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81話「創造主の一幕」

 

 その後、あの綺麗な水が張る池で水浴びを終えたヴォラク達は洗って乾かした服を着て(描写はないけど、実は全員服を洗濯していた。乾かすのにレイアが使う事が出来る、熱魔法を使う事にした)帰路に着いていた。池から帰る時、ヴォラク達にはサテラ達が待つテントがある場所は既に分かっていたのでヴォラク達はレイアの案内なく三人で仲良く横に三列になって歩きながら時折話しながら、少しだけ明るくなり始める道を歩き続けていた。

 池で水浴びをしたお陰か、僅かにヴォラクの体にもたらされていた眠気は消え去り、ヴォラクの身体の疲労も殆ど回復していると言っても良い状態だったのだ。水浴びをする前までは歩く事にも倦怠感を感じていたが、水浴びをして身体の汚れや返り血(服も)を落として、服を綺麗に洗った事で倦怠感や疲労感、そして眠気は完全に消え去っていていたのだった。

 昨日は不眠で夜中も戦闘を続けていて、戦闘後には強い眠気が起こり始めていたが、水浴びをして顔に冷たい水を浴びた後ではまるで睡眠をした後の様に感じる。

 しかし眠気が覚めてまだ体が動き続けられると言っても、実際は一切眠っていない不眠状態と何ら変わりない状態だ。このまま数日眠らなかったら普通に体には疲弊が溜まり、日に日に眠気は更に強くなって、寝ないと最悪、不眠症に陥る可能性だってある。どこかで時間を見つけて眠りに着く必要がある。ヴォラクだって素は普通の人間なので眠くなる事だってある。

 いくら眠気が覚めて眠くないとは言っても人間である以上眠る必要はあった。取り敢えず今度長時間の昼寝か早い内に寝る事にしよう。個人的には昼寝の方が好きなのだが、昼寝すると夜寝れなくなる可能性があるので寝るなら夜にしよう。

 今は既に朝方で、サテラ達が待つ所に帰っている途中だが、今日の夜は絶対にぐっすり寝ようとヴォラクは決めた。実際今は眠くない。

 だが一日の間一切寝ていないと言う事実に変わりはないので、今日は絶対に寝ようと決めた。そう考えながらヴォラクは明るくなり始める道を歩いていったのだった。















 明るくなり始める道を歩く中で、突然として血雷の言葉がヴォラクの耳を刺激した。周辺は沈黙と変わらない状態で鳥の囀り(さえず)もレイアやヴォラクは話していなかったのであり、全くと言っていい何も聞こえない状況だったので突然として血雷が発した言葉にヴォラクは僅かながらも驚きを見せてしまう。しかし次に血雷がヴォラクに言った言葉に彼は驚きと緊張が更に増してしまった。レイアも血雷の言葉を聞くとすぐさまヴォラクの方を見る。レイアと血雷はヴォラクを挟む様にしながら歩いていたので、ヴォラクは美女二人から同時に横から見つめられる事になってしまった。


「なぁ、ヴォラク」


「どうしたの、姉さん?」


「前々から気になってたんだけどさ、お前ってさ………何者?」


 よりによってこの質問が来るとは予想していなかった。この質問はヴォラクにとって一番答えにくい質問だった。

 だってそうじゃないか?彼の正体はこの世界の人からしたら考えられない様な存在だ。それに彼が戦い続ける本当の理由、本当の名前、そして隠されし力などヴォラクは一部の人を除く人には謎が深い隠し事をしている。血雷とレイアだってその内に含まれる人達だ。

 レイアは彼の父親の事を知る人物だが、ヴォラク基不知火凱亜についてはよく知らないそうだ。血雷に至っては何も知らないと同然の様な感じだ。そんな何も知らない血雷が、ヴォラクに対して何者なんだ?と聞いてきたのだ。ヴォラクはこの言葉に言葉を失い、僅かに焦る様な表情を見せ、歩き方もどこかぎこちなくなってしまう。血雷は変わらずヴォラクを見つめているが少しだけ動揺するヴォラクを不思議がる様な表情を見せ、目を丸くしていた。

