番外編3「照らされた影」
瞼が開いた。うっスラと周りの景色が見えてくる。
しかしまだ、意識は朦朧としている。
あの時、暗い道で血痰吐いて倒れた後からの記憶がない。その後自分がどうなったかも一切分からない。
まだ体は全体的に脱力していて、疲労感が体中を駆け回る。
そして異常な程まで喉が渇いている。カラカラに干上がった池の様だ。
もしも今、また無理に立ち上がろうとしたらまた自分の意識は闇の中へと落ちていくだろう。
そして、今よりも深い眠りに陥ると考えていた。
一応体は動くが、何故か自分の意思では体を動かしたくはなかった。
自分の体がまだ休んでいたいと言っているのだろうか。それともただ単に動かせないのか。
それが悠介には分からなかった。
そして何故、自分がベットの上で寝ているのかも分からなかった。
そして、さっき目を開けた時は驚いた。
何で俺はふかふかで柔らかいベットの上で静かに眠っていたのかを。ベットに入った記憶なんて一切ない。
そして目を開ければ天上が見えてくる。白い色をした天上だった。
辺りは明るいかった。きっともう朝か昼ぐらいの時間帯だろう。
悠介が覚えている記憶の中には真夜中、何処かの国の兵士と戦闘になって、勝利しその後血痰を吐いて、意識が朦朧として倒れてしまった所までは覚えている。
しかしその後の記憶は浮かんでこなかった。その後の記憶は海の底に沈む様に消えてしまっている。
思い出そうとしても、暗い海の底沈んだ様な物を拾う事は不可能に近い。
思い出そうとするのはやめた。見つけ出せない物を無理に見つけ出す必要性など一切ない。
悠介は素直に諦め、体を起こす様努力した。
「クソ、まだ体が動かん……いや、上半身だけなら動かせるか……」
悠介は自分の両腕を後ろに回し、ベットに両腕を着いて上半身だけを起こした。背筋は猫背の様になってしまっているが、今そんな事を気にする余裕はなかった。
少し眠い目を擦り、周りを見渡す。
周りは普通の部屋だった。天上には明かり。 ベットは自分が寝ているのともう一つ横に置かれた二つのベット。カーテンが取り付けられた窓からは少し眩しい光が照りつけた。後は適当にインテリアが置かれ、部屋としての雰囲気が出ていた。
そしてベットの横に置かれた机にはコップに注がれた水が置いてある。
水はまだ新しい。ここに誰かいた事は確かだ。
飲もうと思えば、手を伸ばして飲む事が出来る。喉が乾いて仕方ない悠介は自分の右腕を動かし、水が入ったコップを手に取る。そしてコップに唇を付けると、注がれた水を一気に飲み干した。
喉が潤う。さっきまで喉は砂漠の様に干上がっていたからだ。
ジリジリと僅かながらも痛む喉に流れる新鮮で綺麗な水は最高の味だった。
しかし、悠介は疑問に思った。何故道端で気を失った自分がこんな綺麗な部屋のベットで寝ているのかが。
無意識にここに来たとは考えにくい。
ここは恐らく冒険者用の宿だろう。宿に入るには金を払ったりする必要があるので、気を失った後、無意識に目覚めて宿に入ったなんて普通に考えたら無理な話だ。
じゃあ、何故ベットの上で寝ていたんだ?
悠介は一度自分の脳で考える事にした……
音を立てて部屋に設置されたドアが開いた。
何故、ここにいるのかが分からない悠介が必死になって考えている所に音を立てて誰かが入ってくるものだから、驚いてしまった。
誰だ?
悠介はドアの方に目を向ける。
「あ、起きてたんだね!」
「あぁ、起きてるよ………!」
部屋に誰かが入ってきた瞬間、悠介は音を立てた事じゃない事で驚いた。
部屋に入ってきたのは、悠介の様な影が薄すぎて誰からも気付いてもらえない自分とはかけ離れた様な人物だった。
綺麗な金色の髪。純粋な金色で撫でたくなる様な色をしている。
腰まで伸びた長く所々が少し跳ねている髪と髪の先の可愛らしい巻き毛がより美しいさを引き立てている。頭には魔女の様な帽子を被っている。帽子は若干黒色がかり、黄色が混ざる色をしていた。
服装もアニメや漫画などに登場する事がある魔女と同じ様な服だった。色は帽子と同じ様に黒色と黄色が基調とした服だった。そして後ろには黒い色をしたマントを羽織っている。そのマントにはフードが付いていて、被れば顔を隠す事も可能だろう。
そして濃い緑色の瞳が輝き、キラキラと輝いている様だ。
そして、何よりも悠介が目がいってしまった所があった。
肉体に!
