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70話「血に濡れし者達.2」

 

 ヴォラク、血雷、レイアが前線でビームサーベルや刀や剣を持って戦う中、支援攻撃担当であるサテラとシズ八はヴォラク達とは違い、後方でビームスナイパーライフルやバスターブラスターを使って支援攻撃を行っていた。

 支援攻撃の対象として、サテラはバスターブラスターを使って固まった敵兵の群れに向かって、バスターブラスター(高出力状態)を発射していた。サテラが主に撃破していた敵兵は普通の歩兵だ。

 その他にもシズ八のビームスナイパーライフルでは狙撃しきれない後方の大量の弓兵や魔法使いなどもバスターブラスターにより撃破していった。

 シズ八は負傷した敵兵に後方から回復魔法を使う魔法兵や強力な範囲攻撃魔法を行う敵兵をスコープ付きのビームスナイパーライフルを使い、1人ずつ敵兵を排除していった。ビームスナイパーライフルで狙撃を行っていく中で、敵兵は何処から攻撃が来ているのか分からず、後方で攻撃や支援を行う敵兵は殆どが混乱してしまっている状態だった。狙撃により後方の敵兵の混乱が続いてしまうのなら後方の陣形が崩れるのは時間の問題だろう。


 サテラの使うバスターブラスターのビームの射線は曲げる事も可能なので後方の敵の支援攻撃部隊を連続で撃破をしていたのだ。これなら敵の後方部隊は壊滅必須なはずなのだが、奇妙な事にさっきから全くと言っていいぐらい数が減っていると言う気がしない。バスターブラスターをかなりな回数撃ち込んでいると思うのだが、何故か減っていると言う感じがしない。何故だろうか、確かに減っているのだがサテラ自身が減っていると感じていなかったからだ。

 減っているのに減ってない。これって少し矛盾しているかもしれないね。



 そしてサテラは敵兵を殺すのではなく無力化していたと自分に言い聞かせてはいたものの、実際の所サテラはかなりの数の敵兵を殺してしまっていたのだ。まず敵兵を無力化すると言ったが、そもそもバスターブラスターで敵兵を無力化するなんて普通に考えたら無理だったと言う事に気付いた。バスターブラスターは少しでもそのビームの射線に入ってしまえば、そこから溶解されるかの様にして体を破壊されるので無力化は普通に考えれば無理だった。もし無力化すると言うのならミリ単位で敵兵にビームを当てる場所を計算して撃たなければならないのだが、戦場と言う舞台に立つ中でそんな事を一々行うのは時間の浪費を急がせ、敵兵に攻撃の時間を与えてしまう事になってしまうので考えるのは無理だった。

 もう無力化は無理だった。サテラは表向きは無力化していると自分に言い聞かせながら、自らの手で敵兵を何十人、何百人と殺めていった。ヴォラクには絶対に殺す必要はないと言われていたが、主は既に殺しに手を染めている、その奴隷も主と同じ様に自らの手で敵の命の灯火を簡単に消していくのだった。

 サテラの心の中に後悔は生まれない。

「私も主様と同じ様になれるのなら……」と言う言葉が心の中に生まれた。主と同じ様になれると言うのならサテラはその体が血に染まってしまったとしても一切後悔がなかった。

 主に1歩でも近付けると言うのなら、どんな風になってしまったとしても主に近付くとサテラは決めていたのだった。



「サテラ!西の方向、敵兵が多数いる!バスターブラスターのエネルギーは?まだ残ってる?」


「大丈夫だよ、シズ八。この魔力生成石、魔力エネルギーの生成力が大きいからまだ全然撃つ事が出来る。まだ最大出力でもいけるよ!」


「なら………敵兵の所に向かって!」


「FIRE!!」


 サテラとシズ八の現在地は城壁の上ではなく、敵兵に向かって、進軍して行く味方の兵士達の後ろでサテラはヴォラクから借り受けたバスターブラスターを使って、シズ八はビームスナイパーライフルを使って味方に誤射をしない様にしながら射撃を行っていたのだ。

 ここは前線とは違って、攻撃があまり届かない所であり安全圏だと言ってもいい。強いて言っても偶に弓矢が飛んでくるぐらいなのだが、敵兵は狙いが全く定まっていないせいなのか自分達に命中する気配すらない。

