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59話「もう1人の彼と彼女」

 

 ヴォラクは鏡に背を向けて歩いていった。

 しかしその背を向けた鏡の中には、ヴォラクに瓜二つな誰かとレイアに瓜二つな誰かが映っていた。

 ヴォラクとレイアはその瓜二つな誰かに気付く事はなかった。

 その時見えるたのは、鏡の中で歯を剥き出しにして笑うヴォラクと瓜二つの誰かとヴォラク似た誰かと同じ様に不審な笑顔を浮かべるレイアに似た誰かだった。


 誰もそれには気付かない。謎の2人の存在に気付く事はなかった。

 鏡の中で本当の彼らとは違う動きをする瓜二つの謎の存在はスっと消える様に存在自体がなくなり、元の動きへと戻っていく。

 ヴォラクは気付かぬまま、部屋から出ていってしまった。

 ヴォラクかレイアがこの存在に気付くかどうかは分からない。

 気付けばそれとどう対峙するのか。

 もしも気付かなければ、永遠にこの存在とは会う事もないだろう。









































 場所は変わり、城の外。

 場所は城を囲む外壁の上だ。簡単に言えば、高台に立っている様なものである。

 城を囲う様にして立つ外壁の一箇所には階段が設置されており、そこから外壁の上に登る事が出来るのだ。

 勿論、外壁はかなり厚く作られているので人が歩けるスペースは充分に確保されており、並んでも歩けるぐらいだ。

 しかも腰の高さまでぐらいだが、石かレンガの様な素材で作られた壁が立てられている。

 恐らく防御壁の様な物だ。

 その場で屈めば、相手の攻撃など簡単に防ぐ事が出来るだろう。

 しかし、今は本当に平野にいる相手は攻撃してきそうな勢いだ。



 外壁の外は平野、木など全く生えておらず、見通しも良い場所だ。

 しかし、今その平野には……


 敵がいた。

 レイが言っていた奴だろう。

 レイが言っていた通り、敵がやって来ていたのだ。

 敵はすぐ近くにやって来ていたのだ。

 外壁のすぐ側、外壁の上から下を見下ろせば、すぐそこには敵がいる。

 敵は全員馬に搭乗しており、各兵士達は違う武器を持っている。

 特に弓を持った兵士が多い。しかし他にも長剣や槍、魔法の杖などを所持する者もいた。

 そして、その中で先頭に立つ敵がいた。

 レイアはその敵の男の顔を見ると彼を睨む様な強く怒りの篭った目で見つめる。


 外壁から地上までは大体数十mはある。しかしレイアはその男から目を離す事はなかった。

 絶対に目を逸らさず、ジッと睨む様に、ヴォラクに見せた笑顔とは180度違って見えた。


 ヴォラクは危険だと判断し、サテラ達に呼びかけた。


「皆、武器を構えろ。仕掛けてくるかもしれない…」


 その言葉にその場にいる全員が頷いた。

 皆、それぞれ持つ武器を構え、敵の攻撃に備える。

 万が一向こうが撃ってくるなら、こっちは全力で反撃を行う。

 しかし、先頭に立つ男は武器を構える事も魔法を使う素振りすら見せない。

 ただ作った様な笑顔をレイアを見つめている。

 ヴォラクにはあの美青年な男の笑顔が作り物だと言う事がよく分かる。

 そんな作られた笑顔を何度も見てきた。

 本当はあんな笑顔は偽物に過ぎない。

 あんな事が出来る奴程本心は邪悪だ。

 美青年で美しい紺色の髪をしていて、綺麗な戦闘服を着ている、まるで非の打ち所がない様な男。

 しかし、奴の本心は邪悪にしか見えてこない。

 ヴォラクにはそう見えてきた。


 すると男が突然レイアに向かって、話しかけてきた。


 外壁の上の所と地上との距離はかなり長い。

 男はその距離を無視した。

 何とこちらに声を送ってきたのだ。

 地上で話している声がそのままリアルタイムでレイア達に聞こえてきたのだ。

 その声はレイアだけではなく、ヴォラク達の耳にも入り込んできた。


「やぁ、レイア。久しぶりだね」


「くっ…『カイン・サブナック』貴様……」


「貴様…だなんて、酷いじゃないか。君は僕の妾…じゃないか。そんな事言わないでく……」


「おい、貴様何者だ?色男臭いが、何が目的だ?」


 謎の男はレイアに対して、優しい口調で話しかける。

 こんな風に話しかけられれば、少し嬉しくなるかもしれないがレイアの表情は依然として怒りの表情のままだ。

 何か因縁でもあるのだろうか。


「君は…初めて会うかな?仮面男君。じゃあ、名乗る事にするよ。僕の名前は『カイン・サブナック』この中立国『ホープ』の隣国『キオスク』の王子だ。そして今回はレイアの事を貰いに…………っと、不意打ちとは酷いじゃないか…」


