45話「Reaper?」
血雷は鞘に納刀していた自分の刀を抜刀する両手で強く刀を握り締める。そして目の前に現れて襲いかかってくる魔物に向かって、容赦なく刀を力一杯振り下ろした。血雷にとって鈍重な動きで襲いかかってくる魔物など止まっている様にしか見えなかった。超高速で抜刀し、両手で握り締めた刀で自分に迫り来る魔物達を斬り捨てていった。
「…弱いな…これならヴォラクの方が余っ程強いぜ。最近の魔物は食って寝てるだけなのか?」
そう小声で呟いた。血雷にとってこんな弱い魔物は敵として見ていなかった。ただの斬る練習用の置き物にしか血雷には見えていなかった。血雷はヴォラクの方を見る。
今ヴォラクは血雷から貰った刀を使っていた。いつも愛用しているツェアシュテールングではなく血雷から貰った刀を使っていた。しかしこれは使わない事にしていた。実際血雷からこの刀を貰った時は「宣言しよう。刀は抜かない」と言っていたが、そんな事を無視する様にして刀を握って戦っていた。
しかし刀を握っていたヴォラクはどこか苦い表情を浮かべている様に見えた。血雷はヴォラクの顔が見えないので、どんな表情をしているのかは分からない。しかしヴォラクはどこか苦い表情を浮かべいる様に見えた。
しかし実際、ヴォラクはかなり苦い表情を浮かべていた。
魔物の大きな手がヴォラクの持っている刀に衝突する。ヴォラクを殴り付ける様にヴォラクの刀に手を衝突させる。両手で強く刀を握り魔物の攻撃を受け止めていた。
「次こそは刀を使わないからな!意地でも剣は抜くか!」
ヴォラクは近接戦闘は好きではなかった。元から「近接戦闘はしない」と心に決めていたからだった。遠距離で戦う事が多いヴォラクは今近接武器である刀を使って戦うのは結構プライドが傷付くものだった。
血雷は「別に使っても良いだろ?」と多少励ます気持ちを込めて、ヴォラクに言ってあげた。
ヴォラクは咄嗟に距離を取り、血雷から貰った刀を高速で納刀しツェアシュテールングの引き金を引いた。
そしてまた一匹と魔物を殺す。周りに存在していた魔物を殺しまくり、一段落着いた所でヴォラクは一度大きく息を吐いた。ふとヴォラクはサテラとシズハの方を見る。2人も魔物の殲滅は終わっていた様だった。サテラとシズハは血雷と協力し、敵の排除を行っていた様だった。
血雷とサテラ、シズハの連携は凄まじく凄いものだった。血雷は近距離で近接戦闘を行い、接近してくる魔物を斬りまくっていた。中距離ではサテラがネーベルで血雷の援護を行っていた。血雷が1人で対応しきれない近接の敵の排除をサテラは行い、血雷の援護に徹底していた。サテラの援護のお陰か、血雷が近接戦闘で困る様な事は一切なかった。シズハもステイメンを使用してサテラと血雷の後ろから遠距離支援を行っていた。まだシズハの存在に気付いていない馬鹿な魔物は何にも気付く事なく、ステイメンの銃弾を喰らい絶命していった。ステイメンの銃弾は体に命中すれば致命傷は避けられない。特に胸や眉間なんかにステイメンの銃弾が命中しようものなら致命傷どころか敵は即死してしまうだろう。シズハの優れた射撃技術は弾丸を一つも外す事はなかった。全ての銃弾を魔物に命中させて、次々と魔物を絶命させていった。
これもきっとヴォラクと銃の訓練をしたからだろう。そうでもしなければこんなに銃弾が当たる訳もない。
3人の連携のお陰でヴォラクが直接手を下さなくとも魔物は全て3人の手によって殲滅されていた。
サテラはネーベルを片手で持ち、シズハはステイメンを一度地面に置き、抜刀していた刀を服に差していた鞘に納刀した。3人は一度肩の力を抜き呼吸を整える。さっきまで激しい戦闘を行っていたからだ。息も上がってしまうだろう。
「お前ら。そっちは終わったか?」
「はい!主様。終わりました!」
「問題ないです!」