 それにもし敵兵の弓矢が飛んできたとしても視認してからでも余裕で避けられる程の攻撃だったので、回避に困る事も一切なかった。


「よし………サテラ、敵兵の狙撃は結構当たってる。このまま押し切れば、勝てるよ!」


「シズ八、戦場では最後まで何が起こるか分からない。勝つ最後の瞬間まで気は抜かない様にしてね!」


「うん、分かってる!」


 シズ八は若干叫ぶ程の大きさの声でシズ八はサテラに言うと再びビームスナイパーライフルのスコープに効き目を向け、後方に陣形を立てる敵兵の排除を再び行っていった。

 幸い、この狙撃ポイントはまだ敵兵達には把握されていない。まぁ無理ないよね。サテラとシズ八が立つ場所は城の城壁の近くであり、人間の本能的に目がいかない所に2人はいる。

 それに敵兵だって数百mも先が見れる訳でもないので魔法を使い支援攻撃を行う敵兵は2人の姿を視認する事が出来ずにいた。更に普通の歩兵なども全てヴォラク、血雷、レイアの3人が斬りまくっていて、2人を視認する暇すら与えていないのだ。

 もし敵兵がサテラとシズ八を視認する暇なんかがあったらとっくにヴォラクのビームサーベルか血雷の刀かレイアの実態のない剣によって斬り捨てられているだろう。

 お陰で2人は敵の妨害を受ける事なく、戦闘を続ける事が出来たのだ。




























 だが、戦況的に見ればヴォラク達が有利だったかもしれない。しかし、サテラが言った様に戦場と言う舞台ではどちらかが勝利を勝ち取るその最後の瞬間まで何が起こるかは分からない。

 現にヴォラク達5人はこの戦いには勝てる?と薄々感じ始めていた。しかしこの先何が起こるかは誰も想像出来やしない。未来を見る事なんて簡単には出来ない。

 と言うよりもそんな事、誰にも出来ない事は分かっていた。

 しかしやはり油断は禁物だ。ヴォラクは最後まで気を抜く事はしなかった。勿論だが、それはヴォラクだけに留まらず、血雷やレイアも同じだった。



















 その頃、敵兵の大軍の支援攻撃部隊の更に後ろ、シズ八のビームスナイパーライフルやサテラのバスターブラスターを使うのなら、敵兵の支援攻撃部隊にその射線は届くがその攻撃すら届かない所、そこに奴はいた。

 レイアが険悪する奴が、ヴォラクが殺すと心に決めた奴がいたのだ。

 奴は馬に乗り、周囲に自分の女を侍らせ、まるで戦場に立つ戦士とは思えない様な振る舞いで敵兵達の1番後ろに馬に乗りながら立っていたのだ。

 奴、その男の名は「カイン・サブナック」奴は戦場と言う舞台に立ちながらもまるで家で寛ぐ様な余裕の表情を見せ、負ける事に対する焦る様な表情や自らが戦場に出向こうとする様な素振りは見せなかった。そしてカインは着ていた服のポケットから望遠鏡を取り出すとすぐに望遠鏡の穴に目を向ける。

 そしてカインは望遠鏡を覗くと戦場で戦うヴォラク達を望遠鏡を動かしながら何処で戦っているのか探していく。


「さぁ~て、僕のレイアは何処にいるのかぁ~」


「ねぇ、カイン…あんたが言ってた新しい女って奴……いたの?」


「あぁ、見つけた。今、戦場のど真ん中で戦ってるよ。しかも……あの男と女の侍とは別の所にいるらしい……」


 カインは望遠鏡を覗く中でレイアを発見すると舌なめずりをして、奇妙な笑いを見せる。

 その笑いはヴォラクの人を殺して極度の興奮に陥った時のニヤリと笑う表情とは全く違う奇妙過ぎる笑いだった。しかしカインの傍にいる女はカインの奇妙な笑いに対して、怯える様な様子を見せる事はなかった。

