69話「血に濡れし者達.1」
兵士達の手により、低い音を立てながら厚く重そうな門が開門した。
そしてジリジリと開門していく門の先に見えるもの。
それは、敵の軍勢だった。数なんて知った事ではないがとにかく敵が目の前にいて、奴らを殺す事が出来ると言う事は分かった。
ヴォラクは敵兵を全て殺す為に利き手である右手にはビームサーベルを左手もとい左の脇腹に抱える形でバスターランチャーを持つ。
そしてヴォラクの両手に握られた2つの武器は剣や魔法を使う為の杖とは違い、この異世界とは全く違うと言っていいぐらい、圧倒的な場違いな感じと不気味な存在感を放っている。
しかし、その不気味な存在感を放っているのはヴォラクだけではなかった。
実際の所、そんな感じの武器を持っているのはヴォラクだけではない。
サテラやシズ八だってヴォラク同様に近代兵器を所持しており、周りの鎧を着ていたり、剣を持っていたりする兵士とは全く違う空気となっている。
特にシズ八に至っては獣耳(尻尾もあるよ)で巫女服と言う衣装なのに両手に抱えているのはスナイパーライフルと同型の銃だ。完全に異世界の世界観と言うものが吹っ飛んでいってしまっている。
更にこの中世風の世界の中で1人だけで戦闘用の和服を着て刀を抜刀している血の様に赤い髪をした女の人もいるので、不気味と言うものを通り越してヴォラク含めた4人が世界観クラッシャーズになっている。まともなのレイアだけだぜ?
ビーム兵器に獣耳に銃、更には女の侍まで。組み合わせも異色過ぎな気もする。ジャンルって纏めた方が良いんだけど、今は完全に狂う様におかしくなってしまっている。
だが、今は世界観クラッシャーズだとか、不気味だとか言っている暇なんてない。
だってもう戦い始まるもん!余計な事はもう忘れた方がいい。一々変な事を考えていては思考が回らなくなってしまう。
無駄な考えを捨てる。ならば敵兵を殺すだけの考えを使うかもしれない。それぐらいの簡単な思考だ。殺すだけ、その程度の思考なら簡単に理解が出来るとヴォラクは考えていた。
この門が開いて前に進む事が出来る様になった時、相手を殺す事が出来る。
なら一直線に向かい殺すだけだ。
一応言っておくが、ヴォラクは殺しに対する躊躇、戸惑いは一切ない。ヴォラクだって分かっている。戦場で殺す事を躊躇えば自分が殺されると、人の命がどうだとかもう戦えない奴は殺さないだとかそんな生温い考えは絶対に捨てるとヴォラクは決めていた。
無力化する気もない、傷付き動けない敵をもこの手で殺すつもりでいた。このぐらいの覚悟を持ち合わせていないと自分が簡単に殺されると思ったからだ。
自分の手が血で真っ赤に濡れようと構わなかった。たとえ身体中が血で塗り替えられたとしても殺す事に戸惑いはない。
敵は敵だ。敵だと言うのなら、自分、仲間の障害になると言うのなら殺す選択肢を選ぶだろう。
ヴォラクは既に数人の人間の命を殺めている。今更後ろに戻る事なんて出来ない。自らの手で殺めてしまったのなら、このままその血塗れの道を身体中に血を被って歩いて行こうじゃないか。
いつか自分が引き裂かれて真っ赤な血の雨を降らそうと、それでもヴォラクは血に濡れながら前に進むつもりでいた。戻る気など一切なかった……
しかしヴォラクにはサテラやシズ八にあの美しく綺麗な手を血で濡らしてほしくはなかった。なのでヴォラクはサテラには命令として「殺すかどうかは自分で決めろ。無力化だろうと殺そうと構わない」と命令した。
サテラの目はまだ人を殺す覚悟が出来ている目ではなかった。まだ人を殺す事に恐れている。この戦争と言う戦いの場に恐怖していた。
そしてその手を血に濡らすのはまだ出来ないと言う表情だった。
シズ八だって同じだった。一応冒険者であり、魔物との戦闘は恐らく経験上行った事もあるだろう。きっとその手で魔物や魔獣を殺めた事だってあるだろう。しかしサテラ同様にシズ八もこの戦いを恐れている様に見えた。人を殺した事は彼女にもない。シズ八も人を殺す事に大きな抵抗があると言う事は分かっていた。
