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5話「仲間」☆

 


 酷い事だった。自分は死んだ人間として見られていた事に。


 これでもう仮面は絶対に外せない事になってしまった。もしも仮面の下を見られたら、その瞬間本当に終わりだ。



 ヴォラクの表情は仮面に閉ざされたとしても、仮面の下にある表情は怒りと悲しみの二つが入り乱れていた。



(取り敢えず、ベルタさんの所に行こう。無事を伝えなければ…)



 寂しさを噛み締めながら、風が吹く道を一人で歩いていた…



 ベルタの店に入ると、ベルタはいきなりヴォラクの前に立った。


「凱亜!お前、生きてたのか?」


「はい、勝手に死んだ扱いになってますけど…この通り僕は生きてます」


 仮面を外して、近くにある椅子に座り込んだ。


「まぁ座れ。話を聞こう」


「今日…クエストの後に新聞が売ってたんですよ。そこに人だかりが出来てて、何があったのか確かめに行ったら…僕が死亡している事になっていたんですよ。それが多分周りに広まったんですよ。ベルタさんもこの事は知っていましたよね?」


「ああ…知ってる。この話を知った時は驚いたよ。でも、お前が生きていてくれて嬉しい限りだ。じゃあ死んだ話は嘘だったんだな」


 森で見つかった遺体は別の人の遺体だった事がベルタには伝わったようだ。ヴォラクは安心した表情を見せる。しかし周りの人間にはヴォラクが死んでいない事が伝わっていない。この事を知っているのはベルタだけなのだ。



「しかし、これでもう仮面は外せねぇな。顔を見られたら生きる事はもう無理だ。俺はこの事を内密にするが、くれぐれも他の奴には言うなよ」


「はい、これからは周りにも気を付けて行動します…それじゃ僕はもう行きます。ベルタさんに生きてる事を伝えられてよかったです。それにまた話せて良かったです」


「ああ…俺もお前が生きてる事が確認出来てよかったよ…またいつでも来いよ。俺はいつ来ても歓迎するからな」



 ヴォラクは後ろを見ながら手を振ってベルタの店から静かに出て行った。








 そして凱亜が死んだ事が周りに伝わってしばらく経った。周りは自分の話題で話す人が多数いた。召喚勇者の一人が死体で見つかれば当然の事だった。でも周りは悲しさよりも嬉しさの声が混じっていた。


「聞いたか?あの偽物勇者。死んだらしいぞ」


「当然の報いだろ?強盗と女性に酷い事をしたんだから」


「あいつは勇者じゃ無くて悪人だから天罰を喰らったんだよ。死んで普通さ」




 悲しさより自分の死をまるで嬉しい様に言っている人間に疑問を抱く。何故こんなにも残酷なのか?何故人間は周りに流されて、偽りの考えに賛同してしまうのか?何でそうするのか、彼には一切分からなかった。

 そして、また恐怖が浮かぶ。もしも、生きているとバレてしまった時は?どうなる…

 バッシングからのkillかな?

 もう、精神的には死にかけている。

















 心に残る疑問と怒り、そして恐怖を消す為にただクエストに熱中した。毎日何度も何度もクエストを受注して、モンスターを銃で狩り、殺し、消していく毎日。宿には泊まらずに外で寝る毎日。


 一体自分が求めた異世界とは一体何だったのか?

 こんなにも自分が追い詰められ、心が蝕まれる事は無かった。疑問、怒り、悩みの連続。

 日を重ねるごとに心が壊れていく様に感じてしまう。

 一体今頃クラスの奴らはどうしているのだろうか。楽しく、皆で協力し合いながら戦っているのだろう。

 美味しい飯を食べて、ベットで眠る。そんな生活をしているだろう。

 それに対して、僕は宿に泊まる事すら出来ず、あまり金の節約の為に不味い飯を食う事もあった。

 一体この心の隙間には何を埋めればいいのか。

 1度真剣になって考えてみる事にした。

 心の傷、これを治す為には、心の隙間、これを埋める為には…どうすればいいのか……




















 そして考えた先に、自分には話し相手が欲しいとヴォラクは思った。この最近は誰とも接さずに話さずに一人で時を過ごしていた。誰かと話したいと思った自分をヴォラクは見つけた。ヴォラクはすぐに行動に移す事にした。