特に胸だった。
彼女の胸はとても…とても大きかったのだ。着ている服は胸元がそれなりに見えている為かなり色気が出てしまっている。
もう一度言うよ、とても大きかった。サイズなんて…EかDぐらいかもしれない。いや、もっとあるかもしれない。ワンチャンFとかGぐらいかもしれない。
見たくなってしまうがじっと見てしまっていたら変に見られてしまうので、必死になって目を逸らそうとしたが何故かは分からないが、自然と首が動いてしまい、目がそっちにいきそうになってしまった。
なので悠介は頑張って誤魔化そうとした。
「よかったぁ……夜の間は寝てたから心配したんだよ」
「そ、そうか……寝てたのか、俺……」
「寝てたと言うか、夜に道端で倒れてたんだよ」
今話が繋がった気がした。
確かに俺は昨日の夜の戦いの後、気を失って倒れた事までは覚えていた。しかしその後の記憶はない。
そして、何故道端ではなくベットで寝ていたのかが分かった。
きっと彼女が僕を見つけて保護し、介抱してくれたのだろう。
それなら、今ベットで寝ている事が普通に感じる。
「道端で倒れてた俺を君が助けてくれたのか?」
「そんな所だね。昨日、クエストの帰り道に歩いてたら君が道端で倒れてたの。だから助けてあげて私の部屋に連れて来てあげたの」
「成程ねぇ…何てお礼を言っていいのか……」
悠介は感謝の言葉を述べようとした。しかしここで悠介はとんでもない事に気が付いてしまった。
(え!?何で俺女の子と普通に話せてんの!?てか、何で彼女は俺の存在に余裕で気が付いているんだ!?)
説明しよう。
悠介基、裂罅悠介は生まれた時からずっと影が薄かった。
その薄さとは凄まじいもので、自動ドアに気付かれた事は10回中2回だけだった……
他にも、人そのものに気付かれなかった事もしばしばあった。
そのお陰で近くの人間には『存在感皆無人間』と呼ばれた事があった。しかし悠介本人がそんな事を気にする事はなかった。
気にした所でどうにかなる問題ではないし、それに影が薄いのは事実だ。その事実は捻じ曲げる事やひっくり返す事は出来ない。
認めたくはないが、認めるしかなかったのだ。
自分は影が薄い。人に気付かれる事がない事も認めた方が楽になれる。
なので悠介はかなり前から、自分の影が薄い事を認め「自分はそう言う人間なのだ」と心に刻んでいた。
しかし、影が薄いからって友達が居なかった訳では無い。
「不知火凱亜」と言う人物がいた。
彼はこんな影が薄くて、人からも気付いてもらえない自分と友達になってくれた人物だったのだ。
しかし、彼はもう俺の前にはいない。
クラスにも友達はいた。
女の子の友達だって、2人はいたが、ある男がその女の子との交友を絶とうとしてきたのだ。
そのせいで現在は関わる事はない。
関わる以前に、俺は逃げていたからだ。
あの国には大きな秘密がある事を知り、自分があの国にこれ以上滞在してしまっていては命が危ないかもしれないと感じ、クラスメイトを捨て、召喚勇者としての誇りを捨てて逃げた。
しかし誇りなど最初からなかったかもしれないが……
話が少しだけ逸れてしまったかもしれないが、友達も少なく、人にも気づかれる事があまりない俺が何でこんな可愛い女の子と普通に会話出来ているのか少し謎だった。
でも、話せている事自体は嫌ではない。話せているだけでも悠介は少し嬉しかった。
「そう言えばさ、君名前は?まだ聞いてなかったんだけど……」
すると悠介は顔を僅かに下げ、暗い表情になる。
「知っているかもしれないが……俺の名前『裂罅悠介』だ。聞いた事はあるか?」
「うぅ~んと分かんない……かな?」
え?この人召喚勇者の事知らないの?
