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71話「目を覚ませ」

 

 突然として目の前は暗闇に包まれ、意識がどんどんと失われていく。体も動かず、自分の体に対して抵抗しようとする事も出来ない。

 さっきまでは気を失ってしまった血雷に肩を貸し銃を片手に敵に抗おうと戦い続けていたが、奴がレイアを連れていってしまった後、まるで気が抜けて、無気力になってしまった人の様にしてヴォラクの意識は闇に落ちていき、地面にへと倒れ込んでしまったのだったのだ。


 意識が失われていく事で動かなくなっていく体に抵抗する事は出来ず、地面に倒れていく自分の体を自分の力で起こす事は出来なかった。体を起こそうとしても自分の意識が完全に失われてしまっているので、体が言う事を聞いて動いてくれる事はなかった。体の感覚すらも全てが消えそうな勢いで彼の意識は消えていってしまったのだ。


 そしてヴォラクは今、目を覚ます事が出来なかった。動く事すらも難しく感じるぐらいだった。しかし体を動かそうにも意識が失われているので動かす事なんて最初から出来なかった。

 目を覚まそうにも、自分の意識は目覚めるどころか逆に遠のいていくばかり。目覚めようと思う度、その気持ちを誰かは嘲笑うかの如く意識が深い所まで落ちそうになっていく。

 だが、ヴォラクだってここで素直に引き下がって気を失い続ける様な程弱い人間ではなかった。ヴォラクは鮮明に覚えている。

 さっき起こった事だが、レイアが敵軍の大将によって捕らえられて、連れていかれてしまった事をヴォラクは鮮明に覚えている。あの時抵抗すれば、レイアを守る事が出来たかもしれない。

 だが、あの時ヴォラクは何も出来なかった。しかし無理もなかったかもしれない。ヴォラクは確かに抵抗、敵に抗ってみせた。愛銃であるツェアシュテールングとリベリオンやビームサーベルを使って敵と戦い続けた。しかし数多の敵兵を相手に長時間戦い続けていたのはヴォラクだけではない。

 サテラ、シズ八、血雷、レイアの4人もヴォラク同様に大きな疲労を感じながらも戦い続けていたのだ。だがこのヴォラク達に溜まった疲労が敗北の原因を作ってしまったのかもしれない。

 現にこの溜まりに溜まっていた疲労のせいで最後の最後にヴォラク達は抵抗する事が出来なかったのもあった。もしかしたら相手はヴォラク達に疲労を溜めさせる為にこの様な形で総力戦を行ってきたのかもしれないとヴォラクは思った。

 だがヴォラクだって疲労していただけと言う理由で無抵抗状態になる事はなかった。一応抵抗はしたよ、一応したんだけどね。ダメだったんだよ。

 ヴォラクは確かに自分の右手に握られたツェアシュテールングの引き金を引いた。だが引き金を引いて、銃口から放たれた1発の金属製の弾丸は意図も簡単に敵大将の作り出した魔力壁(魔力により作り出された実態のない盾の様な物。レイアが使う実態のない剣であるエクシアと同じ系列の存在)によって超速で放たれた弾丸は魔力壁によって簡単に防がれてしまい、鉛の様な重く鈍い色を放つ弾丸は簡単に潰されてしまったのだった。ヴォラクは絶望してしまった。

 何故ならヴォラクが使ってきたツェアシュテールングやリベリオンは今までこの異世界では無敵の強さを誇っていた。今まで銃を使ってきた中では、一撃でも銃弾が何処かに当たってしまえば、待っているのは死だった。異世界には耐衝撃アーマーや防弾チョッキなどは存在しない。あったとしても鉄の鎧や魔力を表面に纏った防具があるぐらいだ。しかし逆にこれ以外の装備は殆ど布の服と言うのが異世界装備の現実だ。勿論だが、布素材では銃弾など防げる訳がない。

