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番外編1「密会を覗く者」

 

 王国『ユスティーツ』

 

 勇者専用ダンジョン内部………




 












 異常な程まで影が薄く、一部以外の人間からは気付かれる事がない影の暗殺者。

 裂罅悠介は今ダンジョンの中でたった1人で戦っていた。影の薄さには個人的にも定評がある。この前なんて学校に行ったのに休んでいると勘違いされてしまうし自動ドアなんかに至っては気付かれた事が……一度もない。この世に生まれてからの人生十八年、気付かれた事は一度もなかった。

 








 そしてこの世界に召喚されてしまってもう2ヶ月近くが経っていた。最初の頃に比べて自分のレベルは結構上がったと思う。戦闘能力も前の世界に居た時よりも圧倒的に上昇した。

 悠介の現在のレベルは52クラスで一番強いと言われる勇者の天野銀河のレベルは58だった。クラスでのレベルの高さは二番目。クラスでの強さはNo.2だったが誰も気付いていなかった。存在感が無さすぎて誰も彼が強くなった事には気付いてくれなかった。しかし悲しいとも思わない。何故ならこんな事慣れっこだ。頑張っても誰からも認められない事なんて自分が一番よく知っている。いちいち気にする必要性なんて感じていなかったのだ。他にも劣等感等も感じていなかった。

 何故ならいつもいつも天野銀河は前線に出て、敵を全て殲滅するせいで経験値等が全て天野銀河に回ってしまうので自分達の活躍の場が消えてしまったのだ。

 しかし全ての活躍の場を奪われる事はなかった。何故なら1人でこっそりとダンジョンに潜り続けて、1人でずっと訓練を続けていたのだ。

 今使っている武器は召喚されて間もない頃に支給された短剣ではなく、1人でダンジョン攻略をしていた時にダンジョン内部で見つけた若干長めのナイフをオリジナルカスタムしたナイフだ。自分でカスタムした所は全部で二つ。現在の自分の技術力では強化出来る部分は限られていた。鎧亜から少しだけ学んでいたが、鎧亜本人が居ないので自分が鎧亜から教えられて、自分が覚えている限りの技術で自分のナイフをカスタムしたのだった。名前もただのナイフではなく『タクティカルナイフ』と命名した。何も名前が無いのも悲しいと思ったからだ。


 一つ目は手に入れたナイフに返しを付けた事だ。返しを取り付ける事で一度このナイフが敵に刺さってしまえば抜ける事が困難になる。そして二つ目はタクティカルナイフの刃の部分を長くした事だ。ナイフはリーチの差で劣る事が稀にある。それを解決する為にタクティカルナイフの刃の部分を長くしたのだ。長くしたとは言っても本来のナイフの刃の部分を外して、新しい刃を付けただけのナイフなのだ。刃の長さは大体20cm程だ。職業が暗殺者の悠介には長すぎる剣は扱いに慣れない。なので長すぎず別に短すぎずの中立的な長さの刃にしたのだった。

 他にも能力を手に入れた。魔物を殺した際にたまたま手に入れた能力だ。多分運が良かったと思う。全部俺に丁度いい能力な気がする。どれも存在感の薄い俺にはピッタリだ……

 他にも魔法も使える様になった。最初は使う事すら出来なかったが、今では簡単に使う事が出来るようになった。適正魔法属性は『影』実はこの魔法はかなり珍しいらしくこの魔法が適正だと分かった時検査してくれた人からは大いに驚かれてしまった。『影』の魔法適正者が現れたのは五十年ぶりだと言う。これはかなり凄いと言う事だろう……

 しかし天野銀河からは妬みの目を向けられた。俺が珍しい影魔法が使える事を天野銀河が知ると天野銀河は一度俺に「その魔法を俺に寄越せ」と言ってきたのだった。天野銀河は色々な魔法が使えると言うのに…本当に欲深い奴だと心の中で思った。しかしその時は人間妨害器ヒューマンジャマーを使って上手い事切り抜けた。

 



 現在の裂罅悠介のステータス






『裂罅悠介』

 職業―暗殺者

 レベル52

 体力680

 筋力660

 魔力980

 知力1350

 瞬発力2400

 魔法耐性1400


 能力(スキル)