シズ八はまだ答えを導き出せてはいなかった。殺すべきなのか無力化するべきなのかの選択を決める事は出来なかった。ただシズ八はサテラと共にいるしかなかった。
今は不安になりシズ八はサテラの手を握っていた。不安がるシズ八の手をサテラは慰める様な表情でシズ八を見つめていた。シズ八の表情が少しだけ安堵した表情になった。
そして、もう門が開く。その先にはもう敵の姿が見える。さぁ、いよいよだ。とうとう待ちに待った殺戮と言う名のショーが始まる。ヴォラクはいきなりバスターランチャーを………っと違う。バスターランチャーは背中に背負い、取り出したのはビームサーベルとツェアシュテールング。
この2つを使い、中近距離戦闘を容易に行える様にする。
ビームサーベルで剣などで攻撃してきた敵の迎撃、又は銃で仕留めきれなかった敵のカバーにも使うつもりだ。
そしてこの戦いの中で重宝されるこの銃「ツェアシュテールング」と「リベリオン」だ。この2つはこの世界には存在しない技術により開発された近代兵器だ。形などの造形、造形通りのパーツを作ったのはレイアであるがこのアイデアや銃のパーツの組み立てなどを行ったのはヴォラクだ。
この銃、銃口から超速で金属製の銃弾を発射する武器だが、この世界にはこの銃と言う武器は存在していないらしい。
これは好都合だった。何故なら銃は魔法などと違い、魔力消費はしない。するのは銃の弾だけだ。しかも銃は魔法と比べればその威力は非常に大きなものになる。
銃なら当たり所が悪ければ一撃で死に至る凶悪な武器でもある。魔法だと耐性などで防がれる場面があるかもしれないが、この銃ならその弾で胴体、頭にでも大穴を空けてそのまま殺す事が容易に出来るのだ。
これなら相手に武器の性能を知られる事なく一方的な蹂躙を行う事が出来る。だが、この銃にも弱点は存在する。
説明は不要かもしれないが、簡単に説明だけしておく。
弾切れしたら使い物にならなくなる!理由、弾が切れたらもうどうにもならない。補給しないとただの鉄の塊になるよ!なので残弾には注意して戦おう!
以上!
上記の事にならない様にする為、ヴォラクはレイアと時間を割いて銃弾の製作を長い時間をかけて行っていたのだ。
その弾の数は全て合わせれば何百個、いや千単位の数に上るかもしれない。
銃弾に関しては自分で持てない分は補給班に譲渡してある。
現在ヴォラクが持っている弾の数は大体百個前後だ。更にマガジンが誤作動、又は破損した時の為にも予備のマガジンも所持している。両方リペアのマガジンを3つずつ用意した。これなら万が一マガジンなどが破損してしまったとしても予備のを使用し、再び戦場を駆る事が出来る。
「開くよ、ヴォラク!」
レイアの声と共に遂に門が完全に開いた。門の先にいるのは、勿論だったが大量の敵の山だった。敵兵は既に開いた門の少し離れた所から既にヴォラク達に向かって走ってきている。
もしもここでずっと固まっていたら即刻斬られて死ぬのがオチだろう。しかしヴォラクはただ固まる為にここにいる訳ではない。この膨大な数の敵を全て斬り捨て撃ち殺しレイアを守りきる事だった。
相手の数なんて知ったこっちゃないが、数えきれない程の数の敵がいたと言う事は分かった。
ならば全て自分の手で殺すだけだ。ただ壊すだけ。それだけの数の敵兵を殺す事が出来るのだ。
これ程までに嬉しい事はない。そして脳内からアドレナリンが分泌されて極度の興奮状態になっていたヴォラクは恐怖心や不安が全て取り除かれている様な気がした。
勿論だが、相手は徹底的に殺すつもりでいた。みすみす逃がすなど生温い。たとえ生を懇願しようともそれをヴォラクは許す気がなかった。
今のヴォラクはSな所が見えていた。相手を傷付け痛め付けて殺す。その行動に興奮や嬉しさを覚えていたからだ。完全にヴォラクは異常者になりつつあった。
