80話「シスコンで陰キャの銃使いの主人公が年上の赤髪美女と同年代の銀髪の美女と一緒に水浴びするとどうなるのか?」(主人公とヒロインの回想シーン若干あり)
レイアをおぶってまだ薄暗い夜道を血雷と共に2人で歩く中、ヴォラクには今少しだけ困っている事があった。血雷は恐らく自分が困っている事を知っている。しかし言う事はなかった。
だが、流石チームで一番年上と言う事もあってか、まるでからかうかの様にしてヴォラクが困っている事を敢えて黙認し、彼女はヴォラクの前を先導して歩き、時々後ろを振り返って僅かにだけ微笑むだけだった。ヴォラクは、今だけは血雷に助けてほしいと思った。どうせならおんぶしてる立場を代わってもらってほしいぐらいだった。
ヴォラクは今困っている問題。命に関わる程深刻な問題ではないのだが、ヴォラク的には今抱える問題は結構困る問題だったのだ。
それは今自分がおんぶしているレイアの吐息が耳や首にかかり照れてしまう事と一歩一歩歩く度に揺れて、背中に感じるとても柔らかい感触のせいでヴォラクは常時頬を赤くしてしまい、どういった対応をするべきなのか分からなくなってしまっていたのだ。
その細い腕を自分の頭から腕に回し、全身の体重を預けているので彼女の吐息を感じてしまうし、柔らかい感触を強く感じてしまっていたのだ。
頬を赤らめてしまってる自分を隠したい。可能なら仮面付けとけば良かったとヴォラクは少しだけ仮面を付けずに突入して来た自分を恨んでしまう。
もしこの頬を赤くした自分の顔をレイアに見られてしまったら、何て返答したら良いのかヴォラクの持つ思考では思い付かなかった。
幸いな事に今は自分が後ろを振り返れる様な状況ではなかったので、後ろから誰かが自分の事を刺してこない限りは後ろを振り返る事はなかった。
今だけは振り返らない事にする。
ヴォラクは今は後ろを振り返らないので、レイアに自分の顔を見られる事はなかった。今は自分の照れた顔は血雷に見られるだけで済みそうだった。
しかしヴォラクは血雷になら照れた顔は見られても構わなかった。だって泣き顔見られてるもん、照れた顔ぐらい大丈夫だわ。
彼女は自分の情けない姿を見せ、唯一その行動を見せる事を許せる女性だ。自分の姉の様な人物だ。その心の感情だって自分が一番大好きだった本当の姉に近いものだった。もう会えないかもしれない本当の姉にどこか似ていた血雷は、自分の姉の姿を重ねるには丁度良い人物だった。
彼女のまた、自分の弟の様にして彼の事を見ていた。
今血雷はヴォラク達の前を先導して歩いていたが一度だけ首を回して後ろを振り返った。彼女が後ろを振り返る時、ヴォラクと血雷は自然に目が合ってしまった。
ヴォラクの脳内に自然と自分の姉の姿が浮かび上がり、血雷も同様に自分の脳内に自分の弟の姿が浮かび上がった。レイアをおぶりながらでも、ヴォラクの脳内には姉の姿が鮮明に思い浮かんだ。
ヴォラク、いや自分が不知火凱亜だった頃の自分はいつも自分の姉である「不知火神姫」にくっ付いていた気がする。いつだってそうだったと思っている。歳を増すごとにずっとくっ付く事はなくなって言った気がするが、本当に幼さが残る頃はずっとくっ付いていた気がする。
昔なんて、走って歩いて、そして疲れて姉に何度おぶってもらった事か、覚えてもないくらいだったかもしれない。時には大人数を相手に一人だけで挑んで喧嘩して、その結果ボロボロになりながら姉に抱き締められたり、2人(いや3人だったかな?)だけで学校から帰った。
手を繋ぎながら、周りの目を気にする事もなく無邪気に笑みを浮かべて手を繋いで、あの頃は周りの事なんて知らぬ顔で姉の隣に立っていた。それを姉は嫌がる様子も困る様な素振りも一切見せず、逆に姉はもっと自分と一緒に、傍に様な行動ばかりしていた。
手を繋ぐ時もいつも姉の方から繋いでくれたし、学校から帰る時は自分のクラスに来てくれる事も多かった。
お風呂一緒に入る時だって、基本的に一緒に入る?と言うか、自分1人で入っている時に無理矢理にでも突撃してくるかのどちらかだった。
ま、こんな事をする度に僕は誰かから恨まれ妬まれ、その度に姉さんに恋心を抱く悪い奴がいつも自分に突っかかってきた。大体の場合は大人数で突っかかってくる。だけど、僕はそんな奴は弱いと思う。弱い奴程よく群れると僕は知っている。現に弱かった、不良みたいな見た目の奴も少なからず居たが、僕の前だと終わった後は泣いていたさ。