「誰か…この酷い話を聞いてくれる人がいればな…クエスト受注所で仲間を探すか…」











 クエスト受注所に行き、仲間を募集している人を探す事にしたが、現実はそんなに簡単では無い。










「あの…良かったら一緒にチームを…」



「…え?ちょっと、えっーと結構です」

 


「す、すみません。お断りします!」



「ぎゃー!モンスターだ!」



「ちょっとお前怖いんだよ!近寄るな!」




 見事に誰も組んでくれなかった。当然だ。顔が完全に見えない仮面を付けていて、服装も悪魔の様な赤と黒色のコートとズボンは人と接するには少々の無理があった。理想が高すぎた様だった。


 気が付いたら周りからは人が消滅した様に消え去っていた。半径数mには誰も近付いていない様にも感じた。


 溜め息をつきながら、クエスト受注所を後にする事にした。ここに居ても仲間が出来る気がしないと感じたからだ。


























 その後歩いている時、やはり仮面を外すべきでは無いか?と思った。この仮面のせいで自分の見た目と第一印象を最悪にしている事には薄々気付いていた。「やっぱり外そう」と思い、仮面を顔から脱ごうとした時、あの時の出来事が脳裏に蘇る。


 自分はもう死んでいる事になっていた。

 もしもこの素顔を見られてたら、自分は一体どうなるのか?仮に何も無かったとしても、また周りから差別される事には変わりは無い。

 一度犯した偽の罪は消えない。たとえそれが偽りの行為だったとしても…やはりこの仮面は外す事が出来ないと思い、仮面を外す事をやめ、仮面から手を離した。


 


「仲間が…仲間が欲しいよ…」




 しかし仲間がいないとこの後かなり厳しくなる。そして今は誰かと話したい。友達とか話せる人なんて全くいなかった。ここで分かった。話し相手がいない事はとても悲しい事でもあった事を。自分は話し相手が欲しいと思っていた。

 このまま独り身のままでは、本当の自分が消えてしまって、偽りの自分になってしまう事が分かる。仮面の後ろに隠れる弱虫な人間の様になってしまうのだろうか…

 そんな事を少し考え、独り言を呟いていると、後ろから低い声が聞こえる。





「冒険者様。貴方…仲間が欲しいのですか?」



「誰だ!?お前は!」


 咄嗟にツェアシュテールングを引き抜き構える。しかし彼に話しかけて来たのは敵では無かった。


 黒色のスーツの様な服を着た、少し小柄で小太りの男が杖をつきながら立っていた。



「初めまして。私は『バラダ』と申します。奴隷商人をやっております。以後お見知り置きを…」



 男は奴隷商人だった。さっきの独り言を聞きつけて、ヴォラクの元へとやって来たのだと思った。


「あんた……まさかさっきの事、聞いてたのか?」


「はい。その話が本当なら、私があなたにぴったりの奴隷を見つけてあげましょう。私の目は素晴らしいので」


 そのままバラダは暗い路地に歩いていってしまった。

 少し怪しくて、彼に着いて行く事には少しばかり気に乗らないが、今の自分に仲間を集める方法はこれしか無いと思い、バラダの後をついて行く事にした。











 暗い道を歩くと、人気の無い広場に着いた。周りはまだ夕方なのに暗く、まるで不意に幽霊が出てきそうな雰囲気のある場所だった。


 バラダが指を指す。その先には大きな小屋の様な建物があった。間に合わせの様にも見えなくないが、決して手抜きで作られている訳ではないらしいので、崩れる心配はなさそう。多分…



「この中です。お入りください」


「ああ…分かった」




 中に入った瞬間、アンモニア臭の様に鼻を刺激する匂いが自分の鼻の中に入りこむ。掃除はされていない様だ。

 完全に不衛生だ。こんな所に長居したら鼻が曲がりそうだ。


 中には大量の檻が置いてあった。どの檻も傷付き、錆が付いている。汚いよ。

 中には唸り声を上げて、檻を掴むモンスターや傷だらけで古びた布一枚着せられただけの人間も売られていた。どの檻にも値札が付けられていて、ある檻の値札は割引されていたり、ある檻の値札は価格が上昇しているものもいた。



