3話「銃士」
街を一人寂しげに歩くヴォラク。しかし今彼には行くあてがどこにも無かった。
宿にでも泊まれば、変な感じの人に見られてしまう。野宿は、治安の少し悪いこの街でやるのは自殺行為だ。
少し悩み続ける中、ヴォラクは一つの場所の事を思い出した。
(そうだ。本に書いてあったあの場所。町外れにある森に行こう。あの場所なら鉄や木もあるし、食用になる動物とか植物もあるらしいから問題無し。でもモンスターもいるから気を付けないと…でも他に行く所も無いし…もうそこ行くしか無いか)
少しその場に立ち止まって考えるが、野宿をするよりも森に行く方が得策だと思い、ヴォラクは森に行く事にした。
急ぎ足で走って向かったが、街から森まで結構離れている事に気が付けず、自分の目からは結構近く感じても、本当はかなり離れている事が分かり、自分の感覚を不思議に思ってしまった…
「そうだ。まずは着替えるか…ベルタさんから貰った黒コート。カッコイイし着てみよう」
ヴォラクはベルタから黒色のコートと黒色と赤色がはいったズボンを貰っていた。今着ている服は正直言ってダサいので、これに着替える事にした。
「着替え完了。さてと、森に向かうか」
月光が周りを照らし、ランプの明かりがヴォラクと周りを照らす。月光の光とランプの光が交わり、言葉で表現出来ない様な色になっていた。
しかし森に着いた瞬間。心の底に溜め込んでいた怒りだけが生まれてきた。何故かさっきまで怒っていなかったのに、あの時の事を急に思い出してしまい、怒りが込み上げる。右手の拳を強く握り締め、前にあった木に向かって思い切り殴り付けた。
「クソ!クソ、クソ!何でこんな事になるんだよ!?何も…僕は何もやっていないのに!どうして…人間は何でこんな事しか出来ないんだ!?ムカつく……決めた…あいつらを見返してやる。強くなって、仲間を連れて、奴らを見返して…最後に殺してやる!絶対にだ!」
指と木の表面に赤い血が滲む、それが痛くなり、木を殴る事をやめたが、ヴォラクの怒りが収まる事はなかった。普段怒る事なんて全くなかったがこんなに怒りが込み上げてきたのは久しぶりだった。
仲間から追放されて、自分の名を奪われて、精神的にはもう半分死んでいた。
自分の心はどんどん壊れていく。
仲間は居ない。今は1人で前へと進む。
過去の自分を憎んだって、他者を恨んだって、何も変わらない。過去を恨むよりも今の事を考える方が先決だと思った。
月に照らされて空を見る。
汚くしか見えない。楽しさも優しさも何1つ思えなかった。
ただ他人を汚く言う様な言葉しか出てこなくなった。
ヴォラクはこの時心に決めた。自分を迫害して、追放した奴ら全てを見返すと決めたのだ。そして最後にはこの手で奴らを殺す事だった。その為に「自分は強くなる」とヴォラクは心の中で決めた…
ヴォラクはすぐに行動に移す事にした。まずはピッケルを使って金属素材を大量にかき集めた。
これを使い、何か武器を作ると考えていたのだ。
「くくく………もう僕を止められないよ…剣とか魔法とかそんな物よりもずっとカッコよくて、強い武器…この銃構造本を使って…銃を作ってやる!」
異世界雰囲気ぶち壊しな武器だが、こんなに良い物を使わないのは勿体ないと思った。ヴォラクは早速銃を作る為に、自分でも作れそうな銃を探した。
そして作る事にした銃は回転式拳銃
「コルト・パイソン」
まずパーツを作る為にかき集めた金属素材を物質変換魔法で物質の形を変形される。銃の構造を見ながら作るので難しくは無い。むしろ簡単だ。弾丸は……少しだけ手に入れていた銅を使ったフルジャケット弾にする。威力はこれが強いと思ったからだ。
銃に装填する銃弾は「357マグナム弾」を使用する事にした。
(装填数は六発にしよう。そもそもの話六発しか装填出来ないし……)
作動方式は普通の拳銃に使用されているシングルアクション。
そしてこれを作るのに何時間費やしたのだろうか?それを作るのに夢中になっている内に遂にそれは完成した。
「やった…やったぞ!遂に完成だ!これなら魔法よりも剣よりも強い力を手に入れたぞ!早速試し撃ちをしてみよう!」
近くに生えていた木に発射する事にした。手馴れた手つきパイル・パイソンを構える。
効き目を使い木に銃口を向け、引き金に指をかける。
辺りが何も音を発さなくなった時、ヴォラクはそれを発射した。銃を撃った瞬間、コルト・パイソンの回転式シリンダーから薬莢が排出される。
耳鳴りがする。銃が発射された。木が完全に貫通していて、かなりの威力があると感じた。この銃の威力は恐ろしいぐらいの威力だった。
「やった!」
よく見ると、木は折れそうになっていた。この銃の威力がどれぐらいか良く分かる。