その度にそんな奴を全員ボコボコのボコにして、その度に自分はボロボロになっていく。そしてボロボロになる度に姉は自分に構い続けて、しかもその回数は段々と増えていき、周りからの自分の評価は恐ろしい程までに下がっていった。
しかし僕は周りの評価なんて気にしていない人間だ。そんな周りばかり気にしていては疲れてしまうと言われた事がある。
所詮は他人が勝手な見方だけで決めた評価だ。気にした方が負けだ。たとえイジメられたり陰口や悪口を言われても、僕は何も気にしなかったさ。それにもし自分が何か悪い事を誰かからされていると姉が知れば、姉はいつもそんな事をしている輩共に怒りをぶつけていた気がする。
姉は普通は自分の様に落ち着いていて、とても優しい心の持ち主だが、自分の弟が傷付けられたと知ったらあの美しい顔は美しさを残しながらも怒りの表情に変わる時がある。
そんなブラコンな所がありそうな姉だったが、僕はそんな姉が大好きだった。周囲からは重度のシスコンと呼ばれていた事もあったが、否定はしない。
だって事実な気がする。現に姉の事を自らが拒んだ事なんて殆どない。
一度だけベットの上で身体の関係を迫られてしまい、やむを得ない形ではあるが拒んだ事があるとは言ってもそれ以外で姉を拒んだ事は一切なかった。
血雷も同様だった。彼女の脳内には自分の弟の姿が鮮明に思い浮かんできた。
彼女はヴォラクの前を先導して歩きながら、血雷は少しだけ過去の自分と弟の人生を脳内の記憶から蘇らせ、その景色を脳内で見ていた。
懐かしいと思ったんだよ。とても懐かしい記憶だったと思ってる。
元々血雷には弟がいた。勿論の事だが姉弟の絆を超える程強い絆で結ばれていた。
彼女の母親は自分が物心着く前に亡くなっていた。血雷が三歳の頃に弟は生まれ、それと同時と言っていいタイミングで母親は亡くなった。元々身体が弱かったらしい母親は弟である「颯」を産んだ後間を置かぬ様にして亡くなったと血雷は父親から聞いた。
父親も自分の妻が死んだと言う事実を最初は受け止められずに嘆き悲しんでいた。自分が一番愛していた者が死んでしまったのだ。父親は心に大きな傷を負った。だが、父親は血雷に颯にその母親が亡くなった事に対する怒りと悲しみを向ける事はなかった。父親は二人を必ず守り、強く育てると言っていた気がする。
幼くして言われた言葉だったので鮮明には記憶していないが、そんな風に言われた記憶が僅かながら血雷の記憶には残っていた。
そして父親と同じ様に早くして母親を亡くしてしまった出来事はまだ幼かった血雷の心に傷を付けるには十分過ぎる出来事だった。三歳にして母親を亡くした事実を初めて知った時はどれ程の時間、父親の腕の中で泣き喚いた事だろうか。あの時は悲しくて悲しくて泣いていた。
しかしこの出来事よりも血雷の心をより痛め付けた出来事がある。その出来事は彼女がもう少し大きくなってからの出来事だった。
それはある日、母親が亡くなったと言う事実を初めて知った時の物心着いた颯の絶望と悲しみに染まりきった顔を見た時、血雷の心は母親が亡くなった時よりも更に苦しくなった。その時の颯の顔は今でも非常に鮮明に覚えている。
悲しみに染まり、まるで世界の終わりだと言わんばかりな絶望に染まった表情で自分の事を涙を流しながら見つめられた時、血雷はその颯の悲し過ぎる表情に自分まで悲しみに染まりそうになった。
その後、颯は泣きじゃくりながら自分の胸元に飛び込んできた記憶がある。
そしてその後、自分の胸元でずっと泣いていた気がする。血雷は颯と一緒に涙を流して泣きながら彼を抱き締め、頭を撫でて泣く子供をあやす母親の様にして慰めてあげる事しか出来なかった。 その時、彼女は必ず弟である颯を守ると誓った。その時の事だって鮮明に覚えている。
自分がなれるなら颯の母親代わりになって、そして颯の姉となる。母親の様に彼を慰め、姉の様に彼に慕われる存在になろうとその時血雷は決めたのだった。
だが、この誓いを立てたせいで変にブラコン気質な女になってしまったのが現状だった。
その時自分の胸元で泣いていた颯と時々自分の胸元で泣いているヴォラクは強く似ていた。泣く姿や泣いてしまう理由、自分が強くなかったから、守れなかったから、約束をしておきながら守れなかった、そんな時にヴォラクはいつも自分の胸元に飛び込んできてはいつもの冷静で非情な感情を捨てて子供の様に泣いている。
