57話「頑張り過ぎはOUT」
あれ?おかしいぞ。意識が落ちていく。
どうなったんだ?体が一切動かん。動かそうにも体は一切言う事を聞かない。
手も足も首を動かす事すらままならない。金縛りにあったかの様に体は萎縮し動いてくれる事はない。
または誰かに拘束でもされているのか?縄で縛られてたり、魔法を使って、僕の体を固定してたり。でもそんな事誰がするんだ?てかやる意味は?
拘束して拷問でもする気か?意味が分からん。
さて、もう一度。思い切って体を動か………
動かん!本当に一切動かん。壊れたロボットみたいに本当に動いてくれない!
自分の意識は僅かにだけ残っているが全身は一切動かない。
全身、石化してしまった様にも感じる。
一切動かない体。闇の中に存在する自分。状況はイマイチ良く分かっていない。
彼が覚えている最後の記憶は、レイア達に自分が作った武器を渡した所までしか覚えていない。
その先の記憶は完全に抹消されている。覚えているのはそこまでだ。その先は不明だ。
今何処にいるのかすらヴォラクは把握していない。
何処にいるんだろうか?ベットの上か?それとも敵の国の拷問部屋か?それとも天国か?それとも地獄か?それとも何処でもない、名もない所なのだろうか?
自分の勝手な妄言とは言っても、実際の所、僕は今何処にいるのかは一切不明だ。考えても思い浮かばない。
考えて分かる事は今自分は仰向けで寝転がっている事とまだ意識が残っている事の2つぐらいだ。
それ以上は分からない。
だが、まだ意識が残っていると言う事はまだ僕は死んではいないのか?
まだ黄泉の国に送られた訳では無いのだろうか。
て言うか……もう僕死んでるならこのお話終わりじゃね?
↑いや、そうでもないか。
もしも死んだなら適当に主役交代すればいい話だし。正直ヴォラクは主人公として似合ってるのか分からん。
例とするなら?今番外編でよく登場してる悠介主人公にするとか?
それとも残されたヒロイン達だけで話進めるとか。大好きな人死んじゃったけど、大好きな人の屍を乗り越えて私達の戦いはこれからだ!
みたいなテンプレ的要素ぶち込んどけばいいんじゃないのかな?
それとも?敵側の物語にするとか?いっその事この話一新して新しい話に作り替えるか?
どれも悪い案では………
「いや、それ以前に………僕はまだ死んでなァァァァァァい!!!!」
と、腹の底から大声で叫んだ。と同時に目が覚めた。目が覚めるとそこはベットの上だった。
どうやら、まだ天国か地獄へは行ってなかった様だ。額からは冷や汗が流れている。
少しばかり死んでしまった事に(実際は死んでない)焦っていたからだろうか。
「ヴ、ヴォラクさん?ど、ど……どうしたんですか?突然叫んで……大丈夫です……か?」
右方向に首を振ると、そこには床に置かれた椅子に座るシズハの姿があった。
ヴォラクがさっき見せた謎の叫びを聞いていたせいなのか少し、ヴォラクを怖がる様な目で見ている。
まぁ、仕方ないかもね。あんな変な事を大声で叫んでしまったからだ。
何を叫んでいるんだがな?僕は……
「すまん…死んだかと思ったんだよ…………で、僕はどうなったんだ?」
「私達に武器を渡した後に突然倒れちゃったんですよ。なのでベットに皆で運んだんです。皆でって言っても、血雷姉さんが1人で運んでくれたんですけどね」
何となく理解した。
僕は眠らなかった。だから疲れていた。
なのに無理をして作業を続けてしまっていた。なのでぶっ倒れてしまったのだ。
そして今はベットの上に横たわっているのだ。
簡単にまとめればそんな感じだ。
頑張り過ぎて倒れてしまった。それだけだ。
つまり頑張り過ぎはOUTと言う訳だ。
僕も馬鹿だ。
自分の体の事も考えずに無理をして、