 これでは隠しようがない。どうするべきか……いっその事話すべきか?自分の経緯を全て話して、自分の本当の名前も言い、この世界の人間ではないと言う事も、そして国を追放され、復讐の為に戦い続けていると、全てを曝けだす様にして話してしまおうか。正直な話、ヴォラクには今の状況から血雷の質問を回避するのは難しいと思った。

 回避するとしても話を脱線させるのは無理に等しいとヴォラクは考える。若干脳がサディスト状態のヴォラクに考えられるのは峰打ちで気絶させるかビームサーベルで首ごと切り落とすかツェアシュテールングとリベリオンで撃ち抜くと言う甚だしいにも程がある様な馬鹿げていて、姉に対する冒涜にも等しい行動しかヴォラクには思い付かなかった。


「な、姉さん?急にどうしたの?」


 取り敢えず最初は冷静に受け答えを行う。いきなり話に突入するのはマズイのでヴォラクは一旦理由を聞く事にした。ヴォラクは動揺した表情を隠し、何とかいつも通りの冷静さを装った。


「だってよ、背中預けて戦ってた時思ったんだよ。お前の剣ってさ斬り合う前に剣ごと斬っちまうしさ、そのよく分からん黒いのあるじゃねぇか。そんなのアタシ見た事ねぇんだよ。それに偶によく分からん事も話すからよ、気になっちまって。だから教えてくれよ、お前って何処から来たんだ?アタシに会う前は何してたんだ?教えてくれよ!」


 黒いのとは恐らくツェアシュテールングとリベリオンの事を指す。

 しかし銃の事は置いておいて、ヴォラクは自分の経緯や武器の事などの事を話すか話さないかの瀬戸際で悩み続けていた。確かにこれを機に話してしまうのも一つの案だが、問題としては、今までのヴォラクの経緯を話したとしても血雷はその話を信じないと言う可能性があった。一応言っておくが、ヴォラクが話そうとしている事は全て本当の話なのだ。偽りなど一切なく本当の事実であり、ヴォラク自身も嘘を付くつもりもない。

 なのだが、ヴォラクの事情を全く知らない人にとってそんな話をしてみろ。引かれるかドン引きされるか嘘だろとか言われるかのどれかだよ。

 だってそうじゃないか?

 ―――――僕はこことは違う異世界から来ましただとか、本名もヴォラクじゃなくて「不知火凱亜」です!だとかこの武器は全て自作しました、だなんて血雷やレイアに言ってみろ。

 いくら仲良しとは言っても信じてもらえるかどうかなんて分からない。個人的な予想は信じてもらえない気がする。

 実際の所ヴォラクが話している事はこの剣と魔法の異世界でヴォラクが話そうとしている話なんて、ただのおとぎ話もしくは中二病が考えた様なただの妄想に等しい話だったのだ。こんなにわかにも信じられない様な事を自分の姉の様な人物と銀髪の美しい美女に自分の経緯を話してしまえば、ドン引きされる可能性がある。だから話したくないのだ。

 しかしここからどうやって血雷の質問を誤魔化して、上手い事回避するかの方法が思い付かない。もう話した方がいいんじゃね?

 もう話した方がいいかもしれない。実際の所、自分の素性をずっと隠しているつもりはなかったし、一応サテラとシズハはそれなりには自分の素性について知っている。

 この先聞かれたらどうしよう?とは考えていたので、そろそろ潮時かもしれないとヴォラクは考えた。経緯を話すなら今が一番の機会かもしれないと感じたヴォラクは自分の今までの経緯を全て二人に公開する事にした。後悔はないし、もし二人に信じてもらえなくても、最悪適当に田舎から出てきたただの旅人と言っておけば良いだろう。


「おいおい、勿体ぶるなよぉ!秘密にせず教えてくれよ!別に嘘だ!とか言わねぇからよ!な、な?」


「確かに、私もヴォラクの事ってあんまり知らないからね~強いて言っても貴方のお父さんの事ちょっと知ってるぐらいだし………別に嘘だと疑ったりはしないから教えてくれない?」


