67話「始まる戦い」
取り敢えず、敵の情報を確認する必要性があった。
敵がもう来たと言うのなら、相手の情報を探り分析する必要性がある。何も分析せずに敵に挑むのは愚策だと考えたからだ。
サテラの呼び掛けを聞いて、ヴォラクはすぐに作業する為に座っていた椅子から立ち上がった。
そしてすぐにレイアと共に改修を施した「ツェアシュテールング」とツェアシュテールングをベースに新規に作り出した銃「リベリオン」をズボンの腰の部分に取り付けたホルスターに格納し、半場椅子を床に叩きつける形で立ち上がったのだ。
立ち上がり、外に向かおうとしている時、ヴォラクの脳内では多くの思考が飛び交っていた。
(一体何で今なんかに来たんだ?攻撃は今日じゃなくて、明日って言っていたはずだが………いや、敵の言葉を信じるなんて愚策か…)
正直な話、自分が少しだけ馬鹿だと思った。そもそも明日攻撃をしに来るなんて保証がなかった。相手は敵だ。友達の家に遊びに来る様な友達ではない。相手が敵なら、敵の言葉など信じるなんて馬鹿げている。
なのに、なのに自分はそんな事も知らずに呑気に奴の言葉を信じて、地下でレイアと一緒に警戒もせずに銃のカスタマイズをしていたのだ。
やっぱり敵の信頼などするものではない。敵と決めたのなら、最大の力を持って迎撃する必要がある。それに今更攻撃しに来てから気付くなんてまたまだ自分が未熟だと言う事が分かった。
急がなければいけない。急がなければ、問答無用で城門を破って攻撃を仕掛けてくる可能性もある。そうしたらこちらが雪崩の様に総崩れしてしまう可能性だってあるのだ。
それにもしも攻撃を行っていた場合、対抗する作戦や戦略も一切レイアの兵士達及びサテラ、シズハ、血雷にも伝わっていないのだ。
話し合ったのはヴォラクとレイアだけ、しかも完全には作戦の内容は纏まっていない状態だ。
作戦もなしにただ獣の様に暴れる戦い方は完全に間違っている気がする。ただし、これはヴォラクのみの考えであり、他の人の考えは違うかもしれない。(ヴォラクはあまり近接戦闘を好まないので暴れる様な戦い方を好きがっていないだけである)
戦うならしっかりと作戦又は戦略を立てて、向こうの1歩先に立ち回る必要性がある。
しかし、今回な殆ど何も話し合ってないに等しい状態だ。このままでは簡単に敗北を許す事になってしまう。そんな事は絶対に避けたい。
その為にも敵の状態、数、敵兵の種類を分析する必要があったのだ。
ヴォラクとレイア、サテラは地下室から全速力で走り出し、すぐに地下室の外に出る。
「サテラ、シズハと姉さんは?」
「あそこです!」
と言ってサテラが指を指す。指を指した先は城壁の上。人が普通に登って立っていられるスペースがあるあの城壁の上に2人は立っていたのだ。
遠目でもシズハは専用の杖を持っていて、血雷は愛刀を1本抜刀している事が分かった。
すると、血雷はヴォラク達に気付いたのか、すぐにこっちに来い!と言いたげな感じでヴォラク達を手招きをする。
ヴォラクは1度頷くと、2人と共に走り出し、城壁の上に行く為の階段に近付き、すぐに駆け上がる。
階段を速いスピードで駆け上がると足が痛くなりそうだが、現在ヴォラクは非常に急いでいたので足の痛みなんて全く感じなかった。
城壁の上に登ると、すぐに血雷とシズハの元に駆け寄る。
ヴォラクはすぐに2人に現状どうなっているのかを聞く事にした。
「姉さん、状況は?」
「簡潔に言うと、ヤバいぜ。敵の数は多過ぎて分かんねぇ。敵の種類は普通の剣を持った兵士だけじゃねぇ…」
ヴォラクは血雷に前を見ろと言わんばかりな感じで首を動かしたので、ヴォラクは血雷の顔ではなく、前を見る事にした。
「こ、この数は……」
まるでそれは蟻の大軍の様だった。城壁から100m程離れた所からは山の様な数の敵兵があの広い平地を埋めつくしていたのだ。その数は分からない。肉眼で数えようとしてもその数は一切の不明だ。
