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第十五話 初飛行

 クッション型の操縦桿に手を当て、俺は全てのスラスターの出力を全開にして飛ぶイメージを伝えた。

 ナフタリはそれに応えて五つのスラスターを全開にして空に飛び出す。

 それはまさに闇夜を切り裂いて飛翔する一迅の銀光のようだった。


「こいつは……スゲェなっ!!」


 コクピット内をとてつもない負荷が襲う。

 これでもスタビライザーで衝撃を緩和しているのだろうが、それにしてもこいつはキツい。

 少しでも気を抜くと全身がバラバラにされそうな衝撃が全身を突き抜ける。

 しかし、この感覚がいい。

 たまらない。

 たまらなく、いい。

 脳天から足のつま先まで俺の体の全ての神経に電気が走ったような感覚だ。

 頭がクリアになり、精神が研ぎ澄まされ、認識できる情報が倍増していることが分かる。

 遺跡を訪れるまで断続的に俺の頭を襲ってきていた痛みも、今は完全に消えている。

 エンジェルを操縦しているぐらいでは到底味わうことのできない最高の感覚に高揚した俺は、このまま空を突き抜けようと操縦桿からイメージを流そうとした。

 しかしその時、後部座席から情けない涙声が聞こえてきた。


「あああアーベル、ちょ、ちょっと待ててて、お願い、少しスピ、スピード下げてぇぇぇぇ!!!」


 悲鳴にも似た声を上げるバルを見て、俺は内心笑いが止まらなかった。

 ざまぁみやがれ、だ。


「う~ん? なんか言ってるけど聞こえないなぁ~。もっとはっきりで言ってくれないとよく分からないぞ」


 速度を落とさず聞こえないふりをし続けると、遂にバルが音を上げた。


「悪かった、悪かったよ!! さっきは僕が調子に乗り過ぎた!! これでいいかい!? とにかくスピードゆるめてぇぇぇ!!」

「へいへい、わかりましたよっと」


 俺は五基のスラスターの出力を今の半分まで下げるようイメージしてみた。

 すると速度が大分に落ちたようで、コクピットにかかる負荷はほとんど感じられないほど緩やかになった。

 それだけ落としてもナフタリの飛行速度はエンジェルのそれを超えている。

 やはりこの機体、機動力は半端ないようだ。


「はぁはぁはぁ……。ひ、酷いよ、アーベル。そりゃ僕もやり過ぎたかもしれないけど、いくらなんでも初っ端からフルスロットルで飛ばし続けるなんて……。マジで死ぬかと思ったよ」

「悪ぃ、悪ぃ。あまりに気持ちいいんで、ちょっと飛ばし過ぎちまった」


 実はバルは乗り物酔いの傾向がある。

 子供の頃は馬や馬車に乗ってもすぐに気分を悪くして吐き気を催していたものだが、長年の訓練により大分改善され、エンジェルに搭乗しても酔わなくほどになっていた。

 しかしさすがにこの速度には耐えきれないだろうと思い、いきなり加速をかけてみたのだが予想以上の効果があったようだ。

 バルの顔が少し青ざめている。

 先ほどの意趣返しとはいえ、流石にこれ以上はやり過ぎになりそうだ。


「しかしバルよ、俺たちは急がないとまずい状況だよな?」

「……分かってるよ。もう少し速度を出してもらってもなんとか耐えきれると思う」

「よし。戦闘に入ったらあの速度を出すこともあるかもしれないが、耐えられるか?」

「短時間ならなんとかいけそうかな……。長時間はきついね」


 敵の攻撃を回避するため、戦闘時はフルスロットルで機体を動かす必要に迫られることもあるだろう。

 バルの事を考えるとその状況はなるだけ発生させないほうが良さそうだが、それは俺がこの機体をどれだけ上手く扱えるかにかかってくるだろう。

 まだ操縦が不慣れなこいつでどこまで戦えるかと俺が考えていると、バルの呟き声が聞こえてきた。


「砦が……空が燃えている」

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