「おぅ!最高に清々しいぜ!」
全員ほぼ無傷で戦い抜いた。周囲は静まり返っていた。さっきまで魔物の声が響いていた周囲の戦場は静まり返り、音一つ作らない空間を作り上げていた。周囲からは人の叫び声も聞こえてこない。全ての人が殺されて声を上げる事が出来なくなったのか。それとも誰も叫ばずに声を抑えて隠れているのか。
ヴォラク達には分からなかったが今は気にする事ではなかった。
「取り敢えず………Firstphase終了だな」
「ん?主様?何か言いました?」
「いや、なんでもない…」
そう小声で呟いて、ヴォラクはツェアシュテールングをポケットに収納した。ヴォラクも一度ずっと力を入れていた肩の力を抜き、その場に立った。
その場に立つヴォラクにサテラとシズハと血雷は小走りで近付いた。3人ともヴォラクを心配する様に彼の身体に触れる。
「主様?大丈夫ですか?1人で沢山戦ってましたけど?」
「ヴォラクさん?怪我してるなら言ってね!私の回復魔法で回復してあげるからね」
「ヴォラクなら大丈夫だ!なんせアタシの弟なんだからな!」
こんな状況が実際に自分の身に起こるなんて思いもしなかった。こんなハーレム展開はアニメか漫画かゲームの中だけでの話だと思っていたが、今は違う。こんな友達もいないし、カッコイイ所も全くないこの僕が美女、美少女3人に囲まれているからだ。自分にずっと尽くしてくれる美少女のサテラ。獣耳と尻尾が最高な美少女シズハ。姉御肌で美しい身体付きをしている美女血雷。こんな状況を親なんかに見られたらどうなるのだろうか?反応が少しだけ気になってしまう。
ヴォラクは少しだけ冷や汗をかきながらも「お、おう。大丈夫だ」と言った。その言葉に3人は美しい笑顔をヴォラクに見せてくれた。
しかしいつまでもこんな事をしている暇は流石になかった。何故ならここは今戦場と化していたからだ。戦場のど真ん中で女の子3人とイチャついているのは流石にマズいとヴォラクは思い、3人との身体の密着をやめた。
「おいおい!ここは戦場だよ!こんな事してる暇なんてないよ――」
「あ、ほんとだ。完全に忘れてたよ。ごめんね」
「主様、申し訳ありません!」
「確かに、こんな事はまた後でゆっくりしなきゃな!」
「あ、ああ…………」
次の瞬間、ヴォラクは後ろの方から何者かの殺気を感じた。上の方から感じた。ヴォラクは高速の動きでポケットに収納していたツェアシュテールングを超速で取り出し殺気を感じた方向に銃口を向けて、引き金を引いた。殺気を感じたのは家の屋根の上だった。ヴォラクは絶対に銃弾が当たる様に屋根の上を見た一瞬で撃つ所を決めていた。実際一瞬見た時は屋根の上に誰か立っていた。ヴォラクは当たったと確信した。きっと今頃下の地面落ちてくると思っていた……しかし下の地面には誰も倒れていなかった。
「僕が外した!?一体何者だ?」
しかし敵の姿は何処にもない。ヴォラクは必死に周りを見て、殺気を感じた敵を探す。しかし何処にもいない。しかし血雷が刀を抜刀して叫んだ。
「ヴォラク!上だ!」
「なっ!」
最初は上から岩でも降ってきたのかと思った。しかしヴォラクに対して降ってきたのは岩ではなかった。なんと上から降ってきたのは生きている何かだった。しかし魔物ではない。一体何が降ってきたのか?ヴォラクは考えようとしたが考えが終わる前に上から降ってきた何かはヴォラクに攻撃を仕掛けてきた。大きな巨体がヴォラクに近付く。
そして巨体は両足を使って、ドロップキックをヴォラクに仕掛けてきたのだった。
「ぐぁぁ!け、蹴りを入れてきやがった!」
ヴォラクは後ろに大きく退いた。吹っ飛ばされるとまではいかなかったが全力で踏ん張っても、ヴォラクは後ろに大きく後退してしまった。
「あ、主様!」
「ヴォラクさん!」
「ヴォラク!」