彼が泣く度に彼女は泣いている彼を慰めていた。温かくとても柔らかい感触がある胸元の中に埋めさせ、泣く彼の頭を優しく撫でて慰める。
颯にも同じ様な事をしていた気がする。と言うよりも弟である颯とヴォラクは何処か似ていた。容姿も完璧に似ていると言う訳ではなかったが、それなりに似ている気がする。性格も優しさを残して、時に激しい怒りと強さを見せる事が出来るなど、弟である颯に似ている気がしたのだ。
しかし颯は泣き虫な奴だった記憶があるので、ヴォラクよりもこの様な形で慰めた回数は多かったと思う。そうやって今までの人生二十年を振り返り、思い出していけば、自分の弟との思い出は山の様にあった。まだ人生二十年と言う短い時間しか経ってはいないが面白く楽しい思い出は沢山あった気がした。
今から歩いて帰る中で、その記憶を蘇らせいくのも面白いか……………
―――――――――嫌だ………
やめてほしいぐらいだ。最悪な思い出が脳内で蘇った。可能なら、もう二度と蘇って来ないでほしい思い出が血雷の脳裏に過ぎる。二度と思い出したくないのに、あの光景がいつまで経っても脳内に焼き付いて離れようとしない。
―――――――死なないでくれよ!
真っ赤に燃え、パチパチと強く音を立てて激しく強く燃える炎。まるで自分を呑み込んでしまう程の勢いの強さだった。
そして異常な程までに崩れていく木製の建物。道に血を流しながら倒れる人間の亡骸。叫び声を上げ、恐怖に満ちた表情を見せながら逃げ惑う人々。
そして大量の血によって濡れた自分の両手と自分が着ている着物、そして自分の腕の中に抱えられている背中を裂かれた一人の少年。それは間違いなく、自分の弟だった。
自分が弟の姿を間違う事は絶絶対にないと血雷は思っていた。間違えた事だってないし、ましてや間違う気も一切なかった。
彼の体は徐々に冷たくなり、生気が徐々に失われていく。微かにだけ息はあるがもう虫の息と言っても良いぐらいの酷い状態だった。急いで治療を施さないといけない。止血や傷口の消毒などを行わなければいけなかったが、血雷にはその様な行動を起こす為の道具や知識は無かった。
そして目の前に現れ、自分に背を向けて歩いていく謎の人物。
それが誰なのかは血雷には分からなかった。だが唯一覚えている事、それはその男は全身に汚れた厚めの布を纏い、唯一僅かながらに見えた口元には濃いめの髭を生やしていた。少しシワが目立つ手に綺麗な石が埋め込まれた様な指輪、血雷が覚えている男の情報はそれぐらいだった。
その男はあまりの悲しみと恐怖で泣きながらも颯の事を必死になって無意味ながらも助けようとする血雷を見ると、何もする事なく静かに去っていく。待て!と叫んだのだが、謎の男は振り返る事すらせずに自分と弟の前から姿を消していった。
この最悪の出来事が血雷の脳内に過ぎった瞬間、血雷は自分の記憶を追う事を即刻中止し、必死に今起こった事を忘れようとする。
思い出してはいけない。絶対にこれ以上深入りして思い出してしまってはいけない。これ以上思い出せば激しい復讐心と強過ぎる怒りと大きすぎる弟への愛が蘇ってしまう。
そんな事になれば血雷は速攻で自分の後ろを歩いているヴォラクを颯だと思ってすぐに押し倒して野外だろうと構わずに自分の愛を彼にぶつける事になるだろう。
血雷は後ろでレイアをおぶって歩くヴォラクの事を気にしながら、慌てふためく様な素振りは見せる事なく、僅かながら荒い息を落ち着いてゆっくりとしたものに変えていく。
そして今見ていた過去の記憶を全て脳内から消そうとした。記憶喪失する様に今見ていた過去の記憶を全てを忘れるのではなく、一度脳内の奥底に片付け、今はさっき蘇ってしまった記憶を忘れる様に専念した。勿論ヴォラク達には気付かれない様にしながら…………
そして血雷は今思い出してしまった嫌な記憶を全て脳内の奥底に沈め、冷静さを失ってしまった顔をいつもの美しい表情に戻し一度だけヴォラク達の方を振り返った。
その時の血雷の顔は冷静さを失ってしまった顔ではなくいつも通りの美しく、綺麗で強気な表情に戻っていた。勿論作り物の表情ではなく本物の表情だった。
いつも通りの表情を取り戻した血雷は後ろを振り返り、ヴォラクに話しかける。
