エピローグ「強さの裏に」
戦場から4人で旅立ってもうかなりの時間が経過してしまった。周りは暗くなり、完全に夜になっていた。
度重なった魔物との戦闘や今まで歩き続けていた身体は完全に疲弊してしまい、足を動かすのも皆辛くなっていた。
時間も夜になっていた事もあり、ヴォラク達は休む為に自分達が持っていた一つの大きなテントを貼る事にした。
そしてテントの前に焚き火を設置した。何か恐ろしい何かがやって来ても、火があれば抵抗ぐらいは出来るだろう………多分
動物は火を恐れる。それと同じ事をヴォラクは考えていた。
4人でテントを貼った。するとサテラとシズハはすぐにテントの中に潜り込み、颯爽として眠ってしまった。無理もない、サテラとシズハはかなりの体力を使ってしまっていたからだ。ヴォラクは何も言わずに深い眠りに落ちていったサテラとシズハを静かに見守った。
ヴォラクも身体は疲れ切ってきた。頭も妙に痛いし、足に至っては疲れ過ぎて足の感覚が若干なくなってしまっている。ヴォラクも(今は休むべきだな)と考えて一眠り着く事にした。サテラやシズハと同じ様に。
ヴォラクは一度血雷の方を見る。血雷は焚き火の前に座り込んでいた。焚き火の火に手を近付けている事が分かる。今はあまり寒くはないが、血雷はどこか不安気な表情を見せて、焚き火の火に手を近付けていた。
血雷はヴォラクが自分の事を見ている事に気付くと、血雷はヴォラクに親しげな表情で話しかけた。
「見張りはアタシがやっとくから。お前は心配せずにゆっくり寝てろ」
「すまない。頼む」
ヴォラクの言葉に血雷は頷いた。そしてヴォラクはテントの中に入り込み、寝息を立てるサテラとシズハの隣で顔に付けていた仮面を外して、自分の目を閉じた。
目を閉じたヴォラクはそのまま深い眠りに落ちれると思っていた。
しかしヴォラクは眠いにも関わらず、全くと言っていい程眠れなかった。理由なんて不明だ。何故かは分からないが目を閉じて眠る事は出来なかった。目が冴えて眠れなかった訳では無い。とても眠くてもただ本当に眠る事が出来なかったのだ。
ヴォラクは安心して眠りに着く事が出来る様に色々と眠る方法を頭の中で考えてみた。しかし考えれば考える程、完全な眠りにどんどんと遠のいてしまう。
(クソっ、眠れねぇ。何でだよ…疲れてんのに。元気もないってのに……何でなんだよ)
ヴォラクはまた余計考えてしまい、また眠りから遠のいてしまう。
目を閉じていたヴォラクはもう眠れない事を察してしまった様だった。ヴォラクは考える事をやめて、自分の目を開けた。そして隣で静かに眠っているサテラとシズハの横を通って、テントの外に出た。テントの中からは焚き火の光が僅かにだけテントの中を指していたが、テントの外に出ると焚き火の火がより一層強くなっていた。
そして焚き火の前には血雷が座り込んでいた。
ヴォラクがテントの外に出ると、血雷は後ろに目が着いている様な感じでヴォラクの存在に気が付いた。血雷はすぐにヴォラクの方を見て「どうした?寝れないのか?」と言ってくれた。ヴォラクは血雷の近くに寄り添い、血雷の隣に座り込んだ。血雷の隣に座ると、血雷はヴォラクとの距離を更に縮めてきた。もうすぐ密着してしまうぐらいの距離だった。ヴォラクの頬が僅かにだけ赤くなる。
「あぁ…何か、眠れないんだ」
「そうか……」
ヴォラクと血雷はこの会話を最後に何も言わなくなってしまった。その場で石像の様に何も言わずに座ったまま固まってしまった。ヴォラクは会話を弾ませようとした。何でもいい、簡単な雑談で良い。何か簡単に話せる内容で良いのだ。
「ところでさ、姉さん。色々と持ってきたみたいだけど、何持ってきたの?」
「そんな良い物は持ってきてねぇよ。服と水と刀と形見と家の鍵だけだよ。家はまだ壊れてなかったからな。後、親父の形見は絶対に持っておかないと……まぁ後は自分の服着て刀持っとけば問題なしだ!」
「……そう…ですか。うん…」
ヴォラクの口は思う様には開かない。あまり血雷との会話が弾まない。