今更もう戻れないのかもしれない。1度踏み入れた道を引き返す事なんて出来ないのかもしれないとヴォラクは思った。自分と向き合う事が大切なのかもしれない。この邪悪に満ちている様な自分と向き合う、素直に受け入れた方が良いのかもしれないを
そして今回の戦いの中でヴォラクは鎮圧と殺害と防衛この3つをヴォラクは行おうと思った。
よし、向かってくると言うのなら全て制圧するまでだ。ヴォラクは覚悟を決めたつもりだ。
それはヴォラクだけではなく、この場にいるサテラやシズ八、血雷、レイアだって覚悟ぐらい決めているだろう。
ならば覚悟が出来ていると言うのならその相手に全力で報いるまでだ。ヴォラクは右手にビームサーベル、左手にツェアシュテールングを握り締めると敵兵に向かって全速力で走り出した。
止まる事を知らない猛獣の様に猪突猛進に突っ込んで行った。
「行くぜぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
ヴォラクが走り出すと同時に血雷やレイアも同じ様に走り出す。
2人はヴォラクに着いていく形で走り出した。
「おっしゃぁ!百人、いや千人斬ってやらぁ!」
「やっぱりこうなるのかなぁ!?」
3人を先頭に後ろからバリエル率いる兵士達も3人に賛同する様に走り出した。
バリエルは片手で大きな両手剣を軽々と持ち剣の尖端を敵が待つ先へと向ける。
「攻撃部隊、突撃ィィ!」
兵士達は大きな声を上げながら前方へとガムシャラに突撃していった。
サテラとシズ八は攻撃部隊の後ろの方で援護射撃が行える位置に着くのを待った。まだ早い。今援護射撃を行うには場所と時間が悪過ぎる。
今射撃を行える場所はないし、今撃ったら味方の兵士に誤射してしまうかもしれないと思ったからだ。サテラとシズ八は緊迫とした表情で援護射撃が行えるのを静かに待っていた。
ヴォラクは敵兵の塊のど真ん中に突っ込んでいく。 ヴォラクは血雷やレイアよりも足が速かった様なので馬鹿正直にたった1人で敵陣に斬り込む兵士の様に果敢に戦いを挑んでいった。(ヴォラクの50mのタイムは6.3秒)
止まる事を知らない彼は速攻で敵兵士の正面に突っ込むとビームサーベルの刃を展開し獲物を探す。とは言っても、敵はこの数だ。獲物なんて探さなくとも山の様に存在する。
ならば片っ端から斬って斬って撃って撃って斬りまくり撃ちまくる。ただそれだけを考えて戦いを仕掛けていった。
そしてヴォラクは突撃してきた敵兵士達の中から1人をロックオンする。敵は鎧を身にまとい、一般的な鉄で作られた鋭利な長剣を所持している。剣だけを所持している敵兵もいるが、それ以外の敵兵もいた。
まぁそんな事ヴォラクにとってはどうでもよい事だった。
ヴォラクは神速の如しスピードで敵に急接近すると超速でビームサーベルの尖端を前方に突き出した。
「死にな…」
無慈悲な一言とビームサーベルの攻撃によりビームサーベルは敵兵の1人の体を意図も簡単に貫いてしまった。あの鉄により作られた鎧すらも簡単に貫いた。敵兵はヴォラクに剣を差し向ける前に即死した。
自分が最初はビームサーベルで貫かれたとも知らなかった様に…
しかしいちいち死体に情を入れていたりノロマな行動はこっちが殺られる事になってしまうので、ヴォラクはすぐに次の行動に入る。
すぐさまにヴォラクは貫いた敵の死体を蹴り飛ばしてしまった。ビームサーベルにいつまでも刺さったままでは戦えないし、丁寧に引き抜く暇なんてある訳ないので、勢いよく敵兵の死体を蹴り飛ばしたのだ。
蹴り飛ばした衝撃によりビームサーベルに突き刺さっていた敵兵の死体はビームサーベルから引き抜け、前方に飛んでいった。
飛んでいった敵兵の死体は後ろで剣を構えていた他の敵兵に当たり、敵兵は死体に当たってしまった事で体制を崩してしまい、よろめいた。
