表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

97/158

83話「An assassin against the most terrible‐最恐に抗う暗殺者」

 

 悠介は自身の紅の如く赤色の双眸に突然として飛び込んできた景色を見て強く、初めて見た物の様に驚いてしまい、冷静且つ平常心を保っていた彼でさえ口が穴の様に空いてしまい、僅かながらも身震いが止まらなくなってしまった。今まで生きてきた中でこんな衝撃的な光景は見た事がなかった。人生生きている中でこんな光景が拝めるなんて思いもしなかった。僅かながらも悠介は心の中で強い衝撃と感動が巻き起こる。まるで感動の嵐だ。しかし悠介はすぐにハッとし、感動しかけていた中で我に返った。

 ――――いや待て、今は感動に浸っている場合ではない。

 よく見てみろ、この街全体を覆い、民家や街に魔物などが入ってこない様にする為の防壁、高さは六か七mはあろう壁にぽっかりと大きな穴が空いている。周囲には破壊された衝撃で吹き飛ばされた石の破片があちらこちらに散らばっている。大きさもバラバラで大きな破片もあれば小さい破片など大きさは様々で今の現在進行で壊された壁から石の破片が地面に向かって落ちてきている。空から石が降ってきて頭になんか当たってみろ。頭蓋骨骨折じゃ済まなさそうなので迅速にこの問題を解決する必要があった。

 防壁に空けられた穴はまるで巨大な爆弾かダイナマイトの類を使って開けた様にしか思えない。生半可な攻撃や魔法攻撃ではなし得ない様な程だ。まず高さだって結構あるし厚さだってそんな薄い訳でもない。しかしこの強固な壁、鉄壁の壁とも言ってよい様なこの硬石で作られた壁を打ち破り、見事なまでに大穴を開ける。悠介の考察だが相手は普通の敵ではない事は確定だと思った。しかしこれ以外の事が全く分からない。悠介はこの世界の人間ではない為、異世界の魔物や敵や魔法の知識と言ったものは全く持っていない。多少は本などを読んで勉強したつもりだったがまだ足りなかった様だった。読む本のジャンルをもっと増やすべきだった。読んでいたのは基本的な魔法関連の本(影魔法を重点的に)や魔物の一覧表等だ。もっとジャンルを変えて読むべきだったと悠介は僅かながら後悔してしまった。


(ヤバい!これは非常にヤバい!この壁に大穴空けられる奴なんて只者じゃない!)


 悠介は内心かなりの焦りが募っていた。壁の外にはこの壁を破壊した元凶が待ち構えているだろう。この壁の外に出ればその元凶を拝む事は出来るだろう。しかし誰一人として壁の外には出ようとはしない。一応壁の外と中を繋ぎ行き来する為の頑丈な門はあるのだが警備兵は門を固く閉ざし開けようとはせず険しい表情を浮かべて、警備兵達はその場で踏ん張る様にして立ち続けていた。それと同じ様に音と衝撃を聞き付けて、その場に集まった冒険者も誰一人としてその惨状を見てからは表情が余裕気な表情から恐怖を覚えた様な表情を浮かべてしまい、その場に凍り付く様にして立ち止まってしまった。一部の冒険者は来ておきながら、身震いをしてしまっていたり中には恐怖に耐えきれずその場から逃げ出してしまった冒険者も一定数存在していた。

 このままでは完全に全員がパニックに陥ってしまう。悠介は敵が乗り込んでくる事や周囲を飲み込んでいく恐怖の渦に頭を悩ませてしまっていた。悠介は問題の壁に当たってしまい、そのせいで冷や汗が額をつたって流れてくる。

 もし敵が乗り込んできて街の人達や冒険者の人達がパニックに陥ってしまったら混乱が巻き起こる事になる。そうなってしまえば最後、待つのは死と破壊だけだ。パニックに陥れば戦う事が出来ず逃げ出す人もいるだろう。その他にも、まだ住民の避難だって間に合っていないだろう。非戦闘者の避難が間に合っていないのは戦場になりかけそうな今の状況では致命的だ。

