4話「討伐」
日の光が眼球に差し込んだ。その光はヴォラクの目を刺激する。
ベルタから譲り受けた黒色のコートと黒色のズボンは動きやすく、前の服よりもずっと良かった。
咄嗟に手で顔を覆った。すぐに日陰に向かい、暗い日陰の道を歩く。
今日はクエスト受注所に向かう事にしていた。一応冒険者としての肩書きは持っているので、冒険者活動は出来る。
しかし一人でこなせるクエストはそう多くない。大体のクエストは多人数で行う事が多い、一人で出来るクエストなんて、くだらない採集クエストぐらいしか無い。
仲間とパーティーを組むのも一つの案だが、見た目が少し悪いので、集まるかどうか不安だ、取り敢えず今は一人で出来そうな討伐クエストをする事にした。
そんな事を考えている内にクエスト受注所に到着した。時間はまだ朝を過ぎかけてる時であったが、人もそれなりにいた。
早速受注所に入る。中に入った瞬間。周りの視線が自分に集まっている事が分かった。多少恥ずかしかったが、それを気にしていたら自分の負けだと思って、恥ずかしさに耐えながら自分が出来そうなクエストを探した。
(これ…出来そうだな。何か難そうだけど、やってみる価値はあるな)
「『巨大オーガ』三体討伐」と言うクエストだった。難易度は十段階中6に示されていた。推奨レベルは60以上。現在自分のレベルは9。周りから見れば自殺願望者でも無い限り行かないクエストだろう。
しかし手応えのある戦いは結構楽しそうだったので、これを受ける事にした。すぐにこのクエストを受注する為に受付に持っていくと、当然の事ながら警告を受けた。
「冒険者様!?このクエストは60以上のレベルがある冒険者が行うクエストですよ!一人で…しかもレベルはまだ9ですし…本当に出来るんですか?」
「ああ…出来るよ。生きて帰ってきますよ」
周りから小声で囁く声が聞こえる。
「あいつ正気か?勝てる訳無いだろ?」
「もしかして…自殺するのかしら?」
「予想しよう。あいつは死ぬな」
そんな声を無視して、ヴォラクは腰のポケットからツェアシュテールングを取り出して一言言った。
「やれますよ。冒険者ですから」
「わ…分かりました。お気を付けて…」
受付が苦笑いしながら言った事を受け流しながら、ヴォラクはここから出ていった。
クエスト受注所から出て、街を出る事にする。今回のクエストはこの街を離れて、かなりの距離がある場所に巨大オーガがいるらしいので、歩く事が好きじゃないヴォラクにとっては辛く、キツい事だった。
「はぁはぁ…歩くのはやっぱ好きじゃ無いよ。まだ距離があるみたいだな…もっと近い所のクエスト受注すりゃよかった…」
距離の問題でクエストの受注をミスしてしまったヴォラク。しかし距離よりも強さの問題で受注をミスしたとヴォラクは思っていなかった。
水を途切れ途切れに飲みながら、遂に巨大オーガがいると言っていた場所に辿り着いた。そこは、巨大な廃城だった。
おそらく過去にどこかの金持ちが使ってた城だろう。しかし今見ては古ぼけた廃墟にしか過ぎない。
古びた城には葉が沢山生い茂っていて、ボロボロの状態だった。
そしてこの辺りだけ何故か異様に暗く、幽霊が出てきそうな雰囲気だ。
ツェアシュテールングを構えて、正面の扉を覗く。
中は暗く、オーガがいるか確認は出来なかった。
足が竦む。何がいるか分からない所に踏み入れるのも怖い事だが、いつまでもここで立ち止まる訳にもいかないと思い、意を決して中に入った。
中は静かだった。ランプをつけてもあまり周りは確認出来ない。ツェアシュテールングの引き金に指をかける。左手で腰にマウントした鞭を持つ。
気配を消し、呼吸を殺して、その場に立ち止まる……次の瞬間、後ろに何かの気配を感じた。
「そこか!」
ツェアシュテールングを一発撃ち込んだ。しかし何もおきない。銃の音が古びた城の中に響き渡っただけだった。
しかしヴォラクはここでとんでもない事をやらかしてしまった。
突然ガタガタと何かが落ちてきそうな音が鳴った。
上を向くと、さっき撃った弾のせいでこの建物が崩れようとしていた。
「何で崩れるの!?たかが一発だけ撃ったのに!」
壁が腐って脆くなっていたのだろう。城はどんどん崩れ去っていく。
「ヤベェ逃げろ!」
急いで前の扉に向かって走り、扉を蹴り破った。
何とか脱出に成功したが、城は完全に崩れ去り、周りに瓦礫だけが残った。
「どうしよう…お城一個ぶっ壊しちゃった。何て言えばいいんだ?オーガも見つからなかったし、帰るか」
何も得られずに悲しくなりながらも、くるりと後ろを向いて帰ろうとした時に、瓦礫が揺れ始める。
「な!?瓦礫が揺れてる……何か…何かが来る…」
ツェアシュテールングを再度構え直して、目を凝らした。すると、瓦礫が割れ、空に舞い上がった。
