46話「戦場からの旅立ち」
すいません。更新が遅れました
ヴィラスとペアスティーネがヴォラクの目の前から消え去った。
そして周りは静寂と化してた。さっきまであちこちで魔物の声や人の叫び声が聞こえていた戦場だったが、危機が去った様な程に静かになっていたのだった。
「危機は……敵は去った……のか?」
「あ、あぁ多分な。でも街への被害が…」
血雷は未だに尻餅をついて、地面に座り込んでいた。ヴォラクはそんな彼女を見兼ねて、ヴォラクは血雷に手を差し出した。
「ほら立ってくださいよ。いつまでも地面に座ってないでさ?」
「…すまねぇな。お前の手借りて。いつまでも座ってる訳にもいなねぇよな……後これでお返しだな」
「何か言った?」
「いや、何でもない」
そう言って血雷はヴォラクが差し出してくれた手を取った。サテラとシズハは2人の行動を羨ましそうにじっとヴォラクと血雷を見ていた。
「取り敢えず危険が去った今、アタシ達に出来る事をするぞ。まず最優先するべき事は人助けだな。怪我した人とかの治療をしないとな。人手も不足してるだろうし。他にもやる事は沢山あるからな」
「治療なら、私に任せて下さい!」
シズハは胸に手を置いて、堂々と叫んだ。ヴォラクは「あぁ、お前の力を宛にしている」と腕を組んで小さな声で言った。それに対してシズハは「嬉しい事言ってくれるね!」とヴォラクに大きな声で言った。
4人は速攻で次の行動に移る事にした。血雷は何処に行くのか知っている様に走り出した。ヴォラク達3人も走り出していった血雷に続いて走り出したのだった。
「行くか!ヴォラク!」
「あぁ!secondphaseSTARTだ!」
ヴォラク達は静寂に満ちる戦場を駆け抜け、助けを求める人の元へと走ってゆくのであった……
街での戦い、戦闘は完全に終わりを迎えている。魔物の姿もなく、何処か平和な世界を残している様な世界だったが……やはり残酷な世界はその場に残り続けていた。
まだ人の死体は地面に転がっている。血を流して死んでいる人。原型が分からないぐらいにまでぐしゃぐしゃにされた人。内臓が飛び出し、見るに堪えない姿になってしまった人。死んだ事に気付かなかった様に目を見開いたまま死んでしまった人が倒れていた。魔物からの襲撃から生き残った人間達は悲しい表情を浮かべながらも死んでしまった人達に布を被せ、地面に転がる死体の片付けを始めていた。見た感じだが、人手は足りていない様子だ。これを見てヴォラク達も手伝おうと思った。ヴォラクは目の前に積み重ねられた白色の布を手に取った。そして手に取った布を目の前で死んでしまっている人に自分の手に握られた白色の布を被せた。ヴォラクは心の中で(安らかに眠れよ)と呟いた。ヴォラクは他人を心配したり、気遣う事なんて全くなかったが今だけは罪も犯していないのに死んでしまった人に対してヴォラクは死んだ人に対して自分の手を合わせて冥福を祈った。
は死んだ人に対して自分の手を合わせて冥福を祈った。
そんなヴォラクを見ていたサテラ達はヴォラクの真似をする様にして、同じ事を始めた。
時折サテラ達がヴォラクに見せていた悲しみと恐怖する表情を見ているとヴォラクの気持ちは悪い方へと進んでいく。特にシズハは人の死体なんて全く見た事ないだろう。自分の手が震えてしまっていた。これでは何も出来ないだろう。それを見兼ねたヴォラクは一度布から手を離してシズハの近くに寄る。
「お前…名前は?」
「名前…シズハだよ…」
彼女の目が僅かにだけ死んでいる様に見えた。特に異常を見せずに自分のやるべき事をするサテラや血雷と違い、シズハは何も出来ずに震え上がっていた。そんな彼女に対して、ヴォラクは静かに手を握る。
「そっちの名前じゃねぇよ。本当の名前は何なんだ?『シズハ』だけじゃないだろ?」
「…………クジョウ……クジョウ・シズハだよ。本当の名前」
「そうか…良い名前だな」
「あの時と同じ……でも何でそんな急に?」
「自分なりの考えだよ。誰かに自分の名前を覚えていてもらえれば、自分の事を覚えていてもらえると思える。誰かに自分の存在を知ってもらえる。誰かに覚えていてもらえれば少しは安心すると思うんだよ。だからさ、不安になっても僕が君を覚えていてあげるからな。心配しなくても僕はいつも傍に居るから…」
ヴォラクはそう言ってその場を離れて、再び生きている人の手で自分の近くに運ばれてくる人の死体に布を被せ始める。さっきまで落ち込んでしまっていたシズハも再び行動を再開するヴォラクを見て(自分も何かやらなければならない)と思い、自分も布を手に取り行動を再開した。