3人は彼の名を叫んだが、巨体の生物はサテラ達にに目もくれずヴォラクに高速で接近する。あの巨体からは考えられない動きだった。そしてそのまま背中にマウントされた巨大な斧を両手で握り締め、ヴォラクに大きな斧を振り下ろした。あんな大きな斧が身体に当たってしまえば間違いなく死ぬ。冗談とかなしで本当に殺されるだろう。
ヴォラクは本当に命の危機を感じ、血雷から貰った刀を抜刀し、刀を持って刃を横に向ける。しかしこの抜刀は不本意だ。
大きな斧とヴォラクの刀が衝突する。金属音が鳴り響き、僅かにだが火花が散っていた。
しかしどう見ても巨体の何かの方が圧倒的に有利だ。あんな大きな斧と普通の長さしかない刀ではどちらの武器が先に折れるかなんて分かりきっている。しかしヴォラクは諦めずに刀を両手で握り締め大きな斧に必死で抵抗した。
「僕に剣を使わせるか!?」
「うるせぇな!危険度8野郎!」
ヴォラクは心の中で「はぁ!?」と言ってしまった。危険度8?意味が分からない。ヴォラクは一度大きく後ろに下がった。そして巨体の何者かに尋ねた。
「どう言う事だ?何故僕を襲う?それと危険度8ってどう言う意味だ?後お前は何者だ?」
「………そうだな。まずは名乗ってやるよ。俺の名は『レジー』だ!王国「バンデ」から来た誇り高き魔族様だよ!今お前は俺達の国で危険人物呼ばわりされてるんだよ」
バンデ、あの国は魔族が多く暮らしている国らしい。行く気ははっきり言って無理だ。遠いし何か行ったら嫌な予感がするので……
「危険人物だと!?この世界にそんなシステムがあるのか?」
「あぁ…この世界の国じゃ当たり前の事だぜ。この世界の国ではな…危険度が8を超えると俺達魔族や神族がお前みたいな危険人物を排除しなきゃならねぇんだよ。お前は即死魔法を使う無差別殺人鬼だって「ユスティーツ」から散々連絡がきてるからな!だから俺がお前を殺しに来てやったんだよ。ヴォラク!後なお前無差別殺人鬼の癖に女3人も侍らせてるのが気に食わねぇんだよ!お前を殺したらお前の侍らせてる女を全員俺の女にしてやる!」
その言葉にヴォラクに怒りが走った。また、またかと思った。自分は無差別殺人鬼なんかではない。確かに僕は人を殺したが、無差別に殺しまくった訳ではない。殺すのには理由があって殺しただけだ。そしてもう一つ、自分の仲間に手を出すなんて事は絶対に許さない。言葉だけならまだ心の中で怒るだけで済むが、行動に移すと言うのなら全力で排除する。たとえそれがどんなに強い敵であろうとどんなに偉い奴であろうと必ずこの手で駆逐すると決めていた。
まぁ他の国の魔族が僕達を狙っている理由は大凡の事は分かっている。恐らくだがユスティーツの連中は僕達が生きている事が気に食わないのだろう。だがユスティーツの奴らが直接僕達に手を出して来ない理由は分かっている。あの国には異世界から召喚した能力値が非常に高い召喚勇者。そして一番強かった勇者を僕がコテンパンにしてしまったから、自分達の国の人間では僕に敵わないと察したのだろう。だから違う国に助けを求めたと言う訳だ。今前に立っているこの魔族もきっとユスティーツからの差し金だろうとヴォラクは思った。正直ただの弱虫だと思う。自分が勝てないからと判断して、強い奴に助けを求め、自分に向けてくる。ただの弱い奴がやる事だと思っていた。はっきり言ってウザイ。さっさと力をつけて復讐しようと思った。
「お前の周りの女は危険度6と危険度7だからな。殺す必要がねぇんだよ。だから俺の女に…」
次の瞬間、ヴォラクは刀を左手で持って全力で走り出した。レジーの懐に飛び込む。レジーはとても大柄な体だったので大きく空いた懐に素早く飛び込んだ。そして右手で刀を抜刀し刀の刃をレジーに向ける。
(こんな事はやった事ないけど……やるしかねぇ!ガ○○ムの動きを真似すれば出来るはずだ!)