なのに俺、知っているかもしれないが?とか聞いた事はあるか?とか何カッコつけて言ってんの?馬鹿みたいだ。
黒歴史確定だね。
「本当に申し訳ない。知らないなら知らないで良かったからね……」
「う、うん。そうだね、宜しく悠介。私は『リアン・ジュール』リアンだけど気軽に「リア」って呼んでね」
「リアン……いや、リアか…良い名前だ。宜しくな」
悠介はベットの上で上半身だけを起こしながら、自分の左手を差し出した。この左手を掴んでくれるかは分からないが、悠介はきっと彼女なら握るだろうと思ったのでその左手を差し出した。
リアンは優しく微笑むと、その手を薄くとも綺麗な肌をした右手で悠介の左手を握った。
その時リアンが見せた、微笑む表情に悠介は見とれてしまった。
彼女が見せる美しい表情と美しい金色の髪色もそして眺めたくなる様なスタイルの良い肉体が悠介の視線に入り込んでいた。
その姿はこの世のどんな綺麗な景色よりも彼女のそんな風に見せてくれる優しい微笑みの方が余っ程綺麗に見えてきた。
悠介は驚きも隠せなかった。自分がこんな美しい女性と仲良く出来ている事にだ。
もしも、前の世界でこんなに美しい女性と俺が仲良くしていたら、何処ぞのクラスメイトが邪魔に入り、自分の物にしようと企んでくるだろう。
しかしそんな奴とはもう関わってはいない。今は彼女とずっと仲良くする事が出来ると悠介は感じていた。
すると、悠介の腹が鳴った。うん、お腹が空いていたのだ。昨日から何も食べてないので腹が減って仕方がなかった。
それなら、お腹の音が鳴るのも仕方ないかもしれない。
「あ、すまん」
「別に大丈夫だよ!お腹減ってるんだね。じゃあ何か食べに行かない?」
「うん、そうします」
そして動く事がまだままならない、体を半場無理矢理に動かそうとした。
体にはまだ疲労感が残っていてまだベットに寝っ転がっていたかったが、腹が減って仕方なかったので疲労感なんて飯を食えば疲労感も消えて楽になると思い、多少無理をしても立ち上がろうとしたのだ。
悠介は少しだけ、無理をしながらも疲労感の残る体を起こし、ベットから立ち上がった。
しかしまだ疲労感と脱力感の残る体を無理に起こした結果、勿論体は悲鳴を上げてしまう。
「う、あぁ……」
体はすぐに傾き、地面に膝を着いてしまう。
頭には頭痛が残り、疲労感が消える事はない。
「ちょ!悠介大丈夫!?……やっぱりまだ完全回復出来てないんだね……んしょっと」
「……リア、すまない…」
そんな悠介を見たリアは悠介に自分の肩を貸した。
悠介は元々体格が痩せている方だったので体重はあまり多い方ではなかった。
なので自分よりも少し背の低いリアンでも肩を貸した状態で歩く事が出来た。(悠介の身長は172cm程。リアンの身長は168cmぐらい)
「全然いいよ。疲れてるなら無理に1人で歩かなくてもいいから、今は私に頼って」
「あぁ、ありがとう……(ちょっと!胸が当たってる!てか、柔らか!)」
こんな経験は初めてだった。他人の胸を押し付けられた事なんて一度も……
肩を貸されながらも彼女が泊まっていた部屋から出るとすぐに宿の外に出た。
外に出ると、悠介は少しづつだが肩を貸されなくとも歩く事が出来るようになった。
外の景色は前にいた国程でもない街だった。
少し小さな街の様だった。
時間はもう昼ぐらいになっている。太陽の様な光が空から照らされていた。
外を見れば自分と同じ様な冒険者が歩いている。自分と同じ様な感じだろう。
すると、すぐにリアンが悠介に手招きをしてくれた。
「悠介、冒険者用の酒場があるの。そこでお昼にしよう!」
「おう、今行くよ」
悠介は自然と左手がリアンの方に出てしまった。
すると、リアンは悠介が自然と差し出されたその手を握って欲しいと思ったのか、自分の右手で悠介の左手を握ってくれたのだった。
女の子に手を握られた事なんて一度もなかった。
それもこんなに美しい姿をしている女性に握られてしまったのだ。
悠介は少し照れてしまっていた。
結局、悠介はリアンと手を繋ぎながら、街を歩く事になってしまった………
暫く手を繋いで歩いていると、リアンの言っていた酒場に着いた様だ。
こんな所に来た事はなかった。
前にいた国では、召喚勇者だった事を理由に城からの外出は全くと言っていいぐらい出来なかったのでこんな風に楽しそうな酒場などに行く事は出来なかったからだ。
なので、そんな場所に行くのは今回が初めてだった。
「着いたよ!ここなら色々あるからね!」
「ありがとな。じゃ、入るか…」
「そうだね!」
リアンは酒場の扉を思い切り開いた。