 しかし悠介一人で何か出来る訳でもない。今から住民の避難を全て一人でやる事なんて不可能だし、かと言ってここにいる冒険者全員で外で待ち構える敵全てに向かって突撃を行うのは無謀すぎる選択だった。

 悠介の脳内でも打開策が思い付かない。この状況を打開するにはどうするべきか……

 悠介は、ふと手を繋いでいたリアンの方に目を向けた。リアンは今悠介と手を繋いでいるもののまだ恐怖心が消える事はなく手を繋ぎながらも悠介の背中に張り付く様にして悠介の後ろから状況を伺っていた。しかしその表情にはまだ不安と恐怖が色濃く残っている。リアンは自分の手と繋いでいる悠介の手だけではなく、彼が着ている黒衣を強く握り締め絶対に話そうとはしない。あまりの恐怖に彼女は手を震わせてしまっている。

 悠介はそんなリアンを見ていると、悠介の心の中に怒りの様なもどかしく腹立たしい気持ちが生まれてきた。もし自分の仲間でありDUO(ペア)であるリアンを今この街に攻めてきている敵に傷付けられたら怒りを超えて激昂してしまいそうになる。あの時の様にまた半殺しじゃ止まらなかったあの時の俺の様にはもうなりたくない。大切な人を傷付けられた時の怒りは想像を絶するものとなる。

 周囲で待機している冒険者や警備兵達は誰一人として動き出そうとする様子を見せる事はない。皆恐怖と強すぎる絶望によってその場に立ち尽くしてしまっている。このままではまるで強き者の侵略をただ呆然と見つめている様な事だった。悠介は一度深く息を吸って息を吐くとその場から歩き出した。勿論だがリアンは彼の手を離す事は絶対になかったが、突然悠介は歩き出したので黒衣からは手を離す事になってしまった。しかしリアンが手放さなかったのと同じ様に悠介の彼女を強く握り、絶対に離そうとはしなかった。


「ゆ、悠介!?何する気なの?」


「誰も行こうとしない………なら、俺が行く。このままじゃこの街は破壊されちまうんだよ」


 そう棒読みに近い話し方でリアンに話しかけ、彼は再び目から強い殺気を放ち続けた。悠介の殺気を帯びた目にリアンは見つめられる。彼の目から放たれる殺気はまるで本物の暗殺者の様に鋭く見た者の戦闘力すらも削ぐ様な恐ろしい目だった。

 仲間である悠介でも、リアンはその殺気を帯びた目に見つめられて、美しい表情を怖がる少女の様な表情に変え、反射的に彼の双眸から自分の目を逸らしてしまった。しかし悠介はそんなリアンを咎めたり無理矢理首を動かそうとはしなかった。無理もないだろう。こんな強すぎる殺気を帯びた目に見つめられたら、自然と目を逸らしてしまうのも仕方のない事だと言う事は悠介本人も承知していた。この目は見た者を強く怯えさせ恐怖させて戦意を全て削ぐ様な恐ろしい目。殺そうと思えば簡単に殺す事が出来る様な人殺しに対する躊躇のない人間の様にも見えてしまう様な恐ろしい目を悠介はしていた。


 言う気もなかったが、リアンはここに残して自分一人だけで行くつもりだ。この戦闘は普通の魔物との戦闘ではない。被害の大きさを見るに敵の強さは只者ではない事が分かる。この戦いは死戦に等しい戦いだ。赴くのは自分だけで十分だ。誰も行かないのなら自ら行動を起こしておくのが最適な事だと悠介は判断した。


「悪いが、一人ででも行かせてもらう。この状況じゃ誰も動こうとはしないだろうからな」


「そ、そんな……危ないよ!一人で行くよりも、ここに戦力が集中するまで待つべきだよ!」


 そうリアンは悠介に忠告し、不安げな表情で悠介を見つめる。だがこの場所に自分達以外の戦力が集中するまで待ち続けていたら先に滅ぼされるのが結末だ。そうなる前に悠介は先に行動を起こすべきだと思った。