 つまりこの世界では銃弾を防ぐ様な装備は存在しないに等しいのだ。ヴォラクはこの考えに依存してしまっていた。簡単に言えば、この世界には銃弾を防ぐ事が出来る防具は一切無いとヴォラクは完全に思い込んでしまっていたのだ。いや、思い込んでいたと言うよりはもしも銃が通用しない相手がいると言う事を信じたくなかった事から来た自己暗示だったのかもしれない。もしも銃でしか戦えない自分が、もしも銃が通用しない相手と出くわしてしまったら……と考えると後ろ向きな考えばかりか浮かび上がりそうになるので、ヴォラクは銃を防ぐ事が出来る装備品などは存在しないと思い込んでいたのだ。思い込むと言うよりは本当の現実から目を背けていたと言う方が正しいかもしれないが、ヴォラクは「銃が通用しない」と言う相手は存在しないと思い込んでいたのだ。


 しかし先程の戦いでヴォラクの考えは違うと言う事に気が付いてしまった。銃の引き金を引き、敵の大将の頭部に向かって銃弾を放った。

 だが、ツェアシュテールングの銃口から放たれた弾丸はまるで赤子の手をひねるかの様に銃弾は簡単に破壊されてしまい、ヴォラクに大きな絶望を与えてしまったのだ。

 その時ヴォラクは初めて、銃が通用しない相手に対峙したのだった。そしてヴォラクはその瞬間に戦う意志を失ってしまったのだ。そして次の瞬間にヴォラクは突然として気を失ってしまい地面に倒れてしまったのだ。

 その結果、ヴォラクは今は深い眠りに着いたかの様に、気を失い続けてしまっていたのだ。


 ヴォラクはこの異世界に来て、初めて敗北を味わった。異世界に召喚されて初めての敗北だったのだ。ヴォラクは今まで十八年間生きてきたが、これと言った敗北を味わった事はあまりなかった。しかし今日の戦いで敗北を味わったのだ。

 まるで初めての敗北の様な感じだった。悔しいと言うよりかは呆気なかった自分への弱さゆえの情けなさの方が大きかった。自分が相手の策略にも気付かずに簡単に負けを認めてしまった事に対する大きな不甲斐なさ、レイアは僕が守ると一丁前な事だけの言葉を並べておいて、敗北し絶望して動けず連れて行かれたレイアを何もする事なくただ黙って見つめている事しか出来ていなかった自分への情けなさや不甲斐なさが彼の敗北感をより一層と強くさせていたのだった。

 自分が情けなくて仕方なかった。この先ずっとこの調子になってしまうかもしれない。

 だがいつまで経ってもその情けなさや不甲斐なさを引きづり続けているのはいつまで経っても弱い人間でいる事と同じ様にも感じた。

 ヴォラクは弱い人間のままで良いと思う時もあったが、今は違う気がした。今は弱いままで自分を固め続けるのは間違いであるとヴォラクは感じた。

 いつまでも弱いままで存在し続けるぐらいなら、少しだけでも良いから強くなってやりたいと、ヴォラクは遠のき続けている意識の中でその意思が固まりつつあったのだ。

 なら、ずっと気を失ったまま眠り続けているのも間違いじゃないかと思った。まだ取り返す事ぐらいは出来ると思った。

 レイアを守れなかった。だが過去の事ばかりを気にしていたって仕方がない。

 時間は戻らない。今から過去に戻ってレイアを再び守るだなんて事は出来やしないだろうが、未来は変えられる。

 無気力な自分でもまだ取り返せる。レイアを守れなかった自分を弱いと思うかもしれないが、弱いと受け入れてもう一度戦う必要性があるとヴォラクは思った。


 立ち上がってみようかな?出来ない事じゃないはずだ。敗北なんて誰にでもあると思うよ?一度ぐらいの敗北でそこまで凹む必要性なんてない。立ち上がってみたら?


 やってみせろよ!……ヴォラク……

 何とでもなるはずだ!……


「………んっ?」


 ヴォラクはさっきまで全てを失いかけていた意識を突然として取り戻した。何処か遠い所まで飛んでいってしまった様な自分の意識をヴォラクは掴む。もう十分眠る事は出来た。

 気を失い続けて皆に心配をかけるのも、いつまでも気を失い目を背け続ける自分とは決別する方が吉だ。


 ヴォラクは完全に消えかけていた意識を掴み、もう一度立ち上がる様にして意識を取り戻したのだった。


 ヴォラクが目を開くと、そこはテントの様な小さな部屋の様な場所だった。部屋と言うか完全にここテントの中だよね?どう見てもテントの中にしか思えないんだけど?