 血雷は嘘だ!とかは言わないらしい。レイアも同様に嘘だと疑う様な事はしないと言っている。それなら、それなら話しても大丈夫?かもしれない。ヴォラクはまだ僅かにだけ信じてもらえないと二人に疑いを持っていたが、そう言われれば疑う訳にもいかなかった。ヴォラクは遂に過去の自分の事について話を始める。ヴォラクは道を歩きながら、ズボンのポケットに手を突っ込みながら話し始めた。


「さて、どこから話そうかな……」


 そしてヴォラクは二人に自分が今までどの様な事をしてきたのか、この世界の住人ではなく別の世界から連れてこられたと言う事も、濡れ衣を着せられて自らを召喚した国から追放された事も、本当の名前も、そして何の為に戦い続けるかも、復讐の理由も、武器の事についても、その全てを二人に話した。

 話し始めた時はまるで自分の考えた妄想劇を他人に言っている様な気分になったが話している内にレイアと血雷の表情は探究心を駆り立てる様なワクワクとした表情になったり、逆にあの時の自分の様に悲しげな表情を浮かべる事もあれば、殺気を帯びた目をする事もあった。

 ヴォラクは最初こそ話すのが恥ずかしい様に感じてしまい、本当に話すべきだったのか?と思っていたが、話していく中で自分の本心を語る事が出来たし隠していた素性を話す事が出来て自然とスッキリとした気分になったのでヴォラクは話し終わった後には、自分の素性や経緯を話しておいてよかったと思えた。

 そしてヴォラクが自分の素性についての話が終わった後、血雷はヴォラクの言葉に疑いをかける事はなかった。信じない様な素振りも言動も見せる事はなく素直にヴォラクの話を信じ、ヴォラクの右肩に自分の左手を置いた。着ていたロングコートやシャツ越しでも僅かにだけ彼女の手の熱が伝わる。温かく落ち着く様な熱だった。


「成程ねぇ~お前はこの世界の住人じゃなくて、別世界から来た召喚者か……噂でならちょっとだけは聞いた事はあるけどよ、まさか実在したとはねぇ…まるで変な夢でも見てる気分だぜ。だが、お前が嘘を言ってるとは思えねぇし信じるしかねぇな…」


「私は聞いた事もあるし、本で見た事があるよ。別世界又は世界の外部からの召喚魔法はもう今は禁忌の魔法とされているけど過去は大量に利用されていた事を知っている。それにちょっとまた別世界からの召喚を行ったって新聞で堂々と公表していたからね。それにヴォラクは巻き込まれたと言う訳ね………巻き込まれた挙句追放なんてやっぱり酷いよ」


 そう言いながら、血雷は愛用している煙管を取り出すと歩きながら煙管を咥え、そのまま吸う。少しの間煙管を吸うと口から煙管を離し、口から煙を吐く。吐いた煙はヴォラクの顔にかかる事もなく自然と空間の中に消えていく。煙管を吸っていた時の血雷の表情はどこか物悲しい様な表情だった。話を聞いた上でヴォラクの心境を想像したのだろうか。ヴォラクの体験した悲しい体験を想像すれば物悲しい様な表情を浮かべてしまうのも仕方ないかもしれなかった。


「フゥ……けど理由も分からずに召喚されたら、勝手に濡れ衣着せられて、名前も身分も奪われて、国からも追放されたって事か。けど、名前変えてどうにか生きてきたと……そんで、お前は自分に濡れ衣着せた奴らに復讐する為だけに生きているって訳か……」


「しかし、いい歳しておいてそんな姑息な手を使って追放なんてくだらないね。血雷さんの言う通り、やってもない事をでっち上げて追放するなんて……それなら、復讐する為に生きるのも納得ね」