『存在消滅』(能力発動時、自らの姿や気配や殺気等を全て消滅させる)


人間妨害器ヒューマンジャマー』(発動時には他の人間からは一切構われなくなる。追われてる時や何かから逃げる際に便利)




 使用可能魔法


影押(シャドウプレス)』(作り出した影で敵を押し潰す)


影小刀シャドウナイフ』(魔法陣から影によって作られた無数のナイフを敵に発射する。ナイフは魔力が尽きるまで発射可能約十個ナイフを発射する事に魔力を10消費する)












 そして今俺はダンジョンに1人で潜っている。かれこれ3日は1人で潜り続けている。もう仲間と共に潜る事はしていなかった。もう同じ仲間、クラスメイトは俺に着いてくる事は出来そうにない。ずっと1人で勝手に行動を続けていたせいで、1人だけレベルがかなり上がってしまったのだ。チームの1人に至ってはまだレベルが26だ。俺とはかなりかけ離れてしまっている。弱い奴とはつるむ事もなく、気にかける事もないずっと1人だけで戦い続けていた。俺は気付かぬ内に孤独な真っ黒な影の様になっていた。


 そしてまた目の前にまた魔物が現れた。しかし今の悠介には雑魚敵同然だ。タクティカルナイフの刃を魔物に向ける


「遅い…」


 ずっと同じ様な動きしか出来ない魔物なんて大量の訓練と実戦を重ねていた悠介にとっては動いてすらいない的と同じだった。

 次々と目の前に現れる数多くの魔物をただ右手に握られているタクティカルナイフで魔物を無惨に突き刺し、斬り裂き、その体を抉った。返り血を浴びても自分に魔物からの攻撃が当たってもビクともしない。ただ今は戦い続ける。悠介はただ只管に戦う事には理由があった。

 理由は鎧亜を見つけ出す事だ。彼、裂罅悠介にとって不知火鎧亜は大切な仲間であり、良きゲームライバルの様な人でもあった。今悠介は鎧亜に会いたかった。決して鎧亜に特別な恋愛感情を抱いていた訳ではなく、ただ大切な仲間だったから、ずっと仲間として自分の近くに居てほしかったのだ。同じ男の仲間として……傍に居てほしかったのだ。




 しかし今自分の近くに鎧亜は居ない。国から追放されてしまい今は行方が分からなくなっているのだ。所謂行方不明と言う事だ。悠介は鎧亜を見つけ出して、もう一度彼に会いたかった。

 悠介にはある考えがあった。悠介はこの国を出る事にしていた。しかし悠介は数多くの苦労の上で召喚された勇者。簡単に国を出る事は出来なかった。召喚された勇者達はこの国ユスティーツからは出られない。追放でもされない限りこの国から安全に出る方法はなかった。勝手に国から出ようものなら………それなら追放される?と思ったが1人だけで脱走なんてしたら残された勇者達にまた批判の声が降り注ぐかもしれないと思い、勇気の無い悠介には脱走なんて出来なかった。

 仕方なく、今はチャンスを待つ事にした。


「今は逃げるチャンスを待つしかないな………もぅ帰るか…」


 悠介はタクティカルナイフをしまい、ダンジョンから出る事にした。これ以上ここに自分が存在していても意味が無いと考え、ダンジョンから脱出する事にした………













 























 そして悠介はダンジョンから脱出した。外はもう暗がりかけていた。ダンジョンに突入したのは昼食を済ませた後だったが、今はもう夜になりかけていた。一度だけ悠介は空を見る。しかし空に星は一切出ていなかった。綺麗な星空ではなく何処か薄汚れている空だった。





 その後悠介は自分が生活している城へと戻っていくのだった。幸いにもダンジョンから城まではそう長い距離ではない。少しだけ歩いていれば城に着く。ダンジョンでの戦闘で僅かに疲弊している体には優しい事だ。









 










 
