「あ…あれは」
そこには、巨大なオーガが三体立っていた。
巨大オーガがいたのは城では無く、城の下に隠れていたのだ。銃の音で襲ってこなかったのは、寝ていたのでは無いかと推測した。きっと城が崩れた時の大きな音で気付いたのだろう。
巨大オーガは棍棒を持っていた。あんな大きな物に叩かれたら即天国行きだ。
オーガはこちらをじっと睨み、ヴォラクに向かって大声で叫んだ。
「ウォォォォォォォ!」
しかしそんな叫びで怖がる訳もない。
挨拶の変わりに銃を目に撃ち込んだ。
弾は目に命中した。それにオーガはかなり痛そうな顔をしている。右目を抑え、目から流れた血を拭っている。
左右のオーガがかなりお怒りの状態だった。すぐに棍棒を振りかざして、こっちに向かってくる。
普通のゴブリンなどとは違い、こっちの動きを読もうとしているのか、慎重に来ている。ゲームなどでは大体へっぴり腰で突っ込んで来て殺られるのが基本だが、このオーガは全く別物だ。推奨レベル60と言うだけあるのだろう。
ヴォラクに向かってくるオーガに銃を連発して撃ち込む。銃弾は足や腹に当たるのだが皮膚が厚いのか、少し傷を与えただけだった。
「チッ…やはり殺すには、頭か両目を潰すしか無いな。脳を破壊するか」
ヴォラクは先に目に傷を負ったオーガを倒す事にした。片目が見えないせいか、負傷したオーガは目を回してしまった様に歩いていた。これは勝機が見えたと確信したヴォラクは、鞭をオーガの持っている棍棒に巻き付けた。
「チェックメイト!」
鞭を巻き付け、オーガの頭に乗る事に成功した。見た感じかなり大きく、その姿は巨人の様だった。
「その腐った頭を…叩き割ってやるよ!」
頭に銃を押し付け、ツェアシュテールングを連発する。
銃声が鳴り続け、周りに響き渡る。
「何だ?今の音?」
マガジンの弾が切れた時にオーガは既に絶命していた。
「次は君達だよ」
マガジンを変えて、オーガの頭からもう一体のオーガに飛び移った。
「まずは目を破壊する!」
鞭に護身用のナイフを取り付けた。これで相手を斬る事が出来る。
「死ね!」
鞭が空を斬り、オーガの両目を斬り裂く。オーガの目からは血が吹き出し、返り血をヴォラクは浴びる。
「汚ぇんだよ!」
脳の部分に銃弾を何発も撃ち込んだ。
そのまま口を開けたまま、後ろに倒れ込んだ。
完全に動かなくなっていて、死んでいる事が分かった。
脳を剥き出しにして倒れ、死んだオーガ。両目から血を流して死んだオーガ。その姿に最後の一体のオーガは後退りする。
「逃げないでよ」
オーガに歩いてくる人間は、オーガから見れば人間では無かった。
黒色のコートと両手に握られた武器。悪魔の様な仮面。オーガから見ればただの化け物だった。
逃げようとするが、逃げようとした矢先、足を鞭で斬られた。
「どうした?さっきまであれだけ強そうに振舞っていたのに…まぁそんな事どうでもいいんだけど……死ね」
頭に銃を撃たれて、そのまま絶命した。
周りは静かになり、巨大オーガの死体が三体転がっていた。
それを見ても何も思わなかった。道端に落ちている石を見る様に、その場所から去って行った。
レベル9→23
クエスト受注所に戻って来た。受付は驚いた顔をしていた。レベル9の冒険者がレベル60のミッションをクリアして戻って来たのだから。
「冒険者様!?生きていたんですか?」
「僕が死んだみたいな言い方しないでもらいたいな」
まるで何も無かった様に普通な顔で戻って来た事に周りは騒ぎ始める。
「す…凄い…倒してる。どうやって倒したの?」
「そこは…ちょっと聞かないで、情報漏洩を防ぐ為だから」
「わ、分かりました。では報酬15000Gです」
そう言って、Gの入った袋を渡されたが、こんな物持ってたら強盗に何度襲われるか分からない。ヴォラクはこれを財産通帳に預金する事にした。
「これは財産通帳に預金しておいて下さい」
(何かここら辺は日本らしいな」
ヴォラクがそう支持すると、受付は財産通帳に預金をしてくれた。
やる事は全て終わり、クエスト受注所を出て行く事にした時、人だかりが出来ている事に気付いた。
「何かあったのか?」
小走りで向かうと、そこでは新聞を読む人達がいた。
人だかりの中心にいる人物から新聞を買うと、掲載されていた記事に怒りを覚える。
『召喚偽勇者死亡!?森で男性の遺体発見』
と書かれていた。
手が震えた。しかしそれを受け入れる方が楽だと思い、今は怒りを腹に抑えた。
「これは…最悪だな…」
「ヴォラク…死んだのか?」
「う、嘘…凱亜…」
「不知火め!やっと死にやがったぜ!ざまぁみろ!」
そこから走り出した。もし気付かれていたら…と思うと恐ろしい考えが頭に浮かんできてしまう。
逃げる様に街に戻って行った…