 冷静且つ無常な表情で彼はそう話した。彼の双眸は死んだ魚の様な目をしていて赤く染まり、殺気を放ち続けている。

 それはまるで死を恐れぬ冷酷な戦士の様だった。しかし悠介は冷静な表情の裏には恐怖と言うものがまだ消えてはいなかった。口先では一人で行くと言ってしまったが単独で相手をするのは難しいと悠介は判断している。何故ならこちらに対して不利な点が存在しているからだ。不利な点があれば戦闘では勿論不利な状態になってしまう。

 まず悠介の職業は奇襲に特化した暗殺者なので正面からの戦闘は得意かと聞かれると得意ではない。主に奇襲や闇討ち、死角からの攻撃が中心になっている。しかし今はまだ昼過ぎの時間で太陽の様な光がまだ空の上から照らされている。しかも壁の外は平原の様な場所が広がっていて奇襲や意識外からの攻撃を行う為の大きな障害物などは一切なく、あるものと言えば、木などが疎らに生えているぐらいだった。これでは敵との正面戦闘を余儀なくされてしまうし悠介自慢の奇襲攻撃は場所の問題や時間の問題で使う事が出来なくなってしまっていた。

 この様に、今回の戦い不利な点が存在している。そもそも無理をして単独で戦闘を行う必要性なんてよく良く考えてみれば無いかもしれない。ここは素直に戦力が集中するまで待つと言う選択も正しいかもしれない。だが悠介は悠長に待っている事は出来なかった。

 まず、戦力が全て集まるまで時間がもうなかった。もう敵はすぐそこまで迫っている。分散した戦力を全て集めたり違う街からの救援を待っていたって、その前に全滅する可能性だって大いにある。まず自分達以外の人間が他の街に救援を要請したかどうかすら自分達は分からない状況だ。情報すらも真面に伝わっていない今ではここにいるだけの戦力で状況を打破する必要がある。その為には今この場に残存している戦力を全て結託し、協力を仰ぐ必要があった。しかし今は誰一人としてその場から動こうとはしない。自分と同じ冒険者やこの街を警備している警備兵達も惨状を見た時から凍り付いた様にしてその場からは動けなくなっていたのだ。これでは力を合わせて戦うなんて事は出来ないだろう。現に自分以外の人間は全員苦い表情を浮かべ、誰一人として動こうとはしない。まるで誰かが動くのを待っている様にも見えてくる。実際その様な悪循環を発生させる様な空気が周囲を支配してゆき、誰も動けない様な状況を作り出していたのだ。


 それなら自分が周囲の冒険者や警備兵の人達に協力を要請すれば良いかもしれないが、自分の様なちっぽけな人一人が周囲の冒険者達に奮起する様に呼びかけた所でその場にいる冒険者達が奮起し戦いに参加するとは限らない。逆にその場にいる冒険者達が戦意を失う危険性だって孕んでいる。この場にいる冒険者達が動く気を見せない以上、悠介の脳内では打開策は思い付かなかった。

 なので悠介はもう単独で戦闘を行い、敵に挑まなくてはいけなかった。誰も戦う気を見せないと言うのならせめてその気がある奴がたとえ一人だけでも、挑まなくてはならないと悠介は感じた。不利な点があろうと武器がナイフ一本だったとしても悠介は考えるよりも先に足が動いていく。脳内では意図していない行動だった為最初は勝手に動いていた自分の体に衝撃と驚きを覚えてしまったが、自分にその気があると気付いた時からその衝撃と驚きは消え去った。

 そして若干震える手と焦りと恐怖が滲む表情を必死になってかき消そうとしながら、悠介は門の前へと迫っていく。

 するとリアンが当然の行動を取る。彼女は再び自分が着ていた黒衣を掴んだのだ。普通の事だった。まるで大軍の敵の中に一人だけで突っ込む、特攻と変わらない様な行動だ。自分のDUO(ペア)である悠介がそんな行動に走ろうとするのなら、リアンが止めるのは自然の流れだった。

 最初こそ黒衣を掴まれ、立ち止まってしまった悠介だったが、すぐに歩き出そうとする。悠介の表情は変わらず殺気を帯びて生気を感じられない様な目となる。しかしそれに対してリアンは輝く美しい双眸を悠介の方に向ける。そして悲壮感と怒りが混ざった表情を悠介に向ける。

