73話「再戦」
既に奴らと戦う準備は出来ている。今から出撃しても、まだレイアの救出は間に合うと感じていた。今現在の時間はまだ真夜中であり、周囲はまだ暗闇に包まれている。ヴォラクが着ている黒色のロングコートと黒色の長ズボンは暗闇の世界と完全に合致したかの様になり、景色に溶け込んでその姿を捉える事は非常に難しくなってしまっていたのだ。この暗闇に同化する様な姿なら敵兵に見つかるリスクも少しは減ると感じた。それに大人数でズカズカと敵陣地に突っ込むよりも単独で突撃して攻撃して救出した方が良いとヴォラクは考えていた。そして、もしこの単独攻撃で自分が死亡すると言う考えはヴォラクの脳内から完全に抜けてしまっていた。まず自分1人だけ死亡するなんて事最初から考えておらず、最悪相打ちを覚悟しているぐらいだった。まず当たり前に死が蔓延する様な戦場には足を向けたくないので、ヴォラクは死なんて考えずに単独での戦いに挑もうとしていたのだ。(それに万が一死にそうになっても特異能力←瀕死状態、仮死状態になった時に発動出来る能力があるので最終的には特異能力で一面を全て破壊するのも可能)
そして正直な話、血雷との一件で眠れそうにはなっていたのだが、やはりレイアの事が心配になってしまい、眠る事は出来なかったのだった。最初は血雷の胸の中に包まれながらも寝付けそうにはなったが、やはりレイアの事が心配になり眠る事は出来なかったのだった。チャンスは今しかない、敵陣地本部に攻撃を仕掛けるタイミングは今しかないとヴォラクは感じた。ならするべき行動択は一つしか存在しない。
ヴォラクが選んだ行動択は、背中には大型装備バスターブラスターを背負い、腰には近接武器であるビームサーベルを携え、二つのホルスターの中にはツェアシュテールングとリベリオンを装備し、攻撃を仕掛ける準備をするだけだった。
攻撃を仕掛ける準備が整えば後は単独で突入を行うだけだった。奴とレイアが捕らえられている場所は分かっている。レイアの国と反対方向約1kmにあるとレイアが言っていたのでそう遠い距離ではない。それなりの時間を掛けて歩けば到着する距離なので移動関連で悩む様な事はなかった。
後の問題は突入した後はどの様にして内部から全てを破壊し、レイアを救出するのかだ。流石にまた何も考えずに脳無しの状態で突撃するのはもうしない。
前の戦いだって、戦闘が始まる直前まで何も戦略などを考えていなかった結果、相手の策略にはまる様な形で敗北してしまい、レイアを連れて行かれてしまったのでヴォラクはもうこんな敗北は二度味わいたくないので今回はどの様にして攻めるかを考えて戦う必要性があった。
なのでヴォラクは何の戦略もなしに突っ込む考えは捨てて、しっかりと自分で突入を考える事にした。しかしそう簡単に一からの戦略は全くと言っていいぐらい思い付かなかった。
まず敵の本拠地がどの様な構造になっていて、どのくらいの戦力が存在しているのかなどが一切分からないからだ。恐らく戦力については敵の本拠地と言う事もありその戦力数は非常に多いと予想される。一応ヴォラク達との戦いの後なのである程度戦力は削られているかもしれないが、戦力が削られていたとしてもその数は非常に多いと予想される。つまり単独での敵本拠地への攻撃は普通に考えれば無謀と捉えてしまうのが普通だろう。
だがヴォラクは前の戦いで敵兵について、ある事に気が付いていた。それは敵兵は一部は除いて、殆どが寄せ集め程度の力しか持っていないと言う事が分かったのだ。ビームサーベルで斬り合った時やツェアシュテールングとリベリオンを撃ちまくっている時に気が付いたのだが、一部の兵士を除く殆どはまるで本当の剣を使って斬りあった事が一度もないぐらいで死が存在する戦場にすら出た事がなさそうな強さしか持たない兵士が山の様にいたのだった。しかしこれはあくまでこれはヴォラクから見た上での話なので、絶対に敵兵達が素人同然と言う訳ではない。(他人からの見方では変わってくるかもしれない)
つまりヴォラクの考え方だと、敵本拠に存在している敵兵の殆どは訓練された兵士とはとても呼べない強さしか持たない様な所謂ザコしかいない場所と言っても過言ではないのだ。もし本当に敵本拠がその様な所だったとしたら、そんな場所を陥落させるのはそう難しくないとヴォラクは考えたのだ。