「どんな理由でもどんな大義でも僕の女を奪う奴は……絶対許さねぇ!」
「ただの人間風情がぁ!調子に乗るんじゃねぇ!」
ヴォラクは右手に握られた刀を持つ。そして左手に持っていた刀の鞘を地面に投げ捨てた。この時は刀を抜刀する事に何の躊躇いもなかった。今はこの刀を使うべき時だと思う。ヴォラクは今までこの刀を使う事に非常に躊躇いがあったが
そして刀を両手で握り締め刀を振り上げると見せかけて、地面の方に刀を刃を向ける。
「瞬刀!(今考えた)」
ヴォラクは高速で刀を下から縦に振る。ただ縦に振っているだけだったが、刀を振るスピードだけは確かに速かった。ヴォラクも正直こんなに速く刀を振れた事に驚いた。ガ○ダムを見てただけでこんなにも戦えるとは思っていなかった。
「僕が使う武器が剣だけだと思うな!」
ヴォラクは右手に刀を握りながら、左手でツェアシュテールングを取り出した。そしてツェアシュテールングの引き金を力強く引いた。
ツェアシュテールングから放たれた銃弾は容赦ない速度でレジーの体に命中する。
確かに銃弾がレジーの体に当たった感じはあった。しかしヴォラクの目で見る限り、レジーに攻撃が通った様子はない。
ヴォラクは右方向に円を描く様に走り、左手に持っているツェアシュテールングの引き金を引いた。ヴォラクの利き手は右手だがヴォラクの非常に優れた射撃技術は左手でも発揮出来る。ヴォラクは右手でも左手でも優れた射撃が出来る様に自己で訓練していたからだ。これなら二丁銃も出来る。まだツェアシュテールングの様な小型の銃は一つしか作っていなかったが作れたら二丁銃をする予定だ。
利き目でもない左目でレジーの腹部に弾丸を命中させたが、レジーには銃弾が効いている様子はない。
「馬鹿な!ツェアシュテールングの弾を受けて立ってるなんて…」
レジーは両手から謎の壁を展開していた。その壁は普通の壁とは明らかに違う。透明な壁だった。膜とは全く違う、銃弾すらも通す事のない強靭かつ見えない壁だった。これではツェアシュテールングが役に立たなくなってしまう。しかしレジーも額から汗をかいて、少しだけ苦しそうにしていた。防げたとは言っても全てのダメージを防ぎきった訳ではない様だ。この時点でヴォラクはレジーが使う防御壁の弱点が分かった。ヴォラクはサテラ達3人をレジーが目を閉じて怯んでいる間に集め、とある作戦を立てた。
「ぐっ!これが即死魔法か?確かに俺の防御壁が無かったら死んでたな。でもお前の武器よりもこの俺様の防御壁の方が強いと今証明された!お前に勝ち目はない。俺の勝ち………おい!お前、何黙って立ってやがる!?お前が来ないなら、俺様から行ってやるぜぇ!」
そうヴォラクに叫んで、レジーは斧を両手に持って突撃してくるが……
「………姉さん!」
「おぅよ!」
その場に棒の様に立っていたヴォラクだったがその後ろからは突然血雷が現れた。血雷はヴォラクの後ろから現れるなり、両手で握った刀を上に振り上げ、そのまま振り下ろした。
レジーは左手で防御壁を展開しながら右手に持った斧を使って血雷の刀を受け止めようとする。しかし血雷は両手で刀を使っているのでパワーでは血雷の方が有利かもしれない。
「姑息な事を!」
「これで終わりと思うなよ!サテラ!シズハ!」
何と今度は血雷の後ろからサテラとシズハが現れ、サテラはネーベル左手で持ち、レジーに向けて乱射しシズハは両手で握ったステイメンをレジーの首に向けて発射した。
そしてヴォラクも飛び上がり、血雷の後ろから射撃を行った。
サテラとシズハも一度目の射撃を終えるとサテラはレジーの右側シズハはレジーの左側に走る。
「これこそ我らの奥義!「ジ○ットス○リー○ア○ックMark2」だ!」
勝手に何か叫んでいるヴォラクは放っておいて…
「どぉした!?押されてるぞ?魔人野郎!」
「ぐぅ!この俺様がぁ!」