 悠介黒衣を掴まれるなり、後ろを一度だけ振り返った。振り返った所で止まる気はなかったがリアンの顔を見ない訳にはいかなかった。

 リアンの表情を見て、悠介は僅かながら心が抉られた様な気分になった。リアンの表情を見た悠介は足を止め動揺したかの様に目を強く見開いた。

 彼女は悲しげな表情を見せ、悠介の双眸を見つめている。今の彼女の表情は悲しみに染まりきっている様な気がした。それを強調するかの様に彼女の目には涙が溜まり、今にも流れてきそうな程だった。

 悠介に行ってほしくない、ここに、私の隣にたっていて欲しい、言われなくとも悠介は彼女の表情を見ただけでその様な事を思っているのだろうと悟ってしまった。だって普通に考えればそうだろう。

 まるで最恐に抗う戦士の様だ。死ぬ事を顧みずたった一人で背負い込み、全てを守ろうとする。今自分はそんな事をしようとしているのではないか?と悠介は考えた。


「お願い……自分から命を捨てる様な事……しないでよ!」


 遂には彼女の双眸に溜まっていた涙が流れ始める。彼女の涙は両目からとめどなく流れていく。泣き叫ぶ程ではなかったが、彼女は絶望した様な悲しみに満ちる表情を見せ涙を流していく。まるで止まる事を知らない様な滝の様に彼女の涙は流れていき、頬をつたって顎から地面にポロポロと落下していく。


 女を泣かせた奴は許さない、女の涙は必ず拾い上げる、そう自分に言い聞かせていた自分がいた。昔自分が自分に対して言った言葉だった。もし自分の目の前で泣いて絶望に浸る女がいたとしたら、女を泣かせて反省もしない奴がそこにいたとしたら、自分は絶対にそれを見逃さないと決めていた。

 今彼女が、リアが泣く理由それは悠介に死んでほしくないと言う事だろう。言われなくとも悠介本人も分かりきっていた。死んでほしくない、命を無駄にする様な行動を取ってほしくない。

 しかしそれでも尚悠介はその様な行動を取ろうとした。だから彼女は悠介が死ぬのではないかと思い、涙を流した。それなら自分がどうするべきか、自分なりの考えで導き出す事にした。


「リア、俺は絶対に死なない……約束しよう。だから、俺は外に一人で向かって、ドンパチやろうとしてる奴を殺してくる……何もしなかったら全員仲良く死ぬ事になるんだ……」


 死なない、それがこの短時間で悠介の脳内で出す事が出来た答えだった。そして悠介はリアンの頬に指を伸ばす。そしてそのまま指を動かし、彼女の涙を拭う。美しい彼女に悲しげな雰囲気を漂わせる表情をさせる訳にはいなかった。右頬と左頬、両方の頬をつたう涙を拭い、悠介は軽く微笑んだ。

 悠介の言葉と行動にリアンは絶望感漂う表情をすぐさま消してしまう。そして目元に残る涙を全て強引に腕を使って拭き取ってしまう。そして涙を全て拭き取るとリアンは美しくも強い表情を見せる。さっきまでの絶望感漂う表情は何処へやらと言わんばかりの変貌ぶりに悠介は少しだけ驚いた。


「分かった、確かに今は誰も動こうとしない。なら私達みたいに動ける人だけで解決にもっていこう!悠介が行くなら私も行く、最恐に抗うのは悠介だけじゃないからね!」


「り、リア……まさか着いてくるのか?」


 悠介の質問にリアンは強気な表情を見せる。悠介は最初、質問をした時に少し冷や汗を浮かべる程だったがリアンの美しく強気な表情に悠介は少し驚く様な表情を見せてしまった。


「勿論!だって私達、DUO(ペア)なんだからね!」


 その時のリアンの表情はいつも通りの明るくて優しいリアンと変わらない姿だった。いつもの何気ない事でも全力で喜んでいる時の彼女の様に綺麗で美しい彼女の姿がそこにあった。


「お、おぅ……なら急いで行くぞ!」


 その言葉に二人は奮起する。互いに強気な表情を見せ、やる気に満ち溢れる少年少女の様に元気が溢れる様な表情を浮かべる。周囲の冒険者や警備兵は恐れ戦く様な表情を見せる中で二人はそんな事を気にしてしない様だった。