目を疑いたくなる様な数だったが、その数が揺るぐ事はない。
敵兵は剣を持った普通の一般兵の様な奴らだけではない。
目を凝らして見てみれば、弓兵や槍兵、その他にも重装備な鎧を全身に纏った兵士や魔術士の様なローブを体に被った兵士。更にはバリスタの様な兵器を設置している敵もいたのだ。
魔術士には攻撃魔法の他にも回復や蘇生を行う事が出来る奴もいるだろう。バランスは敵ながら素晴らしいの一言だ。数、陣形、兵士のタイプのバランスなど全てにおいて完全に均等化を保っている。
この夥しい数の軍勢、これをもしもレイアの兵士達なしで5人だけで戦うと言うのなら、これはかなり厳しい事になりそうだった。
しかし、そんな事はないだろう。5人で戦闘する事はない様だ。
何故ならヴォラクが後ろを振り返ると、この迫り来る敵の事に気付いたのか既にレイアの兵士達が城内で装備を整えた状態で集っていたのだ。
しかもその数は流石に向こうの敵兵には劣るが、戦うとしては十分と言える数だ。
完全に負けると言う事はない。勝利の可能性は絶対に残っているのだ。
たとえ兵士の数に大きな差があろうとも、力に大きな差があったとしても、作戦や戦略次第ではどんな風にでも味方の兵士達は化ける事が出来る。絶対的な敗北はない。勝利出来る道が残されていると言うのなら、その道をヴォラクは進もうと思っている。
たとえ勝利の可能性が0.1%だったとしても諦める事はないと考えていた。
「ヴォラク……私」
レイアは不安そうな表情を見せ、ヴォラクの服の袖を掴んだ。
横に首を動かすと、レイアの恐怖と不安に満ちた横顔が見えた。ヴォラクはこんな美しい女性にこんな悲しい表情はさせたくなかった。
安易とは言え、その気持ちを楽にさせる事は出来ると思っている。
「大丈夫、守ってみせるさ……」
「ヴォラク………!」
レイアの表情が少しだけ明るくなった様な気がした。少しばかりだが照れてしまう。
「だけど、どうしますか?この状況じゃ、勝つのは……」
「シズハ、そんな事はない。相手はあの数だが、こっちにも一応だが兵士はいる。それに僕達には向こうが知らない技術を使った武器があるんだよ。そう簡単には落ちないさ」
そう簡単には落ちないなんてヴォラクは言った。しかし、内心はかなり焦っていた。
何故なら作戦、戦略は殆ど決まっていない。更に味方の兵士の数は把握出来ていない。また、敵数が圧倒的に多い為数で圧倒されてしまいそうだ。気が押しつぶされそうなぐらいだ。簡単に言えば戦う前から負けてしまいそうな感じだ。
そのせいか、少しばかり自分の手が震えてしまっている。しかし早く収まってほしい。こんな事で負ける訳にはいかないからだ。
それに、戦う前から負けているなんて戦う者としては論外だ。
ヴォラクは拳を強く握り締め、手の震えを必死に抑さえる様にした。ヴォラクだって元は戦いの経験などない普通の人間。
魔物や魔獣とではなく、人間同士の戦いで手が震えてしまっているのは仕方ないのかもしれない。
取り敢えずヴォラクは即興で戦える戦略を考えた。敵はまだ動いてこないので、少しだけ考える時間が出来た気がする。
(クソ!即興じゃ中々良い作戦なんて思いつかないもんだな……この状況を変えられる良い案はないのか!?数で負けてるなら、どうやってその数の差を埋められる?何か、何かないのか!?)
「……………んっ!?」
突然何か嫌な気になった。
目の前に自分を殺そうとしている何かが迫っている様な気がした。まさかな?と思ったが、どうやら嘘ではなかったらしい。
な、何と目の前に自分の眉間に目掛けて弓矢が飛んできていたのだ。しかもその矢はもう目の前にまで迫ってきている。
おい、これどうやって避けんの?今なら上手い事やって避けろってか?
