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72話「誰にだって辛い事はある」

データが消えた都合上で、更新が遅れました

 

 ヴォラクの胃袋は満たされた気がした。貪欲に獲物を食らう獣の様にして飯を口の中に放り込んでいったので、詰め込みまくった食事はヴォラクの腹を満たし、腹が少し膨れるまでヴォラクの腹を満たしてくれたのだった。

 腹が空いた事により空腹感に苛まれていたヴォラクだったが温かい食事を口にした事により、空腹感はなくなり体はいつも通りの自分に戻ってくれた。

 体に負荷が掛かる事もなく、いつも通りの自分へと戻っていたのだ。さっきの様に目の前が真っ暗になってしまったり、突然として意識が途切れてしまう様な事はもう起こらなかった。


 十分に腹を満たしたヴォラクは何故敵に敗北し、戦場のど真ん中で気を失って倒れてしまっていた自分がテントの中で目を覚まし今に至ったのかをアナに聞く事にした。

 今は危機的状況ではないのだが、一応彼女にあの後どうなったのかを尋ねる事にした。


「えっと……アナさんだっけ?あの後どうなったの?」


「戦いの後ですか?分かりました、お教えします…」


 その後、ヴォラクは自分が気を失ってしまった間何が起こっていたのかをアナから聞く事が出来た。ヴォラク本人は気を失っていたので何も記憶が存在しないがアナはヴォラクが気を失っていた間に起こった出来事を一つ一つ丁寧に説明してくれた。


「その前にまず……貴方は隣国の王子に負けて、レイア様を素直に渡してしまった。これに間違いはありませんか?」


「……間違いない。確かに僕達は負けました」


「そうでしたか……それでは本題に移りましょう」


「お願いします」


 その後の話でヴォラクは自分が気を失っている間に何があったか、全てを理解した。

 アナの話ではどうやら気を失ってしまったヴォラクと血雷は気を失い、カインがレイアを連れて行ってしまったなり、すぐにサテラやシズ八に介抱されたのだ。

 しかし戦場のど真ん中で気を失ってしまった2人を介抱しようとしたのだが戦場の真ん中では治療や安全な場所への移動などもままならなかった。

 それも2人を介抱した人の人数が多ければすぐに移動が出来たかもしれないが、2人を介抱しようとしたのは大人数と言う訳ではなくサテラとシズ八の2人だけだったのだ。周囲にいる人なんて全て屍と同じの存在だけ。周りは血塗れた地面と死体の山だけしかなかったので、誰もサテラとシズ八を助けようとはしなかったのだ。

 ヴォラクと比べると非力なサテラとシズ八では自分よりも背が高く、多分体重も高いヴォラクや血雷を背中に背負うなどして、安全な場所に運ぶと言った事は出来なかったのだ。いや、無理って口先だけで言ってるだけでもしかしたら出来るかも?と思ったかもしれない。だが、ヴォラク達が気を失った時にサテラは何とか平常心を保っていた。今まで生きてきた中の経験で同じ様な経験をした事がある。仲間が目の前で死んだ姿を見たり、死体の山をその目に焼き付けたりと今の時よりも辛い事を経験をした事だってあった。そんな経験があるのなら、現在の様に目の前で自分の主が気を失っていても、死体の山に囲まれていようともサテラは何とか平常心を保ち続けていた。

 しかし、シズ八はサテラの様にはいかなかった。シズ八はサテラとは違い、辛くて想像も絶する様な体験をした訳でもない。同じ人間の死体の山だって見た事だってなかった。

 元々シズ八は普通の冒険者だ。戦った事がある相手なんて精々魔物や魔獣ぐらいだろう。ヴォラクの様に躊躇いもなく、人を殺す事が出来る様な人物ではないのだ。それなら、何故人も殺す覚悟がないと言うのに、この戦場に武器を持って立っていたんだ?と言う疑問が浮かび上がるが、シズ八は自分にある事を言い聞かせて、何とか1人の戦士として戦場に立っていたのだ。

 ある言い聞かせとは今回の戦争でシズ八は相手を殺すのではなく、無力化すると自分に言い聞かせていたのだ。こう言い聞かせていれば、もしも相手を殺してしまっても「殺したのではなく、無力化した」と言う事を自分に言い聞かせ続けて殺したと言う事実から目を背けると言う事が可能になるのだ。シズ八はそう自分に言い聞かせる事で敵を殺したと言う事実から逃げ続けていたのだった。