しかし何となく予想はしていた。コルト・パイソンは元から威力の強い銃だと知っていたからだ。
気を取り直して二度目。もう一度パイル・パイソンを撃つ事にした。
「おいおい!もう木が折れそうじゃねぇか!」
木が折れそうになっていた。たった二発だけの弾丸で目の前に生えていた太い木は今にもへし折れて自分の方へと倒れてきそうだった。
そして三度目。
「あ、折れた…」
再び夜の森に銃声が響き渡った。その音と同時に周りの木に止まっていた鳥達が空へと飛び立つ。そして木は折れた。思っていたよりも脆かったと彼は思った。
ヴォラクは悪い笑みを浮かべた。これがあれば復讐が出来ると思った。自分を追放した者達を殺す事が出来ると……ヴォラクの悪い笑みがより一層高まった。
「やった…完成だ。自分で…銃を作る事が出来た。母さんが言っていた「人間何だってやろうと思えば出来る」って言葉は本当だったな」
回転式シリンダーにも異常は無く、異常が起きている様には見えなかった。
「……この銃の名前ムズいし何か自分で名前考えるか…」
この銃の名前は英語でいちいち読むのも面倒臭い名前だったので、ここは自分で銃に名を与える事にした。
「そうだ、今日からこの銃。いや、お前の名は『ツェアシュテールング』ちょっと長いが、これでいいだろう。よろしくなツェアシュテールング」
銃の姿を見て、さっきまで込み上げ続けていた怒りも銃の弾と共にどこかへと吹き飛んでしまっていた。
銃が完成した嬉しさと早く使ってみたい気持ちに心を躍らせる時だった。
後ろから、草が動く音が聞こえる。モンスターが現れたのかと思い、ツェアシュテールングを片手で持って構えるヴォラク。目を凝らして睨むその先には…
巨大な熊の魔物がヴォラクを赤く染まる目で睨み付けていた。
「熊か…猟師のじいちゃんが何匹撃ち殺したっけな?でも僕を狩ろうとするなら…僕が狩るよ」
ヴォラクは牽制がてら銃弾を相手の胸に向かって撃ち込んだ、血が吹き出し、地面に垂れている。しかし熊はまるで石が当たったかの様に平気な顔をしている。
実際熊は胸を撃たれても生きる事が出来ると聞いていたので、油断せずに、ツェアシュテールングを熊にむける。
「バゥァァァァァアー!」
大声を上げながら、ヴォラクに向かって高速で突っ込んで来た。あれに当たれば骨折する羽目になるかもしれない。
そんなのは嫌なので、上に向かってジャンプをして、熊の背中を優しく?タッチして後ろに回り込む。そして熊がこちらを振り向いた時…
「…死ね!」
頭に向かって一発弾を撃ち込んだ。熊は巨体を踊らせながら、地面に倒れ込んだ。
脳を露出させて、頭蓋骨が砕けているのが、自分の目にはいる。しかしなんとも思わない。こんな光景は見た事があるからでもある。
さっきまでの凶暴さは無く、完全に息絶え動かなくなり、地面に血溜まりを作りながら静かに転がっている。
「アホだね。自ら命を捨てるなんて…まぁあんたの体は色々と使わせてもらうよ」
ヴォラクはバッグからナイフを取り出して、熊の皮を剥ぐ事にした。皮の剥ぎ方は伝授済みだったので、素早く皮を剥ぐ事が出来た。
「肉は飯に回すか。皮は何に使うか……そうだこの皮で何か作るか」
皮から作れる物は沢山ある。少しだけ考え、一つだけ思い付いた物があった。
「そうだ…鞭を作ろう。これで敵を痛ぶれるヒヒヒ」
少し悪い考えをしながらも鞭を作る事にした。
鞭を作るにはまず、皮を編んで木の棒などに先を繋げる必要がある。
木の棒は資源豊富のこの森から借りて作る事にした。大きさ20cm程だ。
鞭本体は熊の皮を編み合わせて、簡単に作る事が出来た。
実際に振ってみた感触は、普通に叩かれたら痛そうだった。振り回して範囲攻撃も出来そうだった。触り心地が以外によくて、つい触りたくなりそうになる。
「これを使えばある程度戦う事も出来るな…しかも銃と組み合わせればかなりの強さになる。あの街でも少しは通用しそうだな…もう朝方か…さっさと飯食ってこの森からおさらばするか…」
木を使って火を起こし、熊の肉を焼いて食べた。適当に近くに落ちていた棒を細く変換して、肉を棒に刺して焼いた。
(ん?割と美味いな。肉は昔からそんなに好きじゃないけど、案外この味はいけるな)
元々肉は好きじゃ無かったが、熊肉はヴォラクの口にあった様だった。
朝日を眺めながら、ヴォラクは独り言を呟いていた。誰かに聞かれる訳も無く、ただ自分に対してだった。
「さて…この銃『ツェアシュテールング』と鞭を使って無双してやるか。弾とマガジンの予備も大量に作ったし、モンスターもイチコロだな……もう太陽が出てきやがったか。よし…行くか!」
ヴォラクは日の出と共に森を抜けて、街へと走り出していった。