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整形美人が異世界転移して魔王を仲間にする話

作者: 六月梅雨子

主人公は美容整形していますが、この物語は整形を肯定も否定もしていません。ただの一属性としてお楽しみください。


2024.7.6いくつか修正しました。

 美麗なんてどこにでもいる名前だけれど、私にはちょっとコンプレックスだ。

絶対に名前負けしている。


 悲しいかな私は生粋の日本人顔で、1000年前なら爆美女だったに違いない。

鏡の角度をどう変えても映るのは一重の細めに下膨れの頬。


 苗字が小野のせいで、一時期あだ名が小町だったこともある。

本当は嫌だったけど、場を白けさせるのも嫌で受け流してきた。

そんな内気な性格も相まってか「似すぎマジ草」とチー牛にからまれたことがある。

彼は給食に出でた納豆のおかめを指差していた。


でも反論できない。だって事実似てる。

はー、やってらんない。整形しよ。


 生まれ持ったものは仕方ない。自分で煮るなり焼くなりするしかない。

親から貰った大事な身体?それはそう。

でもね、好きと大事は違うんだ。


 まずは好きなモデルや女優を研究した。

丸い形をした後頭部、ツヤツヤさらさらの髪。

女性らしい丸みを帯びたおでこにクリクリの二重の大きな目。スッと通った小鼻まで小さい鼻に短い人中から辿ってシワのないむっちりした唇。

極めつけに余白のないシュッとしたあご周り。

シミと無駄毛のないツルツルの肌に出るとこ出てメリハリのある身体。


 バイトできる年頃になってようやく整形を目標に走り出した。夜職は嫌だったからバイトを何個もハシゴして、朝から晩までクタクタになるまで仕事漬け。


 必死に稼いで、一軒家が買えるほどお金を注ぎ込んだ。

そして筋トレも欠かさず頑張って、やっと手に入れたそこそこ納得のいく顔と身体。


 青春と大金を引き換えに得た大切な顔と身体は、性格までも変えてくれたと思う。

内気で意見の言えない子だったのに、整形してからは意見を言っても恥ずかしくないし人と話すことに罪悪感もなくなった。


 でも今、そんな大切な身体に危機が迫っている。


 まさかの異世界転移。

医学がファンタジーで魔法が現実の世界。

整形のメンテナンスが出来ないなんて無理ゲー過ぎる。


 魔王討伐しないと帰れません?

聖女が最強の魔王を消し去ると予言があった?

誘拐しといて戦争に参加させるとか何言ってるんだ。

内心キレ散らかしながら仕方ないので冒険に出ることに。


 私たちは軍隊の先発メンバーだという。まずは少数精鋭で仮拠点を切り開いて、その後から後発の軍隊が合流するのだとか。


 とても強くて頼れる勇者と、強力な魔法で敵を蹴散らす魔法使い、どんなキズでも魔法でたちまち治す僧侶、私は敵の攻撃を弾き返したり敵の弱点を見抜けるらしい。


 順調に進んでいた頃、まさか僧侶の回復魔法が弊害になるなんて思ってもみなかった。

なんと、かすり傷を魔法で手当してもらって数日後、私の腕に毛が生えた。


 ん?全身医療脱毛したのに?

 レーザーで毛穴焼いたのに?


「私、どんな傷でも治せるんですよ!跡だって残しませんよ」


僧侶は得意げに笑った。


「腕が取れようが足が千切れようが、綺麗に元通りにできますから安心してください!」


 それはつまり、皮膚も骨も再生しちゃう?

うっすら生えた腕毛に絶望していると、僧侶は何を勘違いしたか得意気に続けた。


「どんなに欠けていても元通りです」


「さすが僧侶」とメンバーが褒める中、私の心はどん底にいた。


もし整形で削った顎が復活したら?

二重整形に人中短縮、鼻だって元通りになってしまう?

豊胸だって脂肪吸引だって元通り?


え、無理。ムリムリ。


この見た目になるまでに、全てを犠牲にして痛みだって耐えた。

青春とお金はもちろん、病院選びの苦労にダウンタイムの悲惨さに耐えたのに。

ただでさえヒアルロン酸を入れた箇所が萎んできいるのに、これ以上元通りになっては辛すぎる。


早急に魔王を倒して帰ろう。絶対に。


 せめて顔だけは絶対にダメージを受けないように、何重にも顔に守りの魔法をかけて魔王に戦いを挑んだ。

味方の軍も敵の軍も攻防が続く中、やっと魔王の前までたどり着いた。


「待っていたよ」


 余裕たっぷりに王座から下を私たちを見下ろす魔王。

醜くて非道で冷徹と聞いていたその実態は、爆美女だった。

それはもうひれ伏したくなるような堂々とした美女。


 待って、好き。


 見惚れている間に勇者たちが恨みの籠もった殺気を放っていた。

魔王は、その態度は当然よねと余裕たっぶりだ。


 待って待って、話そう?話し合いをしよう?私たちは殺戮集団じゃないんだし。

魔王めっちゃ綺麗だし、その秘訣を聞いてからでも良くない?


