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この章の内容は、短編『八人目の小人』と重複しております。

どうも。グランです。ドワーフです。

とうとう、この順番が来てしまいました。

ワタシの言葉遣い、ちょっと独特でしょう?

文字にしたら読みにくいやろて思うんですけど、マワリモチやから、て。

仕方ないんで、なるべく、ヒョウジュンゴでしゃべろうと思ってます。

こう見えてワタシ、ばいりんがる、なもんで。

まあ、出てたら、ごめんやで?


そもそも、なんでこんなわざわざ変わった言葉遣いにされてるんかと言いますと・・・

なんか、他のみんなと違う、ちょっと独特な地方の言葉、いうんを表現したかったそうで。

自信ないから、せっせとカミガタの落語とか聞いたんやと。

なんのこっちゃ。

だいたい、この世界に、カントウもカンサイもありませんから。

なんや、えらい長々と言い訳ばっかしとるな。


そもそもワタシ、元はこんな訛り、ありませんでした。

この言葉遣いは、とある人にうつされたんです。

そのお人は、なんというか、ワタシがこの旅に出るきっかけになったお人で。

ワタシにとっては、初恋、いうか、いや、コイまで行かへん、フナか金魚か・・・

そもそも、出会うたときから、その人は人妻やったわけやし・・・

いえいえ、不倫とか、そういう話しやないですよ?

そのころのワタシはまだ、ガラスの少年、ってころでしたし。

なんちゅうかね、淡い淡い片思い、ちゅうかね、憧れ、っちゅうかね。

そもそも、その人はワタシのこと、弟分っちゅうか、手下っちゅうか、子分っちゅうか。

そういう扱いでしたからね。

けどまあ、そんなころの出来事なんてものは、いつの間にやら、綺麗な思い出になってるからね。

んで、いまだにそれ抱いて、旅、続けてるわけやね。


そのお人は、ある殿方に一目惚れして、いわゆる押しかけ女房、いうんでしょうか。

オセオセで押し切って式挙げたら、なんとまあ、そのお相手には、自分と同じ年の娘さんがおりまして。

いわゆる、ダンナさんは、男手一つで娘さんを育ててはったわけです。

ちなみに、その娘さんのお母さんは、とうに亡くなってました。

娘さんが生まれてすぐやったそうですから、娘さんにも生みのお母さんの記憶はなかったんやないかと思います。

新しいお母さんやと聞いて、最初は喜んでくれたんや、とあの人も言うてましたんや。


娘さんのほうにしても、フクザツやったんかもしれません。

新しいお母さんが、自分と同い年って。

まあ、いろいろとアツレキもありましてな。

けど、なんやろねえ、ふたり揃うてるところをワタシ見たことあるんやけどねえ。

なんや、仲、よろしかったよ?

親子、言うよりは、姉妹?

いやそれも、年いっしょやから、姉妹とか言うたら、どっちが姉や妹やで、また喧嘩になりそうやけど。

そうそうふたりとも、どこか似た者同士でな。

違う出会い方をしてたら、もしかしたら、一生の親友とかになってたかもしれん。

ただ、どっちも意地っぱりで、言い出したら聞かないところがありましたから。

素直になりきらんかっただけと違うかなあ。


その娘さんに、あるとき好きな男ができましてね?