しかしヴォラクはこの瞬間を見逃す事はなかった。戦場では1つのミスや隙は死に直結する事が多い。今回だってそうだ。姿勢を崩し、対応が遅れる。たったこれだけで死亡してしまう事だって普通に有り得るのだ。
戦場では、1分1秒で勝敗も分かれてくる。たった1つの行動阻害やミスにより自身に死を運ぶ事は普通に有り得る事なのだ。もしも敵に隙を見せてしまえば、次の瞬間待っているのは死だ。それは絶対に避けたいので、ヴォラクは隙を見せようとする事は一切なかった。
そして蹴飛ばされた死体に当たり姿勢を崩して、よろめいてしまった敵兵の隙をヴォラクは見逃さない。超速でよろめいた敵兵に近付くとすぐさまその隙を見逃さずにビームサーベルを使ってどんどん斬り捨ててきった。斬り方とか剣の太刀筋とかは一切分からないので殆ど雑にただ斬りまくっているだけだ。
どんな風に斬るのかだなんて聞かれてもヴォラクには分からない。ヴォラクはただ斬りまくっていた。ビームサーベルを使い、自分に向かってくる敵兵をただ斬り捨てていた。
時間の事なんか全て忘れて百人?何百人と斬り続けていた。剣じゃなくて銃を使いたかったのだが、今はどうやらまだ使う時ではないだろうとヴォラクは思っていた。切り札はまだもう少し先に出すべきだ。いきなり手の内を晒す事は良い事ではなかった。
まだだ。まだ、使う時ではない。
しかし、戦場では前だけではなく、後ろ更には左右もちゃんと見なければならない。戦場では隙を見せれば即殺されるのが普通なので、常時周りを警戒し状況確認を行わなければならない。
例えば?ヴォラクが今後ろを振り向けば、前ばかりに夢中になっていたせいで後ろから敵兵の剣が振り下ろされていると言う事に気付く事はなかった。このままでは脳天ぶった斬られてあの世送りだが、生憎ヴォラクには協力者がいたのでそうはならなかった。
「お、危ねぇ………シズ八、サンキューな」
既に後方ではサテラはバスターブラスターによる高火力支援攻撃、シズ八はビームスナイパーライフルによる遠距離支援攻撃を行っていた。実際、さっきは後ろから斬られそうになったがシズ八がその敵の胴体を見事撃ち抜いた。
シズ八が狙撃している所とヴォラクが戦っている場所の距離はかなり離れてはいるが、シズ八はヴォラクに迫る危機を見逃す事なく見事スナイパーライフルを使い敵の体を撃ち抜いたのだった。
ヴォラクは心の中でシズ八に感謝の言葉を述べていた。
そして自分の命を命拾いした事に大きな安心感を覚えた。
しかし命拾いしたのは良いのだが、依然として数の差は恐ろしい事になっている。これではさっきの様に背後から斬られる事が多発してしまいそうだ。この大人数相手に背中を取られない様にするのは正直無理だと感じた。相手が一般兵だとは言え、数が数だ。いくらとても強い兵士がいても相手の数が多過ぎては手に負えなくなってしまう。質より量か、量より質かどちらを選ぶだろうか。相手は質より量を選んでいる様だ。この戦場における敵兵の数は尋常な数ではなかったからだ。
これでは何度死の淵に立たされるか分からない。この数では1人が強かったとしても、数の差で後ろを取られる事も多数あるだろう。
さてどうしよう。このままでは1人で大多数を相手にする事になる。敵1人1人を銃なんかで撃っていたら弾切れする事も目に見えている。そうなったらヴォラク自身の戦闘力は低下してしまう。
なので剣を使って敵兵と戦わなければいけないのだが、ヴォラクは剣を使った戦闘はあまり好んでおらず、更に敵兵の数が数なので1本だけの剣で戦っていては力があったとしても、数の差と言う名の暴力で捻じ伏せられる事になってしまう。
こうなってしまえば、1人だけで何千人を始末するのは流石のヴォラクでも特異スキルである「闇夜の天帝」が発動しない限りは無理なのでここは誰かに協力をしてもらう必要性があった。
つまり、誰かに自分の背中を預ければ少しは不安が減るのではないか?とヴォラク考えたからだ。