 悠介は歩いて城に戻った。辿り着いたのは城の中庭。外から普通に『存在消滅』を使って中庭まで誰にも気付かれずに城の中庭に辿り着いたのだ。悠介は城の中庭に立つなり何か…かなり嫌な気を感じた。完全にヤバい感じの気を感じた。その悪い気は城の二階のある部屋から感じた。別に特別な部屋と言う訳では無い。ただ明かりが点いているだけの普通の一部屋だった。(あの部屋で何か悪い事が起こっているのではないのか?)と悠介は思い悠介は『存在消滅』を使用した状態で訓練と実戦で鍛えられた体で城にあった窓に飛び移った。大体地面から二階までの長さは約2mと言った所だが悠介の身体能力ではそんな長さ問題になる程の事ではなかった。悠介は部屋の窓に飛び付き、取り付けられた窓枠に手を伸ばし、両手で強く掴んだ。

 中を覗くと……






(なっ!?何でこんな所で王が椅子に座ってるんだ!?しかも王の側近の奴も居るし!)


 そこに居たのはこの国の王と王の傍に使える側近の人物達4人だった。王を含めた5人は何か話し合っていた。悠介にも王達が話す話の内容は耳に入ってきた。







「どうしますか?国王?あの勇者達?」


「ふぅむ…今勇者が1人追放されてくれたお陰で勇者への評価は低いままだ。これでは苦労して勇者を召喚した意味がない。全員他の国に追放するしかないか…」


「しかし、突然追放なんて言われても、きっと従いませんよ。上手い事騙さないと」


「なら「一時的に行ってくれ」と頼んで、その後の事は全てそっちの国の奴らに任せれば良いだろう。召喚等また何回でも出来るからな。後、平和帝国の王なら、女の対処には慣れておる。女の勇者は全てそこに向かわせよう。でも手を出させるのは男の勇者の始末を終えてからだ。廃人になっても困るからな……しかし後の奴らは…」


 王達の話を聞いて、悠介は驚きを隠せなかった。俺達勇者は追放されるのか?鎧亜と同じ様な運命を辿る事になってしまうのか?悠介は怖くなってしまい、逃げ出したくなったが恐怖心よりも話の内容が気になってしまう。好奇心が勝り逃げずに王達の話の内容を聞き続ける事にした。


「まぁ、女性の勇者は全て平和帝国送りにしておきましょう。問題は男の勇者達です。どうします?国王陛下?」


「うぅむ…あの最強格の勇者はここに残しておこう。彼奴はあの中でも最強だからな。ここに残しておいて悪い事はない……まぁ後の奴らは適当でよい。適当に何処かに送っておけばいいだろう。チームのメンバーで行く場所をお前達が決めておけ。後、時々呼び戻すのだ。ずっと行っているままでは怪しまれるかもしれんからな」


「はっ!了解致しました!」


 自分の足が僅かに震えていた。地面に足は着いていないが、それでも震えてしまっている事が分かる。(俺は殺されるのか?美亜さんや静流さんと離れ離れになってしまうのか?)この先自分がどうなってしまうのか、考えたくなかった。無理に考え過ぎたら自分がパニックに陥ってしまうかもしれない…

 悠介は身の危険を感じた。これ以上この国に留まっていたら自分の身に何が起こるか分からない。運が悪ければ速攻で殺されるかもしれない。悠介は存在消滅を使用したまま掴まっていた窓から飛び降り、その場を離れる事をした。


「むっ!?………気のせい……か?」


 悠介は急いで一度自分の部屋に戻った。自分の部屋までただ必死にがむしゃらに走り続けていた。走っている間は恐怖心が心を支配していた。ただ走り続けている事と恐怖心が心を支配している事で悠介は過呼吸になってしまっていた。勇者達が住んでいる屋敷に戻ると、誰とも話さずに部屋に直行した。下の階では同じパーティーの人間や他のパーティーの人間が楽しそうに話していた。鎧亜が居た時はあんな感じにはなっていなかった。まるで鎧亜が居ない事を喜ぶ様だった。

 しかし全員が鎧亜の事を嫌っていた訳では無い。実際悠介は鎧亜の事を嫌ってはいない。それに美亜や静流も嫌ってはいないと個人的には思っている。

 悠介はただ階段を駆け上がり、部屋に戻った。部屋に戻ろうとした時クラスの人間から何か言われた様な気がしたが、耳に一切入ってこなかった。無視していただけかもしれないがその時は本当に何も聞こえてこなかった。悠介は逃げ惑う弱き人間の様にして、部屋へと戻った……

