 ヴォラクは一瞬謎にイラッと来たので外壁の上からバスターブラスターを発射した。

 威力は高出力ではなく、低出力だ。

 あくまで牽制だ。

 いきなり、最大出力で撃つ訳にもいかないのでまずは低出力で撃つ事にした。


「避けたか……(何だあいつ……バスターブラスターの射線から一瞬で逃げやがった。間違いない超速で移動した。かなりの手練か?)」


「全く、血の気の多い男だね。そんなんじゃ女の子からモテないよ。僕みたいにクールに紳士的にいかないと。僕みたいにすれば、彼女の1人ぐらい出来るでしょ?僕は妻が6人もいるんだよ?」


「なら、何故レイを妾なんかにしようとする?妻が6人もいるのに、何故だ?」


「欲しいからだ。彼女が欲しいから手に入れる。それだけだ…………おっ、よく見ればレイアの周りにも良い女の子が4人もいるじゃない。どう?そんな暗そうな男よりも僕みたいな良い男の妾にならないか?」


 その言葉にその場にいる全員が怒った。

 ヴォラクだけではない。サテラ、シズハ、血雷、そしてレイア達には強い怒りが生まれる。

 ヴォラクは自分が暗そうな男だと言われた事も1つの理由だし、1番の理由はサテラ達をこの男に取られる事だった。

 理由なんて、深く語る必要は無い。ただ奪われる。それだけで殺したくなった。

 バスターブラスターで粉々に、跡形も骨も肉も残らないぐらいに潰してやりたくなった。

 しかし、ここでいきなりぶっぱなす訳にもいかない。

 さっきの対応と言い、不意打ちで攻撃したがまるで読まれていたかの様にして避けられた。

 今度は最大出力で撃つつもりだが、それでも避けられてしまう可能性は高い。

 撃つのは控える事にしよう。今は我慢だ。


 今は我慢、それはヴォラクだけの話ではなかった。

 サテラ、シズハ、血雷も大きな怒りを覚えた。

 ヴォラクが暗そうな男だって?そんな奴よりも僕の所に来て妾になれだって?

 その言葉に3人は怒りが募る。

 サテラはバスターランチャーを向け、シズハもビームスナイパーライフルを向ける。

 血雷は遠距離を武器を所持していないので、血殺刀のみを抜刀し、両手で握り締め構えている。

 しかし、ヴォラクが制作した裂月刀は鞘に納刀している。

 レイアも実体のない刃を2つ作り出し、両手でその刃を持つ。

 僅かにだが、剣の形は残っている。










 向こうの声がまた聞こえてくる。今度も相変わらず優しそうな声が聞こえてくる。

 しかし、その声は作り物の偽物の声にしか聞こえない。作られた。偽造している様な声だ。


「あらあら、怖いじゃないの。女の子がそんな武器を持つなんて危ないよ?もう1回言うぜ?そんな腑抜けた奴より、僕の妾に…………………ったく2度目はないぞ?」


 血雷の怒りが爆発した。

 血雷は心から怒る。

 ヴォラクが腑抜けた奴だって?あんな奴の妾になれだって?

