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1章 22話「威圧」




 それから2日後。

 ノアールはグリーゼオと共に学園へ登校した。

 事件の発端である男子二人はノアールたちより早く復帰していたようで、かなり厳しく説教されたらしく教室の端の方で居心地悪そうにしていた。


 教室に入ると、グリーゼオに話しかける人たちはいたがノアールのところには誰も近寄らなかった。

 予想通りではあるが、ただいつものように遠巻きにしているだけではない。明らかに外見の変化を気にしているようで、コソコソと話している声が聞こえてくる。


 魔物に襲われたことは皆が知っているが、ノアールの容姿が変わったことは知らない。

 白銀の髪があんなにも黒くなってしまったのは魔物による呪いなのではないのか。近寄ったら自分たちも呪われてしまうのではないか。感染したらどうしよう。そんな言葉が耳に届く。


「……ノアール」

「うん?」


 周りの声を気にしてノアールに声をかけてみたが、当人は特に気にしていないのか、いつものように分厚い本を出して読み始めていた。

 グリーゼオは「なんでもない」とだけ言って、授業の準備をした。気にしすぎてもよくない。ノアールは髪や目の色が変わっただけで周りに影響を与えるような変化はない。呪われてもいないし感染もない。

 これから先、今まで通りの日常に戻れば皆も分かることだろう。

 時間が解決する。このまま何も起きなければ、勝手に忘れ去られていくことだろう。グリーゼオは周囲に対して変に注意したりせず、今はノアールのそばにいて見守ることにしようと決めた。



―――

――


 放課後になり、何事もなく一日が終わったことにグリーゼオはホッとした。

 ノアールもいつも通り本を読むのに集中していたし、周囲の声を気にする様子もなかった。逆にグリーゼオの方が周りを気にしすぎて余計に疲れてしまっている。


「……はぁ」

「どうしたの、ゼオ?」

「いや、大丈夫。久々の授業でちょっと疲れた、かな」

「そっか。明日は魔法学の授業だよね。ゼオの方は体とか平気そう?」

「ん? ああ、まぁ大丈夫かな。十分回復してるし、問題ないと思う」

「なら良かった。私も明日からまた頑張らないとね」

「お前の方が魔力消耗してたんだし、無理すんなよ」

「私も平気だよ。休んでた間もしっかり精神統一とかしてたもん」


 兄に教わったんだと、両手を合わせて拝むようなポーズをしながら自慢げに言うノアールに、グリーゼオは噴き出すように笑った。


「そっかそっか、まぁしっかり休めたんだったら良かったな」

「ゼオは? 何してた?」

「おれは部屋の掃除。父さんがまた散らかしてたから」

「え、退院してすぐ?」

「そう。母さんは仕事の方を中断してきちゃったから先に戻っちゃってて、おれを迎えに行くのに残ってたらしいけど……どうせなら母さんが家に残っててくれたらよかったんだけどさ、なんか向こうでもいろいろ細かい手続きがあるとかなんとかで父さんじゃ駄目なんだとさ」


 帰り支度をしながら、グリーゼオは大きく溜息を付いた。

 グリーゼオの両親がどういう風に仕事を分担しているのか分からないために口を挟むことが出来ないが、とりあえず息子である彼は少し苦労しているらしい。


「あ、そうだ。父さんが再来週は長めの休みが取れるから、遊びにおいでってさ」

「え、本当?」

「ああ。本だけじゃなくて遺跡で見つけた遺物とか見せてあげるぞーって」

「いいの!? 見たい見たい、嬉しい!」

「じゃあ父さんに伝えておくよ」

「ありがとう!」

「おう。じゃあ、また明日な」

「うん! またねー」


 ノアールは満面の笑みで教室を出て行った。

 あんなに喜んでくれるとは思わず、グリーゼオもつられて顔がニヤけてしまう。色々あったが、ああして元気でいてくれるなら良かった。


「な、なぁグリーゼオ」


 グリーゼオも帰ろうと教室を出て行こうとした直後、クラスメイト数人に声を掛けられた。

 皆、表情がどこか暗い。彼らが何を聞こうとしているのか、それはノアールが出て行った途端に声をかけてきたことから内容は察することが出来る。


「なんだよ」

「……その、お前は平気なのかよ。ディセンヴィオと一緒にいて」

「は?」

「だ、だってあの子、魔物に襲われたんでしょう? それであんな……」

「魔物に襲われたのはおれだって一緒だけど? 思いっきり噛み付かれたし」


 そう言いながらグリーゼオは自身の右肩を抑えた。

 魔物に襲われて呪われたんだというなら、実際に噛みつかれたグリーゼオにだって何か変化があってもおかしくない。


「で、でも髪の色だってあんなに変わっちゃってて……こ、怖いじゃない」

「はぁ……おれはアイツと一緒にいて何もないし、病院の検査でも異常は見られなかった。魔物に襲われたからって理由だけでぎゃあぎゃあ騒ぐなら、おれにも近付くなよ。どうするんだ、おれも呪われてたら」


 あからさまに苛立ちを顔に出すグリーゼオに、クラスメイトたちはビクッと肩を震わせた。

 現に、グリーゼオは怒っていた。不安に思うのは勝手だが、陰でコソコソとされるのは気に入らない。

 もうノアールの悲しむ顔を見たくない。降りかかる火の粉は払うのみ。きっとノアールが彼らの声を聞いたら胸を痛めてしまうかもしれない。

 だからこれは、自分にしかできないことだ。


「ノアールは違反行為をした奴らを助けに行って巻き込まれたんだぞ。それなのに事情もよく知らないお前らが騒ぐんじゃねーよ。あいつは何も変わってない。現に今日一日で変化があったやつがいるのか。いねーだろ」


 怒気を含んだ声に、女子は涙目になっている。

 だがそんなこと知ったことじゃない。勝手に騒いでるだけの彼らに気を遣う理由なんかない。


「どうせアイツに話しかける気もないんだから、今まで通りノアールに関わるなよ」


 そう言って、グリーゼオは教室を出て行った。

 後ろから何かヒソヒソと話す声が聞こえたが気にしない。


 ノアールの進む道を邪魔させない。

 グリーゼオはたとえ自分が嫌われてでも、手段は選ばない。彼女の心の安寧のために。





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