 ↑何故か話の路線がズレた…


 その後サテラとシズ八に焦りが募り始めていた。周りにはサテラとシズ八しか存在していなかったので2人だけで気を失ってしまったヴォラクと血雷をどうにかする必要があった。だがこの死体が転がる戦場と言う舞台の上で、サテラもシズ八は徐々に平常心を保てなくなっていたのだ。サテラは何とか平常心を保ち続けようと四苦八苦するが今、気を抜いたら平常心なんてすぐになくなってしまっているだろう。

 シズ八に至っては自分が尊敬、愛している人物が目の前で気を失って倒れていた姿を見て、大きな恐怖と絶望を感じてしまった事により手が震え、傷を治療する為の回復魔法を唱える事も真面に行う事が出来なかったのだ。

 もしもヴォラクが死んでしまったら?このまま永遠に目を覚まさなかったら?と想像するとシズ八の絶望感は更に増加してしまい、余計に手の震えが止まらなくなっていたのだ。サテラからは回復魔法を使ってと言われていたが、恐怖と絶望により手が震えて恐怖と絶望に支配された彼女に回復魔法を唱えると言った行動も行う事が出来なかったのだった。サテラは数回シズ八にヴォラクと血雷に回復魔法をかける様に半場叫ぶ様にして呼び掛けたが、腰が抜けて地面に崩れ落ちる様にして座り込んでしまっていたシズ八を見てサテラはシズ八に何も言う事が出来なかった。

 この状態のシズ八に無理を言って何かさせるのは正直気が引けてしまったのでサテラは何も言う事が出来なくなってしまったのだった。

 そしてサテラも平常心が失われつつあった。遂にサテラにとっては頼みの綱だったシズ八ですらもう動けなくなってしまったからだ。現状を1人で変えられる程今の状況は簡単な事ではない。このまま1人だけでは何も出来ない。

 この状況でサテラが出来る事なんて2人が起きるまでその場で待つか、シズ八に安心の言葉をかける事ぐらいしか出来なかった。サテラは回復魔法などは使えない。出来るのは簡単な治療器具を用いた怪我人の治療が行える程度でありシズ八の様に回復魔法などで傷を癒す様な事は出来ないのだ。

 どうするべきか?本当に洒落にならない状況になってきた。このままでは本当に戦場のど真ん中に1人取り残された同然の状態になってしまう。このまま1人になってしまうのか?また私だけ生き残ってしまうのか?想像すればする程不安な気持ちは増していく。

 サテラはもう本当にダメかと思った。このまま暫くの間、1人風が直接当たるこの冷たい地面に座り込みながら自分の主をただ呆然として見つめる事しか出来ないのか?


 しかし天の神が地の人間を助ける様にしてサテラの前に誰かが現れたのだった。


「で、そこに現れたのが…」


「私と言う事です」


 その時サテラの前に現れたのが彼女「アナ」だったのだ。颯爽とサテラの前に登場した彼女はすぐに素早い足取りで気を失ってしまったヴォラクと血雷の元に駆け寄った。


「もしかして、運んでくれたの?重くなかった?」


「いいえ、簡易式の担架を使って運んだので直接運ぶよりは重くありませんでしたよ」


(フォローになっているのか?)