 レイアも血雷と同様にあの時のヴォラクと同じ様な悲しい表情を浮かべる。こんな話をしたお陰で血雷もレイアも悲壮感の漂う表情を浮かべてしまっている。ヴォラク的にはそんな表情をしてほしくはなかった。二人は美しくて明るい表情をしている。そんな美しい表情を悲壮漂う表情にはしてほしくはなかったのだ。しかしヴォラクは話を続ける。


「あぁ両方間違ってないね。僕は復讐の為だけに生きているんだ。今は復讐しようとしてる奴らがいる国には行けないけど、いつか必ず復讐して殺す。そう決めてるんだよ、僕は……」


 血雷とレイアはヴォラクの生きる理由と復讐する理由を聞いても、異論を並べる事はなかった。二人共ヴォラクに賛同し復讐に反対する様な言葉を言う事はなかった。


「なぁ、ヴォ……凱亜、復讐って言う道を歩む事をやめろとは言わねぇ。勿論、復讐は何も生まないなんて事も言わん。だが一つだけ覚えとけ…」


 復讐は何も生まない。事情を知らない人が良く口にするセリフだ。しかし血雷は「復讐は何も生まない」と言ってくれた。ここでもし復讐をやめろ、だなんて彼女が言ったらヴォラクは間違いなく彼女の服の胸ぐらを掴んでいて、怒りの言葉を叫んでいただろう。だが彼女はそんな事は言わなかった。しかし血雷はヴォラクに覚えておいてほしい事があった。


「間違っても、道は踏み外すなよ?」


 その時のヴォラクを見つめる血雷の目は殺気を見せる時よりも強く、恐ろしい瞳だった事を感じさせる。その時の彼女の瞳はヴォラクも一瞬身震いをさせる程だった。そのせいで彼は何も呟く事は出来ず、軽く首を縦に振る事しか出来なかった。血雷はヴォラクが首を縦に振る事に気付くと軽く笑みを浮かべ、ヴォラクの前に立つと背を向けて歩き出した。レイアはヴォラクの横に並ぶと軽く彼の腕に触れながら歩いた。彼もレイアに合わせる様にして歩き出す。それ以降ヴォラクは何も口から言葉を出す事は出来なかった。出来たのは脳内で考え続けるだけだった。


 まるで釘を刺した様な彼女の言葉はヴォラクの心に強く残る。道は踏み外すな、か間違ってそんな方向に転がるつもりはヴォラクにはなかった。復讐を果たしたら……果たしたら?その後どうしよう?ヴォラクの脳内には復讐した後の考えが何も思い付かなかった。今しれっと考えてみたけど何も思い付かない。

 実はと言うとヴォラクは復讐を果たした後のコンセプトは何も考えていなかった。最近は復讐の事よりも国同士(レイアVSカイン)の戦争や姉の事ばかり考えていたので、クラスメイトに対する復讐なんて戦っている時は微塵も考えていない事があったのだ。


 え、これヤバくね?この作品の主人公って復讐が目的で旅してるんだよね?なのになんで復讐に関係ない事(国同士の戦争に介入したり、義理の姉と仲良くしたり)してんの?これじゃ復讐の道を歩む所か本当に違う道に行っちゃうかもしれないんだけど?道を踏み外すなってそう言う事?

 姉さんもしかして僕が復讐そっちのけで違う事をやってた事を知ってたからさっきみたいな事言ったの?←違う意味で解釈しています。

 おい、これどうしたら良いんだよ?今から引き返してまた国まで戻るか?そして殴り込みしてさっさと復讐果たして”TheEND”にするか?いやそしたらその後どうするか決まってない!どうすりゃええんや?

 作者、出てこ――――い!

