 しかもそれなりに広いし。5人ぐらい入れそうな広さだよ。だけどこのテントの中に入っているのは5人じゃなくて3人だけどね。

 それはサテラとシズ八だよ。心配そうに布団に入り横たわるヴォラクを座りながら見つめているが、起きたと気付くなり体に飛び付く様にしてヴォラクに泣き顔で抱き着いてきた。起きて早々、可愛い女の子2人に抱き着かれるってどうなのかな?


「あ、あ……主様ぁ!よかった♡本当によかったです!」


「ヴォラクさぁん!やっと……やっと目を覚ましてくれた……ヴォラクさぁん♡」


 おいおい、これは一体どう言う事だってばよ?意識を取り戻したと思ったら、いきなり美少女2人に抱き着かれてしまった。

 ヴォラクは突然起こってしまった出来事に頭が追い付くか不安だったが、物の数秒でヴォラクは脳内の理解が追い付いた。何故なら抱き着いてきたサテラとシズ八とはもう夜の時間を楽しむぐらいの仲なので抱き着く事ぐらい挨拶と対して変わりなかった気がした。(だが、これはあくまでもヴォラクの視点からの事なので、美少女2人に抱き着かれる事が普通と言う考えが絶対に正しいと言う訳でない)


 ヴォラクは泣き顔で抱き着いてきたサテラとシズ八の背中を優しく両手で摩ると、ヴォラクは「近い、近過ぎるよ……」と語りかけ、少し自分から離れてくれる様にお願いした。何かこのままずっと抱き着かれたままではずっと離してもらえないと思ったからだ。サテラとシズ八はヴォラクの呼び掛けに答える様にして、すぐに抱き着くのをやめて、少しだけヴォラクの身体から離れてくれた。

 そしてサテラとシズ八はヴォラクから少しだけ離れるとヴォラクの前に楽な感じで座り込んだ。


「サテラ、シズ八……すまない、心配かけたな…」


「主様、良かったです。ずっと目を覚まさないから……」


「ずっとって……どのくらい気失ってたんだ?」


「もう何時間も気を失ってたんですよ。あの時からもう……」


「………………なぁ、レイはどうなった?」


 この質問をするのは気が引けた。口には出したくない質問だったが、ヴォラクは聞かなければならなかった。聞かなければ先の段階に進む事は出来ない。

 まだ誰にも話してはいないが、ヴォラクは既にレイアを救出する事を考え始めていた。まずレイアが何処に連れていかれてしまったのかは分かっている。このレイアの国の反対側に存在する国、目で見た事はなかったがレイアの国の反対側に敵大将の国があると言うのだ。

 つまりレイアの国の反対側、つまり敵が兵を率いて攻めてきた方向に行けば奴らとレイアがいると思ったのだ。

 て言うか、逆に反対側にないならあの大軍の兵は何処から来たと説明する?国側から大軍の様に敵兵は来る。

 そうだとヴォラクは思っていた。

 だが、まだヴォラクはレイアを敵から救出すると言う事を誰にも公言していなかった。もしも言ったら間違いなくサテラやシズ八、血雷にだって止められてしまうだろう。レイアを連れ去ったのは自分が敗北してしまった相手だ。一度敗北を期してしまった相手に再度挑む事になるのだ。

 そんな事をすると言えば、サテラやシズ八や血雷は絶対にヴォラクを止めるだろう。さっきの戦いはレイアが素直にカインの元に行った事でヴォラク達は殺されずに済んだが、もしも次、単身でレイアを救出に行ったら今度こそ殺される事になるだろう。それも相手の数は多い気がする。

 レイアが捕られられているのは敵の本拠地の様な場所だ。敵の数もボスが1人だけと言うのも有り得ないだろう。

 そんなとこに単身に突入するなんて殆ど自殺行為と変わりない行為だ。

 しかし突入するのなら仲間と共に突入を行わなければならないが、この奪還作戦的な事の話はまだ誰にも話してはいない。それなら1人でやればいいのだが、あの数相手に単独でって言うのも……