そして重傷や軽傷を負ってしまった人達への治療も行った。傷を負っていたとしてもまだ助かる希望がある人を治療し、もう助かる事がない人は見捨て助かる見込みがある人をクジョウ・シズハは治療していた。
自分がするべき事を行い続けて何時間経っただろうか。自分の体は疲れ切っていた。体からは汗をかき、思う様に体が動かなくなってしまった。自分の疲れ切った体はもう立ち続ける事も出来ず、倒れ込む様にして座り込んでしまった。
実際サテラ、シズハ、血雷も疲れ切っていて3人共地面に座り込んでしまった。しかし血雷は座り込むと思ったら、ヴォラクの傍に歩いてくる。ヴォラクの近くに来るなりヴォラクの隣に座った。
「これである程度の事は終わったのか?……姉さん?どう思う?今の現状」
「終わったな…色々な意味で。この街も見た感じ結構痛い目にあったみたいだしな。それにこの街の人も死にまくった……大変だぜ、全く」
血雷は軽く流す様にして言っていたが、ヴォラクは内心、血雷がどれだけ悲しみ、心に傷を負ったか分かり切っていた。自分が生まれ、育った故郷が魔物に焼かれたのだ。悲しんでしまって当然だと思う。今目の前で感情に出していないとは言ってもきっと心の中は悲しみに満ちているだろう。ヴォラクは無駄に刺激しなかった。余計な刺激は大きな怒りや更に強い悲しみを産む可能性があるとヴォラクは思い、何も言わずに抵抗する事もなく、ヴォラクは血雷に寄り添った。
「これからどうする?姉さん?」
「…一回家に戻る…そして旅に出る。旅に出るとは言っても強い奴と戦う為だけどな。今回の戦いでアタシは探してみたくなったんだよ。もっとアタシは強くなる。強い奴と戦って、もっと上を目指してみる。それだけだ」
血雷が決めたその決意にヴォラクは一切異論を唱えなかった。他人が決めた事に口を出すのは好きではなかった。ヴォラクは黙ったまま首を縦に振った。
「まぁ、旅に出るとは言ってもお前と一緒に行くんだけどな!」
その言葉に一瞬耳を疑った。自分の耳が壊れて異常状態になってしまっているのかもしれないと思ったが、自分の耳は正常だった様だ。聞き間違いでもなく「一緒に行く」とヴォラクに言ってきたのだった。
しかしあまり信じたくはないものだ。
「す、すまん。もう一回言ってくれるかな?」
「二度も言わせんなよ~一緒に行くって言ってんだよ!」
これ以上僕の復讐旅に仲間が増える事となると苦労?が増える様な気がしてきた。まずはこれ以上仲間(女性)が加わると周りからの男性からの嫉妬と憎しみの目を向けられる羽目になってしまう。慣れてはいるが、はっきり言って絡まれた時の対処が面倒臭い。それに無理に奪おうものなら殺意が込み上げてきて、また無差別に殺してしまうかもしれない。いまは無理に人を殺したくはない。
しかしヴォラクは他人の決意に口を突っ込む様な事は好きじゃない。他人が決めた事には何も言わない。多少抵抗はあったが血雷本人が決めた事にヴォラクは一切反論しなかった。ヴォラクは取り敢えず「了解しました。お好きにどうぞ」と仮面越しに言った。
その後2人は何も言わずに自分がするべき事を再び始めた。
全てのやるべき事が終わった。ヴォラクは体中から汗が放出されていた。今のヴォラクの体はかなり疲れていた。もう今日は休もうとヴォラクは思っていたが、ヴォラク達は今日中にこの街を出発する事にしていた。それに今この街はかなりのダメージを受けている。長居は良くないと思う。なので多少無理をしてでも今日中に出発する事にしていた。
この後、ヴォラク達は自分達が泊まっていた宿に戻り荷物を持って移動を開始する予定だ。
「サテラ、シズハ。やる事は終わったか?」
「無事終わりました。やる事は」
「怪我してる人の治療は終わったよ。後…亡くなった人達の……」
ヴォラクは何も言わなかった。ただ何も言わずにシズハの頭を撫でた。何も言わずにシズハの元へと近寄り、頭を撫でた。ヴォラクは彼女の狐の様な耳元で「よく頑張ったな」と周りには聞こえないぐらい小さい声で呟いた。
「サテラ、シズハ。宿に戻るよ。今日中に荷物まとめてこの街を出るぞ」
「分かりました。主様」
「そうだね。もうこんな事はあんまり……」
その後ヴォラクは自分達が泊まっていた宿に戻る事にした。サテラとシズハも静かに歩いていくヴォラクと同じ方向に歩き始めた。宿の方へと歩いていく3人を見て、血雷はヴォラクの方に大きく手を振る。そして大声で叫んだ。
「お~い!アタシも準備しとくからな!準備出来たら大門の前で待っててくれ!そこでアタシ待ってるからな!」
ギクッ!!!