「ちょっとだけ急ぐわ、早く水浴びに行きたいんでな」
その言葉にヴォラクとレイアを反応する。血雷の問いかけに二人も彼女に便乗する事にした。
「うん、じゃ急ごう。て言うかこのまま行こう」
「場所は私が案内するよ。この森の中にはとっても綺麗な水が流れてる川があるの。そこなら水浴び出来ると思うよ、私もその川で水浴びした事あるし」
ヴォラクはそのまま水浴びしに行こうと早く水浴びをしたい様に促し、レイアなんて水浴び出来る場所まで教えてくれた。二人はまるで血雷と同じ様に水浴びをしたい様な発言をした。
実はと言うと、そして本心を言うとヴォラクとレイアだって本当は早く水浴びをしたかった。
ヴォラクは汗と血で汚れたこの体と血に染まり黒色も赤黒く染まっている服を洗いたかったのだ。ずっとこのままでいたら体が、あら大変状態になってしまうのでヴォラクは血雷同様に早く水浴びをしたかったのだ。
レイアだって同様だった。恐怖のあまりで流してしまい、服を濡らしていった冷や汗もだし、少し恥ずかしいが下の方に履いている下着も僅かにながら濡れてしまっていたので、可能なら体も服も洗っておきたかったのだ。下着が濡れている事は絶対に、口が裂けてもヴォラクと血雷には言わない事にした。
その後、血雷はヴォラク達の前を先導して歩きながらもレイアが二人に川までの道を教えながら歩いていく。
ヴォラクがレイアをおぶって歩く中、ヴォラクは少しだけレイアを見る為に後ろに向かって首を横に捻った。
首を横に捻れば、レイアの美しい顔が至近距離にある。血雷に道を教えながらもその顔に不安や恐怖と言ったものはない安心した表情。その輪郭も頬にかかり腰ぐらいまで伸びていて、美し過ぎて否定出来ないぐらいの銀色の髪、もう何もかも美しく見えてくる。
後少しだけ顔を動かしてみろよ。その艶やかで綺麗な色をした唇に自分の唇を重ねて簡単に口付けを交わす事だって出来る。周りにだって血雷以外は誰もいない。ある意味これは口付けを行うチャンスかもしれない。
突然の事とは言っても今口付けしてもレイアは彼の唇を拒む事はないだろう。逆にその口付けを受け入れ、舌を入れてくるかもしれない。
しかし今レイアは血雷に道を案内している。ヴォラクは心の中で己の劣情を抑える。自分に気を許している相手であり、普通に裸を見せても殴ってきたり斬ってきたりする事はない相手だと言っても、急に口付けを交わすなんて事をするのはヴォラクには出来なかった。
冷たい夜の空気を深く、ゆっくりとしたスピードで吸い込むと肺を空にするぐらいの勢いで長い息を吐いた。己の劣情を抑えるまで、レイアが無事に道案内を終えるまでヴォラクはこの行動を数回繰り返した。
―――――冷静かつ非情になれ、それが今の自分だ。
変な欲なんぞに自分を狩られない様にする為にヴォラクは何度も落ち着こうとした。勿論レイアをおぶって、歩きながらだ。そしてレイアにも気付かれない様にしながらだ。
このおぶって歩きながらレイアに気付かれない様にしながら落ち着きを取り戻すのは簡単な事ではなかった。
そして自分の今の葛藤と落ち着きを取り戻す為に必死になっている顔についてツッコミを入れなかった血雷には非常に感謝したい。ここで血雷にツッコミを入れられてレイアに今の自分の顔の事を気付かれたら何て答えたら良いのか分からなかった。本当に姉さんには感謝したい。
なのでヴォラクは急いでその苦渋に満ちた様な表情を収めて、レイアが案内してくれる水浴び用の川に向かう事にした。レイアをおぶりながらヴォラクと血雷は彼女が言う道を進んで行った。
そして五分ぐらいレイアをおぶって歩いた後、レイアが「着いたよ」と二人に言う。ヴォラクと血雷はその言葉に強く反応し、周囲をキョロキョロと見回した。
何処だ?何処だ?と血雷は周りを見回し、ヴォラクも首を横に何度も振って周囲を確認する。前髪が目にかかろうが関係なしにヴォラクは周囲を見渡す。
ヴォラク達早く水浴びしたかったからだ。流した汗と体にこびり付いた血を急いで洗い流したかったのでヴォラクと血雷はすぐに見渡した中で見つけた川に速攻で近付いた。
「ここがレイの言ってた川か……」
「川と言うより池って感じだな」
そこにはレイアが言っていた川と言うよりも綺麗すぎる水が溜まった池の様な場所だった。まるで綺麗な浅瀬の海の様な場所だった。