 これでは右に進んでも左に進んでも変わらないのと同じ様な事だ。

 大人数相手に単独で戦うのは死にに行く事と変わらない。逆に仲間に助けを乞えば止められてしまう。

 どっちに転がれば良いんだ。

 これじゃ助ける事なんて出来やしなさそうだ。


 さぁどうする?このままどっちつかずのまま何も出来ずに悩み続けるか、思い切ってどちらかに転がってみせるか。

 だが、行動を起こさなければ何も始まらない。しかしヴォラクは何がなんでもレイアを助け出す気でいた。もしかしたらレイアを助け出したいと思っているのはヴォラクだけではないかもしれない。

 思い切ってサテラ達に相談するのも一つの手だ。どう選択するかはヴォラクの自由だ。しかしヴォラクの心にはまだブレーキが掛かっていた。


「見ましたよね?ヴォラクさん。あの通りですよ……連れていかれてしまいましたよ」


「申し訳ありません。主様の大切な人だったのに、囚われそうになった時に何も出来なくて……」


「いいや、あの時に何か抵抗したら犠牲者が増えるだけだよ……だが何も出来ずに見てただけってのも気が引けたよ」


 ヴォラクは相変わらずの暗い感じの表情をしていた。敗北への情けなさと自分の不甲斐なさがこの様な暗い表情を作り出してしまったのだ。サテラとシズ八はそんなヴォラクに近付くと、素直に優しい表情でヴォラクの傍に座っていてくれていた。

 2人は何も言わなかった。何も言わずにヴォラクの隣に2人は座ってくれていたのだ。


「主様…今は私達に……」


「甘えてくれたって……」


「おい、ヴォラク!起きてるか!?」


 サテラとシズ八がヴォラクに寄りかけ、今にもヒロインとしての行動を行おうとした時だった。テントの中に誰かが入ってきた。勿論入ってきたのが誰なのかはヴォラクには分かっていた。

 そしてサテラとシズ八はまたヒロインとしての行動を行う事が出来なかった。そこはサテラとシズ八がヴォラクを抱き締めてあげて、素直にヴォラクを2人で慰めてあげるのが普通なのにまたもや違う女の子がヒロインポジションをゲットしてしまったのだった。


「ね、姉さん!起きてるけど」


(またもして…)


(血雷姉さんに取られた!)


 テントの中に入って来たのは血雷だった。まさかのヴォラクよりも先に気を失ってしまっていた人がヴォラクよりも先に目を覚ましていたのだ。体力の回復能力はヴォラクよりも血雷の方が高いと言う事なのだろうか?

 自分の肩を貸して、気を失ってしまっていた血雷がさっきの時とは違い、普通にいつもの感じでピンピンとしている。重なる疲労と怪我によって気を失ってしまった時とは全く違う様な感じだった。

 しかもいつもの美しい表情とは違い、目を覚ましたヴォラクを見るなりかなり焦りが滲み出る様な表情をしている。だが無理もないだろう。

 さっきまで自分の弟の様な人物が完全に気を失ってしまっていたのだ。あんな風な焦りや悲しみが詰まっている表情をしてしまうのも無理はなかった。

 しかしヴォラクが目覚めるなり、いきなり安堵の表情を見せ、ヴォラクの傍に駆け寄るとすぐにヴォラクの肉体に触れた←本当ならサテラとシズ八の役割のはずが血雷にあっさりと取られる。しかし3人で触れると言う事は出来なかった


「なぁヴォラク!本当に大丈夫か?怪我とか身体悪くなってないか?」


「ぼ、僕は大丈夫だよ!それよりも、姉さんは大丈夫なの?」


 ヴォラクは血雷を見るなり気付いた事があった。戦場で再開した時に血雷の頬や手の甲(篭手を付けて保護していたが例の奴との戦闘において破壊されてしまった)には痛々しい傷が付けられていたが、傷があった所には傷を保護する為のガーゼや保護用のパッドなどが貼られていたのだった。誰が怪我の手当てをしてくれたのかは分からないが怪我の治療を受けていたと言う事に気が付けてヴォラクも少しだけ安心出来た。


「アタシか?アタシは別に平気だ。少しだけ怪我しちまったけどよ、今は平気だぜ。怪我した所はこの通り手当てしてもらったからな」


「誰に手当てしてもらったんだ?サテラかシズ八か?」


「いや、何か可愛い服着た無愛想な女が手当てしてくれたんだ。言っておくが、手当てだけじゃなくてサテラやシズ八の他にその女も気失ったお前とアタシをここに運んできてくれたんだよ」