扉は二つ設置されていたが、リアンはその二つの扉を半場破壊する勢いで押し開けた。悠介は設置された二つの扉が壊れないか心配だった。
リアンの扉を壊す勢いで開けた力にも少し目を奪われそうだったが、それよりも先に扉が壊れないか不安だった。
扉を開けて酒場の中に入るなり、リアンは「来たよ~!」といきなり大声で叫んだ。
叫んだ瞬間、中にいた人達がリアンの方を見る。
リアンが馴れ馴れしいとは思わない。だって、酒場の中にいる人達はリアンとは仲が良さそうな雰囲気だったからだ。
そして、周囲の人物はすぐにリアンに声をかけてきた。勿論かなりの人数だ。
「リアン!また来てくれたんだね!今日は何にする?」
「リアンちゃん!今日は俺と一緒に飲ま………って!リアンちゃん、彼氏連れて来てやがる!」
「「「「「「「えぇぇっっっっっ!!!!」」」」」」」
次の瞬間、耳を引き裂くレベルの叫び声が聞こえてきた。
悠介はあまりのうるささに耳を塞ぐ。自分の耳を塞がなければ、鼓膜が潰れてしまいそうだ。それぐらいうるさい声が聞こえてきたのだ。
しかし耳を塞いでもその塞ぐ手を貫いて、声が聞こえてくる。
耳障りにも感じてしまう。
勿論だが、リアンと俺は付き合っている訳ではない。
今日会ったばかりだ。いきなり付き合うなんて事は絶対にない。
そもそも、悠介は誰かと付き合う気が一切ないので有り得ない話だ。
リアンも照れていそうな表情で「違う!違う!付き合ってないよぉ!」と言っていたが、周囲の人間は簡単には信じてくれない様だった。
早速だが、リアンのファンと思われる男数人が俺の近くにやってきた。顔を近付けて睨む様な目で自分を見てくる。
「てめぇ、リアンちゃんとどうやって付き合ったんだ!?」
「彼女は優しいしスタイル抜群だし、良いとこ尽くしなんだよ。そんな美しい女性を………お前みたいな影の薄そうな奴が!」
「立場を考えろよぉ!」
「いや、お前ら勘違いしてるよね?俺は付き合ってない。現にリアだって付き合ってないって言ってるじゃん。お前らさ、リアの事好きなのは良いんだけどよ、好きならリアの言葉ぐらい信じてあげたら?信じてあげられない男なんて好きって言わないと思うよ」
悠介は薄っぺらい表情で答えた。彼の回答に周囲はシーンと静まり返る。
次の瞬間、1人の男が涙目になりながら、悠介の服の胸倉を掴んだ。そしてブンブンと上下に振り回す。
「ひでぇ!ひでぇよ!お前みたいな奴よりも俺の方が!……だよな?リアンちゃん?………あれ」
「悠介!適当に頼んできたよ!一緒に食べよ!」
「激しく同意するよ。じゃあ食うか」
「「「「「「「「あああぁぁぁぁぁぁ!」」」」」」」」
男共の絶叫する様な声が悠介の耳に入ってくる。さっきよりも更にうるさい。
やめてくれよ……
取り敢えず悠介はリアンが持ってきれくれた食事を口にする為にリアンが先に確保してくれていた席に座った。
周りからは男の嫌な目が自分に向けられている事が分かる。勿論だが、嫉妬の目だろう。リアンが相当男子から人気な冒険者らしい(悠介自身の考え)ので周りからはそんな目が向けられるのは当然かもしれない。
しかし、店番をしている女性や同じ女性の冒険者は逆に悠介を嫌そうな目ではなくクスクスと笑う様な目で見ていた。クスクス笑うと言っても小馬鹿にしたり、蔑んで笑っている訳では無い。何だか嬉しそうな目をしていた。
「まさか……リアンに彼氏出来るなんて…私も彼氏欲しいなぁ…」
「でも相手めっちゃ地味系の男子じゃない?すっごく影薄そう」
「どこに惹かれたんだろうね?…………もしかして夜とか?」
やめてくれ←2回目
そんな好き勝手に言わないでくれよ。影が薄い事は認めるが、夜のとか?何て言うなよ。
そんな経験ある訳ねぇだろうが……
「ささ、食べようよ!」
「あ、あぁそうだな。頂くとするよ」
悠介の暗くて後ろ向きな考えは何処へやら。血痰を吐いて倒れた事なんてもう半分忘れていた様だった。
今は目の前に座っているリアと食事を楽しむ事にしよう。
リアがまた笑顔を見せた。彼女の笑顔はとても綺麗だった。俺みたいな感情の薄い奴とは違って影を照らす光の様な笑顔だった。
悠介も彼女の笑顔につられて、少しだけ笑ってしまった。
ただ素直に笑ってしまっただけだった。
リアンの美しい笑顔とは程遠い笑顔だったが自分なりには良い笑顔を浮かべる事が出来たと思った。
そして、悠介はリアンが持ってきれくれた食事を口に運ぶ。
味は最高だった。舌が踊る様なとにかく最高の味だった。
裂罅悠介が主人公の番外編シリーズです。
もしかしたら、普通に書くかもしれません?