社畜ネクロマンサー
俺は優明大学を首席で卒業したいわゆるエリートだから就職活動では働いてあげる場所を自由に指名できたわけなのだが、生きてる間はめいっぱい楽しみたいという理由で株式会社ハッピーを選んだ。
「楽しく働き、幸せライフ!」を社訓とした新進気鋭の玩具メーカーである。
精神門大宇宙学の世界で名を広めた俺はそのまま精神問大宇宙学会の中核的存在としての将来を嘱望されていたのだが、そんなこと……働きながらだってできるのだ。
日本の株式市場には大波乱が起きハッピー社は連日最高株価を更新し続けたのだが、そんなことは俺に関係はない。
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ハッピー・入社後
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俺は玩具メーカーの花形、玩具開発部に配属されるが、オフィスで働く先輩方の姿を見て……
衝撃のあまり膝から崩れ落ちた。
「こいつら……働きながら死んでいる!!!」
腐った指でキーボードを打っていた!!!
目玉が顔からはみ出ている!!!
俺は考えた……社長か?社長がやっているのか?
オフィスの窓の外、ビルの合間に覗く青空を見て精神門大宇宙的に考えて俺の直感が正しいということを悟る。
エレベーターに乗ろうとする……が、ネクタイを締めた社畜ゾンビが1ダース揃っている。
ゾンビは生きた人間(俺)に爪と牙を立てて雪崩れてくる。
ひらりと回避する。
「社畜ゾンビめ!俺の命は俺のものだ!」
オトナ帝国のクレヨンしんちゃんばりに階段を駆け上がって社長室の社畜ネクロマンサーにたどり着いた。
俺は飛び掛かる。拳を握りしめる。
「フンガッ!!」(殴るキアイの掛け声)
「効かんっ!!」(カウンターの蹴り)
バチィイイイイイン!!!
日本国最上級エリートの俺と……株式会社ハッピーの社長・社畜ネクロマンサーとの実力は互角だ……。
俺は聞いた。
「人の命を奪ってまで働かせるなんて許せない」
社畜ネクロマンサーは言った。
「社畜は人間ではないのだよ。社畜は世界を満たすエーテルだ。空から雨が降るように、川が上から下へと流れるように……社畜によって社会が回る」
俺は絶句した。
社畜は社会を満たすエーテル……人間社会を動かすための潤滑油……。
社畜ネクロマンサーは大きく息を吸い込み、全身に気合を入れた!
大理石の床から社畜ゾンビが次々這い出てきた!
社畜ネクロマンサーの精神力はエーテル(社畜ゾンビ)たちに攻撃的方向性を与える。
ゾンビの牙と爪が強化された。
俺は窓際に追い詰められた。
社畜をエーテルとして使役する独善的社長がいようが俺の人生に影響はないはずなのに……。
「はあッ!!!!」
(俺のキアイ)
精神門大宇宙とは、精神を通して大宇宙の構造を己に降ろすことだ。
俺は大宇宙のエネルギーを全身に纏った。
社畜ゾンビは困惑した。
社畜は……自分の意志がない。
生まれてきた意味も知らず……何故苦しんでいるのかもわからず……現状を打破する術も持たず……。
大宇宙エネルギーはその大いなる巨大性によって社会的地位を殺した。
残るは社畜の魂だけだが、社畜の魂は質量をもたないため、地上に留まることができず、地球の自転に追いつけない!
うわあああああああああああああ!?!?!?!
自転と公転に振り落とされた魂の嘆きが聞こえた。
哀しい…………。
哀しい…………。
社畜の残留思念が俺に問いかける。
私たちは一体何だったんだ……?
俺は泣いた。
労働は人生なんだよ、誰かのために働けることは素晴らしいことなんだよ、って……。
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