の砦
お読みいただきありがとうございます。
下記HPにネタバレ込みのあらすじ(約一万字)を掲載しています。
興味を持っていただけましたら、是非一度お目通しいただければ幸いです。
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国境の砦ヴロームは王国と帝国の国境線を警備することを目的として築かれた要塞だ。
堅固な石垣で守られたこの砦は規模こそ小さいながらも防衛力に優れ、帝国や周辺の山脈に住まう蛮族の襲来から王国を守ってきた。
東と西にそれぞれ大門があり、その二か所の門以外からは砦内に出入りができないようになっている。
大門とは厚さ五メートル以上の分厚い鋼鉄製の扉の事で、砦が襲撃された時などはそれが封鎖されることで砦は鉄壁の構えに入るのだが、その守りがいとも容易く崩されていた。
扉や城壁は無残に打ち砕かれ、装甲服を纏った帝国の陸戦隊とエンジェルが続々と内部に入り込んでいる。
砦の中にはトーチカや迫撃砲などの火器が用意されているのだが、それらも今は全て破壊され沈黙していた。
一体どんな火力をもってして、帝国はこの事を成し得たのか。
ナフタリの頭部カメラセンサーが捉えたその答えを見て、俺は思わず声を上げた。
「クソが! 陸上戦艦だと!? 帝国の連中め、マジで戦争おっぱじめる気じゃねぇか!」
アルトナ大陸では兵士や物資、エンジェルの陸上運搬を陸上船と呼ばれる船によって行っている。
陸上船とは巨大な車輪が取り付けられた地上を走る船のことである。
民間人が使用する交易船規模の船から軍で使用される弩級戦艦まで、用途によってその種類や大きさは様々なものが存在する。
その陸上船の中でも、今俺たちの目の前で砦東の大門に砲撃を浴びせ続けている船は飛びぬけた大きさを誇っていた。
「あの艦のデータがでたよ。垂線間長三百十メートル最大幅六十メートルだね。これは帝国が所有する陸上戦艦の中でも最大級の大きさだと思うよ。生憎ナフタリには帝国の戦艦データなんかまでは記載されていないからどの方面軍が所有している艦かまでは分からないけど、恐らく一軍団の旗艦級とみて間違いないだろうね」
「どこの所属の艦だろうが最悪の相手であることには変わりねぇな……。あの馬鹿げた火力を見ろよ。どんな砦、要塞、城が相手でも防衛設備ごと全部ぶち抜いてくるだろうぜ」
ぱっと見えるだけでも戦艦の前面には連装砲が四基、高射砲二機、主砲である巨大なビーム砲が三基確認できた。
この他に機銃など対空火器が艦の至る箇所に備え付けられているだろうから、あの戦艦の火力は尋常ではないことが分かる。
王国であれに単独で対抗できるだけの船があるかといえば、答えはノーだ。
王国の艦隊を総結集させて戦ったとしても何とか五分に渡り合えるかどうか、それぐらいの戦力差がある。
俺とバルはしばらくの間、言葉を失ってヴローム砦が帝国陸上戦艦による一方的な砲撃により破壊されていく光景をただ見つめ続けるしかなかった。
戦艦の砲撃音が夜の空に轟く度に、砦の城壁が、塔が、建物が粉々に砕け散り破壊されていく。
それから少しして、何とか気を取り直したバルが俺に声をかけてきた。
「アーベル、さすがに東門というか砦はもうダメだと思う。陥落は時間の問題だよね。僕たちがそこに加わったところで戦況に変化をもたらすのは難しいだろうね。だけどこれだけ東から攻められているのなら、恐らく西門から非戦闘員たちが脱出しているはずだから、それを手伝ってはどうかな?」
「なるほどな……。撤退戦の手伝いくらいなら今の俺たちでも力になれるか。よっしゃ、西門に移動するぜ」
そう言って俺が操縦桿を握った時、コクピットに赤いランプが灯りピピッという独特の音が響き渡った。
「なんだ、この音は?」
「……こちらに向けて近づいてくる機影あり。この音は機体を感知したときに鳴る警戒音らしいよ。どうやら哨戒中の敵機に発見されたみたいだね。数は五。種別は……所有している武器からするとワンド1、ソード2、シールド1、カップ1といったところかな」
「初戦でエンジェル五機が相手か……」
「今の速度のままで向かってくるならば、敵機の接触までおよそ百秒。判断を頼むよ」
エンジェルは開発された国家によって多少の違いはあるものの、大別すると四種類の戦闘クラスに分かれる。
杖を持ち、魔法による遠隔攻撃を得意とするワンドエンジェル。
両手剣を装備し、近接戦闘に特化したソードエンジェル。
剣と盾を持ち、防御に長けたシールドエンジェル。
円盤やボウガンなど遠隔装備を主体とした攻撃を行うカップエンジェル。
このクラスはアルトナ大陸のほぼ全土で遊ばれている遊具“アルカナカード”のマークと同じであり、各国間で共通認識を図りやすいという事で決められた事らしい。
相手はバランスのとれた五機のエンジェルによる小隊。
こちらは戦力的に未知の部分が多い遺跡で発掘したばかりの古代の人型起動兵器が一機だけ。
戦力から考えれば、このまま敵機に接触する前に一度距離をとるか姿を隠すなどして様子を見るのがベターだろう。
しかし不思議と俺の心は落ち着いており、恐怖や不安を感じることはなかった。
このエンジェルたちに負ける気がしないのだ。
「やられる前にやれ、だな。先手必勝でこちらから仕掛けるぜ。バル、兵装を教えてくれ。確かこいつには武器が内装されているんだったな」
「了解。まず近接武器からいくね。両大腿部の装甲の下にそれぞれ一本ずつダガーが内臓されているよ。側面から取り出せるようになっているみたいだから試してみて」
「あいよ」
バルの説明通りに側面から武器を取り出すイメージを伝えると、ナフタリの大腿部の側面についていた装甲が開き、内蔵されていた武器の柄が露わになる。
それを両手にそれぞれ握らせて構えてみると、刀身が五メートルほどの長さの小剣であることが分かった。
「ふ~ん、こいつの長さを考えるとインファイトで極める戦術がハマりそうだな」
「アーベルは近接攻撃が得意だからこの武器とは相性良さそうだね。他の武装もあるけど説明しようか?」
「いや、そろそろ時間切れだ。速攻でやるから今はこの武器だけでいい。敵の布陣は分かるか?」
「シールドとソード二機がそれぞれ前面に立って壁を構築、ワンドとカップが後ろについているオーソドックスな陣形だね」
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