 アナは簡易式の担架を広げるとすぐその上にヴォラクを乗せ、担架の端の持ち手を掴んだ。

 アナはサテラにもう片方持ってもらえるか?と懇願する。サテラはすぐにアナの指示を承諾し、すぐに気を失ったヴォラクが乗った担架のもう片方の持ち手を掴み、持ち上げた。


「あの、何処に運ぶんですか?」


「近くに身をひそめられる森があります。そう遠くはありません。すぐに運んで治療を行います」


「わ、分かりました!シズ八、血雷姉さんの見守りをよろしくね!」


 サテラの投げかけた言葉にシズ八は何も言わなかった。だが、何も言わなかったが彼女は静かに首を縦に振ってくれた。サテラの目には首を縦に振るシズ八の姿が映っていた。

 シズ八はサテラ達の役に立ちたいと思い、震える足を少しずつ動かして、血雷の元に駆け寄り血雷の横に地面に座り込んでいたのだった……










「そんでもって、僕と姉さんはここに運ばれ、治療を受けて、今に至ると言う訳か……」


「現状は理解出来ましたか?」


「理解は出来たよ。とにかく、僕や姉さんもそうだがサテラとシズ八も今は落ち着いてるみたいだし、よかったよ」


「それなら幸いです……」


「あ、一つ質問良いですか?」


「構いませんが?」


 ヴォラクに突然として一つの疑問が浮かび上がった。確かヴォラクの記憶の中にはアナの様なメイド服を着た女性はアナ以外にもいたはずだ。だが周りを見てもアナと同じ様な服を着ている女性は1人もいない。おかしかった。彼女以外にもいるはずなのだが、いなかった。


「確か、貴方以外にも同じ様な役職の人がいましたよね?どうして今は1人なんですか?」


「………全員」


「ん?」


「………私以外全員、殺されました。裏切り者によって」


 その瞬間、ヴォラクに戦慄が走った。一瞬自分の心に大きな驚きが生まれ、僅かにだけ動揺の表情を見せてしまった。裏切り者だって?そんな奴がいたのか?ヴォラクは記憶を遡ってみるがレイアの国の兵士達は全員レイアに対して強い忠誠心を見せていた様にも見える。だがあの兵士の中に裏切り者が潜んでいたとヴォラクは気付けなかったのだ。

 誰なんだ?一体裏切り者は。ヴォラクの思考が回り続けるがそれでも結論を導き出す事は中々出来なかったのだ。


「裏切り者………だと?それは一体誰だ?」


「裏切り者は……この国の幹部であり、元はレイア様の側近だった男「ジーガス・ルサガ」です。名前、聞いた事ありませんか?」


「おいおい、まさかとは思うが……あの目付きの怖ぇオッサンの事か?何か僕に恨みでもあるのか?と言わんばかりの勢いで睨んできたからさ……」


 ヴォラクの答えは間違っていなかった。アナはヴォラクの言った男の特徴に対して首を縦に振る。どうやら奴で間違ってはいなかったらしい。


「正解です。奴が裏切り者だったんです…」


「いつ、どのタイミングで裏切ったんだ?」


「分かりました、お話します……………私達は非戦闘員の為城の中で待機をしていました。やる事なんて何もありませんのでレイア様達の勝利をただ願い続ける事ぐらいしかしていませんでしたが……しかしある時奴が突然として数十人の兵士を連れて私達非戦闘員が待機している部屋に入っていたんです……………そして」


「そして?」


 次の瞬間、アナの表情が恐怖によって完全に支配された。さっきまで見せていた無表情の様なポーカーフェイスとは打って変わって恐怖によって支配された絶望的な表情をヴォラクに見せていた。

 ヴォラクには分かる。今、彼女が心の中で何を見たのかを、自分も同じ様な表情をした事があったから、同じ様な思いをしたと感じたから分かる。同じ人の気持ちがヴォラクには分かった。

 これ以上彼女に何があったのかを聞くのはNGだ。これ以上掘り下げれば、彼女に強いトラウマを蘇らせる可能性が極めて高い。ヴォラクはすぐに話を中断させる様に呼び掛ける。


「思い出したくないなら話さくていい!そこまでして……思い出す必要なんかないよ」


「はぁ、ふぅ………すいません、取り乱してしまって…」


「気にするな。だが、裏切り者共に襲撃されたけど貴方1人生き残って逃げてここに来て、僕達に出会った。そんな解釈で良いか?」


「まぁ間違ってはいませんね。強いて言うなら逃げる道中数人の玉は潰しましたが……」


(男の急所を潰した!?何か……僕のも痛くなってきたよ……)


