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久しぶりの人里や!

思わず、張り切ってまうわ。


「ワタシ、用事あるから。

 ほな、お先に。」


そそくさと行こうとしたら、いきなり後ろから襟首をぐいと掴まれました。

ぐえっとなって引き戻されます。


「ああっ、申し訳ありません、お師匠さま。」


振り返ったら嬢ちゃんが慌ててワタシのフードから手を離しました。

ちょうどええ高さなんかもしれんけど、そこ掴むのはやめてほしいなあ。


「・・・なに?」


「あの、わたくしも連れていってください。」


嬢ちゃんはきらきらなお目目で、前のめりに訴えてくるけど。

ワタシはそんなに乗り気やありません。


「・・・ついてきても、面白いことなんかないと思うよ?」


「お師匠様のなさることは、一挙手一投足、すべてがためになりますわ。」


「んなわけ、ないやん・・・」


この嬢ちゃんは、なんでか知らんけど、ワタシにえらい懐いてしもうてます。

お師匠様とか、そんなごたいそうに呼ばれるような者やないねんけど、ワタシ。

いったいまた、なにに、ドリーム見てしもたんかなあ・・・


「調味料とか、スパイスとか、お茶とか、買うだけやで?」


ああ、そうそう、お酒も買うけど。


「興味深いです。」


「お菓子は買わへんで?」


「承知しました。」


「いやあの、あんた、他のみんなと買い食いとかしてたほうが楽しいんちゃう?」


市場には軽食の屋台もたくさん出てるし、旅慣れてへん嬢ちゃんには物珍しいものも多いでしょう。


「シルワさんもおるし、なんやかや面倒みてくれるやろ。」


あっちのほうで、なんや、手ぐすね引いて待ってるで?


「・・・わたくしは、お邪魔ですか?」


しょんぼり、悲しそうな顔してそういうこと言われると辛いです。


「いや、そんなことはないけど。」


即座に否定してしまいます。

嬢ちゃんは黙ってこっちを見ています。

ワタシより背、高いのに、上目遣いて、それ、どういう技やのん?


「分かった分かった。・・・しゃあないなあ・・・ほな、ついといで。」


割とあっさり根負けします。ワタシ。


「けど、ワタシに調子は合わせてや?」


「調子?」


「・・・分からんかったら、黙ってにこにこしとったらええから。」


なにせ、このお人は純粋無垢な聖女様やからな・・・

世俗の垢にまみれた身としては、いろいろと、その・・・まあ、ええわ・・・


ワタシはちょっとだけため息を吐いてから、深々とフードを被りました。

知らん街では、ドワーフやということはバレんほうがええことも多いです。

こういうことは、長いこと旅してたら、いつの間にか身についてます。


「はい、いらっしゃい。」


最初に立ち寄ったのはスパイスを売る屋台でした。

店主は明るく元気な若いおニイちゃん。

香草や香りのいい木の実がざるやら壺やらに入れられていっぱい並んでます。

そのままでも買えるし、頼んだら粉に挽いて調合もしてくれるようです。

ざっと見た感じ、店構えも清潔そうやし、並んでる品物の管理も悪くありません。

これは、当たりの店かなと思いました。


ワタシはちょっと息を吸うと、いつもより二音階くらい高い声を出しました。


「えっと、白コショウと黒コショウと、粉辛子と乾燥大蒜と、ください。」


全体をぼつぼつと棒読みにして、仕上げに、語尾をちょっとばかしたどたどしくします。

そうすると・・・


「へえ、ぼうや、おつかいかい?」


とまあ、こうなるわけやね。


「うん!」


ここはまあ、ちょっと、気合いれてお返事します。

おニイちゃんは頼んだものを手際よくスコップで計って袋に詰めていきます。


「コショウはどうする?粉に挽くかい?」


「ううん。粒のままで。」


「そうかい。じゃあ、ちょっとおまけしてあげよう。」


「わーい、有難う。」


うわー、言うてて自分で気色悪いけど。

ドワーフやとバレて騒ぎになるよりは、百倍ええからな。


隣で嬢ちゃんがどんな顔してんのかは気になるけど。

まあ、見る勇気、ありませんわ。

とりあえず、黙ってるし、そっとしとこ。


「そっちのお嬢ちゃんはぼうやのお姉ちゃんかな?」


あ、しまった。

突然、話しかけられて、嬢ちゃんが固まってしまいます。


「弟君といっしょにお買い物?」


「あ。いえ、この方は・・・」


「うんっ!

 うちのお姉ちゃん、美人さんでしょ?」


うっかり正直に言いかける嬢ちゃんに、あわてて被せました。


「そうだ!忘れてた。

 干生姜も一欠片ください!」


とりあえずおニイちゃんの注意をこっちに引こうと追加で注文します。


「はいはい。

 じゃあ、美人さんのお姉ちゃんに、この生姜はおまけしてあげよう。」


おニイちゃんは生姜の欠片を、はい、と嬢ちゃんに差し出しました。


「あ、あの、有難う、ございます。」


嬢ちゃんは真っ赤になって生姜を受け取ると、うつむいたままお礼を言いました。

なんや、ただの生姜やのうて、豪勢なプレゼントでももらったみたいや。


「ぼうやも、こんな綺麗なお姉ちゃんがいるなんて、幸せだな。」


「うんっ。自慢のお姉ちゃんなんだ。

 ね?お姉ちゃん?」


ちょっと心配になってフードの陰から顔を覗き込んだら、嬢ちゃんはますます真っ赤になって目を逸らせました。

う、ん?なんやのん?その反応?