 逆にカインの女達は見慣れた様な表情でカインを見ていた。


「ヒヒ……レイア、今君の所に行くよぉ~」


「カイン、行くの?」


「行くよ、これからは僕が出撃する」


「りょ~か~い」


 カインはそう言うと馬から降りる。そして腰にぶら下げていた剣が納刀された剣の鞘を手に取ると剣を抜刀し、すぐに右手で剣を構える。

 カインが持つ県は見た目は普通の鉄の剣と変わらない。デザインも素朴な感じで見た目だけでは特殊な力は感じられない。

 しかし何かが隠されているだろう。あの剣に何も特殊な力が隠されているだろう。逆に何も隠されていないのは返っておかしくも思えてくる。

 まるでラスボスの様な存在感を放つカインの持つ武器が1本だけのただの鉄の剣だと言う事は有り得ないだろう。

 そしてカインは長剣を右手に握ると、馬から降りてレイアが戦っている戦場の彼方に走っていった。カインに着いていく様にして後ろから2人の女がカインに着いていった。

 2人の女は両方美しい見た目であり、誰もが惚れてしまいそうな容姿をしていた。カインは彼女達を夜の時間の為の道具としてしか見ていなかったが、カインの女達はそれでもカインの事を愛していたと言う。



























 現在、ヴォラクと血雷は変わらず、戦場の真ん中に立っていた。しかし、残念な事に戦乱に呑まれていく中でレイアとははぐれてしまい、今は血雷の近くで大軍の敵兵を相手に戦っている。

 血雷はどうやら、大物と交戦中だった。助太刀に入ろうとしたのだが、血雷が「ここは任せときな!」とヴォラクに一言言ったので、ヴォラクは大物は血雷に任せて再び戦場にゾンビの如く湧き出る様な数の敵兵を相手にビームサーベルを振り続けていたのだ。


「くっ、はぁ…はぁ、これで何百人目だ?」


 流石のヴォラクでもスタミナに限界はある。かなりの時間戦闘を繰り広げていたヴォラクは若干の疲労状態に陥ってしまっていた。数時間に渡りビームサーベルを振り続け、ツェアシュテールングやリベリオンを撃ち続け、戦場を駆ける様にして走り、戦い続けていたので疲れてしまうのは仕方ないかもしれない。

 だがまだ残弾はある。ツェアシュテールングとリベリオンを使う為の銃弾にはまだ余裕がある。

 ビームサーベルも魔力エネルギーが切れない限りは魔力により形成された刃を保持する事が出来る為、魔力を半永久的に生み出し続ける魔力生成石を使う事によりエネルギー切れを起こしてしまう事はなかった。


「ったく……敵兵の数は500ぐらいじゃなかったか?まぁ、5人だけで良く殺ったか……味方の兵はもう殆どが……」


 ヴォラクの言う通りだった。最悪な事に今現在この戦場に残る味方の兵士の数はもう少なくなってしまっていた。数の差は力で埋めるとか誰かが言っていたが、もうそんな事を言っている余裕もだんだん無くなってきた気がする。

 味方の兵士は技量よりも相手との数の差で数を減らしていき、どんどん屍に姿を変えていった。

 辛うじて生き残っているのは兵士達の隊長であるバリエルや他の僅かに残る兵士だけだったのだ。


 それに対して、敵兵の数は減っている様子を見せようとはしない。逆に増えているのではないか?と疑いたくなる程の数だ。

 いくら主戦力が5人だけとは言ってもここまで減らないものなのだろうか。一応この戦いが始まった時にはこっちにも300人ぐらいの味方の兵士はいたんだぜ?それなのに現状は味方の兵士は殆どが倒されてしまった状況だ。味方の兵士の残りも少なく、しかも手負いの兵士も存在する。このままでは味方の兵士は全て全滅し実質、5人だけでこの大人数を相手にする事になってしまう。

 技量に大きな差があったとしても、数で押し切られてしまえば意味が無い。戦いはやはり技量よりも数だったのだろうか。


「ちっ、あんま残弾は使いたくねぇけど……使うか!」


 そう小声で呟くとヴォラクは1度敵兵に向かって振り回し続けていたビームサーベルを納刀し、両腰のホルスターからしまわれていた2つのデザートイーグル、又の名を「ツェアシュテールング」と「リベリオン」を取り出した。

 生憎、残弾はまだある。今戦場に湧いている敵兵に使っても問題はない。なら、使った方が良いとヴォラクは考えた。


「ここからは、ちょっと本気出してくぜぇ!」


 ツェアシュテールングを右手に、リベリオンを左手に握り締めるとヴォラクは左右から武器を片手にまるで狂戦士の如く襲いかかってくる敵兵に向かって、連続してツェアシュテールングとリベリオンのトリガーを引き続けた。