勿論だが、頼る相手は決まっていた。同じ様に剣を使い今同じこの戦場で戦う仲間と言う存在がいた。
ヴォラクはすぐさまに頼る為の相手の名前を叫ぼうとしたが、叫ぶ前にその女はその名を呼ばれるのを待ちわびたかの様にしてヴォラクの前に現れる。
「手伝ってやるよ!」
「……姉さん!」
大量の敵の山を掻き分ける様にして敵兵の大軍の山の中から現れたのは彼女だった。
血の様に赤く後ろに結ばれた髪と美しい髪飾りを付け、戦争用に改造された和服、そして血が着き鈍く銀色にギラりと輝く長刀と手を保護する為の和風な篭手を取り付けていた女性。
それを自分の目で見た時自分の目の前に現れたのが誰なのかは人目で分かった。
自分の義理の姉である女性が助太刀に来てくれたのだ。
「よっと、ここは共同戦線と行こうじゃないかぃ、ヴォラク?」
「姉さん、ここは背中を任させてもらうよ」
「へっ、千人叩き斬ってやらぁ!」
「それは無理だよ」
「おっ?何でそんな事アタシに言うんだ?」
「………姉さんに千人も残す訳ないでしょ!」
「上等だ!」
2人は互いの背中を任せた。ヴォラクは血雷に、血雷はヴォラクに背中を任せたのだ。
ヴォラクと血雷は互いの背中を任せると、互いに前方に駆ける様にして走り出した。
敵兵士に全方向から円状の形で囲まれてはいたが、2人は全く恐れる様子を見せず、恐怖を忘れた獣の様にして敵兵へと向かって行った。
「さぁ、地獄に行く覚悟は出来たかぁ!?」
「全く……骨が折れそうだよ!」
ヴォラクはビームサーベルを片手に敵兵を無慈悲にも斬り続けていく。ビームサーベルの斬れ味は相変わらず恐ろしいものだった。
まるで豆腐を切るかの様な感覚でどんどんと敵兵を両断していく。鎧すらも簡単に斬り裂き、ビームサーベルと鉄の剣との鍔迫り合いを起こす事もなかった。鍔迫り合いを起こす前に鉄の剣はビームサーベルにより簡単に真っ二つになり、剣なんて無いのと変わらなかった。
こんな風に本当の剣を使った経験なんて全くない。あるのは姉と竹刀を使って斬りあったぐらいだ。それもそんなに長い時間行っていた訳ではない。少し付き合わされただけだ。
しかしそれ程度の腕だと言うのに、ヴォラクは敵兵を相手に怯まず、互角以上の力を見せつけていた。相手が斬る前にこちらがビームサーベルを使って斬る。殺られる前に全てを破壊する。
この様な戦い方でヴォラクは戦っていた。そもそもビームサーベルは敵兵が持つ鉄の剣を簡単に破壊する事が出来るので攻撃を食らう事もあまりなかった。これもやはり技術の差と言うものなのだろうか。
数はこちらが不利だが、武器などの技術の差ではこちらが勝っているだろう。数の差は武器の技術の差で埋める。
それなら、勝利を掴む事は難しい事ではないと思ったからだ。
そして………技術の差があり、こちらが勝っていると分かったのなら、後は敵の数が0になるまで斬り続け、撃ち続けるだけだ。
ヴォラクは今、ツェアシュテールングやリベリオン、バスターランチャーを使わずにビームサーベルを使って敵兵を全て斬り続けていた。
スナミナ切れはまだ起こしてはいない。まだ全然体は動く事が出来る。不思議と自分の体はまだ疲れている様子を見せなかった。
息切れを起こす事もなく、重度の興奮に陥っていたヴォラクはビームサーベルを片手に敵兵を斬り続けていたのだ。
ビームサーベルによって体を斬られ、血を吹き出しながら死んでいく兵士の返り血がヴォラクの体を真っ赤に染め上げていく。ヴォラクの着ている闇の様に真っ黒の様な黒色の服さえも敵の返り血により赤く染まり上がる。しかし血に濡れたのは服だけではない。黒色の髪、彼の顔、身体中全てが真っ赤に染まり敵兵を震え上がらせる様な風貌になっていた。
そして今回は仮面は付けていないのでヴォラクの素顔は丸見えになっている。仮面を付けてながら戦っていては、視界に僅かにながら制限がかかってしまうのでヴォラクは仮面は外し、素顔を晒しながら戦場の真ん中で戦っていたのだ。