 ふざけるのもいい加減にしてほしい。

 血雷の心は怒りに満ちる。

 もうその刀を握る手が止まる事はなかった。

 血雷は突然として、血殺刀を振り下ろす。

 しかし、血雷の目の前には敵も何もいない。

 だがヴォラクには血雷が何をするか分かっていた。ヴォラクは「姉さん!待て!」と叫び、手を伸ばして制止させようとしたが、血雷は止まる事はなかった。

 血雷が血殺刀を振り下ろすと、刀の刃から紅の如く光輝く刃が空を斬る。

 音速とも呼べる程の速度かもしれない。ヴォラクでも見切る事が難しいぐらいだ。

 音速程の速さで空を裂く赤き刃がカインに向かって飛んでいく。


「必殺剣技、紅刃!」


「おっと。速い刃だね。もう少し遅かったら首飛んでたかもね」


 血雷は刀から飛ばした斬撃波の様な飛び道具を飛ばした。

 その速度は驚異的な速さだったがカインはそれが飛んできた瞬間、後方に宙返りし優れた身のこなしで血雷の攻撃を避ける。

 読めていたとは言え、音速レベルの速さの攻撃を躱す。奴は只者ではない。

 戦闘力や瞬発力などはかなり優れている部類だろう。

 ヴォラクは油断出来なかった。

 普通の力しか持たない兵士とは違う。強大な何かを持っているとヴォラクは感じた。



「無駄な抵抗はやめろ。大人しく女の子は全員僕と来るんだ。レイア、いい加減受け入れろよ。その男とは大した関係じゃないんだろ?」


 また、奴は話してくる。しかもヴォラクの堪忍袋の緒が切れる勢いの言葉を投げかけてくるのだ。

 とうとう、怒りが爆弾の如く爆発しようとした。

 しかしいきなりレイアがヴォラクに身を寄せてきたので急に怒りは消えてしまう。

 しかもかなり近い距離だ。自身の大きい胸を押し付けて手を背中に回してくる。


「へっ?」


「酷い事言わないでよね!私とヴォラクは恋人同意なのよ!もう、は、初めてもヴォラクに捧げたんだから!」←嘘です


 分かってるさ。どう反応するかなんて。こんな事今まで何度も見てきた。

 一時的に「私達、付き合ってますぅ!」的な事言って、敵を退けさせる。

 これ意外とよく見る。

 ヴォラクは考える。

 ここで恥ずかしがってしまって慌てる様な素振りを見せてしまえば向こうが「嘘だろ!?」と言ってきそうなので、レイの言葉に乗っかる事にした。

 て言うか、乗っからないと危険な気がする。

 レイだって「話合わせて!」と言わんばかりな表情で僕の事を見ているからね。乗らなければ負けると思い、乗っかる事にする。


「あ、あぁその通りだよ!僕はレイと付き合って…いやそれ以上の関係なんだよね!」


 それを聞いていたサテラ達はレイアの考えに従う事にした。

 レイアと同じ様な事を言い出す。


「妾なんかになるものですか!私は主様の奴隷ですから!純血は明け渡しました!」


「激しく同意します!私も純血明け渡してます!」


「お、おう!アタシも3人と同じだぜ!は、は…初めては……コイツにやったんだよ!」


(おぃ―――――!いくら何でもやり過ぎだろ!その行動は確かにあながち間違ってはないけど、相手の怒り爆発させる可能性もあるんだぞ!向こうが逆ギレしたらどうすんだよ!?もしも国同士の戦争に発展したら?僕戦場出る羽目になるんだよ?地味に嫌なんだけど!)


 案の定だった。カインは完全にさっきの優しそうな雰囲気だった表情は完全に消えた。

 完全に怒りの表情、又はヴォラクに対する嫉妬、妬み、恨みを持つ様な表情に変わった。

 そして、また声が聞こえてくる。さっきとは全く違う声だ。


「レイア、まさか僕が知らない間に男作ってたとはね……許さないぞ!レイアは僕の物なのに!こうなったら今からそっちに行って君を…………」


「ゴタゴタうるせぇんだよ!大体、好きなら僕の物とか言わねぇだろ!?そんなの好きでも何でもねぇ、ただ独占したい、自分の物にしたいだけじゃねぇか!」


 ヴォラクは怒った口調で話し、バスターブラスターを高出力で発射する。

 当たれば死ぬ威力だ。

 しかし、カインはまたその攻撃を躱す。しかし今回は怒りで攻撃が読めなかったのか、バスターブラスターの射線にカインの肩が僅かにだけ入ってしまっていた。

 バスターブラスターの射線に入ってしまったカインの肩からは血が流れる。

 僅かにだけ射線に入っただけで服は溶けてしまった様に破れ、肩からは赤黒い血がドクドクと流れる。肉も見えてしまいそうだ。


(何て威力だ…少しだけ射線に入っただけであんな…高出力でこれなら、最大出力時はどれくらいの威力があるんだ?)