いや、無理だって。いや、確かにスキル「闇夜の天帝」使えば避けるか再生能力で回復出来るかもしれないけども、一応言っておくけどね。
ヴォラクってこのスキルを簡単に使える訳じゃないんだよ。そもそも発動条件が結構難しいんだよ。
相当な事がない限り使えない本当に特殊なスキルなのだ。
そして「闇夜の天帝」発動時以外のヴォラクの素の能力は全くを持って強いとは言えない。多少身体能力が秀でているぐらいでそれ以外は特に特殊な力や強い力を保有している訳ではないのだ。
ヴォラクが魔物や魔獣とそれなりにちゃんと戦えているのは、この銃があるお陰と言うのだ。
所詮は作り出した武器の力と銃弾を当てる為のAIMが良いと言う事しか長所がない。
これ以外にヴォラクは戦いにおける長所はないに等しかった。
そして今は目の前には矢がある。もうこのお話終わったかも。
だって避けられる自信ないもん。
僕には高い動体視力とか反射神経はないの。もう本当に終わったかも。
あ~あ、レイの事守るとか言ったのにこれじゃ有言実行出来ないよ。軽はずみに重い発言はするべきじゃなかったかも。
レイ、すまん。天国………じゃなくて地獄で待ってるよ。
サテラ、シズハ、姉さんもごめんな。
サテラ、君を幸せにしてあげたかったけどやっぱ無理だわ。もう僕死んだわ。主として申し訳ない。もう、サヨナラとは言えない様だよ。
シズハ…………もう1回あの可愛い獣耳とフワフワの尻尾をモフらせてほしかった…本当にあんたは可愛かったぜ。僕の好きなタイプだったよ←本当性癖に合致していたから
姉さん、謝りたかった事があったのに。謝れなくてごめんよ。もしも地獄で会った時は謝らせてくれよ。そして互いに酒を飲み合いたかった。朝まで飲み明かしたかったぜ……
さて、死へのカウントダウンの始まりだ。
死因は弓矢が眉間に突き刺さって死亡。何か嫌な死に方だな。
さ………地獄に………
あれ?もうとっくに矢がぶっ刺さってるはずなのに、矢が眉間に突き刺さってない?
何で?もしかして体が反射的に勝手に避けてくれたのか?
いや、違う。僕は一切その場から動いていない。なのに矢は眉間に刺さっていない。
目を閉じていたが矢が刺さった痛みを一切感じなかったので、ヴォラクは恐る恐る目を開けた。
すると目の前には。
「誰だよ?アタシの弟にこんな事しやがる奴はぁ!?」
「ね、姉さん……」
何と目の前には血雷がヴォラクに背を向けて立っていたのだ。右手には血雷の愛刀が握られている。
何と血雷はあの刹那の間で飛んできた矢を上手く斬ってしまったのだ。実際、斬った矢は2つに真っ二つになり城壁の上に転がっている。
そしてすぐに血雷はヴォラクに駆け寄った。そして刀を握ったヴォラクの頬に左手を伸ばすと、ヴォラクの長い前髪をかきあげた。
「おい、ヴォラク!大丈夫か?怪我はないか?」
血雷はヴォラクの事を非常に心配している感じだった。
彼女の表情もいつもの勝気な表情ではなく、他人を心配する様な悲しげな表情になっている。
ヴォラクは大丈夫だった。まず矢が眉間に刺さってなどいないので、怪我など一切していなかったのだ。
「あ、あぁ姉さん、僕は大丈夫だよ。怪我はしてない」
「そ、そうか。良かったぜ………ったく危ねぇな。アタシの弟にこんな事しやがって。一体誰がこんな…………ん?おいお前ら、この矢何か紙が付いてるぞ」
これが何なのかは分かった。この紙は手紙だ。大体の場合、弓矢などに巻き付けられている紙って大体の場合手紙な事が多い。
だって実際弓矢に手紙を括り付けて放っていたって聞いた事があるので、間違ってはいない気がする。
ヴォラクは早速、真っ二つにされた片方の矢の部分を床から取り上げ、弓矢に括り付けられた紙を広げた。
その紙には文字が紙にビッシリと書かれていたのだ。
誰宛の手紙かは、よ~く分かっている。
ヴォラクはこの手紙をレイアに手渡した。絶対にレイアに宛てた手紙だと言う事は分かりきっていた。
「レイ、これはきっと君宛のだろ?」
「分かってる……一応、読むよ」
そしてレイアはヴォラクから手渡された手紙に目を通した。その表情は暗い表情だ。
【親愛なるレイアへ】
僕の親愛なるレイアへ。
この手紙を見ていてくれていると言う事はレイアがこの手紙を読んでくれていると言う事だよね?
