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13. おでかけは、未来人と一緒なんだが

 日曜日の昼下がり、歩夢と鈴音は学校近くのとあるベンチで人を待っていた。

 歩夢の服装はカジュアルなTシャツにジーパン、鈴音は少しダボっとしたパーカーと控えめなショートパンツ。


 陽気すぎる日光は灼熱を作り出し、歩夢のシャツは既に汗で濡れている。

「……いくらなんでも遅すぎないか」


 シャツで首筋を拭いながら恨めしそうに歩夢が呟き、鈴音は無言ながら苦笑いで首を傾げる。

 ちなみにも集合時間はもう10分ほど過ぎている。


「あいつ、来たら絶対に尻の一つでもシバいてやるからな」

「同感」

 冗談には見えない表情を浮かべる歩夢に、鈴音も苦笑いで返す。

 来た直後こそ歩夢と2人きりで少し緊張していた鈴音だったが、10分ほどの猛暑が程よくそれを溶かした。


 暑さを忘れる為に2人が中身の薄い雑談を交わしていると、

「すみません、ずいぶん遅れてしまいました」


 申し訳なさそうに目を細めたリンが歩夢いてきた。

 フリルの施されたスカートが小さく揺れ、黒いワンショルダーからは右肩が露わになっている。


「さて……言い訳を聞こうか」

 胡乱な目を向ける歩夢に、リンはバツが悪そうに視線を逸らした。


「ア、アリサが着ていく服を選ぶのにかなり時間が掛かったんです! ボクはなんでもいいって言ったんですけど、『服装は最低限でも整えるべきだ』って離してくれなかったんですよ」

 少しジッとリンを半目で見つめてから歩夢は小さくため息を吐き、鈴音もそれに続く。


「なら仕方がないな。アリサ先生にも色々考えがあるんだろうし」

「だね。……アリサ先生、服とかどこで買ってるんだろ」

 鈴音から見てもアリサの選んだリンの服装はハイレベルであり、女子力と呼ぶには桁違いな力量を感じる。


 今度教わりに行こうと鈴音がひっそり決心していると、リンは困った様な苦笑いで話を続けた。

「あ、それと純粋に寝坊です。予定より30分ほど起きるのが遅かったので。」

「よし、そこに座れリン。そしてケツを出せ。現代人の恐ろしさと先輩の恐ろしさと、同時に非リア充の恐ろしさも叩き込んでやる」

「なんですか! 嫌ですよ! ……っていうか最後のは関係ないじゃないですか」


 額に青筋を浮かべる歩夢と、ファイティングポーズで威嚇するリン。

 それを見てため息を吐いた鈴音はどこか嬉しそうに、けれどそれを隠して背を向ける。


「ほらグダグダ言ってても始まらないし、遅れた分も街を回るために出発しようよ?」

 行き先の方向を指差す鈴音を見て、歩夢はどこか丸め込まれた気がするもそれに続いて歩夢き出す。


「……仕方がない、そうするか。運が良ければ、俺の彼女になってくれる人と出会えるかもしれないしな」

「絶対ない」「不可能ですね」


 前後の鈴音とリンから同時に否定され、暑さと別の何かに汗を流しながら唇を尖らせる。

「そんな否定しなくてもいいだろ……」





 少し移動した3人は、地元最大のショッピングモールに入った。


「っあああぁ、生き返るぅ」

 枯れ果てた肌全体に冷風が染み渡り、歩夢が思わず声を漏らす。


 休日なこともあり中は家族連れや、学生たち……カップルで賑わっていた。

「なるほど、ここがショッピングモールですか」


 リンも歩夢に続くように背を伸ばしながら、深呼吸する。

 (……あんまり未来とは大差ないんですね)

 正直なところ、リンは未来でこのショッピングモールに来たことがあった。


 科学技術はこの先数年で大きく進歩している為、モジュールなどの細部にもちろん変化はある。だが未来でもこのショッピングモールは地元の人に愛され、変わらない姿で営業されている。


 が、今日はもちろん知らない体で歩夢と鈴音に案内してもらう。今日の本命は街案内などでは無いからだ。

「まぁ大抵の買い物はここで揃えられるな。気軽に来れる娯楽施設もここくらいしか無いけど」


 キョロキョロと辺りを見渡すリンに歩夢は声を掛けた。そのまま広場の方を指差して、

「ここは無駄にデカい噴水も有名で、意外と見てると楽しいぞ」

 リンは苦い思い出が脳裏に過り、

「でもあれ、偶にすごい水飛沫で服が濡れるじゃないですか」


「ん? よく知ってるな。元々ここは調べてたのか?」

 自分がやらかした事に気がつき、冷たい汗がリンの背筋を通る。


「あ、いや! ママからそう聞いてたので!」

 動揺を隠しながら、リンは自分のスカートの裾を掴んでヒラヒラと揺らす。

 自分の失態を断ち切るのと同時に、いよいよ今日の『ママは弱いって見つけるぞ作戦』を決行する為の最終作戦会議の合図。


 リンはちらりと鈴音の方を一瞥すると、

「…………?」


 当の鈴音は小首を傾げ、穏やかな表情で立っていた。

 鈴音の頭からは作戦会議の合図ことなど綺麗さっぱり残っていない。


 10分ほど炎天下で歩夢と雑談し、完全にオフモードに入っていた為である。

「妙に慌ただしいけど、どうかしたのか?」

 心配そうに声を掛けた歩夢に、リンは引きつった笑みで振り返る。


(……なんでこんな時だけ察しがいいんですか!)

お読みいただき、ありがとうございました。


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