1章 29話「寄り道」
それから何事もなく時間が過ぎ、放課後になった。
グリーゼオの怒りを買ったからか、もう二人に話しかけてくる生徒は一人もいない。ノアールはともかく、グリーゼオは友人だった子からも遠巻きに見られるようになってしまった。
だが、本人は何も気にしていない。むしろ、自分から遠ざけるようになった。あれから友人と話すところを見なくなり、ノアールは何かあったのかと心配していたが、何もないよと適当に言い訳を付けて誤魔化している。
「ゼオゼオ! お兄様が今日の放課後にゼオの家に行っても良いって!」
「は? いつの間に……」
「さっき、廊下ですれ違ったの。なんか先生に用があって、その帰りとか言ってたかな。でね、ちょっとだけゼオの家に寄ってもいいか聞いたら、あまり遅くならないようにねって」
「ったく、しょうがねーな……まぁおれも分からないところとか聞きたかったし、本当に少しだけだぞ」
「分かってるって!」
ノアールは待たせている馬車へと駆け寄り、御者にグリーゼオの家に寄ってほしいと伝えた。
後ろから申し訳なさそうにするグリーゼオに、御者は笑顔で応え、彼の家へと馬を走らせる。
「ゼオ、今日も家で一人なの?」
「ん? ああ、そうだな。今回はちょっと時間かかるかもって言ってたし、着替えも多めに持ってったからあと数日は帰ってこないかも」
「ふーん……じゃあ、うち泊まる?」
「なんでそうなるんだよ!?」
「だって子供一人でいるのは危ないよ? ゼオの家、ご近所さんもいないじゃない」
「まぁ、ちょっと人気のないところではあるけど……むしろ人がほとんど近付かないから逆に安全というか」
「でもでも、変な人とかが来ちゃったら?」
「父さんが家の周りにトラップ魔法を仕掛けてるから問題ないと思うけど」
「そんなのあるの? 気付かなかった!」
上手く話が逸れて良かったとグリーゼオはホッとした。
確かに子供一人の留守番は危険もある。そのため、グリーゼオの父は家族以外が家に侵入したときに魔法が発動するように仕掛けていた。ノアールのような客人の場合は、グリーゼオや家の住人がドアを開けて招き入れたため仕掛けが発動しないようになっている。
「ゼオのお父様って凄いよね、私も将来そういう仕事したいなぁ」
「子供としては心配になるけどな」
「あー、そうだよね。確かにゼオは寂しいもんね」
「いや、寂しいとは思わないけど……なんかあったとき不便だろ。まぁおれも慣れたし、飯も作れるようになったし、生活力みたいなのは身についたから良いのかもしれないけど」
6歳で身に付ける必要のないものだとノアールは思ったが、それは自分にも言えることなので口にはしなかった。