かなり嫌な事を言われた。何故なら血雷がヴォラク達に同行する事はヴォラクしか知っていない。サテラとシズハに血雷がヴォラク達に同行する事はまだ言っていないのだ。もしこの事でこの場が修羅場にでもなってしまったら、対処が困る。願うならサテラとシズハが承認してくれる事を願いたいものだ。
ヴォラクは若干震えながらサテラとシズハの方を見る。サテラとシズハが僕に対して怒っていないか物凄く不安だったが………
「ま、まさかまた恋のライバル?絶対に……絶対に負けるものですか!」
「胸の大きさなら向こうが勝ってるけど、私だって大きいんだから!」
「え?OKなの?」
「主様の事なら何でも構わないですよ!」
「仲間が増えたら、戦力アップにもなるし、話し相手も増えるから良い事だらけだよ!」
多分……OKされたのだろう?この事で喧嘩話になってしまっても困るので、困る羽目にならなくて良かったとヴォラクは思った。そしてヴォラクはやる気のない声で…
「secondphase終了だな」と言った。
その後3人は宿に戻った後必要な荷物を全て持ちこの街を出る事にした。次に行く場所は決めていた。自由国『フライハイト』この国に行った後はやるべき事をするつもりだ。因みに何をするかは誰にも言っていない。自分の心の中に隠し続けている。しかし周りの人間からは彼の心が僅かにだけ見えていた。その姿やその戦い方を見ていた人間には見えていた。彼の心の中には恐ろしい程までに禍々しく、全てを混沌に変える漆黒の死神の姿を見ている様な感じだった。彼の心の中にある闇とは何なのか誰にも分からない。彼の心の闇は自分から姿を現すまでその姿を見る事は出来ない。
ヴォラクは血雷に言われた通りにこの街に来る時に通っ出来た大門の下でサテラとシズハと共に待機する事にした。
そして少しだけ大門の下で待っていると、血雷が人々の中から現れた。まだ人々は作業を行っていたが血雷はその人達に構う事もなく自分の荷物を持ってヴォラク達の前に現れたのだった。
「こっちは準備出来たぜ!ヴォラク!」
「そうか…なら行くか…」
そして4人は街から出発しようとしたが……
「「「「「「姐さ――――ん!」」」」」」
「何だ!?」と思い後ろを振り向くと、約6人程の男がヴォラク達の前に立っていた。しかも数人は仁王立ちしている。
「おぅ!お前らか。アタシに何の用だ?」
「あ、姐さんが何処かに行っちまうって聞いて、見送りに来たんだよ!」
「本当は行ってほしくはないけどよ……姐さんの意志に反対は出来ねぇ。だから見送りだけでもな…」
「お、お前ら…」
すると1人の男が涙目でヴォラクに叫ぶ。両手を強く握り締めて、口を大きく開けている。
「あんたぁ!俺はお前の名前も何も知らねぇけどよ…姐さんを守ってやってくれよ!見た目も怖ぇけどさ!姐さんの事よろしく頼むぜ!」
「そんな…僕は別に結婚する訳じゃないんだから。でも心配しなくとも姉さんの事は守るよ。絶対にな!」
その言葉に男達は嬉しさの表情を見せる。
「良かった!姐さんが…姐さんがこんな俺達なんかよりもこんなカッコイイ奴に惚れてくれて良かったぜ!頼んだぞ――――――!少年!」
「いつでも帰ってきてもいいからな!俺達は姐さんの事を毎日待ってるからな!元気でやれよ!」
その熱意のこもりすぎた男達の言葉に血雷は笑顔を見せてくれた。この時彼女が見せた笑顔の横顔は美しかった。男勝りな険しい顔ではなく1人の女の顔をしていた。
「あぁ、行ってくる。また会おうぜ!」
血雷はそう叫んで街から出ていった。ヴォラク達も血雷と共に歩いていく。男達は手を振り続けていた。男達は血雷が見えなくなるまで手を振っていたかった様だが誰かから「サボるなぁ―――!」と誰かに言われて、後ろの方を向いて走っていってしまった。ヴォラクは後ろに走っていく男達のの姿を見る事はなかった。
「行くか…」
「あぁ」
「はい」
「行きましょう」
4人は再び歩き始めた……
 




