番外編2「敵をたおせ」
国から、城から1人だけで逃げ出して、どれぐらい時間が経っただろうか?後ろを見るが、誰も悠介の後ろには着いてきていない。存在消滅を使っていたからかもしれないが国からの追っ手はどうやら来ていない様だった。あの大きな城や城壁も見えなくなってきた。かなりの距離を走っている。もう今から戻るには長すぎる距離かもしれない。
悠介はずっと走り続けていたが、流石に足が疲れて、心臓の鼓動が早くなってしまい、走るのをやめて、ゆっくりと歩く事にした。
突然と後ろを見る。何か嫌な気配がした。しかし後ろには誰も存在していない。その場は完全に静まり返り、存在している暗闇は悠介と完全に同化を果たしていた。悠介は真っ黒となっていて、その空間にはまるで存在していない様な存在となっていた。
悠介は途方もなくただ続いている道を歩き続けていた。悠介は王国『ユスティーツ』以外の国や街を知らない。何処に行けばいいのかなんて分からない。ただ目の前の道を歩いているだけだ。「地図でもあれば」と思ったが、地図は残念な事に持っていない。持っていた訳でもない。ただ本当に持っていないだけだ。
完全なミスをしていた。地図なんて『ユスティーツ』の店に地図ぐらい山の様に売っていただろう……なのに自分の不注意のせいで買う事すら忘れてしまっていたのだ。
取り敢えず今は前に続く道を歩く事にした。取り敢えず歩いていけば何処かの街に辿り着く事が出来るかもしれない。確証はなかったが、辿り着くと自分に言い聞かせてただ悠介は歩き続けていた…
時間はもう深夜で、真っ暗な世界が辺りを支配する。悠介は周りが暗くても問題なく周りの光景を視認する事が出来る。長年暗い自分の部屋の中で何となくやっていた事が身を結んだのかもしれない。
実際今は周りからは何も聞こえない。ただ静かな空間を生み出しているだけだが、突然と虫の様な声が聞こえてきた。夜に鳴く虫は嫌いだ。貴重な眠りを妨害する存在なので鬱陶しくてたまったもんじゃない。今は邪魔な存在ではないが、寝ている時にこんな鳴き声が聞こえてきたら、耳栓が欲しくなってしまう。
悠介は再び走り始めた。さっきまでは普通に歩いていたので、もう走っても問題はなかった。走っていれば逃げ切れるかもしれない。歩いていたら後ろから国からの追っ手が自分目掛けてやって来て自分を排除、もしくは連れ戻すかもしれない。そんな事には絶対になりたくないので、必死に走り続けた。しかし悠介はずっと走り続ける事は出来ない。走っては歩き、走っては歩く事を繰り替えてしていた。
(もう……逃げ切れた……か?)
タクティカルナイフを持つ事もなく、荒い息を吐きながらも歩く悠介は心の中で呟いた。
「ふぅ~」と安堵の息を吐き、一度は安心した悠介だったが、安心した瞬間、すぐに嫌な気配を再び感じた。殺してくる様な嫌な気配は上、横、正面、後ろの四方向から感じた。この気配は完全に敵の気配だった。敵は自分に対しての殺気を隠しきれていない。自らの正体を露にしている様だった。
悠介は完全に取り囲まれている。このままでは四方向から同時に攻撃を仕掛けられると思った。闇雲に戦えば絶対に負ける。何か作戦を立てて戦う必要がある。悠介はその場に立ち止まり、タクティカルナイフに手をかける。そして瞬きをする事もなく、この状況から生還出来るような作戦を自分の脳みそで必死に考えた。
ここで浮かび上がった考えは全部で三つ。
一つ目はどれか一方向の敵をターゲットに絞り、一方向の敵だけをタクティカルナイフで撃破し空いた方向から抜け出し、体制を立て直すか。しかし成功する保証はない。悠介はナイフの実力が絶対的に高い訳でもないので、タクティカルナイフの使い方を誤ればすぐに死がやってくるだろう。
二つ目は戦う事をやめて、武器を捨てて大人しく投降するか。しかしこの作戦は一時しのぎにしかならない。投降した所で自分の命の保証などないのだから。
三つ目は自身が使用出来る魔法である『影小刀』と『影押』を使用してこの戦況を打破するか。まだ魔法はあまり試していない為ちゃんと扱えるかは不明だがこの選択肢の中ではかなり生存率が高いだろう。この魔法は強力だと悠介は信じていたからだ。
刹那の間に敵は悠介に対して一気に間合いを詰めてきた。その時悠介は敵の姿を視認した。敵の姿を見る限り、敵も自分と同じ様な職業だろう。しかし気配を完全に消す事は残念だが出来ていない。