月明かりの様な光が空から照らされているお陰で池の底を見る事も出来たが、池の底は茶色や黒色の土ではなく海の砂浜にある様な綺麗な砂を彷彿とさせる砂だったのだ。
仮に踏んでしまったとしてもあの砂なら足が汚れる事もないだろう。逆に汚れるのではなく、心地のいい感触が足を刺激するかもしれない。
そして綺麗な砂に合わせて、その池に流れている水は今まで見てきた水の中でも群を抜いて、美しい程に透き通っていた水だった。
森の上流から流れているその水の美しさにヴォラクは感激してしまった。一体この湧き出る綺麗な水はどの様にして生み出されたのか、ヴォラクはとても気になってしまった。
そして月明かりの様な光が池に溜まる水に当たり、その透き通る美しい水は更に美しさを増していた。透き通る水のレベルの高さ、底に敷かれた綺麗な砂、そして丁度良い程の高さまで池に溜まった水。
もう早くこの汚れと血で汚すのが勿体ないぐらいに美しいこの池に水浴びをしたくなってしまった。汚すのが勿体ないとは言ってもこれ程体が休まりそうで汚れを落とすのが簡単そうな水があると言うのに入らないと言う選択肢を取るのは無理なのでヴォラクはすぐに入る為に自分が着ている服に手をかけようとする。
その前にレイアを背中から降ろしてね。なのでヴォラクは一度姿勢を低くし、レイアが自分の背中から降りれる様にした。
レイアはヴォラクの背中に預けていた体重を解く。そしてそのままヴォラクの背中から降りた。ヴォラクの背中に感じていたそれなりの重み、そしてとても柔らかい感触が消えた。
「レイ、一回降ろすよ?てか歩ける?」
「うん、もう一人で歩けるよ………本当に三人で入るの?」
ヴォラクの背中から降りるなり、彼女はすぐにヴォラクに質問を投げかける。勿論だが答えは決まっている。ここまで来て三人一緒に入らないと言う選択肢を取るのは、流石にヴォラク的には少々辛い判断だった。
だって早く入りたいし?順番待ちになるとか嫌だからね。
「いや、ここまで来て順番待ちは流石………にぃ!?」
ヴォラクはレイアと話しながらも、少しだけ首を横に振り、レイアから視線を逸らしてしまった。理由を説明するのなら、レイアの頬を赤くして少し恥ずかしそうにしている表情を見ているとこっちも恥ずかしくなってきてしまうので、ヴォラクはレイアの顔が完全に見えなくなるまではいかないが、まだ視界にギリギリ入るぐらい程度で首を横に動かした。
しかし少し首を横に動かした事で視界の中心に入ってきて、目に飛び込んできたのはレイアの恥ずかしがる顔よりもっと大変な光景が自分の目に飛び込んできてしまった。
「ね、ね、姉さん!?何でもう脱いでんの!?」
「ん?だってよ、アタシ早く入りたいんだ。脱いで悪いかよ?」
ヴォラクが首を横に振った事で自分の視界に入ってきたもの。その光景にヴォラクは驚愕し、言葉が出なくなるぐらいにまで驚いてしまった。すぐさま視線を他の方向へとずらそうとするが何故か自分の首は横に動いてはくれなかった。まるでそれが見たいと自分が言う様に自分の黒色の双眸は見逃す事なく血雷の方向を見続けていた。
「一応言うが僕は男だよ?異性の前で裸体を晒す事に羞恥心はないのかよ!?」
ヴォラクは視線をずらせなかった。ずらそうにも自分の首が言う事を聞かず首を振る事は出来なかった。半場凝視する形でヴォラクは血雷の身体を見てしまっていたのだ。
さっきからしゅるしゅる、という感じの彼女が着ている着崩した感じの着物を脱ぐ衣擦れの音が耳に届いていた事は知っている。
きっともう脱いでいるんだな、と言う事は内心思っていた。これはその目で見る訳にはいなかった。
実際の所間違っても血雷の裸体を見ない様にする為にヴォラクは時間稼ぎ的な行動をする為にレイアを話していたのだ。しかしレイアが恥らしい様な表情を見せてしまい、何故かその表情を見てしまった自分も恥ずかしくなってきてしまい、ヴォラクはレイアと顔を合わせない様にする為に咄嗟に首を横に捻ってしまったのだ。
しかしこの行動が今の現象を引き起こしている原因だ。間違っても首を振らまいと自分で言っておきながらレイアと視線をずらす為に横に首を振った結果見ないと決めていた血雷の裸体を拝む羽目になってしまったのだ。
これは間違いなく自分が悪い。ヴォラクは心の中で少し反省した。
――――――怒ってるかな?