 今までの経緯を話した(途中で一時途切れてしまったが)アナは再び落ち着いた表情を取り戻しさっきと同じ様なポーカーフェイスに戻ってしまった。

 さっきまで僅かながら見せていた恐怖と絶望に満ちた様な表情は完全に消えていた。

 ヴォラクにはまだ解決出来ていない数個の疑問が脳内に浮かび上がっていたり、レイアの事が心配で仕方なかったが取り敢えず今は慌てず騒がず落ち着いて冷静を保つ事にした。


「と、取り敢えず戻る事にするよ。もう、眠いから寝る……」


「もう寝るのんですか?これからあの2人とお楽しみでは?」


 と言ってアナはヴォラクをからかう様な言葉を放ち、僅かにだけヴォラクを面白おかしく笑う様な表情を見せた。何だよ、意外と可愛い表情出来るじゃん。誰だよずっとポーカーフェイスだとか言ってたの。

 酷くね?←いや、言ったのお前だよ


「流石に……僕から誘うのもぉ……どうかと、誘われたらにするよ」


「そうですか、ではおやすみなさい。見張りは私が行いますのでご安心を」


「無理そうなら交代してやってもいいからな?」


「………コクッ」


 アナは何も言わずにヴォラクの方を見つめて静かに首を縦に振った。それに対してヴォラクは少しフッと笑った表情を見せた。

 そしてヴォラクはテントに戻る事にした。もうこれ以上外に立つ意味はない。正直な話、結構寒いし。体を温めた方が良いと思った。このままずっと外に立っていたらカチンコチンに凍ってしまいそうだよ。一応長袖のシャツとベルトの付いた黒色の通気性が良い長ズボンと結構長めで表面の触り心地がツヤっとしている黒色のロングコート羽織っているのだが何故かそれでもまだ寒さを感じていたのだ。

 おいおい、昔は冬場でも半袖半ズボンでも大丈夫だったぞ?なのに今は長袖、長ズボン、そしてロングコート羽織ってるのにまだ寒いぐらいだよ?年取ったのかな?←注※まだヴォラクは18歳です。そんな年取ってません


「あぁ~寒い、とっととテント戻って寝よ……」


「お、ヴォラク、もうご就寝か?」


「あぁ、姉さん。もう眠いから寝させてもらうよ、あれ姉さん寝る所あったっけ?」


「おう、一応アタシ用のテントは貰ったぜ。一応言っとくがアタシは1人で寝かせてもらうぜ。デカい部屋は1人で使うのが好きなんだ!と言う訳でアタシはおやすみだ!」


 と言って血雷はヴォラクのテントから少しだけ離れた場所に設置されたテントにすぐに潜り込んでいった。

 血雷はヴォラクに背を向けてヴォラクに右手を使って、手を振ってくれた。ヴォラクも自分の方を振り返らなかった血雷に手を振った。彼女がヴォラクの振ってくれた手に気付く事はなかったが、ヴォラクは彼女に手を振っていた。


 そして少しだけ時間が流れるとヴォラクは素直にテントに戻る事にした。
















 テントに戻り、すぐに中に入ったヴォラクだがヴォラクは少しだけサテラとシズ八が待つテントに入るのには抵抗があった。

 理由?さっき言わなかったからな?誘われるよね?よね?こっちは誘われるか誘われないかの瀬戸際で悩んでるんだよ。

 いや、別に僕はね?どっちに転がっても転がった方向の選択を遵守するけども!けども!何故だろう、この謎の緊張感は?未だに抵抗があるのか?

 いい加減に慣れろヴォラク←ただし慣れていいのかは不明(因みにこれ言ってるの作者)


「またテメェかよ、作者………」


 ま、いつまでも瀬戸際を彷徨い続けるのは面白くないし、ここで永遠に立ち続けるのはつまらないものだし寒くて仕方ないのでもうどうにでもなれ~の勢いでヴォラクはテントの中に飛び込む事にした。

 もうどうにでもなれぇ~





 あ~やっぱ入らなかった方が良かった説浮上。これは誘われるヤツだ。サテラとシズ八絶対に僕の事誘ってるよね?よね?

