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6話「伝授」

 


 すぐに2人は手早く着替えを済ませて、部屋を後にした。あまり長居はしたくない。


 受付に鍵を渡して扉を開ける。


 今日も太陽が2人を照りつける。暑い程ではないがら眩しい光が2人の目を刺す。




 外に出て、ヴォラクはサテラに銃を教えようと思った。今のままではサテラが戦えない。この先生き残り、戦い続けるには、サテラに銃を使いこなさせる必要がある。ヴォラクはサテラに話しかけた。




「サテラ、よく聞いてくれ。今からサテラにある武器を扱える様になってもらう」


「なんと言う武器ですか?」


「それは『銃』だ。聞いた事も無いと思うが、これを使いこなせれば、魔法や普通の武器よりも、圧倒的な力を得る事が出来る。だから、扱える様になってくれ」


「分かりました。その銃?と言う武器を使いこなしてみせます」


 サテラは銃を使いこなしてみせると言ったが、銃を扱うのも、教えるのも簡単な事では無い。

 


 何故なら、銃は使い方を間違えれば、待っているのは『死』だ。暴発や銃口を覗いたままで引き金を引いたら、手遅れになる。それに使う弾は本来銃に使われる銅製の弾では無く、鉄製の弾なので威力もかなり上昇している。なので銃を扱うのは一筋縄ではいかない。細かい所までサテラは覚える事が出来るのか、ヴォラクは心配になっていた。





「それじゃ、教える場所に向かうよ。ここじゃ人目に付くし、パニックを起こす可能性もあるから」


「了解しました。主様」



 取り敢えずヴォラクは森にサテラを連れて行った。あの場所なら銃で狩れる魔物もいる。それに人もあまり来ない。環境としては最高の場所だった。

 ヴォラクはサテラの手を引き、森に向かって走り出した。






 森に着いた2人。まずヴォラクは銃を使う上で気を付ける事を自分の銃でサテラに説明する。


「サテラ。銃を使う上で注意する事がある。まず銃の弾が発射される『銃口』を絶対に自分に向けない事。弾が発射されたら死ぬぞ。次に訓練の時は許可無く発砲しない事。まぁマスターしたら1人で撃っていいけど、最後に…これはマスターした後に注意してもらうよ。無差別に人を撃つな。この武器は人を簡単に殺せる武器だ。無差別に撃ったら、大勢の人が死んでしまう。使うのは魔物や自分に害を与える人間だけだ。分かったか?」


「はい、銃口?は自分に向けない事。今は許可無く発砲しない事。無差別に人を撃たない事。覚えました」



 最初にヴォラクは背負っていたリュックから銃を取り出し地面の上にいくつか並べた。


「この中から好きな銃を選んでくれ」


 昨日こっそりベットから抜け出して、一晩中徹夜でサテラの為に銃を制作していた。作ったとは言っても自分が作ったリボルバーやマスケット銃等しか作ってないが……不眠不休で目と体が悲鳴を上げているが、リアルで朝から晩までシューティングゲームをしてた時の辛さに比べればまだ我慢出来る程の辛さだ。


 サテラは少し考えて、考えた末に一つの銃を手に取った。


「じゃあこれにします」


「これにするのか?」


 サテラが選んだ銃は『AK-47』だった。この銃はサテラでも使えると思った。何故ならこの銃を使う時に使う弾丸は火薬量を半減して反動を軽減している7.62×39mm弾を使用しているので力が弱いサテラには丁度良いかもしれない。この銃はAKはロングストロークガスピストン方式を用い、銃身上にガスピストンを位置させた設計を継承して長いバナナ型弾倉とピストルグリップを持つ共通した設計で構成されている。他にも慣性力とあいまって泥汚れなどにも耐える確実な作動性を実現している。本当は銃身と薬室の内部、ガスピストン、ガスシリンダー内部にはクロムでメッキにしたかったが、素材が見つからなかったので諦めた。

 しかし彼女はこの銃を使うと決めてしまった様だった。今更変えてなんて言えないので、サテラにこの銃を使わせる事にした。



「それじゃ、早速やってみるよ」


 ヴォラクはサテラに後ろに立ち、サテラが持つ銃に触れる。


「誘っているんですか?」


「違います」


 誘っているかと勘違いされてしまった。



「それじゃまずは構え方だね。利き手が右のサテラは、右手を引き金にかけてくれ。左手は前にあるへこんだ所に添えてくれ」


「分かりました」


 言われるまま指定された場所に手を運ぶサテラ。ヴォラクが納得する場所に手を置いたサテラ。ヴォラクは次の指示を出す。


「次は足に力を入れて。しっかりと踏ん張らないと小さな反動でも倒れる可能性があるからね。次に手にも力を入れて。離したら大変な事になってしまうから」


 言われるがままサテラは両足に力を入れ、手でしっかりと銃を構える。


「それじゃ…撃つよ」


「はい」


 周りが静かになり、鳥の声すら聴こえなくなった時、サテラとヴォラクは引き金を引いた。


 凄まじい音が響き渡る。周りの木に止まっていた鳥達は一斉に空に飛び立ち、耳を裂く様な音がサテラを襲う。





 しかし大きな音は消えて、周りに薬莢が散らばっていた。弾は尽きて、前に立っていた木は倒れてしまっていた。


「どう?これが銃だよ。前の木がボロボロだな」


「これが…銃。強いですね、確かに使いこなせればとっても強いと思います。主様!これを私は1人で扱えますか?」


「出来るさ。サテラなら出来る。僕はそう信じているから」


 その言葉にサテラは笑顔を浮かべて、再び銃を構える。


「絶対に使いこなしてみせます!もう一回…あれ?」


「弾切れだよ。弾が無いと銃はただの鉄クズだ。銃の弾が切れたら、この銃のマガジンと交換してくれ、この銃のマガジンは十個作ってあるから、先に弾を装填したまま持ち運んでおけば大丈夫だよ。もしもマガジンの中身が全部消えたら、僕のリュックの中にある弾薬庫から取りに来て、弾薬庫の中に弾があるから。それじゃ、マガジンの装填もやってみようか」