血雷は両手で握る刀をレジーの斧に容赦なく振り下ろす。レジーも負け時と右手に持った斧で応戦するも、片手と両手での力の差は目前としている。勿論だが血雷の方が力が強かった。血雷は女性だが、両手での力は片手で戦うレジーよりも勝っていた。
レジーは今圧倒的に不利であった。正面からは血雷が長い刀を使って斬りかかってくる。しかも両手なので片手で戦うレジーとはかなりの力の差があった。
それに左右からはサテラとシズハが絶え間なく射撃を行ってくる。何とか左手で展開している防御壁で守り切っているもののいつ攻撃が生身に当たってしまうか分からない。絶え間なく自分には二つの事が襲ってくる。
いつ死ぬか分からない恐怖と自分に降り掛かる痛みがレジーにとっては怖くなった。表には恐怖心をさらけ出していなかったが、心の中では絶え間ない恐怖心がレジーを襲い続けていた。
「ほらほらどうした魔人!?女に押されちまってるぞ!」
「どうしたんですか?主様よりも凄く弱いですよ!それぐらいの強さで主様を殺そうとする気ですか?そんなの無理ですよ!」
「隙があるなら手早く殺しちゃうよ!」
血雷とサテラとシズハの3人はレジーに連携攻撃を仕掛けている。血雷は連続で刀を振る。サテラとシズハは自分の銃を使って白兵戦を行う血雷の援護に徹していた。ヴォラクの姿は何処にもなくレジーの視界には存在していなかった。
「クソ!あと1人は何処だ?3人ですらキツイが、全員女なら!」
レジーはこの不利な状況でもまだ余裕だと思っていた。レジーの頭は馬鹿かと3人は思った。しかしこの時間の中でレジーに死のカウントダウンが迫っていた。
「あの――――何処見てるのかな?」
ヴォラクの声が聞こえた。しかしヴォラクの姿は何処にもない。
「え?誰だ?」
「死神だよ…」
ヴォラクは…………レジーの頭の上に片足立ちで立っていた。何の音も立てずにレジーの頭の上に乗っていた。レジーは気付いていなかった。サテラやシズハ、血雷に夢中になり過ぎてヴォラクが自分の頭の上に乗っている事に一切気が付かなかったのだ。
「えっ?」
「Good night」
レジーの頭の上に片足立ちで立っていたヴォラクは右手に握られたツェアシュテールングの銃口ををレジーの頭部に向け、引き金を引いた。
ドバァァァァァ!!
静かな街にツェアシュテールングの轟音が鳴り響いた。その瞬間だけ街にいる人間の耳にヴォラクの銃の音が耳の中に入った。
レジーとの戦いは終わった。その場には頭から血を吹き上げ、何も言わずに目を開いたまま自分の死に気付かずに死んでいたレジーの姿があった。ヴォラクはレジーに手を合わせる事もなく、道端に落ちているゴミ程度の存在でレジーの死体を眺めていた。
「やはり…僕は死神である方が似合っている様だな…」
「死神って…ヴォラク…面白(笑)」
「主様ぁ!カッコよかったですよ!」
「あれは……真似出来ない…」
ヴォラクの吐く息は荒くなっていた。何故ならヴォラクは3人が戦っている間に屋根の上まで全力で走り、屋根の上からレジーの頭の上に飛び移ったのだ。
ヴォラクは屋根の上まで全力で走った時の疲労とレジーの頭の上に正確に着地する為の緊張感と疲労が相まってヴォラクの体の疲労は非常に大きいものだった。
「ふぅ…疲れた…」
「主様、お疲れ様です」
「ヴォラクさん。今日は休んでね!」
「おい、ヴォラク……何か…」
ヴォラクは分かっていた。後ろの方から気配を感じる。2人後ろに立っている。ヴォラクはまるで後ろに存在している何者かに気が付いていない様に立ち上がり、ツェアシュテールングをゆっくりと後ろに向けた。
「おい、気付いているぞ。隠れてないで出てこい!(また典型的かよ)」
ヴォラクがツェアシュテールングを後ろの方向に構えると、後ろから何者かが闇の中から現れた。
「やはり無理か…死神が相手じゃ敵わんな。気配隠しててもバレるし」
「無理もないよ。レジーが殺られるぐらいだから、敵わないよ」
「誰だ!?」
そこに存在していたのは1人の男と1人の女だった。レジーの仲間だろうか?