 そしてさっきの様に互いに手を繋ぎ、悠介は遂に右手に自分が愛用しているナイフを逆手に持ち、リアンも左手に愛用している魔力石が先端に埋め込まれた長めの杖を握り締める。

 二人の足は門の前に向かっていく。急いで走ったので互いに髪が揺れ、風が体を刺激していく。

 そして二人は門の前に呆気なくすぐに辿り着いてしまった。門の前には血相を変え襲撃に備えて槍を両手で持ち、踏ん張る様な姿勢で構えている。しかし悠介はそんな事を気にする様子を見せようとはせず、警備兵の一人に話しかけた。


「すいません、急いで門を開けてください!」


 突然の事に警備兵は唖然とし、へっ?と情けない声を発してしまう。後ろから声をかけて突然こんな事を言ったので普通かもしれないが、悠介には情けなく聞こえてきた。

 しかし警備兵は素直に首を縦には振ろうとはしなかった。だってそうだ、敵の数や姿だってまだ伝達されていない。まるで未知の空間の様な世界だ。そんな所に、はいどうぞと素直に悠介達を送り込むは警備兵は出来ずにいた。


「そんな、無理ですよ!門の外には未知の敵がいるんですよ!?その状況で悠介さんは特攻を仕掛ける気ですか?」


「くっ………門を開けてください!街を制圧されます!」


 悠介の言葉に便乗する様にリアンも口を開いて言葉を発する。悠介と同じ様に急いだ感じで若干怒り口調だった。


「お願いします、動けるのは私達だけなんです。このまま何もしなかったら、本当に滅ぼされます!」


「し、しかし!」


「やらなきゃならんだろうが!まだ粘るなら門ごと蹴破ってでも行くぞ!」


 流石に最後の砦と言ってもよいこの門を破壊されてしまっては敵が簡単に街の中に入ってきてしまう。悠介はあくまで脅しのつもりで破壊すると言ったのだが、どうやら警備兵は悠介の言葉を本気だと思ってそのまま鵜呑みしてしまったらしい。

 しかし無理もないだろう。あの殺気を帯びる目と悠介自身の強さと右手に握られたあの鈍く刃が輝くナイフを足せばこの門ぐらいの破壊は容易いと警備兵は思ったのだろう。

 警備兵は焦り冷や汗を流してしまう。そしてすぐさま、は、はぃ!と悠介に恐れてしまった表情を浮かべるとすぐさま正面に作られていた固く閉ざされた門を素直に開いてしまった。


 悠介は門が開くなり、警備兵の人間に、ありがとうとだけ一言呟いた。そして悠介はナイフを片手に防壁の外に広がる平原へと走り去っていく。それに着いていくかの様に、リアンも足を素早く動かし、悠介の後ろを走っていく。

 警備兵はオドオドとした表情で二人を見守っていたが、悠介達が防壁から距離を離していくと、自らの心の中で、申し訳ない……と悔し紛れに呟き、気が乗らぬまま苦渋の表情を見せながら門を閉めてしまった。本当なら敵が残存している防壁の外に冒険者二人を放り出すのは警備兵の身としては、非常に気の乗らない事だった。本当から派遣されてい自分達警備兵が冒険者を初めとして住民達を守る身だと言うのに、結局は冒険者に助けられてしまう。守る存在でありながら、守られてしまうと言う事と気が乗らない中で死が蔓延する場所に二人を送り出してしまった事に警備兵である一人の男は苦汁を舐める様な表情を見せてしまった。


 そしてその場にいる冒険者達は悠介達の行動を見て、何も言えなかった。誰も動こうとしない状況の中で唯一反旗を翻し、自ら命を顧みず、最恐へと立ち向かった。その場に何も言えずに立ち尽くしていた冒険者達から見た、彼の後ろ姿は本当の勇者の様にも見えてきた。たかが一人の暗殺者などではない。最恐へと向かう姿はまるで勇者、いや英雄とも見える様な存在だった。

