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第十四話 地上

 本来ならばもっと早く狙撃されて機体が壊されるはずだったのだが、なかなか壊されないので俺たち自身の手で自爆させたりしなければならなかった。

 これは俺たちの追撃を行いながら、森に遺跡があることも調べていた可能性があるだろう。

 調査の片手間に相手をされていたのだとしたら相当に見下されていたことになるが、あの戦力差を考えればそれも否めない。

 否めないが、やはり見下されたことには腹が立つ。


「あの野郎、こんど見つけたらただじゃおかねぇ……」


俺が拳を反対の掌に打ち付け悔しさのあまり歯ぎしりをしていると、後の席でバルが苦笑していた。


「あぁ? 何が可笑しいんだよ?」

「違う違う可笑しいんじゃない。感心していたんだよ。あれだけの戦力差を見せつけられたというのにまったく折れないというかブレないよね。この機体ならあのアークエンジェルでも渡り合えそう?」

「さぁな、分からねぇよ。分からねぇが舐められっぱなしじゃいられないだろ? あの舐めくさった顔に一発叩きこんでやらねぇと気が済まねぇ」


 遺跡に収容されていたこのナフタリが、ふざけた性能を誇るあのアークエンジェルと渡り合えるかどうかはまだ分からない。

 しかしこんな兵器を手に入れたのに一矢も報いられないというのであれば、一人の騎士いや男として廃る。


「まったく君らしくて安心したよ、アーベル。さて、そろそろ地上に出そうだね」


 バルの言葉どおり、長い移動を経てようやく俺たちは地上に戻ることができた。

 昇降機が到着した先は、あたりは黒い葉をもつ針葉樹林に囲まれた場所だった。

 最初に侵入した場所からは位置が離れているようだが、ここはヴァーダーンの森のようだ。


「バル、ここの位置情報割り出せるか?」

「今座標確認してる……。この座標からすると……うん、さっき遺跡に入った場所から北北西に五百メートルほど離れた場所にいるみたいだね」

「五百か。随分離れたところに出たな」

「さっきの場所がハンガーデッキだとして、ここがアイオーンとかいう機体の射出口だったよね。あんな地下深くに基地を作るのだから、その当時の地上には何か脅威になるものがいたのかもしれないね」

「相当な脅威、ね……」


 アルトナ大陸を統一していた共和国とその文明が果たしてどのような最後を迎えて、この大陸の歴史から姿を消したのか。

 その理由も原因も結末も、今に至るまで全ては謎のままだ。

 賢者たちの間では大規模な魔法実験の失敗による影響ではないかと言われているが、もしそうであるならば、そもそもどうしてそんな魔法実験を行わなければならなかったのかという疑問が生じる。

 今も大陸各地に存在するアルトナ共和国時代の遺跡。

 そこが発見される場所は、海底の奥深くだったり険しい山脈の中だったりと人里離れた特殊な環境であることが多い。

 これらが意味することは一体何なのか。

 考え出せば興味が尽きないが、今は砦に向かうことを優先しなければならない。


「ま、とりあえずここを出てヴローム砦にいけば帝国やあのアークエンジェルの狙いも多少は分かるかもしれないな。よし、飛ぶか」

「え? アーベル、もうこの機体の飛ばした方分かったの?」

「舐めんな。機体見てれば大体感覚でそのあたりは掴めるぜ」


 バルがモニターとコンソールの間で格闘していた時、俺も遊んでいたわけではない。

 ナフタリのカメラセンサーから映し出されるナフタリの全形を見ていれば、凡そどこに推進機があるかぐらいは理解できた。

 両肩部に取り付けられた可動式のアーマーと背部に取り付けられたスラスター、そして脚部にもスラスターが取り付けられており、これらを稼働させて移動することは分かっている。

 エンジェルのスラスターが通常一つないし二つであることを考えれば、この機体の機動力は圧倒的だろう。

 これだけのスラスターで加速するとなれば機体にとんでもない負荷がかかりそうなのものだが、こいつの装甲は驚くほどに軽く薄い。

 恐らくは負荷を軽減するためのスタビライザーは導入されていると思うのだが、さて、俺たちの体にはどれくらいの負荷がかかるのやら……。

 そしてもう一つ気づいたことがある。

 今宵の空には満月が出ている。

 月の光に照らしだされたナフタリの機体をカメラセンサーごしに見て、俺は改めてその事を実感した。


「この銀一色のボディカラー。設計士か操縦士の奴がよほどの目立ちたがりだったのかねぇ」


 ナフタリのボディは、表面がすべてキラキラと輝く銀一色で塗装されているのだ。

 普通のエンジェルは大抵が目立ちにくい灰色や茶色のカラーで塗られているので、この派手さぶりには俺も驚かされた。


「それがね、表面に塗られている銀色の塗料には意味があるみたいだよ」

「塗料の意味? 洒落や酔狂以外でか?」

「うん。どうもこの塗料、ビームを含めた魔法による効果を拡散させる機能があるみたいだよ。威力の低い魔法攻撃は無効化できるかもね」


今も集中してマニュアルを検索しながらナフタリの性能把握に努めているバルの言葉だから、その説明に間違いはないだろう。


「マジか。そいつはスゲェな……。とはいえこの装甲の薄さとスラスターの数から考えて、こいつは明らかに軽量型の強襲用機だ。敵からの攻撃は基本回避でいくのが正解だろうな」

「そうだね。コーティングによる防御力を過信せず回避に専念するのが無難だと思うよ。内臓されている武器に関しても解析は終わっているから、その都度運用の仕方を伝えるよ」

「そこらへんのタイミングは任せるぜ。それじゃ、そろそろ飛ぶとするかね。ヴロームの位置と方角は分かるか?」

「ここから三時の方角、凡そ八百メートルの位置にあるね」

「飛ばすぜ、捕まってろよ!」

「了解。なるべく安全運転を心がけてよ……」

「俺はいつでも安全運転だよ!」

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