そんな時間が過ぎていると、血雷は突然立ち上がり、ヴォラクの近くに寄ってくる。そして寄ってくるとヴォラクのすぐ真横に座った。そしてヴォラクの肩に自分の腕を回した。
突然血雷の腕が身体に密着した事でヴォラクの頬が少しだけ赤くなる。血雷は腕を回すだけではなく顔をヴォラクの顔に寄せてきた。頬をくっ付ける程までに顔を寄せてきたのだった。
「ね、姉さん?」
「お前、心が泣いてるぞ。泣きたくても、グッと我慢して泣けない様な感じになってるぞ」
そう言うと血雷はヴォラクの自分の胸元に抱き寄せた。ヴォラクの顔が血雷の胸が埋まる。ヴォラクは息が僅かにだけ苦しくなるが、今は平気だった。血雷はまるで母親の様にヴォラクに話しかける。
「泣きたい時は泣けばいいさ。泣いて悪い事なんてないんだからな…お前は我慢し過ぎだ。遠慮せずに自分の気持ちを言えばいいんだよ。今のお前の気持ち、言ってみろよ」
「…………自分が情けない。守るとか言ってて、結局守れなかった。姉さんの故郷を……守れなかった。そんな自分が嫌なんだ。何も守れねぇくせに守るとか言ってる自分が……」
ヴォラクは血雷の胸元に自分の顔を埋めながら言った。血雷は黙ったままヴォラクの話を聞いている。ヴォラクの話を聞いて、何も言わずとも、ヴォラクの頭を撫でていた。
「守れてるさ…」
「……えっ?」
「お前は守れてるさ。サテラやシズハやそしてアタシを守ってくれてるじゃねぇか。だってよ、今こうしてアタシ達は生きてるじゃねぇか。お前は頑張ってる。ずっと1人で頑張ってきたんだろ?胸を張れ、胸を。お前は頑張った………頑張ったな。1人で、1人で良く頑張った」
その言葉を聞いてヴォラクは自分の目から何かが零れてきた。それは……涙だった。
「泣いてるのか………今は泣け」
「…………………姉さん……」
ヴォラクは血雷に抱き着きながら、目から涙を零していた。ヴォラクは泣いた事なんて殆どなかった。ヴォラクは感情をあまり持たない。笑ったり泣いたりするなんて事は今まで殆どなかった。
だが今は違った。ヴォラク今泣いていた。血雷の胸元に包まれながら、声を上げる事もなく、静かに声を押し殺して静かに泣いていた。血雷は泣いてしまっているヴォラクの頭を撫で、彼の事を慰めていた。
「ね、姉さん……」
ヴォラクは泣き続けていた。声を上げずにずっと泣き続けていた。彼の目からは涙が溢れてくる。今まで泣いてこなかった分多く流れてしまったのかもしれない。
血雷は焚き火が周りを照らす中で1人ヴォラクを慰めてくれていた。
暗闇の中、焚き火の火だけが2人を照らす。彼の泣いた顔を見ていたのは血雷だけでサテラとシズハは彼の泣き顔を見てはいなかった。
ヴォラクは愛情に飢えていた子供の様だった。今まで誰にも甘える事が出来なかった少年の様だった。
血雷は母性の溢れる母親の様に、ヴォラクを抱き寄せて、彼の事を慰めてくれていた。
「仮面を外したお前も綺麗だ。でも、その綺麗な顔は汚すもんじゃ、ないからな」
焚き火の炎が照らす中で2人だけの時間が過ぎていった。誰にも邪魔される事なく、まるで時が止まり続けてる様に、2人だけの時間は過ぎていった。
「なぁ、ヴォラク。今日はアタシの隣で寝ろ」
「うん……僕も姉さんと一緒に寝たい」
そう言って血雷は立ち上がった。2人でテントに戻る中ヴォラクは血雷の手を握っていた。ヴォラクが手を差し出したのではない。ヴォラクは血雷の手を握りたかったから、握ったのだ。血雷は何も気にする事なく、ヴォラクの手を握ってくれていた………
その後、ヴォラクは血雷に密着しながら静かに眠りに着いた。何故かは分からないがすぐに眠る事が出来た。血雷が自分の傍に居てくれたからか?
それとも単なる偶然なのか?
分からないが、今日の夜は自分が我慢していたものが全て消えた様な気がした。テントの中でヴォラクは血雷に抱き着いたまま眠っていた。血雷はそんな彼の背中に手を回し、ずっと抱き締め続けてくれていた。そして血雷もヴォラクの隣で静かに眠った。
ヴォラクはその日の夜、少しだけ楽になったと言う……
四章終わりです。
次からは五章になります!