もしもレイアが僕の手紙を読んでくれているのなら、僕は非常に嬉しいです。
今回は少し危険なやり方ですが、この様な形で手紙を届けさせてもらいました。もしもこの届け方で彼が死んだのなら、僕的にはとても嬉しいです。
今回は貴方に僕の妻になってほしくて貴方を迎えに来ました。やはり、考えてみましたが僕は貴方の事が好きで好きで仕方ありません。なので昔ながらの付き合い、そして僕と言う美しくて強き存在と結ばれる為に貴方をこの様にして迎えにあがりました。
もし、着いてこないと言うのなら僕は今目の前にいる僕の全戦力を用いて貴方の国を破壊します。そして無理矢理にでも貴方を連れていきます。そして僕の物になると言うまで徹底的に調教させてもらいます。
もし、僕に着いてくると言うのなら、君は僕の物になります。そして貴方の国も僕の領土となります。そして勿論僕の物なので、勝手に逃げるなどの事は許さないので、そこは理解してください。しかしこれでは貴方が不公平な立場に立たされてしまうので、着いてくると言うのなら僕の物になると言う事を代償に妻として高待遇を約束します。一応僕の国内では自由な行動を許可します。
そんないつ滅ぶかも分からない、そして今も滅ぼされそうな国なんて僕の物にして、大人しく僕の妻になりませんか?そんな汚らしい下種の男と一緒にいれば、貴方まで下種になってしまいます。そんな奴には近付かず、大人しく僕の元に来てください。永遠の愛を僕はここに誓いますので。
そしてもう1つ。その下種の男の傍にいる3人の女性の皆さんも是非僕の所に来てください。僕はレイア一筋なので強制はしませんが、もしその下種の男の所を離れて僕の所に来れば、レイア同様に高待遇と夜の時の最高の時間を約束しますので、レイアと一緒に来てください。レイアと一緒ならきっと寂しくないでしょう。貴方達も美しいので是非僕の元に来てください。
もし、本当に来ない場合は僕の国の全戦力を用いて貴方の身を拘束します。そして貴方の周りの兵士、そしてその下種の男だけではなく貴方のお友達の女の子達も全て殺します。それを避けたいなら着いてきてください。着いてくるのなら素早くこの兵達は全て撤退させます。そして他の人達にも危害は一切加えません。
もしも抗うのならレイアを除く人達はここで死ぬ事となるでしょう。
レイア、貴方に永遠の愛を誓います。
レイアの夫
「カイン・サブナック」
おいおい、随分と僕の事を酷く言ってくれてんじゃない。勝手に下種呼ばわりか。
こいつは酷すぎて反吐が出るぜ。
そんでもって、内心かなり怒っている僕だがどうやら怒ってるのは僕だけじゃないらしい。
この手紙はレイに渡したんだけど、途中から僕達4人も横から一緒に読んでたからね。
内容見てたら怒るのも無理ないよね?
「主様を下種呼ばわり………書いた奴を殺します。主様、ご命令をお願いします」
「い、いくら何でも下種だなんて……ヴォラクさんはそんな人じゃないのに!」
「おい、これ書いた奴。ちょっとツラ貸せや。殺してやる」
「おーい、感情に流されるのは良くないぞ~」
もし戦いにおいて自分の感情に流され過ぎれば、その分冷静な相手に簡単にあしらわれる事になってしまう。
あまり感情的になり過ぎるのは得策ではない。取り敢えず、ヴォラクだって怒ってるけど3人の怒りを冷まさせようと必死になる。
「主様……良いんですか?許して?」
「許すとは言ってないぞ。ただ感情的になり過ぎるなと言っているんだ。シズハと姉さんも感情的になり過ぎると向こうの思うつぼだぞ?こんな奴の言葉なんて聞く耳持たなければいいんだよ」
「そ、そうですね、ヴォラクさん。こんな奴の話を聞く方が馬鹿ですね。受け流すのが1番良いですね」
「ふぅ~確かにな……あんま感情的になり過ぎるのは駄目だな。少し煙草でも吸って落ち着くぜ」
と言って、血雷は自分が使っていた煙管を取り出すとすぐに口に咥え煙管を吸っていた。
そして吸い終わると前と同じ様に口から煙を吐いた。
さっきよりは怒りが治まったかな?