「ええっと?装填?はどうやってやれば…」


 サテラはマガジンの装填に戸惑ってしまった。



 この銃の弾倉の装着はM16や多くのサブマシンガン、ハンドガンにみられるような挿入口にまっすぐ差し込む形式ではなく弾倉の前方上部にある溝ないし突起を銃本体下面の開口部の前方に引っ掛け、そこを支点に弾倉を手前に向かって回転させるように引き込むと、弾倉後方上部にある突起が銃本体側の固定レバーを押しのけて溝にはまり固定される。しっかりと固定されれば金属音が鳴るので、サテラでも理解出来ると思う。まぁ差し込み式に比べると弾倉の装着にコツがいる銃だが差し込み不十分による発射不良のトラブルが少ないのが嬉しい所だ。他にも挿入口にゴミなどが溜まるトラブルも少ない。弾倉を取り外す際には、固定レバーを押しながら弾倉を銃口に向かって回転させるように押し出す。ちゃんと言えば理解するだろう。



(サテラ凄いな。僕は覚えるのに三回かかったのに…)



「装填方法も覚えれば簡単です。この調子で頑張ってこの銃をマスターします」


「ああ…頑張ってくれ」





 その後も何度も銃を撃つ事を繰り返した。何度も特訓する内に、サテラの射撃能力は上昇していった。


 そんな中でサテラはヴォラクに一つの頼みをしてきた。


「主様。勝手な事で申し訳ないんですが、1人でこの銃を使わせてくれないでしょうか?」


 その言葉にヴォラクは黙り込む。まだ練習して数時間しか経っていないのに、その願いにYESと言うかNOと言うか迷ってしまう。

 しかしここで彼女がこの銃をマスターすれば、かなりの戦力強化が見込める。もしも弾が自分に当たったら、ベルタがくれた瞬治癒石を使えばいい話だ。ヴォラクはサテラに向かって許可を出した。


「いいよ。一度1人で使ってみろ。きっとサテラなら出来るはずだ」


「ありがとうございます主様!早速やってみます」


 すると、近くにゴブリンが三匹程見えた。サテラはゴブリンに銃を向け、引き金に手をかける。



 次の瞬間。サテラは銃を1人で発射した。ヴォラクが言った事を完全に理解していて、足に力を入れて踏ん張っている。構え方は百点だった。ゴブリンの方を見れば、ゴブリンは血を流して完全に動かなくなっていた。


 荒い息を吐きながらも、サテラは銃を1人で撃ち切っていた。


(これは…サテラは銃の才能があるな)


「主様!どうでしたか?」


「最高だ!構え方も狙う所もバッチリだ!」


 そう言ってサテラの頭を撫でるヴォラク。それを嬉しそうにサテラは笑みを浮かべる。


「銃を使いこなせたご褒美に何か一つ、僕が言う事を聞いてあげるよ」


 冗談で言ったつもりだったが、サテラは少し恥ずかしげな顔をしながらも、一つの願いを言った。



「じゃあお言葉に甘えて…主様。その仮面も下を見せてくれませんか?」


「え?」


 その一言に体が強ばる。


 この仮面は絶対に外せない。この下の自分は罪を犯した人間でもあり、死んだ人間でもあるのだ。その素顔をサテラに見せるのは、正しい事なのかと思った。


「ダメですか…?」


「……分かった。この仮面の下は誰にも見せたくなかったんだけど、見せるよ」



 そう告げてヴォラクは仮面を外した。外したのはいつぶりだろう…仮面を外した時に見える世界は全く違った。前に立つサテラの顔が更に色鮮やかに見える。サテラを見ていると、サテラは涙目になりながら笑った。


「それが主様のお顔なのですね!とても美形な顔をしていますね。まるで一国の王子様の様ですよ!」



 そんな事を言われたのは初めてだった。顔の事でカッコイイとかカッコ悪いなんて言われた事が無かったが、サテラの様な美しい女性にそんな事を言ってもらえてヴォラクは少し嬉しかった。



「この顔はとても信頼した人にしか見せられないんだ。この顔を見られたら…僕の冒険は終わりだ」


「何か辛い事が沢山あったんですね。私も同じ様な道を辿って来ました。でも主様の顔は見れなくするのが惜しいぐらい美しい顔でしたよ。私は主様の性格や顔、戦い方が大好きですよ」


 大好き…その言葉を言われたのは初めてだった。親以外にこんな事を言ってくれる人なんて誰もいなかった。それを言ってくれる人がいてくれて…ヴォラクは今、最高に幸せな気分になれた。ヴォラクは再び仮面を付けて、サテラの手を握る。



「ありがとう」


 と…一言だけ言った。



「どういたしまして…」




 その後2人は何も言わずに森を去っていった…

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