 こんな事を前に自分が居た国でやっていたら捕まってしまうが、この世界では人身売買は普通に認められている様に思える。


 しかし気分が悪い事には違い無い。皆暗い表情と虚ろな目をしていて、まだ歳が幼い子も売られていた。見ている度に悲しさが浮かび上がる。



「それでは、私があなたにピッタリの奴隷を見つけてあげましょう。では着いて来てください。本日のおすすめ奴隷です」











 バラダに着いて行くと、そこには自分の身長の二倍はある檻が姿を現した。



「このデカい奴は?」


 後退りしながら足に力を込める。しかしバラダは奇妙な笑いを浮かべながら、何かに向かって指を指す。



「これは『トロール』と言います。体も大きく、力も強い、知能もあります。貴方の警護にも使えますし、力仕事をさせるのにも最適です。如何なさいます?」


「やめておく。今の僕の所持金は14800Gだよ。このトロールは50000Gもあるじゃないか。僕はそんなに金持ちじゃ無いんですよ。安い奴にしてくれ。あんたの目は素晴らしいんだろ?コスパ的にも良いのを選んでくれよ」


 バラダさ後ろを向き、歩き出した。彼は彼なりに良い奴隷を紹介してくれそうだが、一緒に見て回れば僕から見れば変な奴隷ばかり紹介されそうだ。

 気軽に話せて、共に戦ってくれる奴はいないのかと、しばらく奴隷小屋を見て回る事にした。


























 しかしどれも自分の相性に合わない奴隷ばかりだった。

 第一ここは人間系の奴隷はあまり扱って無い様だった。魔物やモンスターを奴隷にしたい奴が来る場所だとヴォラクは思った。

 ヴォラクはモンスターが欲しい訳では無い。普通に人間の仲間が欲しいのだ。



 しかし1つ確認し忘れていた。

 隅の所に一つの檻が自分の先に見えた。



 何が居るのか?と気になり、その檻を覗く。まだ見ていないものは見た方が良いだろう。



「だ…誰?」





 暗くて良く見えないが若い女の声に聞こえた。しばらく水も飲んでないのだろう。声が完全に枯れきってきた。

 時々咳き込む時もある。

 ヴォラクにも分かるぐらいだ。

 足には重そうな足枷が付けられていて、狭い檻の中に閉じ込められている。脱走なんて出来る訳ない。


「冒険者様。この奴隷はここでは珍しい人間の奴隷です。こいつはまだ誰にも買われた事が無い奴隷ですよ。ここに売りに来た奴にの話によれば『平和帝国』と言う所から脱走した徴兵兵士の様でして、逃げ出した罰として奴隷に成り下がった悪い人間ですよ。こいつは戦いに使うより、あなたの奉仕様に使うべきですよ。まだ生娘らしいですし。歳は17歳。それに顔もかなり美形です。最高ではありませんか?値段も2000Gとお得ですよ!冒険者様?どうですか?」