 ツェアシュテールングとリベリオンを交互に、そして、タイミング良く引き金を引けば、まるで連射しているかの様に銃弾を発射する事が出来る。勿論だが……これは殺傷能力が非常に高い銃だ。もし体の1部にでも当たりさえすれば……待つのは耐え難い大きな苦痛、もしくは死と痛みを感じる間もなくやってくる「死」のどちらかだ。


 ツェアシュテールングとリベリオンの力はやはり凄まじい威力を誇っていた。

 一撃で敵兵が体に装着していた頑丈な鎧ですら簡単に撃ち抜き心臓、肺、首、頭部を狙ったヴォラクの正確な射撃が多くの敵兵の命を刈り取り続ける。

 ヴォラクは2丁の銃を使い、戦っていたが、片手による銃の射撃では命中精度が落ちてしまうと言うデメリットがあるが、ヴォラクはそのデメリットすら簡単に打ち消す様にして正確な射撃を行っていた。1発の銃弾を外す事なく意図も簡単に銃弾を敵兵に命中させていったのだ。銃を撃つ際に発生する反動で、手が痺れる様な痛みに襲われるが、ビームサーベルを使う時よりもずっと楽な気がした。

 理由としては、ビームサーベルを使う時は振り回したり銃を使う時よりも機敏にそして激しく動くので疲労も銃を使う時と比べると差は結構ある。更にビームサーベルを使って戦う時はこのビームサーベルだけではなく、ハイキックやローキックや回し蹴り、足払いなどの足技も使う為余計に疲労が溜まる事になってしまった。

 え?それなら足技なんて使わなくともいいんじゃなのかな?

 お~い、ヴォラク何で足技使ってるの?余計疲れるんじゃない?


「だって、ビームサーベル1本だけじゃ敵の攻撃、全部いなす事が出来ないんだよ。自分が使ってる武器の他にも覚えている体術とかも使っていかないと、近接戦では生き残れないんだよ。でもパンチは無理だ、ビームサーベル片手に持ってんだよ、それに両手でビームサーベル使う時もあるだよ。それなら足使うしかないでしょ?それに拳で殴るよりも足使って蹴り飛ばす方が威力高いと思わない?だから足使ってるんだ」


 はい、ありがとう。つまり拳は使わないと言う事でいいのかな?拳よりも足で蹴り飛ばした方が威力も高いし個人的には使い易いから拳使うよりはいいと?


「その通りです。僕的には手よりも足です」


 じゃ、頑張れ。この先も何か辛い事とか悲しい事があるだろうけど、頑張れよ←作者


「おい、作者……僕達のストーリーに介入してくんの少しやめてくれ。何か……ギャグ漫画みたいになってる……」


「あ、すいません。すぐにやめます」


 こうして、作者がストーリーの中に介入する事をやめた。

 と言うよりも、もう介入しないで←ヴォラクの意見



























 さて、どうでもよい作者とのお話はここまでにして、話を戻す事にしよう。

 だって戻さなくちゃ、異世界系の小説じゃなくてギャグ小説みたいになっちゃうじゃん、ジャンル変わっちゃうじゃない。


















 遂に銃2丁を取り出し、ビームサーベルではなく銃を使って戦い始めたヴォラク。ツェアシュテールングとリベリオンの銃口から発射された銃弾は1発で敵兵を殺していく。この調子に乗り続ける事が出来れば、敵兵を全て撃ち殺す事は不可能ではないだろう。

 しかしこの様な状況でヴォラクは内心焦りが募り始めていた。

 やはり、もう味方の兵士が少なくなってしまっている事だった。味方の兵士は補充が効く訳ではないので、その数が減れば、また増やすと言った事は出来ないのだ。

 残るのはヴォラク、サテラ、シズ八、血雷、レイア、そしてバリエル率いる兵士軍、その数はもう五十を切ってしまっていたのだ。その数は三十にも満たなかった。その数は後、十人程だったのだ。それもその半分以上は負傷しており、真面に戦えそうな状態ではなかった。もう半場瀕死の状態だ。これではもう殆どの味方の兵士は戦えない状態だったのだ。