「く、貴様ァ!僕の美しい体によくも傷を付けてくれたなぁ!お前みたいな下等生物に僕の体を傷付ける事、そして女が取り巻くなど絶対に許さない!こうなったら………………もう容赦出来ないな。ここに我『カイン・サブナック』はここで中立国『ホープ』に宣戦布告を行う!今日から2日後中立国ホープに攻撃を行い、我は「レイア・イツカ」そして、その周辺に立つ3人の女子方を我が救出する!ここにいる我の兵士達よ、ここに反対する者はいるか!?」


 カインの大声はヴォラク達の耳を刺激する。

 耳が痛くなりそうなので、ヴォラクは耳を指を使って塞ぐ。


 カインにはそれが見えてはいない。

 しかし、カインはヴォラクを見る事なく、後ろでカインの事を見ていた兵士達の方に目を向ける。

 カインが叫んだ宣言に反対する兵士達は誰1人としていなかった。

 カインに従軍する兵士達は皆カインの宣言に賛同し、武器を掲げカインに全力で着いていく事にした。


「待っていてくれ!レイア。君を君達を僕は救ってみせる!2日後にまた会おう!そして、そこの男貴様は僕が必ず殺す。お前が騙している女の子達も全て僕の物にする……」


「随分と言ってくれるね。勝手に騙してるだとか救ってみせるだとか、適当過ぎんだよ………ならこっちも殺す気で行くからな」


「…………」


 その言葉を最後にカインは馬に乗りヴォラクに背を向けて反対の方向に戻って行った。

 最後、カインは馬に乗りながらヴォラクの方を振り返り、ヴォラクを睨む様な目で見つめた。


「………………」


 互いに何も言わず、カインとヴォラクは無言で見つめ合っていた。



















 そして、カインの背中も見えなくなった頃、レイアがヴォラクに話しかける。

 レイアの表情はどこか暗い感じだ。

 ヴォラクの服の袖を掴み、怖がっている様な表情でヴォラクを見つめる。


「ヴォラク、どうしよう。あんな奴に私の……」


「心配するな…僕はやれる事をする。だが、宣戦布告されたなら少し面倒だな。国同士の戦争となると、被害とかも大きくなるかもしれないし。どうするよ?」


「戦略は一応ある。こっちの兵力も低い訳でもない。勝てる可能性がない訳でもない。これから話せる?戦略についてなんだけど」


「構わん。戦略ゲーならやった事あるから。問題はないから、話そうか…」


 戦略ゲームなら経験はある。

 1番好きな格闘ゲームに比べればやってる時間は劣るが、出来ない訳でもない。

 戦略なら今までの経験で出来る。しかもゲームではなく、本当の戦争での戦略だ。

 ミスは許されない。

 これはゲームの戦争ではない。

 本当の戦争だ。

 1つのミスが大人数の死を招く事になる。いつも以上に慎重に立ち回る必要がある。

 1人では戦略を完全に立てる事は出来ない。

 しかし、実戦の経験も恐らくあるであろうレイアと考えられるんだ。

 異世界の人(レイアを含める)の意見も混合させれば、それなりには良い戦略が出来上がりそうな気がしてきた。

 今回の戦略の立案は僕とレイアだけで充分だろう。

 サテラやシズハ、姉さんは戦闘での細かな戦略などには疎いだろう。

 それなら、戦略などに知識があると思うレイアと戦略ゲームをやり込んだ経験がある僕なら大丈夫?だろう。


「レイア、それなら今から話し合おう。2日なんてすぐに来る。急ごう」


「そ、そうだね。サテラ達も来る?戦略立てるんだけど」


「やめておきます。戦略とは私には全く分かりませんし、訓練でもしておきます」


「サテラと同じです。訓練しておきます。戦略とかさっぱりです」


「戦略だって?分かるかンなもん。アタシは立ててくれた戦略に従うだけだ。お前らで立てといてくれ。それまでは訓練しとくから」


「よし、決まり。レイ、移動するよ………って、何処で話す?」


「私の自室で話そう。一応デカいテーブルならあるから、行って、話そう」


 ヴォラクはレイアの言葉に頷き、歩き出したレイアに着いていく。

 サテラ達も階段を降りるまではレイアに着いていっていった。


 城の前の広場でヴォラクはレイアと城の中に入っていき、サテラ達は広場で訓練を始めた。






























 城の中を歩いている時だった。

 レイアの自室に向かう為に廊下を歩いている時だった。

 まただった。

 また鏡を見た。自分の姿が映る鏡があった。


 その時だった。

 ヴォラクはまた鏡を見た。そしてまた背を向けて歩いていこうとした時だった。

 頭の中に何か聞こえた。


 おい……


 聞こえてんだろ?