えっ?自分の正体を知られるって?そんな事はない。全員、一人残らず全て殺して血の雨に変える。全て殺してしまえば自分の正体を知られる事はない。
後は、全てを捩じ伏せるだけだ。このまま只管に斬り続けていけば相手の敵兵が全滅するのは時間の問題だ。
相手が弱ければ話にならない。血雷はこの戦場に立っていた時、敵兵があまりにも弱すぎて正直な話つまらない。
刀を思いっきり一振すれば、数人の敵兵は簡単に血を吹き出して倒れていく。彼女が持つ刀は敵兵が持つ普通の鉄の剣とは全く違う剣だ。
彼女が持つ剣は見た目こそ普通の刀に見えるかもしれないが、その刀は死んだ父親の形見でありその刀には父親とその刀を作ってくれた人達の力が宿っている。
刀の刃全てには、常時魔力が定着させており魔力により形成された剣とも斬り合う事も出来る。
更にこの刀からは刀の刃の形をした殺傷能力のある魔力の物体「斬波」を発生させる所謂斬撃波を発生させる事が可能であり、ある程度の遠距離攻撃も可能だ。
この「斬波」は斬撃を魔力の刃に変え、遠くに飛ばす技だ。
現に今の戦闘でもこの「斬波」は多用させてもらっている。更に血雷はこの「斬波」の派生技を多く習得しており、斬波以外にも父親から教えてもらった技や自分で生み出した技など1つだけ技だと言うのにその種類は様々だ。
その他にも多くの技を血雷は習得している。
例えば?それなら、実戦で見せた方が早いと思うよ。
「ったく、活きがいいねぇ~それじゃ……」
血雷はさっきまで、右手だけで握っていた刀だったが血雷は両手で刀を持ち、霞の構えを取る。構えを取った時、自分の手の震えにより刀が揺れる事はない。
1度血雷は、深呼吸すると口元に笑いを浮かべる。刃が血によって赤く染まった太刀を握り、敵兵の血に濡れ赤くなった服が敵兵の目に焼き付いていく。
その血雷の姿に恐怖する者もいた。他にも彼女にはまだ勝てると思う者もいた。そして彼女を捕らえて手篭めにしようと考える物知らずな者もいた。
だが、どんな奴が目の前に立ちはだからろうとしても全てヴォラクと同じ様に斬り伏せるだけだ。血雷はヴォラクと違って銃を持たないので本当に刀のみで戦う事になっている。遠距離での戦闘は行えないので不利と見えるかもしれないが、血雷は身体は女ではあるが心は立派な侍だと決めていた。
負ける事なんて考えない。勝つ事だけを考えていた。血雷の脳内に「敗北」の文字は浮かんでいなかった。
「一撃で屠る!」
血雷は霞の構えを取り、太刀を構えると大量の敵兵に向かって全速力でたった1人で太刀1本を両手に握りながら走っていったのだ。
血雷は大量の敵兵を前に怯む様子は一切見せない。武器を構える敵兵の山を前に血雷は再び口元で笑みを浮かべると、言葉を叫ぶ。
「いくぜ!………百花繚乱!」
血雷の太刀から突然として桜の散る花の様な花吹雪が宙を舞い始める。桜の花吹雪は彼女の太刀の刃から咲き乱れる様に舞い、全てを包み込む様に空の上を駆けていた。
しかしその散る桜の花は彼女の髪の色と同じ様に赤色に染まっていた。
「な、何だこれ?花か!?」
「怯むな!所詮はただの花びらだ。全て斬り落とせ!」
「………へっ、ただの花びらだと思うんじゃねぇぞ!」
敵兵は血雷の太刀の刃から出現した桜の花びらはただ空を駆けるだけだと思っていた。しかしそれは大きな間違いだった。
それはただの花びらでも桜吹雪でもない。紅の如く赤色花びらは徐々に集まってきて、まるで1つの道の様になっていく。まるでそれは大きな大きな1匹の紅の龍の様だった。
集まってゆく紅の花びらは紅の刀の様な形を取り始める。そして尖端は刀の様に尖っている。あれで体を突き刺されれば致命傷は避けられないだろう。
血雷は刀を構え、敵兵を既に斬り始めていた。斬って斬って斬り続けていた。そして空を舞う紅の花びらはその1部だけが血雷の周りを取り囲む様にして舞っていた。