もし単独特攻が難しいのならヴ○ーチ○の如く長距離からバスターブラスター(最大出力)を連続(連射は普通に出来ない←銃身が焼けて本体が死ぬ)して撃つのも一つの案だ。
この作戦を実行するなら敵本拠が強固な魔力壁やどんな攻撃でも絶対に壊れない様な素材で作られた防壁かA○フィー○ドでも張られていない限り簡単に破壊出来る。かなり良い作戦かもしれない、しかしこの作戦では遠距離からの攻撃の為レイアの位置を把握出来なかったり、敵の大将を発見するのが非常に困難になってしまったり、運が悪ければレイアだけ連れられたまま敵の大将が姿を晦まして行方不明になってしまうと言う可能性だってあるのだ。恐らく遠距離からの連続連射射撃では攻撃に気付かれる事は免れない。そうすれば真っ先に敵の大将は避難を行うだろう。大将が避難するならレイアも大将に連れられて同じ様に姿を晦ましてしまい、そのまま行方不明になってしまうだろう。こうなってしまっては元も子もないのでこの様な事態は絶対に避けなければいけない。
しかしこの遠距離からのバスターブラスターを連続して撃つ攻撃作戦はこの様な事態を招きかねない。なのでこの作戦は却下で。バスターブラスターやバスターランチャーを使って全てを破壊するのはレイアを救出した後に行う事にしよう。
しかし、ヴォラクはこれ以外の作戦は「闇に紛れて静かに突入を行う」と言った事しか考えていなかったのだ。気配を完全に消して、闇に紛れて全ての敵の息の根を止める。そんな程度の作戦を考えるのがヴォラクの頭では限界だった。
おいおい、ちょっと待てヴォラク!この戦い方、悠介と同じじゃねぇか!気配消して、闇に紛れて敵を殺すなんて完全に暗殺者がする事じゃねぇか!
注※ヴォラクは職業なしです。周りからはニートとか呼ばれています。追記→知ってるかもしれないけど悠介の職業は「暗殺者」です。
これじゃヴォラク、悠介の戦い方パクってるだけじゃねぇぇかァァァ!!もうやめだ!もうやめ!またビームサーベル片手に敵本拠地に向かって突撃するしかないのか?でも一回これやって失敗してるんだよ……悪いけど同じ失敗は何度も繰り返したくはないんだよ。
敗北だって二度は味わいたくはない。次は必ず勝ってみせる。勝って、彼女を取り戻してみせる。
なので今回は必ず勝利し、レイアを取り返し、奴を殺して……いや殺すだけじゃ面白くない。徹底的に痛め付けて、尊厳を崩壊させて、自らが死を懇願しようとも死を与える事なく、拷問を続け殺す。
それだけだ………じゃあ、後は単独で突入するだけだ。死なないと自分で言っていたが、死ぬ可能性が一切無いという事はない。
一人で大軍相手に特攻なんて自ら死にに行っている様なものだ。しかしこの行動で自分が死ぬ気なんて一切なかった。まず敵の枚数が多いとは言ってもヴォラクから見て、敵一人一人の力は全くと言っていいぐらい弱い力しか持っていない。流石に物量で押し切られる様な事はないだろう。
押し切られる前に全て撃破すれば良い話なので、弱い敵兵大勢に物量で押し切られる様な事はないと思っていた。
さて、そろそろ出撃するとするか……今はまだ真夜中なので朝方までには作戦を完了させたいものだ。長時間戦闘を続ければ体の疲弊が大きく溜まり、戦闘を続ける為の集中力も失われてしまうのでなるべく早くレイアを救出する必要性があった。
作戦
・レイアの救出
・敵本拠地の破壊
・敵大将の捕縛
以上の三つだ。この三つを全て時間内(別に決められている訳ではない)に成功させる必要があるので、時間管理が非常に大切になってくる。だが失敗する事は出来ない。チャンスは一度しかないので失敗する事なく一度きりのチャンスを掴み、レイアを助け、敵大将を含めた全てを破壊する。
それではもう何かを考えるのはやめて、出撃するとしよう。もう後ろは振り返らない。自らの意思で、単独で向かう事にしよう。
今自分の顔がどんな事になっているかは知っている。きっと今までにないぐらいの恐ろしい表情と悪魔の様な目をしているだろう。奴に対する復讐心と激しく心の中で燃える怒りにより生み出されたこの顔を自分の目で見る事は出来ないが、見る必要なんてなかったとヴォラクはこの時思った。
って、僕いつまで長話してんだ?これこそ一番時間無駄にしてんじゃないのか?さっさと行こ………この僕の心境シーン必要だったか?