ヴォラクは心の中でそう一言呟いた。血雷は女性だ。いくら男勝りで姉御肌な風格を漂わせているとは言っても彼女は女の子だ。異性であるヴォラクに裸体を見られてしまったのだ。恥ずかしがってしまっているかもしれない。
「おいおい、この前だって一緒に風呂入ったじゃねえか?確かにお前はのぼせてぶっ倒れたけどよ、アタシは別に平気だぜ?弟のお前に裸ぐらい見られたって構わんさ。まぁそんな事だぜ、気にすんな。じゃアタシは先に入るぜ」
と言って血雷は自らの裸体を見られた事に怒りも悲しみの表情も見せず、逆に余裕気がありにこやかな表情を二人に見せた。そして彼女は、一番乗りだぜェ!と大きな声で叫びながら池の中に勢いよく飛び込んだ。まるで楽しげに水遊びをする幼い子供の様にして綺麗な水が溜まる池に飛び込んだのだ。
そしてヴォラクは血雷が見せた表情を見て、あの表情に偽りはないと確信する。確かにヴォラクは血雷の弟だ。
姉弟の仲には裸体なんて見られても気にしないってか?確かに考えてみればそうかもしれない。本当の姉とだって何回一緒にお風呂に入ったか分からない。そう考えれば自分一人で恥ずかしがっていた自分が情けなく見えてきそうになる。
そう分かったヴォラクは血雷同様に服を脱ぎ始める。ヴォラクだって血雷同様に水浴びするか風呂に入りたかったのだ。今回は混浴と言う形で血雷とレイアと?の三人でこのとても綺麗な水が流れる池で水浴びをさせてもらう事にする。
ヴォラクは自分が身に付けていた闇に同化する様な黒色のロングコートや黒色のベルトが付いた長ズボンを脱いで舗装されていないながらも綺麗さを保ち続けている短めの草が生えた地面に脱いだ服を綺麗に畳んで置いた。
既に血雷は池に入っているのでヴォラクも全ての服を脱いで裸体になると、血雷の様に飛び込みはしないが足から池に入った。
足に池の水が触れた瞬間、ヴォラクの足の感触が水によって刺激される。少し冷たかったが、この池の水はまるで温水程の温度で冷水の様な冷たすぎる水ではなかった。
あまり水が冷たくなかった事にヴォラクは少し安堵した表情を見せ、心の中は安堵感に包まれた。もしこの池の水が冷たかったらずっとは浸かってられず下手をすれば風邪を引いてしまうかもしれない。そう思うと水が冷たいのは嫌だった。
しかしそんな予想とは裏腹に池の水は少しだけ温もりを感じる様な温かさがあり肩まで浸かれば、自分の肩の力が抜ける様な感じの温かさだった。
ヴォラクはこの池の水の微かな温かさに浸透してゆく。それは血雷も同様だった。彼女もまた、池に飛び込むとすぐに顔を除いた全身を池の中に浸からせ、その美しい生肌に水を浸透させる。池の水に浸かると血雷は気の抜けた声を発し、目を僅かな時間の間閉じてしまった。
その中でレイアも徐々にだがヴォラクや血雷同様に着ていた服を脱ぎ始めていた。二人があんなに気持ち良さそうに水浴びをしている姿を見ていては自分だけ何もせずにその場に突っ立っているのは我慢出来なかった。自分だって流した汗を洗い流したい。
それにここの池は水浴びに最適だと自分は知っている。何故ならここの池には何回か訪れた経験がある。経験者だからこそ分かる。ここの池での水浴びは最高に気持ち良いものだと言う事はレイアは知っている。
そう思うといてもたってもいられなくなってきた。ヴォラクと言う異性の存在がいると言う事は承知の上でレイアは水浴びを行う為に着ていた服を脱ぎ始める。恥ずかしさはあるが、レイアは既にヴォラクに裸体を見られてしまっている。今更感もあったのでレイアは覚悟を決めて服を脱ぎ始めたのだ。
そして全ての服を脱ぎ、裸体になったレイアは血雷と同じ様に少し小走りになりながら池に向かうと軽くジャンプをした。
「レイア、行きま~す!」
「お、もう一人来たみたいだぜ?」
「え?マジで?」
次の瞬間、レイアが池にジャンプして飛び込んだ事により強い水しぶきが起こった。池に溜まっていた水が沢山飛び散りヴォラクや血雷の顔や体に飛び散る水がかかる。
ヴォラクは突然の事ながらも顔を手で覆い、目に水が入らない様にする。血雷も同様に手で顔を覆い目に水が入らない様にした。
お陰で2人共、目に水が入る事はなかった。
