蘇生魔法Lv0.1なので生き返すことができません ~世界中の男から感謝された聖女~
「聖女様、どうか私にもその癒の御業を施し下さい」
国王隣席の玉座の間にて今、私の目の前にはナイスミドルな中年男性が片膝をつき頭を垂れている。
たかが田舎の農民の娘上がりの低レベル冒険者に、この国の公爵にして宰相閣下が傅くなんて。
私の現在の心境を表すなら『どうしてこうなった』の一言だ。
「聖女よ、その者は余の腹心にてこの国の運営に欠かせない者である。彼の願いをかなえてやってはくれまいか」
「かしこまりました。私の拙い回復魔法がささやかな癒しになるのならご協力いたしましょう」
国王陛下、皇太子殿下、宰相閣下、閣僚たる諸大臣閣下とこの国の権力者たちの前で断れるわけねーだろ。
一応報酬としてこの国の二等勲爵士という準々々々貴族みたいな称号と金銭も貰っている。
囲い込みのために押し付けられた位階だけど断れるわけねーだろ。(2回目)
「それでは精神を集中しますので皆様どうかお静かに」
そう言うと少しざわついていた空間に静寂が訪れる。
ここで深呼吸して精神を統一して・・・いや、魔法レベル低いからこうしないと発動しないのよ。
そうして私は宰相閣下の頭に手をかざしマジックワードを唱えた。
「死せる小さな命よ甦れ、マイナーリザレクション」
そう唱えると手のひらから暖かい光が発生し、ナイスミドル宰相閣下のおそらく唯一の欠点であろう肌色の主張が激しい頭頂部から、まるで植物の成長を早送りにしたかのように髪の毛が生えてきたのだった。
「レベルアップおめでとうございます。ではステータス等の更新をしますので冒険者カードをスロットに入れて水晶玉に手をかざしてください」
1か月前、田舎から出てきて丸5年間、クソステのためPTに入れず、ひたすらノンアクティブなモンスターを狩り続けてようやく達した念願のレベルアップだったのに・・・
「誠に申し上げにくいのですが・・・成長限界です。これ以上はレベルアップはしません」
冒険者ギルド受付のお姉さん、Lv2で成長限界ってクソ雑魚ナメクジじゃないですか。
しかも折角覚えたっぽい蘇生魔法もレベルが低くて役立たずとかなんなのですか。
「実はギルド規約に『蘇生魔法を覚えている冒険者はレベル、種類をに問わず冒険者ギルド管理庁に報告する』というものがありまして」
げっ、それって戦時には徴兵される可能性があるってことですよね。
「『蘇生:死亡』や『蘇生:四肢欠損』みたいな高位の蘇生魔法の使い手は、数によっては小国の軍隊でも大帝国の方面軍と渡り合えますからね」
こんなクソ雑魚ナメクジなステータスで戦地に行ったら即死亡じゃないですかやだー!
グスン、それで私の魔力では1日1回が発動限界の蘇生魔法の部位ってどこなんですか?
「えーと冒険者カードの記録では『蘇生:毛根』と書いてありま・・・毛根?」
こうして冒険者ギルド管理庁経由で国に囲われるまではハゲ冒険者たちを。囲われた後はハゲ官吏を。副作用などがないと認められてからは教会ではなく国から聖女認定を受けて国王陛下のハゲを治す日々が続き・・・
回想が終わり私の魔力が尽きるころには頭頂部どころか前髪まで、ふっさふさの、ロン毛の、地毛の色であろう眩しいパツ金に戻った宰相閣下になっていた。
「聖女様の御業だー!」
「やはり神は我らを見捨ててはいなかったのだ!」
「これで我が一族の宿痾も治るのだ!」
「予約、予約をせねば!私の生え際のためにも!」
男たちの歓声in玉座の間。もうマジムリ・・・
実は宰相より先に治してもらっていて諸国から「列王の中で最も優秀な王、ただしハゲ」なんて悪口を言われていた国王陛下は近衛に机を持ってこさせている。
この場で予約受付する気だな、あの元ハゲ。
そういや列席を許されていた外国からの大使がみんないない。
本国に報告するのか。そして私は外国の要人のハゲも治さねばならんのか。
でもまぁ、貴族としてはゴミでも役職給が付くからもう冒険者やめてスローライフしよう。
流石にたかがハゲ治しのために外国人である私を拉致ったり、貴族位で亡命を促したり、領土や利権のバーター取引になったり、治す治させないで戦争に発展したり、そんなことないよね。
そんなことないよね!(2回目)
なんか旗が高々と昇る光景を幻視した私は精神安定のため現実逃避するのでした。