 それに対して敵の数はまだ二百以上は残っている。この数をどうやってこの少人数で始末していけばよいのか……それに銃弾だって無限にある訳ではないので、もしもツェアシュテールングとリベリオンが弾切れを起こしてしまったらこの2丁の銃はただの鉄の塊になってしまうのだ。


「いくら弾があるとは言っても、使い過ぎれば無くなっちまう……だが、ここで何もしない訳にも!」


 戦場でのおしゃべりは御法度な気もするが、ヴォラクは独り言をブツブツと呟きながら、ツェアシュテールングとリベリオンの引き金を引き、敵兵に容赦なく銃弾を撃ち込んでいった。


(だが、このまま1人で戦い続けるのは流石に不利すぎるな……誰か支援攻撃を…)


 支援攻撃が期待出来るのは、サテラやシズ八による支援攻撃、レイア、血雷の連携のどちらかだ。

 サテラが後方でヴォラクの武器でもあったバスターブラスターを最大出力状態で戦場のど真ん中に撃ち込めば全ての敵兵を溶かす事が出来て解決するかもしれないが、もしもバスターブラスターを最大出力で撃った場合(ヴォラクの計算上での話)この戦場自体が全て月のクレーターの様に凹んでしまうかもしれないのだ。バスターランチャーと違い、バスターブラスターはその威力を何倍にも増幅させた大型の上位互換武器であり、未知数の力を保有している武器だ。

 だが、その威力が故に最大出力ではまだ使っていない。何故なら、最大出力での威力は不明であり、計算上での話だがその威力はさっき説明した通りだ。

 もし、今サテラがバスターブラスターを最大出力で戦場に向かって撃ってしまったら、敵兵の排除は行えるかもしれないが、ヴォラク達がバスターブラスターの攻撃から避難出来ない可能性があるのだ。

 だからサテラには最大出力では使うなと釘を刺しているので大丈夫なのだが、現在の状況では最大出力でバスターブラスターを使うのも一つの案かもしれないと思った。ヴォラクは別に使ってもいいと言っておけばよかったと後悔してしまった。確かにサテラはバスターブラスターを使って、支援攻撃をしてくていた。しかしその威力は低出力か中出力か大出力だ。一応敵兵は倒せている。何の問題もない。

 シズ八だって、ビームスナイパーライフルを使用して敵兵を回復している回復魔法兵や魔法兵を狙撃してくれていた。2人の事を悪く言う気はない。

 しかし今はバスターブラスターで最大出力使ってくれてもいいとサテラに言ってあげたいが、今ヴォラクはツェアシュテールングとリベリオンを両手に握りながら前線で戦っているので、今前線を離れて後方で支援攻撃をしているサテラやシズ八に何かを伝えると言う行動は行う事が出来ないのだ。

 全く嫌な話だよ。


 そして、血雷は刃に血を浴びた愛刀を握り締めて、強敵と戦って……………


「お……おい、ヴォラク…片付いた……ぜ」


「あ!姉さん!」


 ツェアシュテールングとリベリオンを握りながら周囲を警戒しながら戦っていたが、後ろから辛そうな声が聞こえてきた。

 しかしそれが誰の声なのかと言う事かは分かった。


「くっ、姉さん…………何があった?」


「わ、悪ぃ………勝てたのは良かったけどよ…………少し無理し過ぎたみたいだ………ぜ」


 そこに現れたのは荒い息を口から吐きながら、刃に血をたっぷりと浴びた刀を杖代わりの様にして、重い足取りでヴォラクに歩み寄ってきた女性がいた。

 それは血雷だった。頭部からは額から頬を垂れる様にして血が流れ、着ていた戦闘用の和服も所々が攻撃を受けた様な感じで破れてしまっており、美しい体からも頭部と同様に血が流れしまっていた。

 表情も辛そうな表情をしていて、血に混じって汗も流れてきている。

 このまま放っておけば、この怪我は悪化する事になるだろう。

 ヴォラクの傍に寄ってきた血雷はヴォラクの傍で倒れてしまいそうになってしまったが、ヴォラクは右手で握っていたツェアシュテールングを1度ホルスターにしまうと血雷に自分の右肩を貸した。血雷は素直にヴォラクの肩に頼った。ヴォラクは右腕を使って血雷の腰回りを支える。

 もしも、この状態で敵兵に囲まれて斬り掛かられたら待つのは死だ。ただえさえ、右腕は血雷を支える為に使っているので、武器を持てるのは左手だけだ。利き手でもない左手でどうやって戦えばいいんだ?