男は紺色の髪、貴公子の様な服を戦闘用に改造した濃い青色の服。手や服の一部に武器などは持っていない。完全に丸腰の状態だ。しかし何も持っていない奴程強い力を秘めている可能性がある。恐らくだが剣や槍などを使うのではなく、魔法で戦う魔族だろうと思った。そして一番の特徴はヴォラクと同じ様な仮面を顔に取り付けていた。灰色をベースに魔物の目の様な紺色の線が二本仮面に描かれていた。恐らく魔族だ。レジーが言っていた国から来たのだろう。
もう1人の女は紅色の髪、服は着ているが腹や脇、太ももを露出させている。完全に軽そうな服。そして耳には穴を開け、ピアスを付けている。腰周りに巻き付けてあったベルトには小型のナイフや絶対に喰らったら痛い目を見そうな液体が入った小型の瓶などがマウントされていた。恐らく隣にいる男と同じ魔族だろう。
「自己紹介しなければいけないな。俺は『ヴィラス・ハーデミット』レジーと一緒にこの街に来た魔族の1人だ。今回はレジーが色々とやらかしてしまった様だからな。色々とすまないな…お前の排除はまだ確定してないからな…」
「私は『ペアスティーネ・アグネスト』ヴィラスと一緒に行動してる魔族だよ。ヴィラス以外とはつるむ気ないから。まぁよろしくな」
ヴィラス……何かヴォラクとどこか似ている気がする。しかし今は他人と自分の名前の事を気にする余裕はなかった。ヴォラクはツェアシュテールングを右手で握り続けている。サテラとシズハは何も出来ずに足を震わせて立ち尽くしている。きっと突然敵が現れて怖くなっているのだろうと思った。ヴォラクはその姿を見ても良い気にはなれなかった。
「あんたらが僕達を狙ってる理由は知っているよ。僕は危険だから……だろ?」
「あぁ、確かにお前達の存在は危険だ。だが今回はお前を殺しにきたんじゃない。あくまで今回は偵察に来ただけだ。今日は殺しはしない」
ヴィラスの話を聞いたヴォラクは仮面を付けたままレジーの死体を指さした。そしてヴィラスに話しかける。
「じゃあ、あっちで死んでる奴はどう言う事だ?今日は殺しに来たんじゃないだろ?なのにこいつは殺しにかかってきたぞ」
「あぁ、そいつはただの自意識過剰な命令違反野郎だよ。はっきり言ってそんなに強い奴でもないから所詮はただの捨て駒だ。俺達が殺すのもありだけど、それじゃ面白くないから…………こいつが連れてきた魔物も全員帰らせたから……こんな使い物にならない奴、殺してくれて構わんよ。て言うか殺してくれてありがたいぐらいだ」
「そう…か。ならいつお前達は僕を殺しにくる?」
「分からん。俺達の国の王様がお前を殺せと言った時に俺達はお前を殺しに行く。それだけだ。今回はもう帰らせてもらう。これ以上ここに居る用はないからな。じゃま…」
刹那の時間の中で血雷は刀を抜刀しヴィラスに斬りかかった。
「ヴォラクを殺すだって?そんな奴は今始末するぜ。勝手に殺すとか決めるんじゃねぇよ」
血雷は右手に持った刀でヴィラスに刀を振り下ろした。寸止めとは言っても、血雷の目は本気で相手を斬る目をしていた。不審な発言でもすれば即斬られるだろう。
しかしヴィラスは左手で展開した防御壁で血雷の刀を片手で受け止めた。
「やめてくれないか…無駄な争い事はしたくない性格でね。だが、それでも戦うと言うのなら…」
ヴィラスの後ろから紺色の物体が浮遊していた。縦に長い形をした物体だった。見た目から推測して先端から何か発射するのか、それとも先端から何かを展開するのか?どちらかは分からないが危険な武器である事だけは分かる。
「姉さん!ここは下がるんだ!」
「心配するんじゃねぇ!こいつはここで!」
「全く…血の気の多い女だぜ…悪く思わないでくれ」
「…なっ!?」
ヴィラスの後ろに展開されていた縦に長い物体が血雷の胸を突いた。刺さったり貫通したりはしなかったが、打突攻撃としての威力はかなり高い。血雷はヴィラスの攻撃を受け、地面に尻餅をついた。血雷は僅かに恐怖した(こいつは……本気でやり合ったら強い!)と心の中で思った。血雷は大人しく引き下がる事にした。今1人で考えもなしに突っ込むのは最善な策ではない。
「ヴィラス、帰るよ。これ以上道草食ってると王様が怒るかもよ」
「そうだな…すまない。これ以上相手をしてる暇はない様だ。じゃあ…また会おうか。危……いやヴォラク」
「あぁまた会おう」
「次は、次会った時は絶対に斬る!」
「短い時間だったけど、そこそこ楽しかったよ。じゃ、またね」
次の瞬間、ヴィラスとペアスティーネは突然として現れた闇の中に消えてしまった。
ヴォラク達が周りを見ても、探しても誰もいない。周りにいたのはサテラ、シズハ、血雷だけだった。そして地面に転がるレジーの死体。
血に染まる街は静かになっていた。この街にいた魔物も存在していない。静かになった戦場に残るのは血の匂い、地面に転がる人や魔物の死体。そしてヴォラクが使う銃の薬莢。
ヴォラクは黙ったままその場に突っ立っている事しか出来なかった………