 部屋に戻ると一度自分を落ち着かせる事にした。今は若干正気を保てていない。悠介は必死に正気を取り戻す事にした。荒い息を吐きながらも正気を保とうとする。

 ベットに座り込み、必死に落ち着きを保とうとする。


















「あ、危なかった…あのまま放っておいたら…狂気化してたかも……」


 悠介はかなりの時間をかけて、正気を取り戻す事に成功した。さっきまで過呼吸になってしまっていたが、今は通常の呼吸に戻っていた。正気を取り戻した悠介は颯爽として逃げる準備を始めた。これ以上ここに存在している理由はない。さっさと逃げる準備をする必要があった。

 悠介は支給されていたバッグに自分の所有物を全て詰め込んだ。服、武器、金銭、部屋の備品。バッグに入る限り全て詰め込んだ。そして少し前にダンジョンの内部から見つけた影の様な黒色のローブを身にまとった。これなら外の世界の闇に完全に同化する事が出来る。影が薄い自分には最高にマッチした装備だと思う。あの時宝箱を開けておいて正解だった。

「早く逃げなければならないと」と言う言葉が心の中に残り続け、心の焦りを次々と誘発する。体を動かしているせいで汗が流れて、心の焦りのせいで余計に汗が身体中から滴り落ちてしまう。そして僅か15分程で出発する為の準備を終わらせた。

 悠介は窓を開けるのではなく、蹴り破った。窓を強引に蹴り破った事でガラスが部屋の中と部屋の外へと飛び散った。部屋は二階なのでガラスは下の方へと落下する。

 部屋から飛び降りようとした時、悠介の心の中に何かが引っかかった。

 本当に1人で逃げていいのか?今からでも遅くはない。美亜さんや静流さんや同じパーティーの人に自分が聞いた事を教えて、皆で逃げれば良いのでは?と思った。

 しかし……(どうせ信じないだろ?)



 誰かの声が心の中で響いた。この場には自分以外は誰も存在していない。誰の声かは分からない。しかし一つだけ分かった事がある。正体不明の声は自分の声に僅かにだけ似ていた事だけだった。


(悪いな…皆…俺は逃げるよ)








 悠介は置き手紙やメッセージを残す事もなく、存在消滅を使用して、部屋の窓から飛び降り、外の闇へと溶け込んでしまったのだった……


 ドアが開いた。誰も存在していない部屋に誰かが入ってきた。入ってきたのは『岩下真太郎』だった。悠介とは同じパーティーで主に近接戦を担当している。


「おーい!悠介!トランプみたいな物見つけんだ!よかったらトランプタワーで………あれ?」


 その部屋には誰も居なかった。その部屋は窓が割れ、誰かが壊してしまった様な後があった。


 

















 悠介の姿は街にも城にもダンジョンの内部にもなかった。

 悠介は存在消滅を使用して自分の姿を消していた。黒色のローブをまといながらも存在消滅を使って姿を完全に消し去っていた。

 街を歩く人からは悠介の姿は一切見えていなかった。存在消滅を使っているからだ。それに万が一見えてしまったとしても、黒色のローブをまとっているので背景と同化して良く見えないだろう。悠介は全身をローブで隠して、走って移動を続けていた。

























 そして国の出口に辿り着いた。国の出口には壁があり、無許可に脱走する事は恐らくだが出来ない。しかし悠介は存在消滅を使い壁が途切れた所にある検問所を普通に素通りする事が出来た。

 誰にも気付かれる事もなく、誰からも止められる事もなく、悠介は王国『ユスティーツ』から脱出した。


(すまん…だが俺は逃げさせてもらう)


 悠介は国に残してしまった者達に後悔を残す事もなく『ユスティーツ』から1人鎧亜と同じ様にして国から去ってしまうのであった………























「お前ら!悠介が!」


「「えっ!?」


 悠介の逃走に皆が気付くのにかかる時間は短すぎた。追っ手はすぐにやってくるだろう……

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