自分の上、横、後ろ、正面から同時攻撃を行って来たのだ。悠介は上に飛び上がった。上に飛び上がると上から襲いかかって来た敵は剣を悠介に向かって剣を振り下ろした。悠介に躊躇する時間などなかった。悠介はタクティカルナイフ右手で握り締め、敵の剣と刃を混じえる。敵は両手で剣を振り下ろすのに対して、悠介は片手でタクティカルナイフを使っている。力では敵の方が絶対的に有利だ。力で押し切られる可能性も否定は出来ない。正面、横、後ろから襲いかかって来た敵は上に悠介が存在している事に気付き槍や剣を持って襲いかかってくる。囲まれた。このままでは4人の攻撃を全て受ける事になってしまう。悠介は剣で斬られたり槍で突かれても生きている自信など全く持ってない。悠介は下の方から迫り来る3人の敵の存在に気付いて左手を広げる。悠介は『影小刀』を使い、敵を迎撃する作戦に出た。悠介は詠唱する。
「我の影よ!その影の姿を刃に変え、敵を蹂躙せよ!『影小刀』!」
悠介が叫んだ瞬間、悠介の左手から影の様な魔法陣が現れる。左手から現れた魔法陣からは先端が鋭く尖ったナイフの様な形をした影が現れた。影の数は悠介が調整しているがその数は余裕で200を超えている。鋭く尖った影は容赦のない速さで敵へと飛んでいく。そして影は敵達を容赦なく突き刺した。2人は影が体に大量に突き刺さり、地面に落下、そのまま一切動かなくなる。恐らく死んだのだろう。
しかし敵の内2人は悠介が使った『影小刀』を避け、接近してくる。地上に足を着けた瞬間敵は剣を悠介に向かって振り下ろす。悠介も負け時とタクティカルナイフを使い、応戦する。
「何故だ!何故俺の行く手を阻む?」
「命令なんですよ『裂罅悠介』貴様は知り過ぎた。残念だが死んでもらう!」
「意味不明な事言ってんじゃねぇ!」
いつもは静かであまり深入りして話す事がない悠介だったが、今悠介は怒りを込めて叫んだ。
悠介はタクティカルナイフを連続で振る。タクティカルナイフは軽量なので、連続で斬り付けるが出来る。悠介は一発一発のダメージよりもダメージを連続で蓄積させる戦い方で戦った。
しかし相手は2人、片方を無視すれば無視した敵が隙を見て攻撃してくる。状況を見れば悠介はかなり不利だ。
しかし負ける訳にはいかない。まだ死ぬ訳にはいかない。悠介は自分の願いが叶うまで死ぬ訳にはいかないと心の中で決心していたからだ。悠介はタクティカルナイフで戦闘を続けながら詠唱を始める。
「我が影よ!巨体に化け、主を襲う者を叩き潰せ!『影押』!」
悠介はタクティカルナイフを右手で握り、左手を広げて詠唱を行った。僅かな瞬間の中でタクティカルナイフを片手で持ち替えて、敵が振り下ろしてきた剣を受け止め、背後から迫る敵に左手を向けて『影押』を発動させたのだった。勿論だが敵は悠介の持つ『影押』の事は知らなかった。油断した敵は呆気なく悠介を殺せると思っていたが悠介の使う『影押』に気付かず、声を上げる事も出来ず、悠介の影によって殺された。潰された敵は原型を留める事はない。影に押し潰された敵はただの肉塊となっていた。見るに堪えない醜い姿となっていた。
「後はお前だけか…………存在消滅」
悠介の姿が突然として消え去った。何処にも悠介の姿はない。敵は完全に困惑していた。悠介は怯え、戸惑う敵を見ているのが少しだけ面白かった。「ど、何処だ?何処に行った?」と必死に周りを見て、悠介の事を探す敵を見ているのが。
悠介はゆっくりと歩き、敵の背後に回った。そして敵の首に手を回した。「がはぁ!」と驚いた様な声を出す。悠介は漫画等を見ていた時の真似をして背後から敵の首を強く絞める。突然悠介に首を絞められた敵は慌てふためき、身動き一つ取る事が出来なくなった。
悠介は存在消滅を解除し、静かに自分の姿を敵に見せる。そして首を絞めていない右手でタクティカルナイフを握り、首にナイフの刃を近付ける。
「お、お前は勇者なのか!?」
その時に悠介の目は生きていても、生きている気を感じさせない目をしていた。
「俺は……勇者じゃない。俺は『悪魔』だよ。弱い奴は…死んでなきゃね」
そう言って悠介はタクティカルナイフの刃で敵の首元を斬り裂いた。敵の首元からは大量の血が吹き出した。敵は目を閉じたまま倒れ込む。悠介はタクティカルナイフを持つのをやめて、再び歩き始めた。死体の処理をする事もなく、歩き出した。死体の片付けなんかしていたらまた追っ手が追加でやってくる可能性がある。
悠介は死体を見捨てて歩き出したが……悠介は突然咳をしてしまった。
「ごフッ!な、急に咳なんて…………………はっ!」
悠介が吐いた咳から出た痰には血が混じっていた。次の瞬間頭がボォーッとする。気が付けば目眩が悠介を襲う。正常に歩く事が出来なくなるぐらいに…
「ま、まさか。また、なの……か」
悠介は道から外れて、正常に歩けなくなった。フラフラと揺れる様に歩き、そして近くの森林に潜り込む。
そして気が付いたら、気を失って死体の様に倒れてしまった……
番外編は一旦終わりです。またどこかで入れる予定です!