「行くか…」
ヴォラクは携帯した武器を持ったままテントから離れていき、暗闇の中を突き進んでいこうとした。勿論だがサテラ達にこの事は伝えてなどいない。サテラ達が朝起きればそこにはヴォラクとレイアがいる。
その後今夜起こった事の事情を説明すればいい。多分サテラにこの事を伝えて、手伝ってとでも言えば彼女は快く承諾し、ヴォラクに着いていくだろう。しかし今回の作戦は戦力差が比にならないぐらいにまで開いており、生存確率もとても低くなっている。正直自ら自分の墓の穴を掘る様なものなので自分にとって大切な存在であるサテラをこの戦いに巻き込みたくはないのだ。もしも今回の戦いでサテラが死んで自分が生き残ってしまったら…………あ、嫌だ、想像するだけで心が苦しくなりそうなのでこれ以上考えるのはもうやめよう。
考えるべきなのは自分がレイアとした約束を必ず守る事、レイアを助け出す事に尽力すると言う事だけだ。
ならば、後はそれを実行するだけだ。ヴォラクは満を持して歩き出し、敵大将とレイアが囚われている敵本拠地に行こうとした時だった。
「……おい、どこ行くんだ?こんな夜中に?」
誰かに呼び止められた。しかし自分を呼び止めた相手の姿が見えなくとも、その声だけで誰が自分を呼び止めたのかぐらい普通に分かった。まさかこの戦いに同行する人が存在していたとは。
いや、多分自分が言わなくとも、着いてくるとは思っていたけどね。
「姉さん……見て分かるだろ?殴り込みに行くだけだ」
「夜遊びはいけませんっておふくろに教わらなかったか?………ま、別に構わないけどよ。レイアのやつを助けに行くんだろ?」
「姉さん、本当に着いてくる気なの?今度は本当に死ぬかもしれないんだよ?だから僕はサテラ達を敢えて呼ばなかった。それでも着いてくるのか?」
「当たり前よ、弟がたった一人で死地に出向くってんなら、それに着いていくのが姉としての役目よ。それにな……」
血雷がいつでも戦闘が行える様に、戦闘用の改造型和服と壊れてしまったはずの手を保護する為の軽そうな篭手、そして二本の刀を腰に納刀した状態で携えていた。相も変わらず美しく口元だけ微笑む様な表情でヴォラクを見つめている。
どうやら、彼女は自分に着いてくると言うのだ。確かに今回の戦いは戦力差が非常に開いてしまっている。戦闘に参加する人数が増えてくれるのは非常に嬉しい事なのだが、今回の戦いは先述した通り数の差が恐ろしいのでいくら素人同然の兵士ばかりの集まりとは言っても、流石に二人だけで大軍を相手にすると生存率は大きく下がってしまう。
ヴォラクは血雷の様な女性を死なせたくはなかった。死ぬのなら自分だけで死にたいものだ。所詮、人を殺して手が血によって汚れきった自分が死んだ所で一部の人間以外悲しむ事はないだろう。それにもう僕は死んだ様な人間だ。
この際本当に死ぬのは自分だけで十分だ。ここは素直に断った方が良い。行くのは自分だけで大丈夫、ここで待っていてくれと…
「姉さん、今回は約束を守れなかった僕に責任があるんだ。悪いけど、今回は僕が一人で……」
「…ヴォラク…………何言ってんだよ!?確かにお前が約束を守れなかった事はあるけどよ……お前の目、一人で戦いに行く事を怖がってる様に見えるぞ?本当は、一人で行くのは怖いんだろ?」
気付かれた、本当は一人で大軍相手に武器持って特攻を行うなんて怖いと言う事に、あっさりと気付かれてしまった。本当はあんな大軍相手にたった一人だけで突撃するなんて正気の沙汰ではない。もしも死んでしまったら?もし死んでしまった後、サテラ達はどうなってしまうのか?帰れないままで終わってしまうのか?そう考えていると一瞬で心の中は恐怖によって支配されてしまう。
それが原因でヴォラクの心の中は恐怖によって支配されてしまっていたのだ。表ではその恐怖の感情を全て消し去り冷静沈着な自分を保ち続けていたが、血雷にはそんな恐怖心を表してしまっている本心を見抜かれていたのだ。
姉だから、弟の事は何でも分かるってか?それは少しだけ面白く思えてくる。