 しかし、不思議な事に敵兵は1人も襲ってはこない。と言うよりも敵兵は全員、怯えた様な表情をしていてこちらを伺う様にして誰も足を動かそうとはしなかった。全員何故か「お前行けよ」「いやいや、お前行けよ」みたいな感じで擦り付け合いをしている様にも見えてきた。

 これは……ヴォラクが銃2丁とかビームサーベルとか使ったり血雷の剣術とか凄く魅了される様な技のせいで敵兵の皆さん、完全に怖気付いてしまっている。

 もし自分達から攻撃を仕掛けたら、もしも今負傷しているから攻撃を仕掛けたらその隙に攻撃させるとか。そんな悪い想像が敵兵の脳内を駆け巡っているせいで迂闊にヴォラクと血雷には攻撃を仕掛けられないのだ。それが負傷していようと、疲労が溜まり疲弊してしまいそうだとしてもだ。

 もし攻撃を仕掛けて反撃を受けてそのまま死んでしまったら………想像するだけで鳥肌が立ってしまいそうだった。

 だが、これは嬉しい誤算だ。今敵兵から攻撃を仕掛けられてしまったら2人は間違いなく攻撃を正面から受けてしまって、間違いなく死んでしまっていたが敵が怯えて誰も近付いてこないのでまだ生きる事は出来ていた。

 しかしこんな事はただの延命に過ぎない。もしもこのまま長い時間2人が何もしない状態が続いてしまえば、何もしてこないと敵兵が気付いて、遂に攻撃を行ってくる可能性だって否定は出来なかった。

 このままでは頼れるのはサテラとシズ八の支援攻撃かレイアの介入しか期待する事が出来ない。

 もしも両方が来なかった場合、ここでヴォラクと血雷は死ぬのがオチだ。

 ヴォラクはもう3人に頼る事しか出来なかった。しかし、3人はヴォラクが思ったよりもすぐに来てくれたのだ。

 レイアはヴォラクと血雷とは1度別で行動(と言うよりも戦闘中にはぐれてしまった)していたが2人の危機を察したかの様にすぐに自身の魔力で作り出した実態のない剣である、エクシアを2本両手に握ったままヴォラクと負傷してしまった血雷の元に駆けつけてくれたのだ。

 更にさっきまでかなりの遠距離でバスターブラスターとビームスナイパーライフルを使って支援攻撃してくれていたサテラとシズ八と2人の危機に後方で待機しているのではなく、すぐにヴォラクと血雷の元に駆けつけてくれたのだが………

 この状況、本当に危機にさらされている状況だ。敵兵はまだかなりの数がいる。いくらヴォラク達5人がいるとは言っても、勝てる保証は一切ない。特に近接戦では無類の強さを誇っている血雷が現在は負傷しており、真面に戦えるかどうは分からない。

 それに血雷はヴォラクよりも大きな疲労状態になってしまっており、もし血雷が負傷していなかったとしても疲労状態で動けない可能性だってあるのだ。まぁ血雷はヴォラクの肩を借りているので、上手く戦う事は出来ないだろう。

 後、頼れるのはレイア、サテラ、シズ八だけだ。


「ね、ねぇヴォラク、数だけで見れば……」


「完全に劣勢だよ。何故だ?近代武器の技術を持ってしても……異世界の人間が相手じゃ勝てないのか?」


「な、なぁヴォラク……アタシもう戦えるか……分からんぜぇ……」


「ね、姉さん!しっかり!」


 血雷はとうとう目を瞑ってしまい、動かなくなってしまった。しかし身体は冷たくはならない。疲れ過ぎて気を失ってしまったのか、それとも大きなダメージで気を失ってのか。

 血雷は刀を持ったままヴォラクの肩を借りたまま動かなくなってしまったのだ。しかし言っておく、死んだ訳ではない。身体は暖かく、気を失っているとは言っても微かにだが息をしている。死んだ訳ではないのでヴォラクは安心した。