 既に少しだけ脱いじゃってるし、甘い表情して僕の事見ちゃってるし、これはもう流れに乗るしかありませんね。このビックウェーブに←絶対違う気がする


 取り敢えずヴォラクは2人に聞いてみる事にした。一体どうしてそんな表情で自分を見つめているのかについて聞く事にした。


「ふ、2人共?さ、誘って………うぉ!?」


 一応聞こうとしたのだが、聞こうとする前にヴォラクはサテラとシズ八に突然として抱き着かれてしまった。

 テントに入って突然の事だったのでヴォラクは身構える事が出来ず呆気なく2人に抱き着かれ、簡単に押し倒されてしまったのだ。

 抱き締める力は強いかと聞かれると強いと言う訳ではなかったが2人は自分の持つ筋力の最大の力を発揮すると言わんばかりな力でヴォラクを抱き締めたのだ。

 女の子に抱き締められたら、頭を撫でろを聞いた事があるがサテラとシズ八は決して背が低いと言う訳ではないのでヴォラクの背丈では頭を撫でるよりは同じ様に抱き締める事をするのが妥当だった。

 ヴォラクの身長→168cm

 サテラの身長→164cm

 シズ八の身長→163cm

 3人の身長は高いのか?

 悠介の身長→172cm

 血雷の身長→173cm

 うん、ヴォラクはちょっと低いと言う事で。







「2人共、どうした?いきなり押し倒してきて?」


 ヴォラクは2人に押し倒され、大の字状態で品のない声で2人に尋ねた。もう2人がヴォラクと何をしたいかなんて分かっていた。

 分かってはいたが2人に聞く事にした。


「悲しかったし、寂しかったんですよ?主様があんな事になってしまって……だから今夜は♡」


「慰めてください。心配だったんですから…ね♡」


「分かった、分かったよ……僕の負けだ。じゃあ早く服を…」


 そしてヴォラクは上半身に羽織っていたロングコートを脱ぎ、シャツを脱ごうとしたが、サテラとシズ八が突然としてヴォラクの手を止めさせる。

 サテラ達2人も上半身の服を脱ぐ事はなく、下の方の服にしか手をかける事しかしなかった。


「ちょっと待って下さい。今日、寒いので…上は着たままでも良いですか?」


「寒くて風邪引いたら嫌ですもん。だから上着てても大丈夫かな?」


「構わないよ。別に着てても僕は平気だ」


 その次の瞬間、2人はヴォラクの肉体に触れた。





















 そして数時間ぐらい?いや一時間ぐらいの時間が経過した後、ヴォラクはテントの中で眠っていた訳ではなく、テントの外で暗い寒空の下でロングコートを羽織って軽く空を見上げていたのだ。

 え?何でさっきまでサテラとシズ八とハッスルして今頃疲れ果ててぐっすり寝てると思ったのに何で寒空の下に立ってるのかだって?色々あったんだよ。


 眠れない原因


 何故か寝れない←原因です、原因になってないかもしれないが、本当に寝れないらしい。

 本当に何故か眠る事が出来なかったのだ。別に昼寝していたから寝られないと言う訳ではない。(昼寝すると夜寝れなくなる経験あり)実際、支給された寝袋の中で1度か数回は睡眠を試みたのだが何故か目を瞑っても眠る事は出来ず、逆にどんどん眠気が覚めていくばかりだったのだ。

 目を瞑っても眠る事が出来ず、ヴォラクはただ「眠れないアル…」と意味不明に何回も呟き続けていた。第三者から見てこんな奴ただのヤバい奴にしか見えないのだが、ヴォラク自身ふざけているつもりはなかった。何故なら眠れないからだ。

 眠れないので「眠れないアル」と連呼していたが連呼しようがしまいが眠れる訳がなかった。サテラとシズ八はもう無防備に肉体を晒しながらスヤスヤと眠っていると言うのに、何故ヴォラクだけ眠れないのだろう、意味が分からない。


 そのお陰で今は眠れないせいで夜の寒空の下の下に立っていられると言う訳だ。焚き火の火だってもう消えてるし、アナさんだってもうテントの中で寝てるし?姉さんだってきっともう寝てるだろうし?