 返事ぐらいしろよ…


 何の声だ?幻聴か?

 それともとうとう頭がイカれたのか?








 しかし、それは幻聴でも頭がイカれた訳でもなかった。


 その声は僕の声と同じだった。

 その姿も、その声も全てが同じだった。


「よう、凱亜。久しぶりだな……いや、今はヴォラクか?」


 鏡の中の自分は自分とは違う動きをする。

 鏡とは自分の姿を映す道具だ。本来鏡に映る自分は自分と同じ動きをするはずだ。

 しかし、その鏡は自分とは違う動きをしていた。心霊現象かな?


「久しぶりはこっちのセリフだぞ『劾』何でこっちの世界で出てきた?」


「何言ってんだよ『凱亜』ここはお前が憧れてた異世界だ。こんな事起こっても不思議じゃないだろ?」


「前の世界じゃ僕の頭の中に干渉するぐらいしかなかったのに、何でこっちの世界じゃ鏡の中で動いてんだよ?その鏡の中はミラーワールドにでもなってんのか?」


「いや、流石にそんなワールドにはなってないけどよ……色々とあってな。俺もこっちの世界じゃ自分の肉体を限定的だが、持つ事が出来る様になったんだよ」


「へぇ、そんな事があったのか、劾。僕が知らない所でそんな事が……だが突然過ぎるぞ、前の世界で生まれた僕のもう1つの人格だっつぅのに。いきなりしゃしゃり出てきて」


 説明しよう。



 彼はヴォラク基、不知火凱亜のもう1つの人格である『不知火劾』だ。この名を名付けたのは凱亜であり劾本人も嫌がっている訳ではない。

 彼は凱亜が昔から学校などで感じていた過剰なストレスから逃げる為、そのストレスを押し付ける為に凱亜の心の中から生まれた凱亜のもう1つの自分。

 それが劾だ。

 深く知る事はない。

 彼は謎な部分が多く、情報もまだ多くはない。

 自分のもう1つの人格だと言うのに。

 凱亜が知る劾の情報は「性格は凱亜と比べるとかなり乱暴で短気、表面から暴力的な本性を曝け出している。1人称も僕ではなく俺」「凱亜の肉体に乗り移る事は出来ない。出来るのは脳内に干渉する事ぐらいしか出来ない」「知能は凱亜よりも勝っており、必要以上の知識を保有している」

 それぐらいしか分からない。

 そして今。新しい事を1つ知った。



 こっちの世界では、鏡の中限定で自分の肉体を保有している事が分かった。

 しかしどうやって、自分の肉体を手に入れたのだろうか。

 前の世界では自分の周りには姿形も見えず、辛うじて声が聞こえ、想像の中でだけやっとその姿を捉える事が出来たぐらいなのに、この世界ではそれがなくなっている。

 異世界だからとでも言うのだろうか?


「なぁ、凱亜。どうやらこっちの世界ではこの肉体だけではなく、お前に乗り移る事も出来るらしいんだよ」


「何だと!?そんな事が?一体何故?」


「ここは異世界だ。普通の世界とは違う。少しばかり常識が狂っててもおかしくはない……だからさ……その肉体、乗り移させろよ」


「はぁ!?無理だよそんなの!」


「言うと思ってたぜ。なら…」


 次の瞬間、ヴォラクは目を疑った。

 劾は鏡から飛び出した。

 まるで水から出てきた魚の様に、硬い鏡から簡単に出てきたのだ。

 顔に被る仮面まで同じだった。しかし劾はその仮面を好きそうには思ってない。

 そしてすぐにその仮面を脱ぐと、ヴォラクに仮面を投げる。


 その仮面の下に見える顔は凱亜と同じ顔だった。その顔の形は一切変わらない。

 しかしその表情は違う。


 その表情は劾の性格を表した様なニヤリと微笑み表情だった。



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