 その場の多くの人間が恐怖と最恐による支配により凍り付くかの様にして動けなくなっていた中で自ら動き出した彼を彼らはただ見ている事しか出来なかった。リアンの様に着いていく事も、せめて何か応援の言葉を彼に言う事すら出来ず、ただ怯える目で悠介を見つめているしかなかった。しかし今は門は閉じられ、彼の姿をその目で見る事は出来なかった。



















 そして門の外に出ると、悠介はすぐさまナイフを強く握り締める。リアンも同様にいつもは片手で握っている杖を今回は両手で握り締め、瞬きすらもしない勢いで周囲の警戒を怠らずに続ける。

 二人は険しい表情を見せ、首を左右、縦下にもキョロキョロと振り続け、敵が接近してきていないかどうかを確かめる。悠介はリアンに背中を預け、リアンは悠介に背中を預けた。背後から攻撃されると言うリスクも考えて、二人は互いに背中を預け周囲の警戒を続ける。

 敵がもう自分達に襲ってくるかもしれないが、嵐の前の静けさと言うべきなのか、敵は一切姿を見せようとはしない。まだ明るめの空間の中で二人は一言も離す事泣く周囲の警戒を続ける。

 風が空を斬り、ひゅるりと翻す様に吹き続ける。吹き続ける風は悠介の男性でありながら少しだけ長い黒髪をリアンの長く金色の髪を揺らす。髪が揺れるが敵は姿を見せない。

 先程発生した爆発が嘘と思える程に静寂が広がり、弱々しくもどこか嫌に思える風が吹くこの空間に悠介は困惑を覚え始めていた。しかし敵は必ず潜んでいる。今ももしかしたら何処かから自分達の事を見ていて、奇襲の機会を伺っているかもしれない。障害物などが全く存在していないこの平原でも自分達の視界から逃れている。しかも今も何処かから見ているに違いない。悠介は発見出来ない歯痒さと見つからない焦りに苛まれそうになる。


(何処だ……何処にいる?………目で追うだけじゃ駄目か……殺気を感じろ…)


 リアンに背中を預ける中、悠介はその場に静止状態となり、目を静かに閉じる。相手がこちらを殺す気で来るのなら、必ず殺気を拾う事が出来る。悠介もこれまでの戦いの中で、魔物が発する殺気を感じる事が出来る様になってきていた。暗殺者である自分は相手を処刑する際は殺気を消す必要があるが、今自分の体からは殺気がとめどなく溢れ続けていた。

 そして悠介は自分達の命を刈り取る為に、自分達に迫りくる殺気を感じる為に精神を全集中させ殺気を探る。絶対に近くにいる。殺気を帯びた敵が傍に近付いてきていると……………


(感じるんだ…………敵の殺気を………ん?…………右方向!?)


 刹那、悠介は早すぎる動きで、リアンの左肩を強引に掴むとそのまま地面に向かって押し倒した。勿論だが攻撃を避ける為だ。決して美しい彼女を押し倒して我欲を尽くそうとした訳ではない。

 悠介は右方向から強い殺気を察知した。殺気を感じたのはほん僅かな時間で、刹那の様な一瞬の事だったが、その殺気は自分達に向けられたものだと言う事が悠介には一瞬で分かってしまった。間違いなく自分達に向けられたものだと、悠介は自分達に向けられた攻撃をナイフで撃ち落とすのは困難だと感じたのでリアンを無理矢理押し倒してしまったのだ。


「リア、どうやらお出ましの様だよ……」


「うん、そうみたいだね…………あの、もしかして悠介……欲求不満なの?もし、そうなら……」


 悠介に対してリアンは頬を赤らめると、恥らしい様な口調で悠介にそう呟いた。クリっとした可愛らしく美しい瞳を悠介に向け、両手は顔より上にあって、地面と密接している。まるで押し倒された事が嬉しい様な様子だ。求めるなら抵抗する事はないとでも言いたいのだろうか?

 嬉しそうな様子と同じ様に、リアンはどこか嬉しそうな口調で話していた。まぁ、女の子を突然押し倒しちゃったしね、しょうがないよね?


「今は戦闘時ですが?」


 悠介は呆れた様な口調で一言呟いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