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第十二話 偶然の邂逅

「このあたりも変わったな」

 車内から、復興中とはいえまだまだ瓦礫の残る、横浜へと続く湾岸道路の景色を眺め、剛三は眉を顰める。

 剛三が台南空へ所属する以前は、厚木基地へ配属されていた時期があり、このあたりは剛三の縄張りのようなものだった。

 顔見知りのカフェー嬢、懐かしい横浜の海軍コロッケ、それも何も残っていない。懐かしい青春の記憶に痛々しい戦争の爪痕を見せつけられたような気持ちである。

「そういえば霧島殿は十一航艦(第十一航空艦隊)の出でしたか」

 剛三の胸中を察したかのように、運転手が話かけた。

 年のころは三十代半ばくらいであろうか。佇まいが完全に軍人のそれであった。

「ええ、新編の前に除隊となりましたが」

「私は霧島殿が除隊された後の十二航艦(第十二航空艦隊)の配属でして、仲間のほとんどはソロモンへ引っ張られました」

「それは…………お気の毒に」

 ソロモンといえば、ヴァージニア共和国との間で一大航空戦となった激戦区である。

 ブーゲンビルやガダルカナルの上空で、海軍航空隊はこの地で半数近い歴戦のパイロットを失っている。

 おそらくは運転手の仲間も、大半はそこで戦死したはずであった。

「私はたまたま不時着のときに足を折って入院しておりましたので内地に残されました。この道を通るといささか寂しい思いがするものです」

 生き残ったのは間違いなく素晴らしいことだ。

 それなのになぜか、剛三にも運転手にも、心のどこかに戦友に置いて行かれた、という思いがある。

 これは実際にともに命を懸けて戦った者にしかわからない感覚である。

 運転手もそれを知るということは、かなりの修羅場、生死の境を乗り越えてきたに違いなかった。

 しばらくして車は海岸線を外れ横浜から品川へと向かう。

 さすがに帝都の中へ入れば復興は著しく、下町も都市部のビルもすっかり新しい姿を取り戻していた。

 ヴァージニア共和国が竜の襲撃で崩壊したせいか、まだヒノモトに本格的なモータリーゼーションはやってきていない。

 それでもダットサンやミゼットが走る姿は確実に増えている。通商破壊で途絶していたバタヴィア王国から石油の輸入が再開されたためだ。

 このまま復興が進めば、いずれヒノモトにも本格的なモータリーゼーションの時代がやってくるだろう。

「――――うん?」

 ふと、弥助が何かに目を止めた。

「どうかしましたか?」

「いや、少し見知った男の顔を見つけたんでね…………気になるな」

「いったい誰だい?」

 三年前にヒノモトを出国していた弥助が知る人物は限られる。基本的には、鬼山家に関する人間である可能性が高い。

 剛三が心配したのはその点だった。

「ああ、望月って男を覚えているかい? 葉月姉」

 弥助の言葉で思い出したのか、葉月はあからさまに不機嫌そうに渋面を作った。

「魁の腰ぎんちゃくですね。分家の当主ですが、確か後ろ暗いところを任されていたと思います」

 それだけではなく、望月はまだ十三歳の葉月にいやらしい視線を送っていたそうで、弥助はそれを聞いて、密かに望月を絶対に許さないと決めた。

「その望月がどうしてこんなところを……それに何か焦っていたような」

 本来ならば接触しないほうがよい人物である。

 弥助の動向は魁を追い詰めるための知られてはならない切り札だ。

 それでも――――追うべきだと弥助の勘が告げている。

「追いたいか?」

 剛三の言葉に弥助は力強く頷いた。

 生死の境に生きるものが、何かを直感すれば、その直感はおよそ正しい。剛三も弥助もそれを知っている。

「運転手さん、あの白いフォードを追ってください!」

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