 そう叫ぶと作者が呼び覚まされると同時にこの世界とは別の空間にヴォラクは移された。突然として目の前と世界は暗闇に包まれ、時が止まる様にして周囲の空間は消滅した様に消える。レイアも血雷もその場からは消え去り、ヴォラクだけがその別の空間に移された。

 そして彼の目の前にこの世界及びヴォラクを始めとした全ての存在を生み出し何処かからヴォラク達を傍観し、生み出し続ける男「作者」がヴォラクの前に立っていた。真っ暗闇な空間の中でもヴォラクは作者の姿だけは鮮明に捉える事が出来た。明かりは存在していないとは言っても、作者はヴォラクの瞳に映り続けていた。

 そして作者は相変わらずやる気の無さそうな顔をしている。死んだ魚の様な目、男子でありながら若干中性的な顔、そしてヴォラク以上に全体的に長い髪。黒色のパーカーに長ズボン。それがヴォラクの知る作者だった。


「おい、作者。いつになったら僕に復讐させてくれるんだ!?と言うよりも、そこのシナリオちゃんと考えたのか?」


 ヴォラクは作者と目が合うなりすぐに作者に近付き、怒鳴りつける勢いに近い声で作者に話しかける。ヴォラクは今後のシナリオを知らなかった。しかしいつになったら彼の復讐劇が始まるのか知らなかったので、ヴォラクはいつになったら復讐出来るのか気になって仕方なかったので、半場怒る様な形で作者に話しかけたのだ。だが、本当は焦っているだけだった。


「………うっせーな、大体お前が復讐したらもうこの作品終わりじゃないか。まだ解説してない事だってあるんだし、まだ続けたいんだからさ、まだ復讐は我慢してくれ」←作者


「ざけんなよ!大体あらすじで復讐がメインみたいに言っといて、結局今の状況見てみろよ!?復讐も何もないわ!レイア助けて姉さんとイチャイチャしてるだけじゃねぇか!」


 ヴォラクの怒りの様な感情が久しぶりに爆発している。怒っていないとさっき言ったかもしれないが、もしかしたら怒ってるかもしれない。

 ヴォラクは基本的には怒らないし、感情もあまり表に出さないヴォラクだが作者とヴォラクの一対一でしか会話していないこの空間ではヴォラクは人が変わったかの様にして感情を爆発させてしまっていた。しかし作者は至って冷静でいる。いつものヴォラクの様だった。

 空間の中に一つだけ置かれた座り心地の良さそうな椅子にふんぞり返りながら座り、呑気にあんぱんを口にしている。因みにだがこしあんだ。


「うっせーな、モグモグ。人があんぱん食ってる時に邪魔すんなよ、モグモグ……上手いなこれ、モグモグ」


「さ・く・し・ゃ……僕にいつになったら復讐させてくれるんだょぉぉぉぉ!」


 ヴォラクは悶絶するレベルの怒りの様な感情を浮かべ作者に怒鳴りかかるレベルの声を上げる。て言うかもうこれ怒鳴ってね?

 しかし作者が発した次の言葉にヴォラクは絶句する。怒りが吹き飛ぶレベルで黙り込んでしまい、表情も絶望を超えるレベルの表情になり、まるで地球が滅ぶ事を知った人の様な顔をしていた。あんぱんを全て平らげた作者は口に付いた餡子を手で拭き取るとヴォラクにこう告げた。


「予定だけどさ次の章……悠介が主人公だから」


「ファ!?」


 しかし作者の言葉は止まる事を知らない獣の様にして続く。ヴォラクは反論が一切出来ず、ただ呆然と見ている事しか出来なかった。


「ほんでもってその次の次の章は……一応お前の出番はあるけど、最初に新キャラ?の「ゼノ・ケイオス」ってキャラが出てくるから。お前の復讐はそのもう少し後になるかな?」


 その言葉にヴォラクは感情では表せない程までの怒りを見せ強く歯噛みし、拳を強く握りしめる。ツェアシュテールングとリベリオンを弾切れするまで撃ってやりたいのだが、銃を撃つ相手は、自らを生み出した作者だ。勝てる訳がないよぉ!作者が相手じゃ天帝の力を使っても勝てない……クソォ!結局最強は作者と言う訳なのか……


「てか、誰だよそいつ!明らかに厨二病臭い名前だし、そんな新キャラぶっこむならメインの話を進めろよ!」


「後さ……そろそろ」


「んっ?何だそれ!?」


 すると作者はどこかから押したら何かが起こりそうなボタンを取り出した。そのボタンを見た瞬間、ヴォラクに背筋に悪寒が走る。あれを押したら、間違いなく悪い事が起こる。

 言わなくともヴォラクは経験で分かる。敵キャラがボタンか太い紐を用意した時、何が起こるかはヴォラクは一番良く知っていた。今までどれ程の数のゲームをやって、アニメを見て漫画を読んできたお陰で今何が起こるのかヴォラクには余裕で分かった。


「ふっ、せっかくだから俺はこの元の世界に繋がる扉を選ぶぜ!」


 ポチッ!