そして水しぶきが収まり、ヴォラクは顔を覆っていた右手をどけ、その双眸で前方を確認する。するとそこには普通の美しさを超越する様な程までに美しい光景が広がっていた。あまりの美しさにヴォラクは目を丸くし、夢でも見ているのか?と一瞬目を疑い、目を少しだけ擦った。しかし目の前に広がる光景は幻でも夢でもなく紛れもない現実だった。
ヴォラクは、これが現実とは…………と心の中で呟く。そしてさっきまでは水に体を沈めね浸かっていたのだがその光景に驚いたヴォラクはあまりの驚愕と感激により立ち上がってしまった。
そして、その呟いた言葉には驚愕と感激の感情が入り交じっていた。
目の前には空から照らされる月明かりの様な光によって照らされて、より一層強く輝き、更に美しさを増す綺麗な銀色の髪、その髪は余裕で腰まで届くまでの長さで髪には汚れや乱れが殆ど見られなかった。今は自分に若干背を向けているので顔を見る事は出来なかったが、その綺麗な背中からお尻までの美しい肉体がヴォラクの双眸に飛び込んでくる。
細い程度の肉付き、白く汚れやうぶ毛もない背中がそこにあり、綺麗な肩を露出させている。
そして覗かせると言うよりは余裕で見えている、美しく、形も大きさも素晴らしく、腰からやわからみを帯び、丸みを帯びていて、豊満な胸と同じぐらい触り心地が良さそうな綺麗で水に飛び込んだ事で水滴が付着したお尻。
まだ前の方が見えていないとは言っても、彼女はその後ろ姿だけで、簡単に男性の心を射止めてしまう程の美しさを放っていたのだ。
その後ろ姿だけでもずっと眺めていたいものだが、レイアは水に飛び込むと、少しの時間だけヴォラクに背を向けていたが、レイアは背を向けるのをやめて、前を向く。
前を向くとヴォラクはまるで一目惚れをしてしまったかの様に頬を赤くした。まるで初めて恋を知った無知な少年の様に恥ずかしげに頬を赤く染める。ヴォラクは知っていながらも、レイアのあまりにも美しすぎる美貌に心奪われてしまったのだ。
彼女が前を向くと、最初にヴォラクの双眸に映るのは彼女の美しい顔。言わずもがな彼女の顔は”美しい”と言う言葉を越える程の美貌を持つ顔だった。目鼻立ちは整っていて、肉体同様に光に照らされて輝く程に綺麗な肌、汚れや傷が殆ど見当たらない。目が釘付けになりそうだった。
そして彼女をじっと見つめているとすぐに彼女の双眸と目が合ってしまう。彼女は柔らかげで少しだけ恥らしさを残す表情をしている。ヴォラクに見られている事を知っていながら胸や腰の下を手で隠そうとはしない。
勿論だが身を隠す為のタオルや布もない。
そして彼女の顔ともう一つ目が釘付けになりそうな所があった。それは彼女の豊満で形の良い胸だった。水に飛び込んだ事で彼女の豊満な胸は水を弾いている。
するとレイアはヴォラクを見て口元に僅かな笑みを浮かべると、ヴォラクの方に池の中を歩きながら、水音を立ててヴォラクに近付いてくる。一歩一歩歩く度に水音が鳴り、歩いて発生した振動により水面には波紋が広がる。何故かこの光景が幻想的に見えてきてしまうのは自分だけだろうか。レイアのあまりの美しさ、空から照らされる月明かりの様な光、綺麗で透き通る様な水が流れる池の三つが組み合わさり、交わる事でヴォラクの双眸には幻想的な景色が投影され続けていた。
そして彼女が歩けば水が一筋、首筋から胸元をつたう。そしてつたった水は彼女の胸の谷間へと流れ込んだ。
彼女はまだ恥ずかしげな表情を浮かべていながらも、ヴォラクの前に辿り着く。そしてレイアはヴォラクの目の前に立った。その距離は本の僅かな距離だけだった。後少しだけ前に進めば彼女の豊満な胸が自分の胸に直に当たってしまう。今はギリギリの所で止まってはいるが、もし今どちらかが前に足を動かせば二人の肉体が密着するのは当然の事だった。
しかもまだ密着はしていないとは言っても彼女は自分の肉体の全てを曝け出している。
もしも、今前に立つのがレイアではなく血雷だったらヴォラクは作者によって鼻血を吹かされて気絶してしまっていただろう。女性に対してあまり慎重にならない事が多いヴォラクだが、あまりに過激すぎる行動を取られると鼻血を吹く可能性があった。
血雷よりは胸の大きさが劣っていてよかった、とヴォラクは少しだけ安心した。