まるで付き従っているかの様に血雷の周囲に纏っていたのだ。
「な、これは?」
「教えてやろうか、一般兵?」
「な、何を!?」
「百花繚乱……それが……こいつの技だ!」
更に血雷は太刀を振るい、敵兵をまた血の雨に変えていく。
斬りに斬り続けて、再び彼女の体は血に染まっていく。乾きかけていた血は再び潤い、新鮮な血が彼女を染め上げていく。
「囲め、囲め!相手は1人、それに女だ!数で押し切れぇ!………………………え?」
「女で1人で悪かったな…」
約十数人相手で敵兵が同時に血雷に斬りかかってきたが、物の一瞬で敵兵が全て屍に変わってしまった。
血雷に憑く様にして周りで空を舞い、咲き乱れる様に動いていた紅の花びらが剣の刃の様な形になり、血雷を取り囲んでいた全ての敵兵を血の雨に変えたのだ。
咲き乱れる紅の花びらは剣の刃の様に鋭くなり駆ける様にして機敏に動き、血雷に攻撃を仕掛けようとしてきた敵兵の体を紅の花びらの集合体が貫いたのだ。
その花びらの斬れ味はもはや普通の剣すらも上回る程の力だった。一瞬で貫かれた敵兵は貫かれた事に気付く間もなく死んでいく。
それを見た周りの敵兵は体を震わせ、足が竦んで動く事が出来なくなっていた。
紅の花びらに貫かれた敵兵は、簡単に地面に崩れ落ち静かにその一生に終わりを告げてしまったのだった。
そして血雷は余裕の表情を見せ、両手で握っていた刀を片手で持つと懐に忍ばせていた煙管を取り出し、戦場の真ん中で煙管を吸っていたのだった。
「来いよ、1匹残らず片ァ付けてやるよ」
「く、こいつ!」
「誰か、誰かこいつと戦える奴は!………」
「なら、ここは俺に任せてくれないか?」
「ん?誰かいるのか?」
それなりに斬ったと思ったんだが、まだ大量に兵士は残っていた。
そして敵兵の後ろから現れたのは、体付きが良く大きな体型に恵まれた男。体は何処か魔人に似た体の色をしていて、どう見ても男の肌は肌色には見えてこない。変色した様な肌をしている。恐らく人間と魔人か魔族のハーフだろう。故郷でも魔族の奴には会った事があるからだ。
その男の身長は血雷よりも大きかった。(血雷の身長は173cm、ヴォラクは168センチ)
手にはかなり大きな大剣を握っている。剣の全長だけで見てもその長さはかなり大きなものだ。リーチの差では血雷が圧倒的に劣ってしまっていた。それに敵は体も大きく力にも差が発生しそうだった。
だが、血雷は怯んだり怯える様子は見せなかった。寧ろ強い相手が見つかって喜ぶ様な表情を見せている。顔に付いた真っ赤に血を少しだけ舌を使って舐めると再度目の前に現れた男を見つめる。
「貴様が敵大将の仲間か?」
「あぁ、そうだぜ。だが言い方が悪ければ傭兵って言った所だが、一応仲間って事にしとくぜ」
「そうか……なら、貴様と戦う前に名乗りを上げよう。俺の名は「ガブリエル・マーレ」カイン殿の忠実な下僕であり、貴様を討ち取る者である!」
「「血雷」それがアタシの名だ。邪魔するってんなら……ぶった斬らせてもらうぜ!」
血雷は再び太刀を両手で握るとガブリエルの懐に目掛け飛び込んで行った。さっきまで戦闘を行っていたが呼吸が荒れる様子を見せる事はヴォラクと同様になかった。
血雷は太刀を上に振り上げると脳天をかち割る勢いでガブリエルに太刀の刃を叩き付ける。
「こんのぉぉぉ!!」
「これは、中々…」
「へっ、どうやら雑魚しかいない戦場……って訳でもないらしいな。ここは正々堂々と……」
「勝負させてもらおう!」
2人は荒い叫び声を上げながら太刀と大剣を乱雑にぶつけ続けた。
ガブリエルの剣は刃に魔力を定着させているのか、血雷の太刀と鍔迫り合いが起こる。強すぎる斬り合いのあまり剣同士がぶつかり合い、火花すら起きてしまいそうなぐらいだ。
しかし、血雷は止まる事はない。その命が砕け散るまで抗い続けるつもりだった……
前編はこれで終わりです。後半編もあります。