 すると扉ではなくヴォラクが立っていた空間に突然として大きな底の見えない穴が作られた。しかも穴が出来たのはヴォラクが立っていた所の真下だった。まるで狙っているかの様に、てか狙ってただろ?

 穴の底は真っ暗でまるで底なしと言っても過言ではない。しかもかなり広い、これじゃ這い上がるのも難しそうだ。てか這い上がれないだろ?ここからどうやって這い上がれと?無理だ。


「バイバ~イ♡」


 作者は突然、やる気のない表情から一変して、まるで最高の出来事があった様な程までに満面の笑顔を浮かべながら穴に落ちていくヴォラクに向かって手を振っていた。ヴォラクはそんな作者を見て一言だけ呟くともう今から抵抗する事は無駄に等しいと感じ、そのまま穴の底に落下していった。


「追い出すなら……卍○とか使えよ………このオタク野郎が……」


 そのままヴォラクは底が一切見えない大穴の底へと落下していく。手を伸ばしても作者はヴォラクの手を掴む事はない。作者は底へと落ちていくヴォラクを笑顔で見つめ、手を振る事しかしなかった。ヴォラクはそんな作者を恨む事はしなかった。

 いくら自分を作り出した存在とは言っても、奴の手を握る様な事はしなくなかったのでヴォラクは抵抗する様子を見せる事なくただ無心になりながら、目を閉じてジタバタと暴れる事もせずただそのままの姿勢で動かず頭から下へ下へと落下していくのであった……





















「はぁ、全く懲りないな、凱亜の奴も……」


 そして椅子に座ってヴォラクが落ちていく様を呑気に笑いながら眺めていた作者はヴォラクが穴に落ちて暗闇の中に消え、見えなくなる頃には作者は作った穴を完全に消して床に戻し、再び椅子に座ってふんぞり返っていた。するとまたお腹が空いた。腹が鳴る程ではなかったが、何かお腹が空いてきた。

 さっきあんぱんを食べたとは言っても、まだ小腹が空いているので、間食用のメロンパンを取り出すと作者はメロンパンを口にする。

 やっぱりあんぱんとメロンパンはいつ食べても飽きないし、とても美味しいパンだ。この二つがあれば物語と人物の創造も容易に行えるし、腹も満たせるので一石二鳥だった。


 いつもの場合ならならメロンパンを平らげれば、再び脳を働かせ創造に戻るのだが、今は凱亜以外のお客が来ていた。作者は創造を行う事を中止した。そして死んだ様な目で後ろの気配に対応する。その目付きは殺気を帯びた目にも近かった。

 しかし作者は自分の後ろに立つお客を、さっきの様に穴を作って突き落とすのではなく、無感情な目に口元にだけ笑いを浮かべると椅子を回転させると自分の背後に立つお客に目を向ける。


「で?次の次は俺が主人公って事なのか?作者さん?」


「そう言う事で合ってる……次の次の章は君が主役になれる。勿論、正義の味方で、だよ」


「全く……最初はミラーと回想だけの登場だったのに、まさか主役とは…どんなシナリオになるか楽しみだよ」


 二人は普通に話しているのだが、二人は決して作者はお客と目を合わせる事はない。一度だけ目を向ければ長い前髪で目を隠し、何処に目の焦点がいっているのか分からない様にする。目が泳ぐかの様にして作者は目を合わせる事はない。