なんで生姜にそんな照れてはんのん。


「じゃあ、お金は、これ。」


ワタシはおつりのないようにきっちり渡すと、嬢ちゃんの服の袖を引っ張りました。


「行こ?お姉ちゃん?」


嬢ちゃんはうつむいたままワタシに大人しく服を引っ張られてついてきました。


「美人さんのお姉さーん、また来てね~。」


お調子者の店主が陽気に手を振ってます。

けど、わたしは嬢ちゃんのことが気がかりで仕方ありませんでした。


「どないしたんな、具合でも悪いんか?」


とりあえず、人通りの少ないところを選んで嬢ちゃんを道端にあった空き箱に座らせました。

あの赤い顔はただごっちゃないし、元気がなくて俯いてんのも心配や。

さっきまで元気やったはずやのに、いったいこれはまた、どないしたんやろか。


「ちょっと待っとり。」


ひとっぱしり近くの屋台へ行って、冷たい飲み物を買ってきました。


「ほれ。これ飲んだらすっとするから。」


カップを渡すと、嬢ちゃんは素直に受け取って口をつけました。


「疲れでも出たんかな。

 みんなとは・・・はぐれてしもたみたいやな・・・」


見知った顔を探してきょろきょろするけど、近くには見当たりません。


「・・・すみません、お師匠様。」


ようやく嬢ちゃんはぽつりとそんなことを言いました。


「いや、謝らんでええ。

 どうや?歩けそうか?

 負ぶったろか?」


このナリで嬢ちゃん負ぶったら目立つやろうけど、今はそんなことを言うてる場合やありません。


「しかし、どこか休むとこ、言うてもなあ・・・」


人間の村は亜人種に対して友好的なところとそうでもないところとがあります。

大きな街やったら、亜人種もそれなりにいてるんやけど。

田舎の村は、亜人種には慣れてないことも多くて、そういうとこやと、下手するとオークと同じ扱いをされることもあるんです。

買い物しつつ、その辺りも探ってみようと思うてたけど、具合の悪い嬢ちゃんをこれ以上、引っ張り回すわけにもいかんし・・・


「あの、わたくし、もう、大丈夫です。」


嬢ちゃんはけなげにそう言うと、すっくと立ち上がりました。


「ああ、こらこら。無理したらあかんて。

 みんな探してくるから、ちょっとここでひとりで待ってるってのは・・・まあ、あかんわな。」


置いていかへんから、そんな目で見んといて。


「どれ、もっぺん座り。

 熱は・・・なさそうやな。

 お腹すいてへんか?

 足、痛くないか?」


おでこに手を当てたり、靴を脱がせて靴擦れをしていないかを確かめたりしていたら、嬢ちゃんはまた真っ赤になって俯きました。


「ええっ?どないした?」


「・・・いえ・・・あの・・・」


「言うて?ちゃんと言わんと、対処のしようがあれへん。

 どこか痛いところでもあるんか?」


嬢ちゃんは黙って首を振りました。


「じゃあ、苦しい?」


また首を振ります。


「しんどい?」


首を振ります。


「困ったなあ・・・」


「・・・申し訳、ありません・・・」


嬢ちゃんは泣きそうな声で謝りました。


「謝らんでええて。

 ごめんな、無理させたかな?

 やっぱ、負ぶって行こか。

 ほら、背中、乗り。」


嬢ちゃんの前に背中を向けて座ったら、嬢ちゃんは消え入りそうな声で言いました。


「あの。恥かしくて・・・」


「まあまあ、子どもに負われてるみたいで恥かしいかしらんけど。

 この際、ちょっと我慢しといてな。」


だっこも、まあ、できるやろうけど。

そっちのほうが目立つやん。


「ああ、そのリュックはここに置いて行かなしゃあないかな。

 流石にそのリュックごとは負ぶえん・・・」


「いえ、あの、そうではなくて・・・」


「大丈夫。誰も持って行かへんて。

 というか、持って行かれへんて。」


なにせ、うちのパーティの誰も持ち上がらんリュックやからな。


「いえ、あの、そうではなくて。

 恥かしかったのは、その・・・・・・ぉ・・ょ・・ゎ・・・っ・・・」


「は?ごめん、聞こえんかった。

 もっぺん言うて?」


「・・・あの・・・お師匠様が、わたくしを、美人さん、って・・・」


「はあ?

 美人さんを美人さん言うて、なにかあかんかったんか?」


思わずそう返したら、嬢ちゃんはまた真っ赤になってあわててむこうをむきました。


「え?

 ちょっ?

 ほんまにそれが、あかんかったん?」


なんとなんと、それは、気、つかへんかったわ。


嬢ちゃんはむこうをむいたまま、うんうんと首を縦に振りました。


「なんとまあ、お年頃のお嬢さんはむつかしいね?」


美人さん言われて具合悪くなる人、初めて見たわ。


「そら、悪かったなあ。

 ごめん、言うんはこっちやなあ。」


「いえ、あの・・・」


嬢ちゃんは急いでこっちを振り返りました。

ほっぺたはまだ赤く染まってたけど、なんやちょっとびっくりしたような目をしてて、慌てた感じがまた可愛らしくて、ワタシ、思わずどきどきしてしまいました。


「嬉しかった、んです。」


「は?」


「あの、嬉しかったんです。」


「なんや、嬉しかったん?」


ほんま、お年頃の娘さんはむつかしいわ・・・


「嬉しいて具合悪うなるんは、困ったなあ。」


「すみません。

 なんだか、胸がどきどきしてしまって。」


「はあ。さよか。」


他に言いよう、ないよね?


「まあ、それやったら、心配いらんかねえ。」


しゃあない。

こうなったら、落ち着くまで、とことん付き合うたろ。

ワタシはよっこいしょと地べたに胡坐をかきました。





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