 あ~どうしよう?明日はたとえ誰かに止められても単独でレイアを救出する為にしっかりと寝て、体力を回復しておきたいと言う所なのだが、こうも眠れないと体力を回復する事すらままならないだろう。

 さぁ、どうするべきか……眠ろうにも眠れないのなら寝袋に入った所で意味が無いからなぁ~取り敢えず暗いけど、一応見えるには見えるので焚き火にでも火を付けて温まろうかな………


「ん、ヴォラク?何してんだ、こんな遅くに?」


 後ろから聞き慣れた人の声が聞こえた。

 しかしヴォラクにはそれが誰の声なのかは一瞬で分かってしまった。耳の中に響くその声が誰の声なのか、ヴォラクはすぐ気付き、後ろを振り返る。


「姉さん、何故か眠れないんだよ。何故かね…」


 後ろには自分の義理の姉である血雷が少し乱れながらも後ろに束ねてある血の様な赤い髪を揺らしながらいつもとは違う服を着ていてヴォラクの前に目を少しだけ擦りながら立っていたのだ。

 いつもの戦闘用の改造和服とは違い、寝る用の動きやすく着こなしやすい和服の様な寝巻きを着用している。因みにだが愛刀はいつも通りに携えていた。今は戦闘中ではないのだが、いつでも敵を斬れる準備が出来ているかの如く愛刀を鞘に納刀し携えていたのだ。

 今は戦闘中じゃないって言うのに、常在戦闘態勢って事かな?別に今は戦闘区域に立ってる訳でもないし、周囲に敵が潜伏している訳でもないのだが、血雷はいつ敵が来ても大丈夫と言う様な感じで刀を所持していたのだ。


「マジか、寝れねぇのか。なら……アタシのテントで少し雑談でもするか?アタシも何か眠くねぇからな」

 

 う~ん、ここは姉さんの考えに乗る事にしよう。だって寝れずに外で1人呆然と立ち続けるぐらいなら姉さんと雑談してる方が良いと思う。

 なのでここは血雷の考えに乗る事にしたのだ。


「うん、行っていいなら行くよ。ありがとうね」


 そして血雷はヴォラクに手招きを行い、ヴォラクが自分のテントに入る様に促してくれたのだった。ヴォラクは血雷の促しにすぐに応じ、彼女のテントの中に入っていったのだった。
















 うん、何もないね……あるのは眠る為に使う敷布団と掛け布団以外は何も無かったのだ。それ以外は本当に何も置いてなかったのだ。

 何も置いていない事はおいておいて、ヴォラクには気になる事が二つ程あった。

 一つ目は自分の目のやり場に困ると言う事だ。血雷は今あぐらをかいており、着ている寝巻きは結構露出が多く、服も緩めになっているので彼女の肉体が所々見えてしまっているので、ヴォラクは目のやり場に困ってしまっているだ。特にあぐらをかいている事と彼女が着ている緩めの服のせいで更にヴォラクは目のやり場に困ってしまったのだ。もし今血雷の方を見てしまったら彼女の履いている褌と胸に巻いている晒が見えてしまうのでヴォラクは何とかして目のやり場を探していたのだった……

 いや、ちょっと待て!ヴォラク、お前は既に女の子と2人と親密以上の関係を持っているじゃないか!なのに何で今更そんな事をボヤいているんだ!そこは躊躇するなよ~!


「うっせぇ……」


 そしてもう一つ。血雷が保有していた個人の荷物が何処にも置かれていなかったのだ。血雷はヴォラク達と共に旅に出る時、自分の荷物を持っていたのだが今このテントの中を見渡しても彼女が持っていた荷物は何処にも置いてなかったのだ。

 まさかレイアの城の中に置きっぱなし?ヴォラク達は荷物も呼べる物なんて殆ど持っていなかったが血雷は荷物を持っていた。一体何処に荷物は消えてしまったのだ?

 これは聞いてみるしかない。


「あれ?姉さん、確か個人の荷物持ってたよね?替えの服とか日用品入れてるって言ってた。あれどうしたの?」


「あ~アタシの荷物か?ほれっと!」


 すると血雷の手の平から突然として、彼女が持っていた荷物袋が突然として何の前触れもなく出てきたのだった。突然の出来事にヴォラクは強く驚いた。空いた口が塞がらない様に唖然として驚きを見せてしまったのだ。

 だって急に手の平から荷物袋がパッと出てきたんだよ?まるでゲームやアニメに出てくる様な感じで瞬時にアイテムを取り出す事が出来たのだ。驚くのも無理はなかった。

 所謂アイテムを無限に保有していて、選んだアイテムを瞬時に取り出す。こんな感じで血雷は荷物袋を取り出してしまったのだ。

 もしも上記の考えが正しいのなら、この能力使えればめっちゃ強くね?と感じた。だって無限にアイテム持ててしかも必要な時だけ取り出せるなんて普通に考えれば支援能力として見るのなら最強の部類に入るとヴォラクは思った。なので血雷本人に聞いてみる事にする。その力が何なのか。