けど、あの人はその縁談には大反対やったわけや。

あれはあかん、と大反対して、娘さんと大喧嘩しまして。

まあ、その男言うんが、隣の荘園の領主のドラ息子。

しゅっとした男前で、家の羽振りもええんやけど。

隣の領主言うんが、あんまり評判がよくなくてね。

ところが、娘さんのほうは、あれこそ白馬の王子様、憧れの玉の輿、いうて。

目もハートになってもうて、もう、人の話しなんか聞きません。


とうとう、そのドラ息子が娘さんに結婚の申し込みにくることになってね。

なんとかして婚約を阻止したいあの人は、なんとまあ、娘さんは死んだことにしよ、いうて。

しばらくうちで預かってもらえないかと、頼んできましたんや。


ああ、そうそう、そのころワタシ、人間の街にほど近い森のなかに、兄さんたちと暮らしてました。

あの人はその家を気に入ってて、ちょこちょこ、遊びに来てましたんや。


もちろん、娘さんが大人しく預かられるはずもないんで。

眠り薬、飲ませまして。

けどまあ、どこからどう話しが洩れてたんか。

その男はうちに娘さんのこと迎えにきて。

目を覚ました娘さんは、もちろん、男について行きました。


そこで済んでたら、よくある、親の反対押し切って・・・な話しで済んだんでしょうけど。

ここからが、大変やった。


駆け落ちして一月。そろそろ連絡取り合うて仲直りでも、という頃になって。

隣の荘園の住人が、いっせいにオークになってしまうという、前代未聞の事件が起きました。

いやもう、大変な騒ぎやったらしいけど。

そのことを知ったときには、隣の荘園にはもう誰も人はおらへん。

ただ、廃墟だけが残ってる、という状況でした。


オークになってもうた者らは、どこかへ逃げて行ったらしいし。

オークにならんかった者も、どこかへ逃げたらしい。

なんでまたそんなことになったんか、事情を知る者は誰もおらへん。

いや、おるにはおったんやろうけど、なかなか誰も口を割らんかった。

ただひそやかに、信憑性もなんもない、胡散臭い噂話だけが、流れてきました。


けど、そんな大勢がいっぺんにオークになるなんて、これはよっぽどの事態です。

よっぽど、よっぽどの事がない限り、有り得へんことです。


あの人の嘆きはただごっちゃありませんでした。

こんなことになるんやったら、やっぱり、命を懸けてでも、婚礼は阻止すべきやった。

いや、いっそのこと、快う許してやって、いったん嫁にやったふりだけして、すぐに取り返せばよかった。

毎日のようにそんなことを繰り返し言いました。

お父さんのほうは、娘が駆け落ちした、いうだけで、調子崩してたのに、それがこんなことになってもうて、寝込んだと思うたら、あっという間に、はかのうなりました。

それで、あの人は、娘ちゃん探して旅に出る、言いだしましてな。

いや、けど、どないすんのん。

戦いなんてしたこともないのに。

旅に出るいうて、街の外には獣もおるし、恐ろしいオークかておるんやし。


けどな。

あの人は強かったです。

剣を習うて、魔法も習うて。

ひとつひとつ装備も集めて、技習得して。

あっという間に魔法戦士の免許皆伝。

ほんで、娘探しの旅に出たんです。


実の娘でもないのにな。年も一緒やし。可愛い可愛い言うて育てた子なわけでもないんやで。

ただ、最後の最後に喧嘩別れして、騙したままみたいになったんが、心残りやったんやて。

大事なダーリンにそっくりな娘ちゃんのこと、あの人は、ほんまは、大好きやったんやて。

それだけ、どうしても伝えたい、言うて。


そらワタシ、ついていきましたわ。

こんなん、ほうっておかれへんやん。

あの人は、ワタシのことなんて、対象外やて、骨身に染みてたけどな。

そういうことやないんや。

ただ、あの人の力になりたかった。


いやでも、ホンマは、それだけやないんや。

あのふたりが仲違いした原因は、実際のところ、ワタシにあったんです。

あの人は、それはワタシのせいやないて言うてくれたけど。

ワタシはもう、それが申し訳のうて、どもならん。

せめてもの罪滅ぼしに、あの人の力になりたいて、そう言うて頼み込んだら、あの人は、ついてきたいんやったらついてきてええて、そう言うてくれました。


いや、しかし、ほんまのところは、それも怪しいんです。

力になりたいて、ワタシごとき、大した力もありません。

強いわけでも、賢いわけでもないのに、あの人のこと、守るどころか、むしろ守ってもらうほうが多かった。


それでも、ついていったんは、ただ、ワタシがそうしたかったからや。

それが分かってるから、ワタシは、自分のこと、ただひたすらに、情けないと思うております。


それにしても、娘ちゃんは、どないなったんやろ。

やっぱり、オークになってしもたんやろか。

けど、もしかしたら、オークにはならんと、逃げたかもしれへん。

逃げた者も、少しはおったらしいからな。

逃げたとしても、駆け落ちしたのに引け目を感じて、連絡してこられんのかもしれへん。

だからこそ、こっちから見つけてあげなあかんのや、て。

あの人はそう言いました。

ワタシもな、オークになってしもた娘ちゃんやのうて、気まずくて帰ってこれない娘ちゃんを見つけてあげるんやと、思うことにしておりました。

少なくとも、旅の最初の頃はな。


娘ちゃんを探して、ワタシらはあっちこっち行きました。

路銀を稼がなあかんから、旅芸人の真似事をしながらな。

ワタシ、軽業とかもしてたんやで。

この言葉遣いは、そのころに、あの人から少しずつ習うてな。

ほら、呼び込みとかするのに、人の注意を引きますやろ?