馬鹿にみたいに必死になって武器を作っていたら、このザマだ。
やはり頑張り過ぎるのはダメだね。僕は頑張った事はあるが、頑張り過ぎた事は一切なかった。
こんなに頑張り過ぎたのは今回が初めてだった。慣れない事をすると疲れてしまうと聞いた事があるが、その話は本当だった。
慣れない事は無理せずに休憩しながらやるべきだね。ここは反省するべき所だね。
「成程……体が悲鳴を上げたって事だね。無理をし過ぎたか…」
「本当ですよ。頑張る事は悪い事じゃないですけど、体を壊さない程度にしてくださいね。それで倒れちゃったら私、悲しいですよ」
「すまん……これからは本当に気を付け……て言うか何でシズハ1人なんだ?姉さんが運んできたって聞いたが……」
「血雷姉さんなら、新しい刀の試し斬りに行きました。レイさんは血雷姉さんの相手を、サテラはバスターランチャーの試し撃ちに行きました。私は特にやる事なかったのでヴォラクさんの面倒を見る事にしました。起きた時に誰もいなかったから悲しいですよね?なのでここに…ヴォラクさんの傍に私はいます……もしも、邪魔だと言うなら言ってくださいね。すぐ出ていくので」
シズハの存在が邪魔だって?そんな事、僕は思った事はない。
邪魔ではなく、逆に一緒にいて欲しいぐらいだ。そんな邪魔だから出ていけだなんて事は絶対に言わない。
「僕は邪魔だなんて、言わないよ。今は僕の隣に座っていてくれよ」
「………!ヴォラクさん…はい、分かったよ。今は隣に座ってるよ」
ヴォラクは以前として、ベットから起き上がる事は出来なかった。まだ体は「休んでいたい」と言っていたからだ。
ヴォラクは無理をせずにベットに横たわり、体を休める事にした。目を開けたままただ天井を見たり、横を見て、シズハの横顔を見る事ぐらいしか出来なかったが、今の彼にはそれぐらいで十分だった。
しかし、ずっと寝っ転がっているだけでは暇になってくる事は明らかだった。
だってさ、ベットにただ寝転がるだけでさ。しかも何も出来ないんだよ?天井見るか、横で座ってる人の顔を見る事ぐらいしか出来ないんだよ?
暇になるだろ。絶対に!
(やっぱ暇だ……誰か本でも読んでくれないかな?ラノベとか…)
誰か本でもと読んでくれないか、とヴォラクは期待する。しかしそんな期待するだけ無駄な話だった。
この部屋には本どころか、何もない。
一応客人の部屋と言う事もあって、必要最低限な物(ベット、机、椅子、トイレなどが設置されている。他にもこの部屋の壁には絵が飾られている。窓もある)しかないので、そう言う暇を潰したり娯楽の為の道具などは一切用意されていないのだ。
お陰でヴォラクは動かせない体をベットに寝転ばせ、ただ天井を眺めるか、横を見る事ぐらいしかする事がなかった。何をしようにも、他に出来る事と言えば、オタクであるからこそやり続ける事が出来る妄想とか←ヴォラクはかなりのオタクなので長時間の妄想も余裕で行う事が出来る。
「あ~暇だ……やる事ないから暇だぜ…」
「ヴォラクさん?暇なんですか?」
「あぁ、暇で暇で仕方ないね。」
「何もないよね、この部屋。私もただヴォラクさんを見てるだけしか出来ない…」
2人の会話はそうして、途切れた。その先から、2人は突然として話す事が出来なくなった。
互いに言葉が口から出てこない。何を話していいのか分からない。言葉が出てこない。
互いに体の硬直と沈黙が続いてしまい、気まずい雰囲気になってしまっている。
さて、どうしたらいいものか。
どうこの氷の様に冷たくなっている雰囲気を壊すか……
上手く事やらないと、僕とシズハの関係が割れるガラスの様に砕け散ってしまうかもしれない。
そんな事には絶対なりなくないので、慎重に言葉を選ぶ事にした。
何て言えばいい……シズハにどんな言葉をかければ良い…?