「いや、そんな変わんないぞ?」←作者
レイア→EかF
血雷→余裕でGいっちゃってる
そして彼女がヴォラクの前に立つとレイアは再び恥らしい表情を見せるとヴォラクの耳元に顔を近付ける。突然の出来事にヴォラクは更に頬を赤くしてしまい、何を…?と小声で言ってしまう。それと同時に彼の耳は熱を発し体全体が軽く震えた。
レイアは小さめの声で何か言葉を呟く。耳と密接しているのでヴォラクの耳に彼女は余裕で届く。
「見たいのは分かるけど、あんまりマジマジと見ないでね?」
彼女口から優しめの口調でそんな言葉が飛び出した。どうヴォラクが聞いても彼女は怒っている口調では話していない。逆に怒ると言うよりは見てほしい?と言いそうな口調だった。しかし彼女はヴォラクにあまり見ないでほしいと言った。もし彼女の内心が見てほしい、だったとしてもヴォラクは、レイアの言葉に対して正当な答えを口にする事にした。
「す、すまん…見ない様にはする……」
その言葉の後、二人はそのまま黙り込んでしまい、沈黙の時間が続く。その間二人は何も話さずに互いを見つめ合う事しか出来なかった。互いに身体が火照る様に熱くなり、顔の距離が近くなる様に感じた。
しかし十程体内時計で数えると突然血雷が二人の間に割り込んできたのだ。とてもにこやかで強く笑う様な表情を見せると自分の両腕を使い二人の肩に手を回してきた。
「うぉぁ!?姉さん、急にどしたの?」
「キャ!?血雷さん?」
すると血雷はヴォラク達二人に話しかける。その言葉には今の時間を楽しめと言う様な言葉だった。せっかく楽しい時間を過ごしているのだから、取り敢えず楽しめと言う様な言葉だった。
「せっかく水浴びしにきてんのに、黙りこくったり恥ずかしがってんじゃねぇよ!今は普通に水浴び楽しもうぜ?楽しく話して愚痴り合おうぜ?ここは一発裸の付き合いといこうじゃないか?」
確かにそうかもしれない。ヴォラクは血雷の言葉に納得する様子を見せる。今は楽しむ時間だとヴォラクは思う。そんな時間の中で血雷が言うよりに黙りこくっていたり、恥ずかしがっていてしまっては楽しむものも楽しめなくなってしまう。
そう考えてみれば、ヴォラクは自分の恥ずかしさを捨てるのは難しい事ではなかった。今は血雷の言葉に乗るのが良い選択か……
「ま、そうかも……なっ!」
そう言うとヴォラクは後ろを確認する事なく、血雷によって首に手を回されていたが、そんなの関係なしにヴォラクは二人を巻き込む形で池に倒れ込んだ。ヴォラクが後ろに倒れると血雷とレイアもヴォラクと同じ様につられる形で後ろに倒れてしまった。三人はほぼ同時に綺麗な水が流れる池に全身を沈める。急に池に全身を沈めたが鼻に水が入る事はなかった。全身に水を浸した事により全身は水によって心地よい感触に包まれる。水に全身を沈めている間、心地よさのあまり全身の力は呆気なく抜け、まるで体が紙の様に軽くなる様に身体が軽く感じ肩の力は抜けていった。
血雷とレイアも全身を水に沈めていたが、十秒もすれば息が苦しくなり始めるのでヴォラク達三人はすぐに顔を水中から出した。
ぷはっ、と三人とも発すると三人は気持ち良さそうな安心した表情を見せる。
「いや~やっぱこうでなくちゃなぁ~楽しくねぇよなぁ!」
「ヴォラク、結構派手にキメたね。でも、取り敢えず何か良かったからヨシ!」
一応怒ってはないみたい。しかも何か逆に二人共嬉しそうな表情を見せている。ヴォラクはその状況を見て、クスッと口元に笑いを浮かべる。ヴォラクは口元に笑いを浮かべると血雷も面白がる様にして笑い出し、レイアも二人につられる形で笑い出した。何が面白いのかはヴォラク達三人は分からなかったが、何が面白いのか分からずに笑ってしまう事もあるだろう。
三人は月明かりの様な光がまだ空から照らされる中で池の仲に、生まれたての赤子と同じ様に裸の状態で身体を腰辺りまで沈め誰もいない事を見越してか、さっきまでの血に濡れて、人を殺めた事を完全に忘れたかの様に楽しそうに戯れていた。
―――今は楽しもう、そうヴォラクは心の中で呟き三人と池で身体に付いた汚れと血と汗を流し、暫しの時間だけ三人で特別な話でも機密事項の様な話でもない、軽げで楽しげな雑談を楽しんでいた。