「ね、姉さん?そ、その力は一体……?どうして何もない所からアイテムを?」


「ん、これか?こいつは昔親父に教えてもらったんだよ。技の名前は忘れちまったけどよ、道具保管すんのに使えるって言うから、教えてもらった技なんだ」


「じゃ、じゃあ僕にもその技教え……」


「あ、悪ぃこの技の教え方忘れちまった!使い方は分かるけど教え方は知らねぇ!悪ぃが教えられねぇ。すまん!」


 オーマイガーこれじゃ意味がない。使い方分かっても教え方分かんないならもう無理だね。

 ↓結論

 使えない……以上……
















 もうこの事はなしにしよう。ついでにこの技について問う事もやめよう。聞いたって教え方が分からないのなら聞いた所で?って話なのでヴォラクはこれ以上深い穴を掘る様な事は一切しなかった。話を切り替えて違う事を話そう。

 姉さんは自分の荷物テントの端に置いてある事だし、もう切り替えていく事にしよう。


「さて、何について話す?夜だし恋バナでもするか?それとも……最恐の怪談話でもするか?」


「恋バナは女子会トークの時にするやつでしょ?怪談話は怖いから無理だぜよ…」


「う~ん……ならどうするか………って、どうした?いきなり」


 ヴォラクは何も言わずに血雷の膝元に頭を向けてテントの床の上で寝転がってしまった。血雷はこの時あぐらをかいていたがヴォラクが寝転がる事に気が付くとすぐにあぐらをかくのをやめ、正座してくれたのだった。


「少しだけ、寝転がらせてくれ…」


「アタシの膝枕は希望するか?」


「希望する……」


 血雷の太ももにヴォラクの頭が乗った。ヴォラクは自分の本当の姉以外にはされた事がない膝枕を血雷にしてもらったのだ。急にテントの床の上に寝転がり、血雷に膝枕をしてもらった理由、そんな事はもう聞かないでほしかった。

 彼女に膝枕をされると途端として急に寂しさと悔しさが湧き上がってくる。大好きだった姉と離れてしまった寂しさと敗北と言うものを味わった時の悔しさを、その二つが突然として込み上げてきたのだ。

 ヴォラクはその二つの感情を心の中にずっとしまい込んでいたが不意にもその感情が漏れそうになる時もあった。


「辛いのか?怖いのか?それとも誰かが恋しいのか?」


 血雷は優しい言葉をヴォラクに投げ掛け、彼の頭を静かに撫でてくれたのだ。ヴォラクは横を向きながら寝転がっていたが、頭を血雷に撫でられるとヴォラクは上の方を向く。明かりが灯っていて少しだけ眩しくも思えてくるが、血雷の顔がヴォラクの瞳に映る。


「…姉さん……」


「アタシはあんたの気持ちなんて分かりゃしないけどよ。辛いならこうやって慰めてやるぜ?」


「僕は……僕は…」


「何だ?何か言いたい事あるのか?男らしく言ってみろよ…」


 ヴォラクは素直に自分の気持ちを打ち明けるべきか、それとも隠し通すべきか、どちらの選択を選ぶか迷いがあった。しかしこのまま何も言わずにただ黙っているのも嫌だった。

 このまま打ち明けても構わないのだろうか。それとも今の自分である為に弱い所は隠し通すべきなのだろうか。

 ヴォラクはこの二つの選択を選べずにいた。だが、血雷が発した言葉によりヴォラクの心が揺らぐ。


「ヴォラク、姉ちゃんはお前が何を言おうと弟として好きでいてやるぜ?」


(………はっ!)