何か言おう。取り敢えず何か、何か言ってみよう。
しかし、ヴォラクが何か言葉を言う前にシズハがヴォラクに話しかけた。
ヴォラクよりも先だった。ヴォラクが話す前にシズハは口を開いた。
「ヴォラクさん……突然ですが……ごめんなさい!」
突然、謝られてヴォラクは驚いた。
しかし、シズハが謝った次に行った行動の方が更に驚いてしまった。
自分の思考が一瞬止まった。
数秒の間、完全に考える事が出来なくなり身体が熱くなった。
互いに頬が赤くなってしまっている事が分かる。僕もシズハも頬を赤らめている事に。
「んっ…ん、んむっ…♡」
「ん、んぐっ…」
いきなり過ぎた行動で驚きが消えなかった。
会話が途切れてただ2人が無言で互いの目を見つめあっていた時だった。シズハは突然、顔を自分の顔に近付けてきた。
最初は僕の顔にゴミでも付いているのか?ゴミ取ってくれるのかな?と思ったが、そんな事ではなかった。
何と、突然シズハは、ヴォラクの唇を奪ったのだ。
口付けだなんていつもやっている事だ。ベットの上で繋がっている時も日々の中でもよくキスはしているが、まだどこか女性とのキスには慣れていない所があった。
一応僕は男だ。
それもこの世界に来る前は女性との関係などほぼ無かったし、キスだなんてした事なかっ……いや何回かあった。(年上の女性に)
しかし、それでも慣れないものは慣れない。
それも突然、不意に口付けをされてしまったのだ。焦ってしまい、頬が赤くなり、身体が熱くなっても仕方ないのかもしれない。
突然、シズハにキスをされた。最初は理解が追いつく事がなかった。
寝転がっていた彼の身体をシズハは自分の手で支えながら、ヴォラクの上半身だけを起こし、ベットに座りながら彼の唇に自分の唇を重ねる。
勿論恋仲の2人がただのキスで終わる事はなかった。
2人はそのままキスをしたまま互いの舌を出し、互いに舌を絡み合わせる。
シズハの柔らかくて温かい舌が自分の舌に絡み合う。
シズハも同じだった。ヴォラクのサラサラとして生温かいヴォラクの舌を自分の舌と絡み合わせる。
2人共呼吸が荒くなる。緊張しているか、それとも照れてしまっているのか。呼吸音がはぁはぁと荒くなっていく。
「んっ♡くちゅ、ヴォラクひゃん♡ん、んむっ」
「シズハ♡んむっ」
互いに言葉にならない様な声が口から飛び出す。
今2人は周りの事を一切気にする事なく、ただ只管に互いの舌を絡み合わせて、欲望を貪るかの様に深いキスを続ける。
止める事はなく、ただ時間が流れ、2人の深い口付けはしばらくの間続いた………
「んっ♡くちゅ、んむっ…ぷはっ♡」
「んぐっ、くちゅ…♡ぷはっ…♡」
やっと、深い口付けが終わった頃、2人の口の中は完全に溶ける様に熱くなっていた。
互いの舌が離れても、2人の唾液は糸を引いている。
ヴォラクの唾液がシズハの口の中にシズハの唾液がヴォラクの口の中に流れ込んでくる。
ヴォラクもシズハも互いの口の中に流れ込んでくる唾液を零す事なく、そのまま飲み込んでしまった。
「んっ♡ヴォラクさん、少しは……元気になった♡」
「元気になり過ぎちまったよ。上も下も元気になってきた♡」
「それなら、良かったです……ヴォラクさん、大好き♡」
「あぁ、僕も好きさ♡」
「なら、もう1回、してもいい?」
シズハの狐の様な耳が動いている。まるで心臓の鼓動の様に動く耳を見て、ヴォラクはシズハから目線を逸らす事が出来ない。
とにかく可愛くて仕方ない。今、彼女を自分の物にしたい。それだけだった。
もう躊躇する理由が見つからなかった。
もう一度だ。
もう1回……
「あぁ、いいぜ♡」
そして、2人は再び唇を寄せ合おうとした。また口付けをし、互いの事を感じる。
そうなると思っていたが……
ガチャ!と後ろから扉を思いっきり開く様な音が聞こえた。
「うぃ~す!ヴォラク、大丈夫かぁ!?」
この聞き慣れた声、この声は絶対に姉さんの声だ!
待てよ、姉さんがいるって事は……サテラとレイも絶対いる!
どうしよう、どうしよう!
今僕とシズハは互いの身体を抱き寄せ、温かい身体を密着させている。
この状況、バレたらどうなるか分からん。
打開策、何か打開策……
って、もう遅いか……
シズハも覚悟は決めた様な表情でこっちを見ている。ヴォラクも覚悟は決めた。
2人は恐る恐る後ろを振り向いた。
後ろには………
予想は大正解!血雷、サテラ、レイアの3人見事にいました!この先どうなるか分からんけど、とにかく怒られる事は避けられないね!