 作者はその暗い空間の中に立つお客を見て、口元で笑いを浮かべ、笑いと声を発する。すると作者は何かに気が付いた様な素振りを見せると、自ら声を発し、お客に話しかける。


「あ、そう言えばね……君が欲しいと言っていた品物は創造しておいた。持っていけ」


 そう言うと作者は自らの手の平の上にギラギラと光を反射する様な色をしたアタッシュケースを創造すると持ち手の部分を持つなり、お客の方向に向けてアタッシュケースを放り投げる。それなりに大きさがあるアタッシュケースは突然お客に向かって放り投げられたが、お客は動揺する事も焦る事もなく、手馴れた様な手つきでアタッシュケースを回収するとすぐにケースにかけられたロックを外し中身を確認する。

 中身を見るなり、お客はニヤリと笑い、誰かに似た様な感じの悪い表情を見せる。


「間違いないね、俺の希望した通りだ…」


「君がそれを使いたいなんて言うとは思わなかったよ。まさかオリジナルと同じ物を使いたいって言うんだから……でもあれは自らとその仲間が作った物、けどそいつは作者である俺自らが創造した代物だ……ただのおもちゃではない、分かってるよな?」


「勿論、こいつはアイツの作ったじゃなくて作者であるアンタが作った物だからな。オリジナルとは全く違った力を持っている。神?によって俺にもたらされた力と合わせれば、自分の身ぐらいは守れる」


 そして一通りアタッシュケースの中身を眺めたお客はアタッシュケースを閉じて鍵にロックをかけると持ち手の部分を握り、作者に背を向け歩き出した。どうやらもうお帰りの様だった。作者は歩き出すお客を引き止める事もなくその背中を見守っていたが、お客はまたしても口から言葉を発する。

 お客は作者に一つ訪ね事をした。


「あ、そう言えばさ……」


「どうした?まだ要件でも?」


「アイツにあれは届けたか?」


 その質問に作者は軽く首を傾げる。


「あぁ、一応ね。だが、オリジナルを好んでない君がどうして俺にあんな事を頼んだんだ?」


「ちょっとしたご褒美?いや嫌がらせ?……違った、アンタは近い内にアイツにあれを乗らせるんだろ?じゃまたな、作者」


 その言葉を最後にお客は歩き出した。そしてお客は闇に吸い込まれるかの様にして空間から消えていった。作者は空間の中に一人だけ椅子に座って黙り込んでいた。


「気付いてたのか、俺がヴォラクに異世界要素皆無のあれに乗らせるって事を……」


 作者は自然と独り言を呟いた。しかし作者は突然として連続で独り言を呟き始める。誰もその場に存在していない事をいい事に普通よりも大きめの声で話し始めた。


「さて面白くなってきたなぁ……オリジナルよりもコピーの方かを面白くなってきそうだ。悠介達にも期待大だし……クックック、さてあれはいつ登場させようかな?」


 不審な笑みと共に作者は上を見上げた。何も無い空間だが、この作品において創造主に等しい作者は脳内でイメージした物を具現化する事が出来た。

 彼が脳内で考えれば、考えられたキャラクター、武器や技、装置やアーティファクト、そして世界そのものだって具現化される。その時作者の脳内に浮かび上がる物は………

 何も無き空間で作者は高い声で笑い続けていた……

 が、しかしすぐに作者の顔からは笑いは消え、死んだ魚の目が戻り、廃人の様な薄暗い表情を浮かべると肩の力を抜き、椅子にもたれかかながらまたしても独り言を呟いた。


「さて、今日はもう終わりにしよう。この章ももう終わりにするとするか………ヴォラク達の出番は暫くお預けにさせてもらうか……え?ヴォラクの出番は?サテラ達との再会は?もうすぐ見れるかもね?」


 その言葉を最後に、作者は目を閉じ深い眠りに着いた。作者は大体一度に眠ると十四時間ぐらいは起きないので長い睡眠となる。しかし彼の睡眠を邪魔する者は誰もいない。この招かれなければ入る事が出来ない真っ暗闇な空間の中で、作者は静かに眠りに着いた。



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