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始まり

 私はしがない教員だった。一時は音楽家を目指し、音楽科の高校に死にものぐるいで入学したが、そこで高すぎる壁に直面し脱落。でも、音楽が好きだという気持ちは抑えられず、そこまで有名でない芸大の音楽科の教育コースを受験し合格。そして私は音楽の教員になった。

 教員になってからもやっぱり音楽は好きだった。毎日ピアノも歌も練習し、勿論授業だって手を抜かない。音楽は好き嫌いが分かれるが、嫌いな子も少しは楽しんでもらえるよう工夫をしながら授業を考えた。

 充実していたように思う。そう、唯一「音楽家」という夢を捨てられていれば。今ですら恩師の計らいで舞台に立たせてもらうことはあれど、自身の名前でコンサートを開催したことはない。願わくばこの命尽きるまでに1度、コンサートがしてみたい。そう思っていた。


 だけど私は死んだ。不慮の事故、運転手の居眠り。その日、命と同じくらい大切な楽譜を抱えながら、暴走し、次々と車を跳ね、壁にぶつかり爆発したバスの中で私は息絶えた。



「……し、もしもし。起きてますか?」


「んん?……え、だ、誰?」


「起きましたか。私は女神です。橘琴葉さん、あなたは死にました」


 ぼんやりとする視界や思考をできる限り動かしながら状況を把握していく。確かに死んだ。暴走するバスの中で死んだ。で、なんで私は女神様と会ってるんだ。


「説明します。今からあなたには地球とは別の世界に転生してもらいます。そしてあなたにはやってほしいことがあるのです。その為に、あなたには任意のスキルを5つ与えます」


「やってほしいこと、ですか?」


「そうです。そう気負わなくても大丈夫。あなたが好きな事をしてくれればいいのですよ」


「それはつまり、ずっとピアノを弾いて、歌を歌っていていいってことですか?ヴァイオリンも弾いていいんですか」


「はい、寧ろそうして下さい。さてあなたに行ってもらう世界の説明をしましょう」


ホログラムの様にブォンと画面が出てきて、どこまでも広い自然や要塞のような壁に囲まれた街、中世のような町並みが映し出されている。中には騎士のような出で立ちをしていたり、物語の中にある世界みたいだ。


「所謂剣と魔法の世界です。あと、強いて言うなら音楽という文化は全くありません。そのため、楽器もありませんし歌もありません。娯楽といえば、花を愛でる、肖像画を見るくらいなものです」


 音楽がない。そう聞いた瞬間、頭が痛くなった。どうやって音楽をすればいいんだ。うんうんと考え、結果的に生み出すしかないということに気がついた。だからスキルというものがあるのだと。


「さて、心は決まりましたか?」


「はい。音楽を、世界に届けます」


「その言葉、しかと受け取りました。ではスキルをお選びください」


 女神はそう言うとどこかに消え、代わりにカードのようなものがわんさか出てきた。その一枚一枚には「錬金術」や「テイマー」などが書かれている。きっとこれがスキルだ。私はとにかく楽器を作るところから始めなくてはいけない。制作系のスキルは……これか?それともこっちか?


「大工というよりは創造の方が使いやすいと思うけどどうしようかな……」


 創造スキルは創造したものを『なんでも』生み出せるスキルで、でも魔力消費が激しい。大工スキルは完全に自分の手次第なので魔力消費はないが、力と器用さが試される。非力でピアノやヴァイオリンを弾けても大して器用じゃない私には向かない気がする。


「1つめは創造」


 創造スキルのカードを持つと光の粒のようになってカードが消え、粒は体内に入ってくる。


「あと4つ。とにかく魔力が必要だから……」


 こんなに多い中から選ぶのも大変だ。女神様、検索機能とかつけてよ。


「了解しました。望むスキルの候補カードを目の前に転送できるようにしました」


どこかから女神様が語りかけてきた。ありがたいな。

早速その仕様を使わせてもらって、魔力が上がる、成長するタイプのスキルをいくつか目の前に転送させる。すると5枚のカードが現れた。


「魔術師、賢者、魔力限界突破、成長限界突破、魔力庫……魔力庫?」


 カードの裏の説明を見ると、魔術師はその名の通り魔法が上手くなり、魔力保有量もやや上がる。賢者はその上位互換。魔力限界突破は魔力に限り成長限界がない。成長限界突破は魔力以外にも全てのステータスにおいて成長限界がない。そして魔力庫は、使わない魔力を1ヶ月単位で貯めておけて、それらの魔力は全て任意で使うことができる。さらに魔力量に応じて経験値ボーナスと拡大ストレージ追加がある、か……。


「拡大ストレージ……。つまり手持ちの荷物をそこに入れておけるって事だよね。めちゃくちゃ便利じゃん。魔力多くないと駄目っぽいけど……うん。2つめは成長限界突破、3つ目は魔力庫」


選んだ2枚はまたきらきらと光の粒になり私の中にはいってきた。後2つのスキルを選ばないといけない。音楽系のスキルを見てみたくなり、検索をかけるとたった1枚、「全楽器適性」というカードが出てきた。これは、ロマンのカードだ。音楽家はたった一つを極めた人間しかなれない職業だが、この適性があれば全ての楽器を極めることができる。だが、時間が圧倒的に足りない。だからこそ音楽家は一つの楽器しかしないのだ。だが、このスキルを活かせるスキルを取ればこのロマンを追い求めることができる。 

 時間が止まるタイプのスキルはあるのかと問うたところちょっとだけラグがあって3枚ほど出てきた。亜空間、時間停止、ストレージだ。ストレージは魔力庫で獲得できるのでいいとして、亜空間と時間停止。亜空間はこの世とは違う場所に空間を作り入ることができる。入っている時間、この世の時間は亜空間1時間につき10秒進む。時間停止はその名の通り時間停止だが物の時間まで止まってしまう為、練習には向かない。10秒進んでしまうが亜空間の方がいいと判断した。


「4つ目、亜空間。5つ目、全楽器適性」


5つ目のカードの粒が入ってきた瞬間に、私が立っていた場所は崩れ、私は落ちていく。女神様が最後に


「赤ちゃんからスタートですからね〜」


といったのがどうしょうもなくムカついた。


そうして私は、赤ちゃん。実際にはフィルタード公爵家の三女トロワとして生まれ変わったのだ。

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