8
マヌケなことに、まるまる一章、抜かして投稿しておりました。
そんなこんなで、雨が止んだらみんなで行くことが決まってしまいました。
こうなったら、もう雨が止むまでは、ここで腰を据えて雨宿りです。
しゃあない、それなら、と、ワタシはポーチから道具を取り出すと、せっせと細工にかかりました。
「なにを作っていらっしゃるのですか?お師匠さま?」
「うん・・・ちょっと、な・・・」
集中してると、ついつい適当な返事をしてしまうけど。
嬢ちゃんはそういうときにはワタシのことには構わずにいてくれます。
ほんま、ようできた嬢ちゃんや。
こぶりの水晶の中を空洞にして、そこにヒカリゴケを詰めます。
水晶の表面は乱反射するように、複雑にカットを入れてあります。
首にかけられるようにひもをつけたら、ちょっとしたペンダントみたいかな?
いやいや。ペンダントにしてはごついか。
あいた時間にちまちまとこしらえてたんですが、ようやく完成しました。
「ふっふっふ。
はいみなさん、これ、ひとつずつ、どうぞ。」
なんやろ。こういうの渡すときって、妙に嬉しいてしゃあないよね。
柄にもなくはしゃいでしまうわ。
「なに、これ?」
ミールムあたりに怪訝そうな顔をされるのも、かえって快感です。
「・・・これは・・・簡易的な発光装置、かなにか、ですか?」
シルワさん、あんたなんで、ヒトが説明する前に、種明かししてしまうのん。
ちょっとむっとしかかったけど、気を取り直して。
百聞は一見にしかず。
ワタシは見本を見せるために、自分の分を外に差し出して、雨水を受けました。
「う、わああああ。」
いつもながらのフィオーリの素直な反応は、なんや、やみつきになりそうです。
「すごい、きらきら光ってますね、お師匠様。」
うんうん。嬢ちゃんも光物はお好きか?
抑えがきかずに、ワタシはちょっと得意げに言ってしまいました。
「お察しの方もいらっしゃいますけど、これは発光装置です。
中にはヒカリゴケを入れてあって、水を入れたら光るようになってます。
けど、それだけやないねん。」
ワタシは装置にあるボタンをぽちっと押してみせました。
「う、うわあああ。」
ほんま。毎度毎度、ええ反応してくれはるわ。
ボタンを押すと、装置の内側に仕掛けた鏡が動いて、光を一点に集中して放つようにしてあります。この鏡を手に入れるために、昨日はえらい苦労して、あちこち店を歩き回ったんです。
オークが光に弱いというのを、ワタシはこないだ、初めて知りました。
光が嫌いや、くらいは知っとったんやけどね。
よもやまさか、溶けてしまうとは思わんかった。
大昔、ワタシの郷がオークに襲われたとき、もしそれを知っとったら、郷は滅びんですんだかもしれへん。
そう考えると残念やけど。
今からでも、遅くはない。それで護れるものはたくさんあるはずや。
それを知ったときから、ワタシは、オークに対抗できる道具を作ろうと考えました。
力が強くて頑丈なオーク相手に、並みの剣や攻撃魔法は通用しません。
ワタシのようなただのドワーフが、なんぼ必死こいて戦っても、オーク一匹倒すことなんて不可能。
昔、うちの郷が襲われたとき、郷には戦士や狩人を生業にしてたドワーフもおりました。
炭鉱夫してるドワーフかて、普段は戦いを仕事にはしてないけど、筋骨隆々、みんな力持ちでした。
けど。
それでも。
負けたんです。
そんなん、ワタシごときに勝てるはずがない。
そんなことは分かってたから、とにかく無駄な抵抗はせずに、隙をみて逃げる。
ずっとそれを貫いてきました。
けど、そのオークに対抗できる方法があったんや。
もちろん、こんなんひとつ持ってオークの集団相手に殴り込みをかけようなんて、そんな無謀なことを考えているわけやありません。
これからも、基本、オークからは逃げようと思います。
けど、ただ逃げるにしても、多少なりと抵抗の手段が、あるのとないのとでは、大違いやんか。
ゼロとイチとの間には、大きな大きな差があるんやで。
仲間たちは、へえ~、と面白がって、或いは、珍しそうに、装置をためつすがめつしておりました。
ミールムなんかは、早速ワタシの真似をして、雨水を入れて光らせてみてました。
「あれ?でも、これ、だんだん、光、弱くなってきてないっすか?」
光線を放って喜んでいたフィオーリが、それに気付いてしまいました。
「なあんだ。すぐに使えなくなるんだ。」
玩具を壊した子どものように、ミールムは装置を放り出しました。
「こらこら。手荒に扱わんといてや?」
ワタシは投げ出された装置を拾って、一通り壊れてないか確かめてから、もう一度、雨水をそこへ入れました。
「ヒカリゴケは光を放つときに熱も出すんやけど、その熱で自分が乾いてしまうんや。
そういうときは、また、水を足してやったらええねん。」
「ということは、補給用の水を持ち歩く必要がありますねえ。」
シルワさん、あんたはなんでそんな、ヒトの言おうとしてることを先々に・・・
「はい、これ。
とりあえず、みんなこれに、水、汲んどいて。」
ワタシはこれもやっぱり昨日のうちに仕入れといた小瓶を全員に配りました。
「これ一本で、三回分。
オークにダメージを与えられるくらいの光量は、水を入れた直後くらいにしか確保できんから、光を放つ直前に水は入れてください。
ヒカリゴケは、だいたい一日経つと枯れてしまうから、そうしたらコケごと入れ替えやね。」
「なかなか、手間のかかるもんだね。」
「ヒカリゴケの予備なら、ぎょうさん採取して、乾燥させたんを持ってるし。
あとは、水さえぎょうさんあれば、もっと光を打てるんやけどねえ。
水入れるビンは、大きすぎると重たいし、なかなか理想的なサイズのが手に入らんのよ。
もっとも、今日みたいな雨んなかやったら、水は補充し放題かもなあ・・・」
言いながら、自分でも、ふむ、と気づきました。
もしかしなくても、今はちょっとしたチャンスなんと違うやろか・・・
「・・・やっぱ、ワタシ、雨のやまんうちに行こうかな・・・」
「言うと思ったけどね。」
ミールムはため息を吐きました。
「それは、ぜーったいに、だーめ!」
「へいへい。」
分かってますよ、そんなに言わんでも。
フィオーリたちは、早速、雨水を入れて、装置を試してみてます。
きゃっきゃと騒いで、なんや楽しそうや。
まあ、今のうちに練習しとくとええわ。
幸か不幸か、今やったら、水は簡単に手に入るからな。
「なかなか、しゃれたネックレスのようですねえ。」
シルワさんは水晶を首にかけて嬉しそうです。
「まあ、一応、持っといてあげるよ。」
ミールムもそう言って首にかけました。
ワタシも自分の装置の具合を確かめてから、首にかけました。
これが実際の役に立つかどうかはまだ分かりません。
いや、ホンマは、こんなもん、役になんか立たんほうがええんです。
けど。
無抵抗でなぶられるのだけは、やっぱり避けたいからな。
そうこうしているうちに通り雨はやみました。
そうして、ワタシたちは、オークを追っていくことになりました。