 檻の中から見える少女の綺麗で汚れた灰色の瞳。

 汚れが目立つ紫色の髪。紫色の髪は今は汚れていてしまっていて、拙く見えるが、その髪は洗ったり整えれば綺麗な髪になるだろう。

 彼女は汚れた布を着ているだけで、体は凍えている。体には多数の汚れ、そして傷が見られた。


 もう迷いは無いと心の中で思った。決めた、自分は彼女を救ってあげたい。

 ここで彼女を買わなければ他の人間に買われてしまうのかと不安になった。と言うよりもここで買わなかったら、これ以上の人には出会えないと思った。

 彼女と共に戦おう、大切な仲間として…

 そして自分と話せる相手になって欲しいと…


「おっさん。これ」


「ほぅ、買うのですか?」


「決めたんだ。俺は話せる相手が欲しかった。それにこの人は最適だ」


 ヴォラクは2000Gが入った袋を渡す。バラダは代金を受け取ると、手に持っていた鍵で檻の鍵を外し、足枷を外して少女をヴォラクの前に立たせた。



「お買い上げありがとうございます!お渡しする物はこの主と奴隷の契約書と従わなかった時のお仕置き様の鞭をお渡しします」



 鞭は命令に反した時の制裁を加える物なのか?契約書と羽根ペンを渡され、書こうとした時だった。


「こんな物を書く気は無い!」


 自身の手で契約書を破いた。真っ二つに…



「奴隷でも…こいつは僕の仲間にするって決めたんだよ。道具や自分の為に利用する物じゃ無い」



 こんな事を言ったら怒られてしまうのでは無いか?と思ったがバラダはそんな事は言わなかった。少し息を飲んでいた。ヴォラクの気迫に怯える様だ。



「そう、ですか…優しい主様ですね。奴隷をどの様に使うかは貴方の自由。そうしたいのなら私は何も言いません。では奴隷と仲良く楽しんでください……最後に言い忘れていました。またこの場所をご利用ください。いつでも貴方を歓迎致しますので!」


「それは有難いよ。バラダ」


「名前で呼んで下さるとは、いい冒険者様で…」



 仮面を付けていて顔は分からなかったが、仮面の下で静かに笑っていた。





 足枷を外した後、少女の首に繋がれた鎖をバラダ取り外す。重そうだった鎖から解放されて、彼女はよろめいた。


「あ…主様。何で私を買ったのですか?」


「…理由か?あんたの可愛らしい顔に心奪われただけだよ」


 彼女の目を見ずに後ろ姿でそう言っていた。その後ろ姿はカッコよかったが、心に何か重い物を抱えている様な姿をしていた。



「あんた、名前は?奴隷だから無いとかやめてくれよ。ちゃんと名乗ってくれ」


「私は…私の名前は『サテラ・ディア』と言います。生まれた時にこの名をもらいました。奴隷の分際で名前を名乗るなんて…申し訳ありません」


「別に名乗っちゃダメなんて誰が言った?奴隷じゃ無くて『仲間』だよ。僕の名前は『ヴォラク』今はこの名前を名乗っておくよ」


「今は?」


「いや…何でもない」


 今自分の本名を名乗るのは得策では無い、ヴォラクは話を変えようと必死に話題を変える。


「なぁサテラ。腹減ってるだろ?声もガラガラじゃないか。水と食い物を用意する必要があるな…飯にでも行くか?」


「良いのですか?」


 枯れた声を聞く度に嫌気が心を刺す。彼女の答えを聞く前にサテラの手を引いた。


「ほら、行くぞ」


「分かりました」


 そのままサテラの汚れた手を引いて、街を歩いて行った……

 走る様な事はしなかった。今、彼女は走る元気など残っていないと思ったからだ。

 ゆっくりと手を引いて歩いた。



 

 しばらく歩くと、一つの店が見えた。明かりがついていたので、営業していると思い、その店に入る事にした。




 入った瞬間、周りの空気が凍り付く。視線が一斉にヴォラクに集まった。ヴォラクが装着している奇妙な仮面のせいだ。しかしこれを付けてないと更に困る羽目になってしまう。しかしその目を無視して、2人は席に着く。






「好きな物を言え。今日は奢りだ」


「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて」


 サテラが指を刺したのは、魚のフライだった。彼女がそれを食べたいなら、何も言う事は無い。


「後…炭酸水もいい?」


「構わないよ。腹一杯になるまで食べな」


「主様は?」


「僕はいい。食べるにはこれ外さないとけないから」


 ご飯を食べるのも一苦労だ。仮面を外さないといけない。しかし仮面を外す事は自殺行為だ。正直腹は減ってたが、今は我慢した。



 

 しばらくこれからの事を考えてた。彼女にも銃を教えようと思っていた。一応元は兵士だったらしいから、ある程度の戦闘能力はある様だった。しかし使う銃は何が良いか悩んでいた。スナイパーライフルは普通に考えて無理だ。アサルトライフルや自分が使うデザートイーグルも…やはりハンドガンを使わせようと思った。