「ね、ねぇ、ねぇ!ヴォラク!大変……な事に!」


「レイ!?どうした…………なっ!」


 レイアが突然として敵兵が固まる方向に指を差した。しかしヴォラクはレイアが指差した方向を見る事がなかった。

 何故なら今ヴォラクはレイアの事よりも血雷の方に集中してしまっていていて、レイアの指差す方向を見る事が出来なかったのだ。しかしレイアがあまりにも恐怖と怯えが混じる様な声でヴォラクに言ってきたのでヴォラクはレイアの事が心配になってしまったので、ヴォラクはレイアが指差す方向に首を振った。

 しかし振り向かなければいいとヴォラクは思った。その先には今1番出会いたくない奴と出会ってしまったのだ。


「やぁ、レイア、色々見てたけど………もう観念してくれたかな?」


「お、お前……」


 そこに立っていたのはヴォラクにとってはクラスメイトの人間と同レベルの嫌悪感を抱いていた奴が長剣を片手に現れたのだ。しかも現れたのは奴だけではなかった。奴の他にもまだ残っている敵兵や奴の周囲を取り巻く女達など数多くの敵がヴォラク達の前に現れたのだった。


「カイン・サブナックか!貴様、僕達が消耗したタイミングを狙って……」


 ヴォラクの言う通りだ。今ヴォラク達はかなり武器のエネルギーや銃弾を消費してしまっていた。しかも血雷は気を失ってしまっているし、サテラのバスターブラスターは撃ち方、又は威力を間違えたらヴォラク達も被害を受ける可能性があるのだ。シズ八のビームスナイパーライフルだって連射は不可能なのであの大人数を一斉に撃ち抜くのは無理に等しい事だった。

 ヴォラクのツェアシュテールングとリベリオンだって引き金を交互に引き続ければ、それなりに連射をする様な銃弾の発射は行えるがこの行動は弾の消費も大きくなってしまうし、マガジン内の弾が無くなったらリロードを行う必要があるのでそのリロードの間に攻撃されてしまう可能性だって普通にある。それに今ヴォラクは気を失った血雷に右肩を貸していて、右腕が使えない状態なので尚更だった。

 血雷はもう気を失ってしまっていて、動けそうにない。今血雷が戦闘を行うと言う事はもう無理だと考えた方がいいだろう。ヴォラクは気を失ってしまっている人を無理矢理起こす様な人ではないのでヴォラクは血雷には何も言わずに右肩を貸したままだったのだ。

 レイアも既に血雷と同様に敵兵との戦闘が続いてしまったせいなのか疲弊しきっており、今全力で動き続けるのは無理だと思った。レイアは戦闘時に実態のない剣であるエクシアを2本手に作り出していたが今は実態のない剣であるエクシアは2本ではなく1本だけになっていた。これは疲弊が溜まった事によりエクシアの刃を維持し続ける事が出来なくなってしまったのだろう。


「ね、ねぇ…ヴォラク、この状況どうにか出来ないの?良い案……ある?」


「なぁレイ……僕に「闇夜の天帝」を発動させたあの技は使えんのか?あの技ならもしかしたら………?」


「あれは……使えない」


 ヴォラクは絶望してしまった。ヴォラクが縋り付ける力はもうレイアのあの技だけだったのだ。

 あのヴォラクの特異スキルである「闇夜の天帝」を発動させる為に使用したレイアの技であるSilberblut(銀の血)を使用してくれれば現在の状況を変える事ぐらいは出来るのではないか?と思った。

 だが、レイア本人が今「使えない」と言ったのでヴォラクは絶望した様な気になってしまった。

 ヴォラクの脳内にはレイアのこの技を使ってくれると言う考えしか思い浮かんでいなかったのだ。別に他の考えも考えようと思えば考えられるのだが、状況が状況なせいで考える余裕もないのだ。今ゆっくりと脳内で他の考えを思い付かせるのは無理に等しい。

 それにヴォラクは焦りや絶望感により考えが更に思い浮かばず、焦りが更に加速していく。ヴォラクはもうこの状況からの逆転が出来る作戦などは考えられなさそうだった。


「レイア……今僕に着いてくるならそこの下種と女の子達は見逃してあげる。それとも、まだ戦う?この劣勢と言う状況で、まだ抗うの?抗うなら……そこにいる君以外の奴は……全部殺すよ?」


