バレた
陽の光に誘われ目が覚めた。いい眠りだと思ったのもつかの間。私は自分のやらかしに気が付き絶望した。アンドラ姉様とティアナ姉様がガラガラと小太鼓を持っていた。ガラガラは振れば音が出るが、太鼓はどう使うか分からないみたいだった。
暫く何も言わずに二人の方を見ていたら、アンドラ姉様が、私が起きたことに気が付いた。
「あら、トロワが起きたわ。トロワ、このおもちゃ、どう使うのかしら」
「おはよくトロワ。これ、音が鳴るわ。こんなおもちゃあったかしら」
小さな私の背中は汗でダラダラで、とにかくどうしたら誤魔化せるかをずっと考えている。幸い言葉が拙いのでうまくごまかせればいいのだけど。
「あー、うぅ〜!」
「ごめんなさいトロワ。あなたまだ話せないのよね。じゃあ使って見せて」
「あぅー!」
誤魔化す事だけを考えていたが、これは「音楽」を広めるチャンスなのかもしれない。音楽は誰かに伝えなければいけない。今二人に伝えれば、いずれ音階楽器ができた時に二人が率先して練習してくれる可能性もある。我が家がどんな商売をしているかはわからないが、楽器の販売に姉様達が噛んでくれる可能性もある。これはやるしかない。
まずはティアナ姉様が渡してきたガラガラ。これは振るだけで音がなるから振るんだよと、キャッキャと笑いながら鳴らすと、二人はキラキラとした笑顔で私を見た。私がこんなに笑顔になることが今までなかったんだろう。魔法には興味が薄いから。
次に小太鼓。バチを右手に持ち、ベビーベッドに置かれた小太鼓をポコッと叩く。
ポコポコ
ポッポコ
ポコポコポ
これもまたニコニコすると、アンドラ姉様は私を抱き上げぎゅーっと抱きしめた。
「あなた凄いわね!どうやって作ったのかも知らないけれどこんなに胸がドキドキするおもちゃ、はじめてよ!」
すごく弾んだ声だ言ってくれたので、私も嬉しくなってアンドラ姉様を抱き締め返した。するとティアナ姉様がアンドラ姉様の腕から私を引き剥がし、抱き締めた。
「ねぇトロワ。私達もこれできるかしら」
少し不安げな声。はじめての楽器は緊張するよね。大丈夫だよ、ティアナ姉様。打楽器は誰でもできる最強の楽器だから。そういうことを思いながらあーいと言う。そうしたらさらにきつく抱き締められ苦しくて泣いてしまう。
「あ、あらごめんなさいトロワ。どうか泣きやんで。あぁ、どうしましょう」
「……これ、してみるしかないんじゃないかしら」
「そうね。やってみましょう」
ベッドに寝かされ、アンドラ姉様が小太鼓、ティアナ姉様がガラガラを持ち、好き勝手に鳴らし始めた。あぁ、誰かが演奏している。私を想って演奏している。それだけで心が暖かくなってニコッと笑顔が戻ってくる。怒ってないわ、ティアナ姉様。少し苦しかっただけよ。
「トロワが笑ったわ。あぁ、このおもちゃは人を笑顔にできるおもちゃなのね」
「アンドラ姉様。これ、ユーリ兄様やお父様、お母様には内緒にしましょう」
「そうね、三人だけの秘密だわ」
クスクスと二人は笑って、二つの楽器をベッドに置き、またねと額にキスをして出ていった。もう見つからないようにと収納に入れて、使用人が食事を与えに来るまで眠る事にした。
誰かを笑顔にできる音楽って、本当に素敵。