 仲間を説得させる努力も虚しく、あっという間に戦闘は始まって、あっという間に負けてしまった。


 みんな辛うじて息があるような状態なのに対して、怯んで戦闘に参加てきなかった私。

ほぼ無傷の魔王は勝ちが確定したと悟ったのか、玉座に座り悲しそうな顔をして語りだした。


「やっぱりわたしは最強よ。あなたこの世界の人じゃないでしょ。あなたもあの気まぐれな女神に会ったの?私と一緒で本当の姿じゃないもの。私ね、500年前くらい?元々は人間だったの。女神に最強の美女にしてほしいって願ったらこの有り様。その時は気づかなかったの。最強ってね、競う相手が沢山いて一番で勝つことをいうんだって。だから私はどんなことでも戦って勝ち続けることになってしまった。みんなにチヤホヤされたかっただけなのに。理不尽だと思わない?」


 女神?勝ち続ける?理不尽?

美しい唇から美しい声で発せられる言葉には後悔が感じられた。


 魔王は立ち上がり、ゆっくりと意識が朦朧として倒れている勇者たちに近づいていく。


「魔族は楽よ。勝てば認めてくれるから、とても居心地が良いの。でも人間は負けを認めない。勝ちたがるからめんどくさいわ」


 魔王が勇者を一撫すると、勇者の姿がパッと消えた。


「さっきの子は剣技、この子は魔術、この子は不老不死の技術に執着して一番でないと気がすまないの。私の前では無意味なのに」


 勇者に続き、魔法使いも僧侶も魔王が一撫でした瞬間にパッと姿を消していった。

目の前で仲間が消されているのに、魔王の美しさに惚れ惚れしてしまう。

魔王の語りは止まらない。


「あなたはわたしと同じで美に執着してる。でもいつもの人間と少し違う。いつもなら人間を生かしては返さないけれど、美しさを褒めてくれたのは嬉しかったから助けてあげる。貴方の仲間と一緒に人間の王の元におかえりなさい。転移させてあげるからこっちへおいで」


 手招きをする魔王は優しそうな顔で微笑んでいる。

転移される前に、どうしても彼女の美の秘訣を聞きたい。

意を決して、美の秘訣を聞くと魔王は嬉しそうに笑った。


「それ聞くー?」


 そして、魔王が自らテーブルと椅子を魔法で用意しくれた。物を移動させる魔法は息をするくらい当たり前のことなのだとか。


 座談会のように惜しみなく美の秘訣を話してくれた魔王。

私が異世界から来たと聞くと、今度は私のことに興味が出たみたい。


「さぁ、私のことは充分話したわ!では今度は、あなたの元の世界のことも聞かせて!」


 魔王は目を輝かせながらそう言った。

なので今度は、元の世界での私のルーティンを説明した。化粧品が手元に無いので伝わりづらいだろうにそれでも楽しいそうに聞いて、時折質問までしてくれる。


「そっちの世界の方が平和で楽しそうね。そうだ、今からそっちの世界に行きましょう。この世界にはそろそろ飽きてきたのよ」


 私が命懸けで元の世界に戻ろうとしていたのに、魔王はちょっとコンビニ行ってくる的なノリで言い出した。

そう言って私の手を取ると、視界がぐにゃりと曲がり真っ白になった。


 気づいたら魔王と一緒に私の一人暮らしのアパートの部屋に居た。

久しぶりに触ったスマホの日付は異世界転移した日だ。


 戻ってこれた。嬉しくて泣いてしまった。


 それから魔王と生活がはじまった。

魔王はこの世界でも魔法は使えるらしい。

おかげで電気代も水道光熱費も魔法で節約できる。


 ある日、ファッション誌を読んでいた魔王がパリコレのオーディションを受けたいというので、費用を工面して更に心配だから付いて行った。


 さすが魔王。オーディションは大成功でスーパーハイブランドのランウェイを堂々と歩いてみせた。


 それを機に、ランウェイを見た業界人から引く手数多になった魔王は、あっという間にスーパーモデルになった。


 それから私は仕事を辞めて、魔王の世話係として世界中ついて行くことになった。


 モデル業は昼夜問わず過酷だ。

でも異世界転移の旅に比べたらなんてことない。

命のやり取りは無いし、美容メンテナンスもできるし。


元聖女と元魔王のタッグは無敵らしい。

目指すはスーパートップモデル。

そうなる日も近いかもしれない。

お読み下さりありがとうございました。

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