子供の私と、忘れた親の繋がり。
私は、私達兄妹を捨てた両親が嫌いだ。
借金を重ね、不倫を重ね、ギャンブルに依存して、私達の前からいなくなった。
両親の思い出に、楽しい事もあったとおもう。けれど、そんな楽しい思い出を塗りつぶす程の記憶が勝っている。
冷たくなった湯船。冷たいごはん。冷たい瞳。
両親の顔を見るだけで怯え、叩かれ、殴られ、怒鳴られる。そんな日常に慣れ始めてきたころ、不倫相手と姿を消した。同じ職場の人だ。小学生の頃の私は、不倫は最低な行為だと認識していたが、少しの間優しい親になってくれるなら、不倫は私にいい時間をくれると思っていた。
そんな私は、大人と言われる年齢になるまで両親を憎んでいた。あの親のせいで、あの親の元に生まれてしまったから。あの親に怯えて、なにも楽しくない。
けれど、私は一本の連絡を受け取る。
親が亡くなった。
親が亡くなったと知った私だが、正直……あっそう。と言う感想しかない。だってそうだろ、憎んでいるのだから。何十年と経っているし、顔も声も思い出せない。
そんな親の死を聞いても、別に悲しくないし、苦しめた元凶がいないなら、喜ばしいことだ。
でも、そんな感情を持っているけど……私は会いに行った。
私の目の前に、冷たくなった人がいる。私の両親の体系を見ても、顔を見ても……私の知る親の姿ではなかった。
「こんにちは」
話しかけた。
「お久しぶりですね」
話しかけた。
「覚えてますか?」
話しかけた。
「……」
その人は……、私の両親は喋ってくれなかった。
右手の指先で、頬を触れた。
硬く、冷たく、もう生きていないと手触りで感じ取る。
私は、この人を憎んでいる。
よくも殴り続けてくれたな。
よくも家族を壊してくれたな。
もっと……、もっと……。
一緒にご飯が食べたかった。私の話を聞いてほしかった。みんなで旅行に行きたかった。
でも、そんなことは些細なことで。
ずっと私は謝りたかった。私は子供で、両親が苦しんでいることを理解していなかった。私と同じように、母親も父親も辛かったのだろう。
同じ人なんだから、私が苦しいと、怖いと思っているなら母親も父親も当然同じ感情を持っている。両親と同じ歳を重ねたことで理解するには……遅すぎた。
最後に両親に放った言葉を思い出した。
【こんな家族に生まれたくなかった】
その時の両親は激怒していた。沢山殴られもした。それでも、よく考えてみれば、放った言葉の一瞬だけ、悲しそうな表情をしていた気がする。
目の前の両親は動かない。冷たく、体温を取り戻すことは二度とない。
悲しくなんてない。だって、顔を見ても私の親だと思い出せないから。
悲しくなんてない。だって、どんな声だったか思い出せないから。
悲しくなんてない、だって…だって……だ……て。
悲しくなんてないのに、どうして涙が止まらないんだろう……。