 その時のヴォラクとレイアを見るカインの目はヴォラクの事を軽視する様な嘲笑う様な感じの悪い目だった。

 ヴォラクも実際はレイアや血雷同様に疲労が溜まっている。今この大人数な敵兵と御大将相手に勝つ事が出来る可能性は極めて低いだろう。

 さて、残された選択肢は二つだ。まだ抗い、戦い続けるか。それとも降参するかのどちらかだ。


「そんなもん……僕はま……」


「カイン…もう分かった。私達は降参する。貴方に着いていくから、私の国も城も明け渡すから……もうヴォラク達には手を出さないで!」


 レイアが半場泣きそうな声になってカインに叫ぶ。ヴォラクは「まだ抗ってやる!」と言ってやりたかったが、レイアの言葉の方が先にカインの元に届いてしまった。


「れ、レイ……お前」


「ヴォラク……短い間だったけど…楽しかったよ。貴方のお陰で…私は楽しい時間を過ごせた。でも……もう私には…関わらないで。これ以上私に関わったら貴方の命が無くなっちゃうよ?すぐにここから離れて、もう無関係だと思っていいから……」


「くくっ……クハハ!これは傑作だよ!こんな感じの愛の別れ…1回見てみたかったんだよ!だが、もう茶番は終わりにしよう…さぁレイア、僕の所に来て!」


「…………さよなら」


 レイアは1度ヴォラクの方を振り向いた。その時の彼女がヴォラクに見せた一生懸命作った笑顔は深い悲しみと絶望感に満ちた笑顔だった。泣きたい気持ちを必死に堪えて、ヴォラクに悲しんでもらわないようにする為に彼女がヴォラクに見せた作り物の笑顔はヴォラクの目に焼き付いた。


 そしてヴォラクに背を向け、カインの元へと歩いていってしまった。風により揺れる銀色の髪をヴォラクはただ見つめたまま……ただ送り出す……


 訳がなかった。


「野郎……死ね…」


 ヴォラクは左手に握り締めたリベリオンの銃口を奴の頭部に一瞬で合わせ、引き金を引いた。もしもあの弾が奴の頭部に命中すれば奴は息絶えるだろう……だが、現実はそんな風に上手くはいかなかった。


「お前…後何回傷付ければ気が済むんだよ?その武器は僕には効かないよ?ほら、魔力盾があれば……な!」


 残念な事にヴォラクの持つリベリオンから放たれた1発の弾丸は虚しくも魔力により形成された盾にあっさりと防がれてしまった。防がれたリベリオンの銃弾は握り潰されるかの様にグシャグシャとなり地面に転げ落ちた。その後、ヴォラクは何も出来なくなった。結局ヴォラクは最後まで何も出来なかった。

 ヴォラクはレイアを奴の元へと送り出す事しか出来なかった。もう抵抗手段など残っていなかったのだ。

 レイアがカインの元に辿り着くとカインはレイアの顔を見つめる。


「メインディッシュは最後にとっておかないと……君を僕の物にするのは、最後のお楽しみとしよう……さぁおいで?」


 カインはレイアを横に並列したまま敵兵達と歩いていってしまった。敵兵達がヴォラク達に攻撃を仕掛ける事もカインがヴォラクにトドメを刺す事はなかった。

 ヴォラクの目に映るのはカインの横を絶望感放つ様子で歩いていくレイアの姿だけだったのだ。


「…………………」


 レイアは何も言わなかった。何も言わずにヴォラクの方を1度だけ振り返り、見ただけであり何か言いたげそうな表情だったが声が彼女の口から出る事はなかった……









 ヴォラクは大きな後悔や絶望、そして込み上げる疲労に襲われた。何かしようにも何も出来ない。血雷に肩を貸している事しか出来なかった。その場に突っ立ったままで動く事も出来なかった。同じ様にヴォラクの傍に悲しそうな表情をしながら立つサテラとシズ八。ヴォラクの肩を借りながら動かない血雷。

 もうこの中にヴォラクにフォローをする事が出来る人物は残っていなかった。ヴォラクの表情はレイアよりも酷く、絶望に満ち、全てを失った廃人の様になってしまっていたのだ。

 そして次の瞬間だった。

 突然意識が朦朧とし、立つ事が難しくなってきた。目の前が暗闇に満ちてゆき、全身に脱力感が駆け巡っていく。更に心が痛くなった。


 そのまま曇る空の下でヴォラクは血雷と同じ様に気を失ってしまった。

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