すると血雷は添い寝した時と同じ様に自分の両手でヴォラクを抱き寄せると自分の豊満な胸に向かってヴォラクの顔を埋めさせる様にして抱き寄せてくれたのだ。もうこんな事何回かされているので慣れていてもおかしいはずなのだが、ヴォラクは何故かこの血雷が行う行動に慣れる事は出来なかったのだ。自分の本当の姉にだってこんな事はされた事があるが血雷にこれをやられると心臓の鼓動が早くなり、照れてしまって仕方なかった。
彼女の豊満な胸に顔を埋めると柔らかい感触と温かい熱が自分の顔に伝わってくる。とても落ち着く程度の熱と顔から感じる柔らかい感触がヴォラクの恐怖心を緩和させる。心臓の鼓動が早くなる事や照れている事に変わりはないがそれでも彼の恐怖心は緩和されていく。
「姉さんの胸元……暖かいね………良いの?死ぬかもしれないよ?」
「誰が死ぬかよ!ヴォラクと一緒なら、アタシは絶対に死なねぇ、約束するぜ!」
その言葉にヴォラクの心が動く。ヴォラクは本当は一人で戦うのが怖かった。だが、血雷の言葉がその恐怖心を消し、戦いに対する怖さも消えた。やっぱり自分の姉さんには敵わなかったよ。ここは着いて来てもらう事にしよう。ヴォラクは一度彼女の胸元から離れると彼女の目を見て言った。
「じゃあ……着いて来て…」
「勿論よ!」
「あ、でもサテラとシズ八はどうしよう?ここで二人置き去りっても可哀想だし…」
「二人の面倒は私に任せてください。ここで起きて待ってますので」
その声はメイド服を着ていて何故かポーカーフェイスな少女であるアナの声じゃないか。サテラ達の面倒見てくれるのなら有難いが、任せてしまっても良いのだろうか?
「良いの?君は着いてこないのか?」
「レイア様の救出は二人に任せます。必ずレイア様を連れて帰って来てくださいね」
その時アナはヴォラクに信頼を寄せる様な表情を見せ、ヴォラクと血雷を送り出そうとした。もう今はここに留まる必要性はないだろう。
いい加減に出発するとしよう。救出は朝までには終わらせる。迅速に救出し、全てを破壊する。ヴォラクは心の中でそう決めていたのだった。
「分かった……じゃ、行くよ!姉さん!」
「任せときな!背中は守ってやるからよ!」
アナに見送られながら、ヴォラクと血雷の二人は暗闇の中を駆けていった。ヴォラクは急ぎ足でかなりのスピードで走りながら敵本拠地へと迫っていく。
一応二人共ずっと走っていられる訳もないので、多少休みながら、歩きながら敵本拠地へと近付いていく。この時は疲弊感があまりなかった。レイアを救出すると言う気持ちが非常に強く、色濃く現れていた為なのか疲労感が現れる事は全くなかった。敵本拠地が近付くにつれて、ヴォラクの目と表情はより一層狂気が帯びていく。敵に対する憎悪と怒りによりこの様な表情を作り出していたのだ。
しかし血雷は彼の表情について何か咎める様な事はしなかった。相手が憎い事でそんな表情になってしまうのは普通に有りうる事だ。自分だってヴォラクの様な表情をしていた時があった。自分と同じ様な感じだ、何か咎める必要性なんて存在しないだろう。
そして数十分の時間を掛けて、走り、歩いた道の先には……
「着いたぜ……姉さん…」
「で、高い高い壁があるが、どうやって侵入する?コソコソと行くか?それとも派手にぶちかましていくか?」
「派手にぶちかましたら、こっちが不利になるっうの……何処か裏口みたいな所があるはずだ。そこから上手い事入って、内部から破壊していこう。OK?」
「OKだ!ならさっさと行くか!」
目の前にはレイアの城と同じ様に敵本拠地の城が建っていたのだ。城の作りとしては、レイアの城とあまり形状に違いはなく、もしかしたら城の形同じじゃない?と言っても良いぐらいレイアの城に作りが似ていた。何?パクったのかな?ま、どっちでも良いけど。
だって最終的にここはただの更地になってしまうのだから。城の作りとか見てたってしょうがないよね?
「姉さん…最後に言っておく」
「何だ?」
「死ぬなよ!」
「誰がこんな所でくたばって死ぬかよ!」
ヴォラクはツェアシュテールングとリベリオンをホルスターから取り出すと両手で二丁の銃を握り締め、走り出した。その背中を追う様にして血雷も愛刀を一つ抜刀するとヴォラクの後に続いて走り出したのだった………