 どうやら自分が気を失っていた間に色々とあったらしい。ヴォラク自身は気を失ってしまった間、何も記憶が無いので覚えてはいないが何かあったらしい。


「僕が気を失ってる間……何……」


 次の瞬間、誰かのお腹の音が鳴った。ぐぅぅぅ~と聞かれたら少しだけ恥ずかしい様な感じの音だった。まるで漫画などで使われる効果音の様な音が鳴ったのだ。

 誰だよ、お腹の音鳴らしたの?飯食ってない奴このテントの中にいるだろ?

 正直に出てくる事を求む。


「あの~誰かお腹空いてるんですか?」


「ご飯ならありますけど……?」


「お、おい、飯ならもう食ったぞ!」


「……………………………」


 そしてサテラ達3人はヴォラクの方を見た。うん、誰がご飯食べてないかはサテラ達にはもう分かっている様だった。

 ヴォラク、ご飯食べてなかった。気を失っていたせいで何も食べてなかったのだ。お腹の音が鳴ってしまっても仕方ないかもね。


「主様…ですか?」


「………はい、すいません」


 と言ってヴォラクは頭を下げた。


「おいおい、ヴォラク。謝る必要なんて無いぜ?腹減ってるなら飯食えよ。まだ飯残ってるからさ、テントの外に飯の残り置いてあったから食ったらどうだ?」


「そうする…」


 と言ってすぐさまヴォラクはテントから飛び出す様にしてサテラ達3人を残してテントから出て行ってしまった。ヴォラクだってお腹減ってたんだよ。

 腹が減っている時のヴォラクの行動力は普通の時に比べると高くなる←らしい















 テントの外に出ると、ヴォラクの目に入ったのはメイド服を着た女性だった。そのメイド服を着た女性には見覚えがある。

 ショートカットな髪と少し低い身長、ポーカーフェイスの様な表情をした女性がパチパチと燃える焚き火の前に座り込んでいたのだ。焚き火の上には一つの鉄製の鍋が棒によってかけられ、何かが中で煮えていた。

 外はもうすでに光が存在しない暗闇に包まれかけていた。目に入る光は焚き火の放つ火の光が唯一の光だった。あの火以外に明かりは存在しなかった。

 ここから遠く行く事は今はやめておいた方が良い選択だった。ここは森の中みたいだった、周辺には木々が生えており鬱蒼とした雰囲気を醸し出している。

 だが後ろには一つのテント、前には焚き火の前に座り込む女性が1人と言う状況だった。


「あら、お目覚めですか?」


「あ、あぁお目覚めだ。だが、何も食ってないせいで腹が減った……」


「そうですか。なら、保存用のパンと温めておいたスープがありますけど、食べますか?」


「勿論です!」


 そう言うとメイド服を着た女性は素直にスープをお椀に入れて、保存用のパンをヴォラクに手渡してくれたのだ。

 ヴォラクは手渡されるなり、すぐにパンとスープを喉に詰まらせてしまう勢いで口の中に押し込んだ。喉に詰まらないか不安だったが、お腹が減っていたのでそんな事は気にせずにどんどんとパンとスープを口の中に運んでいった。


「もう少し落ち着いて食べたらどうですか?誰も取りませんよ。それともレイア様の事で焦っているのですか?」


「腹減ってるんだよ!腹が減ってるからこんな早く食ってんだよ!後……名前なんだって?」


「覚えていませんか?私はレイア様専属のメイドでありメイド長を務めている「アナ」と申します。以後お見知り置きを……」


 そうヴォラクに自己紹介をすると、座り込んでいたアナは立ち上がりヴォラクに向かって頭を下げた。ヴォラクにとって、メイドさんってどこか萌えを感じるらしい(メイド喫茶には行った事がある)


(やっぱメイドはグッジョブ!)


「おかわりもありますので、お腹が満足するまで食べてくださいね」


「あぁ腹が減ってたら戦は出来んからな。今は食って元気を出すよ」


 そしてヴォラクは腹が満腹になるまで口の中にパンとスープを運んでいったのだった。


(レイ…必ず助けてみせる……)


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