 気が付けば、サテラはフライと炭酸水を全て食べていた。サテラは久しぶりに美味しい食事をしたのか、さっきよりも表情が明るくなっていた。



「もう行くか?」


「はい…ご飯を食べさせてくれてありがとうございます」




 ヴォラクは会計係にGを渡して店を出ていった。





 何も言葉を話さずに暗い夜道を歩く2人、会話が中々弾まず、気まずい空気になっていた。


 しかしいつまでも人形の様に話さない訳にもいかないので、ヴォラクが会話を始める。


「なぁ、これから宿に行くけど大丈夫?」


「大丈夫です。宿に行ったら主様が私に何をするか分かっています」


「いきなり!…そんな事は馬鹿げた事はしないよ」


「そうなんですか?私を毎日使うのかと思っていました」


 サテラはヴォラクがただの変な奴に見えていたのだろうか?しかしそんなふざけた事をするつもりは無い。そんな鬼畜な命令をする程自分は落ちぶれてはいない。


「勘違いするなよ。僕がサテラを買ったのは…えっと…仲間になって欲しいからなんだ…」


「仲間……あなたは私を裏切らないですか?」


「え?今なんて言った?」


「いえ…何も」



 会話が中々盛り上がらない2人だが、歩いている内に宿に着いた。



 入った瞬間、いつも通りの様に気味悪がられた。受付に話しかけると、かなり緊張した声で話していた。


「一人部屋でいい。さっさと鍵を渡してくれ」


「は、はい!一人部屋です…え?」


 受付はヴォラクとサテラが何かするのかと思い、顔を赤らめていたが、鍵を渡されてすぐに、サテラの手を握り、部屋に向かった。





 部屋は一人部屋なので、そんなに大きくなく、リアルの自分の部屋よりも若干小さかった。



「遅いし、さっさと寝よう」


「…主様。ベットが1つしかありません。添い寝しますか?」


「しますか?」ゲームの選択肢かよ!とふと思いながらも、ヴォラクはそのまま…


「添い寝しよう」


 と、優しく言った。それにサテラは無表情な顔から明るい顔に変わる。


「そうですか!ありがとう。主様」


 その時彼女が見せた顔は美しい以外の何者でも無かった。汚れていても美しく見える紫色の髪。天使の様に美しい笑顔。綺麗に輝く瞳。本当にこの世のものか?疑いたくなるぐらいの笑顔だった。


 ヴォラクはふと思う。この笑顔を…この笑顔を自分は守り続けたいと、心の中で思っていた。




 そうして2人は同じベットに入る。こんな経験は無いので当然眠れる訳も無い。ずっと暗い部屋で目を開け続けていた。


(マジで寝れねぇ…こんな事が人生で起こるなんて…嬉しいのか嫌なのかどっちなんだ?)


 サテラはすんなりと眠っていたが、ヴォラクは一向に眠れそうに無い。



 するとサテラがヴォラクの服を掴んでくる。夢でも見ているのだろうか?


「嫌…やめて…何で私を裏切ったの…怖いよ…怖い…父さん。私はどうすれば…」


 魘されているのが分かる。奴隷と言う立場もありかなり辛い事があったんだと分かった。自分にも辛い事は山程ある。自分と同じ様な道を辿ってきたのかもしれないと思う。ヴォラクに抱きつくサテラの体をヴォラクは静かに抱き締めていた……






 次の日の朝。何とか寝れた事に今更気付く、目ヤニが視界を邪魔し咄嗟に目を擦ると、自分の横にサテラが眠っていた。


 背中の下ぐらいまで伸びた髪が自分の体に絡み付いていた。それを振りほどき、サテラの近くに髪を置く。寝顔も可愛かった。そっと撫でたいぐらいだ。そしてヴォラクはサテラの頭を優しく撫でた。髪の触り心地はとても良いものだった。そのままサテラの髪を撫で続けていると、サテラがパチッと気が付いている様に目を開いた。





「…あ」


「主様。やっぱり…」


「違います」


「本当に?」


「ホントの本当に?」


「YES!神に誓って」


「分かりました。髪を撫でたい時は言ってくださいね」


「はい…」


 朝からちょっとおかしいが、二人の間に異物は何も無かった。


「それじゃ。僕の仲間として、これからもよろしくなサテラ」


 日の光がヴォラクの仮面を照らす。その姿にサテラは彼は悪魔なのか?それとも天使なのか?どちらか分からなかった。しかしこれだけは分かった。彼は悪い人間では無いことを。


「はい。私は頼り無い存在ですが、これからよろしくお願いします」


 2人は互いの手を握る。2人を照らす太陽は、まるで2人を祝福する様に輝いていた……

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