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27. 小説家の秘策は、今始まるんだが

「部活の名前は青春部。活動内容は名前の通り、青春を知り青春を謳歌するための部活動よ。新規部員の入部条件は部長である私の完全招待制。顧問はアリサ先生に許可を頂いているわ」


 マイクを片手に持ち、滑らかに語る詩織に生徒会の役員たちは小さくザワザワ騒ぎ始める。

 それは職員も同様であり、名前の出たアリサに視線が集まるが当の本人は知らぬ顔で目を瞑っていた。


(全校生徒の前で提案する気なのか……やっぱり千秋先輩は度胸がすごいな)

 詩織はきっと青春部についてストレートに語るのだろう。と予想していた歩夢は思わず苦笑いを浮かべる。


「この場合って……」

「生徒会要綱の……」

 忙しなく生徒会要綱を捲る生徒会役員たちと、付近の数人で集まって何かを話し始める教師たち。

 形骸化した学校文化での打ち放たれた予想外の発言に、運営側のアクシデント感は歩夢からでも見て取れるほどだった。


「青春する部活って、部活としてどうな感じの?」

「一応……文化部になるのか?」

「いやいや、青春って絶対スマホ弄って部活終わるだけだって」


 生徒総会そのものに興味関心のない大半の生徒こそ居眠りやスマホを弄っているが、生徒総会に耳を傾けていた一部生徒たちもガヤガヤと会話を始める。

 歩夢の隣では坊主頭の野球部が「部長の完全招待制って……部活をなんだと思ってんだよ」とぼやき、気まずさに思わず歩夢は目を逸らした。

 会場全体を俯瞰するとまず生徒総会を聞いている生徒は少なく、その中でも青春部に良い印象を持った生徒は限りなく少ない様に思える。


「そ、それではこの提案意見について生徒全体による挙手投票を行います」


 ようやく生徒会同士の話し合いが終わったのか、生徒会長がマイクの電源を入れる。

「千秋さんの提案した青春部に賛成の生徒は、拍手をお願いします」


 生徒会長の言葉を皮切りに、突如として体育館は静寂に包まれた。

 拍手をする生徒は誰1人としておらず、突然の静寂に無関心な生徒も驚き顔を上げる。

 厳かな顔で全体を見渡す体育教師や、生徒会長の横でペンを取っていた書記が気まずそうに目を泳がせていた。


(…………まぁ、概ね予想通りね)

 青春部自体が生徒からも教師からも良い印象を持たれないことは、詩織にも当然予想できていた。

 この最悪の状況をひっくり返す為に、歩夢や鈴音やリンに言った秘策を用意位したのだから。


 秘策の為、詩織が肺の隅まで思い切り空気を取り込んだ瞬間、

 ――――――パチパチパチパチ。


 たった一つの小さな賛成の拍手が会場内に響いた。

 小さな音ながらも静かな体育館ではそれは大きく響き、体育館中の視線が拍手の元へと向かった。

(……一体、誰が? )

 予想外な行動に驚きつつ、詩織もそこへ視線を動かす。


 するとそこには詩織の知る後輩が苦笑いをしつつ、けれど止める事なく盛大に大きな音で拍手をしていた。

 あまりに大きな表情と行動の食い違いに、思わず詩織は吹き出して笑いそうになる。


(やっぱり、君はとびきり阿呆ね……歩夢くん)

 詩織が歩夢を青春部に勧誘したのは直感的な部分だった。だがこの時、詩織は自身の直感に深く感謝した。


 拍手の音が、一つ。

 青春部を作るきっかけになった未来人の後輩が、太々しい態度で拍手をしている。

 拍手の音が、また一つ。

 未来人の娘の為に本気で怒れる優しい後輩が、恥ずかしげながらも拍手をしている。

 拍手の音が、もう一つ。

 見ず知らずの自分の為に顧問を引き受けてくれた先生が、周りの教師の目を気にする事なく拍手をしている。


(……まったく、私には秘策があるから大丈夫って言ったじゃない)

 呆れる内心とズレる様に、詩織の口端が吊り上がる。

 4つの拍手が鳴る体育館で改めて、詩織は肺いっぱいに空気を吸い込んだ。



 そして力む様に目を瞑った後、


 《《《――――――全生徒、耳の穴を掻っ穿ってよく聞きなさい!!! 》》》

 

 突如として大きなハウリングを起こすほどに、詩織は大声で叫び上げた。



 爆音はビリビリと大きな波に変わり、寝ていた無関心な生徒やスマホを弄っていた生徒、真剣に話を聞いていた生徒、生徒会や教師。浴びるようなそれら視線が、詩織1人へ一気に降り注いだ。

 詩織は臆する事なく、堂々と胸を張って言葉を連ねる。


「私は青春を知りたい。青春がほしい。……だから、青春部を立ち上げる為に今この場に立っているわ」

 そう語る詩織に対して、侮蔑の目を向ける生徒は確かに存在した。

 いきなりの出来事に混乱している生徒も確かに存在した。

 だが総じて詩織の発言に無関心な生徒は、この体育館にただの1人も存在していなかった。


「青春部の設立に賛同して欲しいとは言わないわ。否定されても構わない。けれど、どうか無関心でいないで。この場にいる生徒として、選ぶ権利を放棄しないで欲しいの」

 生徒会に背を向け、全校生徒を見渡すように詩織は振り返る。

 すると先の爆音によって起こされたのか、1人の男子生徒が不機嫌に声を荒げた。


「ふざけんな! 無関心でいる権利だって、俺たちにはある筈だろ!」


 その声を聞いて詩織は余裕の笑みを浮かべる。

(計算通り……いや、むしろ都合が良すぎて怖いくらいだわ)

 秘策を決行する準備が整い、詩織は上機嫌に男子生徒の方を見る。


「ええそうね。もちろん全生徒には無関心でいる権利があり、私はそれを放棄してほしいと頼んでいる。当然、私自身とても傲慢な事だと自覚しているわ。……だから私から全校生徒へ辱めを受ける事で、けじめを着けようと思うの」


 そこまで言って詩織は頬に少し朱を指し、どこか年頃の少女らしい顔で全校生徒を見渡した。




「約束しましょう。青春部の設立の暁には――――私はこの場で、全校生徒の前で下着を見せるわ」


 ――――再び、体育館が静寂に包まれた。






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