(凱亜…お姉ちゃん、凱亜が何をしても、貴方の事は大好きでいるからね…)


 彼の本当の姉と義理の姉の言葉が同じになった様な気がした。血雷の姿にヴォラクは自分の姉の姿を重ねていたのだ。自分の大好きだった姉の姿を無意識にも重ねていたのだった。

 そうだった、思い出した様な気がした。僕の姉は何があっても自分の事を好きでいてくれた。否定する様な事なんて何もしなかった。ずっと好きでいてくれた。好きでいてくれた。

 何を言ったとしても、どんな選択をしようとも、自分の姉は何か不満な事を言う様な人ではなかった。

 なら、選択に迷う必要性なんて一切なかった。素直に打ち明けよう。どんな事を言おうとも、人殺しの自分が弱音を吐こうとも自分の義理の姉は何も悪い事は言わないだろう。

 それなら、素直に気持ちは打ち明けるべきだ。


「寂しんだよ。僕の本当の姉さんがもう寂しんだよ……会えなくてさ。それに負けた事が悔しくて仕方ねぇ…レイを守るって言っておきながら、あっさり負けてこのザマだよ。自分が情けなくて…情けなくて…そして寂しくて、弱くて、悔しいよ……」


「ヴォラク……何言ってんだよ。そんな、そんな悲しい顔すんなよ…お前は弱くねぇよ、いつもアタシ達を守ってくれてたじゃねぇか…それに、ホントの姉貴に会えなくて寂しいなら、アタシに言え。代わりぐらいなら、お前の姉貴になってやるよ…」


「姉さん……僕、寂しかったんだよ…怖かったんだよ…」


 凱亜の瞳に映る血雷の姿は今、自分の姉に完全に変わってしまっていた。凱亜は血雷の事を完全に自分の姉だと思ってしまっていた。彼の目に映るのは血雷と言う1人の女性ではなく、自分が幼い時から大好きだった姉である「不知火神姫」と言う人物が彼の目に映っていたのだ。本当の姉の姿が見えるなり、凱亜はヴォラクとなっていた時に見せていた冷徹で残忍で人を殺す事に対しての躊躇が存在しない自分を全て消し去り、姉に甘える様な自分を曝け出してしまっていた。

 膝枕をしてもらっていたが、今は立ち上がり血雷の胸元に顔を埋めていたのだった。血雷は自分の胸元に顔を埋める凱亜の頭を撫で、彼の本当の姉になろうとしていた。本当の姉になれない事ぐらいは分かっていたがそれでも彼の本当の姉の代わりぐらいにはなれると思い、悲しさに満ちる凱亜の事を慰めていたのだ。


(お前は本当に颯に似てるな……アタシもお前の事を本当の弟だと……)


「姉さん……暫くこのままでいさせてくれ…」


「また、泣いてんのかよ…ホントお前はアタシの胸の中じゃ、可愛いくて泣き虫な弟だな」


「悪いかよ……」


「いや、全く悪くないぜ…」


 凱亜は血雷の胸の中で涙を流して泣いていた。寂しさと悲しさと悔しさが入り交じった結果、凱亜は血雷の胸の中で静かに泣き続けていたのだった。

 血雷は泣き続ける凱亜の事を抱き締め続け、彼の頭を撫で続けてくれていた。

 凱亜は血雷に抱き締められている内に次第に気持ちが落ち着きつつあった。血雷の行動により、凱亜は少しだけ自分の気持ちを整える事が出来たのだった。






 その後は暫くの間血雷に抱き締めてもらっていたが、泣き続ける内に凱亜は次第に眠くなってきていたのだ。泣き疲れたのか、それとも彼女の温もりにより眠くなってしまったのか。理由は分からないが突然として眠気が強くなってきた凱亜はウトウトとしてしまっていた。

 あ、ヤバい、このままじゃ姉さんの胸元で眠ってしま……


 はい、凱亜……ご就寝です。


「ん、ヴォラク?何で動かな……って寝ちまったか…ったくまるで子供だな…よっと」


 そして血雷はヴォラクを抱き抱えるとそのまま敷布団の上にヴォラクを寝かせ、そのまま掛け布団を掛けてくれたのだった。血雷も同様にヴォラクの隣に寝転がり、彼の頬に軽く唇を付けると彼女もヴォラクの横で静かに目を閉じたのだった。2人は1つの敷布団の上に寝転がり添い寝する形で眠りに付いたのだった。血雷はヴォラクとの添い寝には一切の躊躇はなく、彼を弟として見る様な感じで見て、可愛らしい寝顔を見せるヴォラクを見て僅かながらに微笑んだ。


「おやすみ……」


 その後暫くの間、2人が目を覚ます事はなかった…


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