STORIES 025:ナイトシアターに飽きたらピアノの下で眠ろう
STORIES 025
都内の大学に通っていた頃。
僕の周りには少し変わった友人たちがいた。
色んな地域から集まっていたからね。
その中の一人、音大に通うピアニスト志望の女性。
繊細で神経質そうでいて…少し雑。
男っぽい面も持っていたようだ。
アーティスティックな彼女の周りには、やはりそれらしい友人たちが集まっていて…
今でいうLGBTQの枠など気にもしていない感じだったみたい。
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その頃の僕には付き合っているコがいて、それはそれで上手くいっていた。
周囲の友達とは男女の区別なく仲良くしていたし…
彼女もまた、その中のひとりだ。
話が合う友人のひとり。
ただ、少人数での行動を好む彼女とは、大勢でワイワイと会うような機会は少なくて…
電話で話したり、たまに2人で食事したり、ということが多かった。
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あるとき、近くの大学の学園祭に誘われた。
オールナイトで楽しそうだから行ってみたいと。
二つ返事でOKした。
夕方から訪れたキャンパス。
酔っ払いや浮かれた学生が騒ぐ自由な空間。
夜通し続くお祭りって、確かに面白い。
取り止めもない話をしながら、適当にあちこちを覗いてみる。
今夜いちばんのお目当てはオールナイトシアター。
確か、最初に観たのは「さらば青春の光」。
モッズたちの閉塞感。俳優としてのスティング。
いいね。期待通りの映画だ。
少し眠くなってきたけれど…
続いては「イージーライダー」。
しかしこれは、深夜にわざわざ眠い目をこすりながら、こんな場所で観るような映画ではなかった。
退屈に耐え切れず、僕らはそこを出た。
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夜通し映画を観る予定だったので、既に終電は出たあと。簡単には帰れない。
じゃまたね…なんて、いつものように解散したかったけれど。
タクシーは捕まりそうにないし、さすがにこの時間に女のコをひとりで帰すのは危ないからなぁ…
「アンタのウチで飲み直すのは?」
「絶対ダメ!カノジョに殺される。」
「じゃ、ウチくる?歩けない距離ではないよ。」
「仕方ない、送ってくか…」
確かに歩けなくはないね。
…しかし、だいぶ歩いた。遠いよ…
酒も抜けるほど歩いた。
眠い。
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ようやく彼女のマンションの前までたどり着いた。
「ん?ここ、男性入館お断りとか書いてあるじゃん。
始発までどうすんのよ、オレ。」
「早朝のうちに出ていけば問題ないよ。」
「ホントかよ…」
早めに帰宅しておけばよかったのにな、そんな軽い後悔が湧き起こる。とにかく眠い。
さほど広くはない部屋。
その中央に置かれたグランドピアノが、異質な存在感を放っている。
ほとんどのスペースを占領しているのではないか。
まぁいいや、この下で仮眠するか…
「あ、予備の毛布とかないよ。」
「え… クッションすらないの…?」
「弾いて寝るだけの部屋だからね。」
「お前なぁ… 先に言っといてよ…」
僕はため息をつきながら空っぽの冷蔵庫を閉めた。
仕方なく、狭いベッドに並んで横になった。
もっと離れてよ、落ちるって、とか言いながら。
そしていつしか…
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始発が動き出した。
僕は、間男が逃げるようにソソクサと部屋を出た。
朝日のあたる道を駅へと向かう。
もちろんマチガイは起こりませんでしたよ。
大切な友人だからね。
その後も、普通にバカ話をするような電話をしたり、たまにはまた食事にも出掛けたり。
卒業してからは徐々に連絡を取ることもなくなっていったけれど。
やはり性別が異なる友人とは、環境が変わると連絡を取りづらくなるものだから。
それが自然なのだろう。
でも、いい友達だった。
そういう友人関係もあるよね、世の中には。