「ね、ねぇ皆。やっぱり私が向こうに行った方がいいんじゃないかな?」
「何故そう思う?」
いきなりレイアがそう言ってきたが、ヴォラクは冷静な言葉で対応する。
ヴォラクの思いは向こう側にレイアは行ってほしくはなかった。
何故なら、愛していると言っておきながら物にするなどとぬかしている奴なのでそんな信用性が低過ぎる奴にレイアをみすみす簡単に送り出す訳にはいかなかった。
まだ出会って少しの時間しか経過してないが、ヴォラクはレイアを守ると言った。
たとえ互いの事をあまり理解していなくとも、レイアをヴォラクは守ってあげたかったのだ。
「だって、私がアイツの所に行けば、ヴォラクだって私の国の皆に何も被害を出さずに済む。着いていかずに、犠牲が出るくらいなら私は……」
「……………うるせぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
とうとうヴォラクにも我慢の限界が来た。さっき溜まっていた怒りが全て解放され、ヴォラクの表情が怒りに満ちる。
ヴォラクはついに本気モードになり、バスターブラスターを取り出すと空の彼方に向けて高出力状態で発射する。空の上をレーザーの光が走る。照射されたレーザーの柱の様な光が空の上を駆けていた。
そしてヴォラクは空気をいっぱいに吸って叫ぶ。喉が裂けようが枯れてようが関係ない。ヴォラクはいつもの暗い感じの雰囲気を思いっきり壊す勢いを敵の御大将に向けて叫んだ。
「聞けぇ!!こっちの国のトップのレイア・イツカは、その身柄をそちらに託す気はない!!!」
「ヴォ、ヴォラク…貴方…」
「ほぅ、ヴォラクったらカッコつけやがって」
「これは最終警告だ!今から五分だけ待つ!その間に兵隊を引かないと言うのなら、今度はこいつをてめぇらの所に撃ち込むぞ!」
その頃、隊の後方部分の所では……
「カイン殿、敵の兵士はあの様に仰っています。どうされますか?五分待ちますか?」
「あぁ、五分だけ待って突撃だ。ああ言うのは負け犬の遠吠えだ。適当に流しておけばいい。奴らに五分と言う短い懺悔の時間を与えてやる事にするよ。勿論、この間は一切の攻撃は禁ずるよ」
「了解致しました。しかし、カイン殿。あんな兵器は我々も見た事がありません。敵の情報が分からない中では…」
「心配するな。こっちには向こうも気付いていない別の奴らを仕込んである。不意に奇襲を受ければ奴らも簡単に殺られるだろう………それに」
「それに?」
カインがニヤリと微笑んだ。まるでヴォラクが使っていた武器を見て笑う様に。
カインは小声で呟いた。
「あれは……招かれ人の技術が使われている武器だよ。今は条約で長らく使う事は禁じられているけど、まさかレイア。こっそり隠し持ってたとはね~奪ってコレクションにしたいぐらいだよ!」
その言葉に近くにいた側近の兵士は何の事を言っているんだ?と言う感じの意味を理解出来ていない表情を見せた。
カインも1人でただ不気味に笑いを絶やす事なく笑っていた。
一方城壁の上では……
「ヴォラク、本当にやるんだね?もう命の保証は出来ないよ?」
「分かってる……武者震いが止まらんが、大人しくレイを敵に渡すより遥かにマシだ。全ての敵を殺してやるよ」
「ヴォラク、アタシは生憎人斬りだなんて称号は頂きたくはないんだが、人を斬る事に………躊躇いはねぇぜ?殺しはした事ねぇが何でか恐怖はしねぇな」
この2人は既に人を殺す覚悟が出来ていた。シズハとサテラにはまだその覚悟が出来てはいなかったが、ヴォラクは血雷はその体が血に濡れても文句はなさそうだった。
「わ、私はこ、後方で敵の無力化を行います!」
「主様が命ずと言うのなら、私は血に濡れる事も恐れません。主様、ご命令を…」
そう言って、サテラはヴォラクに跪く。しかしサテラは何処かまだ何かに恐れるかの様に体を小さく震わせている。人を殺すと言う事にまだ躊躇いがあるのだろうか。
するとヴォラクは跪くサテラと同じ体勢になると、ヴォラクはサテラの頭に自分の右手を置いた。
「僕は殺す覚悟はある。だがサテラ………覚悟がないと言うのなら、殺すのではなく、無力化を行え。殺せる覚悟があるのかないのかは自分で決めろ………そこは僕が命令する事ではない…」
「あ、主様……」
「取り敢えず、門の前に行くぞ。ここにいたらさっきみたいに射抜かれるかもしれねぇ。さっさと行くぞ」
「レイア、どうやらアタシ達の答えは決まったみたいだぜ?」
「そうですね。ここまでやったなら、最後まで通させてもらいますよ!」
「み、皆!こんな私の為に…」
「レイ、必ず守ってみせる。まだ、あんたの事はよく知らねぇが、守ってみせるよ、お前の体もそしてお前の心も!」
そう名言っぽく言うと、ヴォラクは階段を駆け下りていった。これから始まる戦いにヴォラクは少しだけ嬉しさが込み上げてきた。
(また……殺せる………!)
その時見せたいつものとは違う笑みは他者を傷付けるのを楽しむ様な不気味な笑みだった。
ヴォラクはいつも愛用して使っている仮面を顔に付けると、静かにサテラ達と一緒に歩いていったのだった。