くるくるととんぼ返りをしながらこの言葉であれこれ言うとな。

なにがおかしいのか分からんけど、よう、人が笑うんや。


あの人は、歌と舞いが上手でな。

そらもう、そらもう、この世のものとは思われんくらい、綺麗でした。

それから、新しい仲間が入ったり、また出ていったり。

いろいろありました。


けどな。

どこを探しても、娘ちゃんは見つかりませんでした。

娘ちゃんの特徴を描いた看板を持ち歩いて、あちこち尋ね歩きましたけど、有力な手掛りひとつ、見つかりませんでした。

結局、娘ちゃんの消息は、杳として知れんかったんです。


娘ちゃんは、やっぱり、オークになってもうたんやろうか。

次第次第に、ワタシらはそう思うようになっていきました。

オークになったら、人やったころの記憶はほとんどなくなってしまうそうです。

見つけても、もうきっと娘ちゃんは、あの人のことは分からへん。

それでも、あの人は、たとえオークになってても、娘ちゃんのこと見つける、言うて。

たとえオークになってても、娘ちゃんのこと、抱きしめたるんや、言うて。


歩いて歩いて歩いて。

とうとう、旅の果てに、斃れました。


ワタシはひとりぼっちになりました。

けど、もう、旅はやめられませんでした。

兄さんたちの家に帰ってもよかったんやけど。

いつの間にか、あの人の意志を継いで、娘ちゃんのこと探し続けてました。


ワタシは人間よりも寿命の長いドワーフです。

あの人と同じ人間やったらどんなによかったのにと、何度も何度も思いましたけど。

ひとりになってからワタシは、自分がドワーフでよかったと、心底思いました。

ドワーフやからこそ、ワタシはあの人の遺志を継ぐことができたんやから。


娘ちゃんは、あの人と同い年やから、オークになってなかったら、多分、もう生きてません。

そのくらいの時間は、もう過ぎてしまいました。

けど、オークになってたら、生きてるかもしれん。

オークというのは基本的に不死なんやそうです。

病気になることはないし、怪我しても、飢えたとしても、痛かったり苦しかったりはするみたいですけど、死ぬことはありません。

人間より寿命の長いドワーフ族やホビット族どころか、長命なエルフ族や、なんなら、フェアリー族と同じくらい、いやもしかしたらそれよりもっと、オークは生きるそうです。

オーク自身がそれを望むなら、それこそこの世が終わるまで。

もっとも、それを見届けた人なんか誰もおらへんから、本当のところは誰も知らんのですけど。

とにかく、長生きするのは間違いないそうなんです。


ならワタシは、娘ちゃんにオークになっといてほしいんやろか。

オークになってでも、生きといてほしいんやろか。


いやいや、それだけは、やっぱりありません。

オークになるのは、ものすごい苦しみだと聞きます。

たとえ不死になれるとしても、そんな苦しみを娘ちゃんに背負ってほしいとは思えません。


ただ、一言、ワタシは娘ちゃんに謝りたい。


そやったら、これは、贖罪の旅なんやろか。

確かに、一言謝らんことには、ワタシはワタシのこの先を生きていっていいとは思えへんけど。


いやでも、矛盾してるようやけど、謝って許してもらおうと思ってるわけやないねん。

実際、謝って済む問題でもないと思うしな。


なら、なんなんやろう。


ああ、そうや、ワタシは許してもらえんでもいい。

けど、あの人の言葉だけは伝えたい。


あの人は、娘ちゃんのことを、ちゃんと愛してたんやで、って。

それだけ伝えるために、あの人は自分の一生を旅し続けて、そのまま旅路の果てに斃れたんや、て。

あの人の生きた道筋のことを、どうしても娘ちゃんにだけは伝えたい。

そうせなあかんのや。


もしかして、娘ちゃんがもう生きてないなら、その子や孫にでも。

誰か、娘ちゃんのことを覚えててくれてる人にでも。

いやいや、それも無理なら、せめて、娘ちゃんの墓前にでも。

それだけ伝えられたら・・・


そんなことを思いながら、ワタシは今も旅を続けていました。

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