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44話「血に染まる故郷」

 

 畳に座り込んだまま意識を失い、深い眠りに落ちてしまっていたヴォラクはかなりの時間を消費した後に再び目を覚ました。ヴォラクが目を覚ますと宿の外が少しだけ騒がしかった。

 ヴォラクの耳に入ってくるのは互いにぶつかる様な金属音、怯える様な人々の叫び声、一生懸命逃げる様な感じで走る音がヴォラクの耳の中に入り込んできた。

 周りに目を向けると左右にサテラとシズハがヴォラクの事を不安そうな目で見つめていた。表情は慌てていて、何か大きな危険が自分の目の前に迫っていそうな雰囲気になっていた。実際外からは爆発する様な音も聞こえてきた。そして窓から外を見ると夕日ではない薄い赤色が自分の視界に入り込んできた。


 ヴォラクは目を覚まし外を少しの時間だけ見ると自分の黒い目を擦る事もなく、今起こっている現状をサテラとシズハに聞く事にした。しかし今起こっている現状はヴォラクを驚愕させる内容だった。


「主様大変です!何者かがこの街に攻撃を仕掛けてきました!」


「何か、すごい数の魔物がやってきたよ!何か1人ガタイが物凄く良い魔物もいるし!」


「魔物からの襲撃かよ!(まぁ良くありがちな典型的テンプレ展開だな。だが、何もしないのはマズイな……姉さんも心配だし……魔物が僕達に手を出してきたら困るし…)」


 2人から話を聞いたヴォラクは素早く立ち上がりポケットに収納していたツェアシュテールングを取り出しマガジンをツェアシュテールングから取り出した。

 マガジンの中には全部で六発の銃弾が装填されていた。マガジンの中に入った銃弾を確認すると回転式シリンダーをツェアシュテールングの本体に戻して、ツェアシュテールングを右手で強く握った。予備のマガジンを空いたポケットにいれて、魔物との戦闘準備を行った。そして愛用している不気味な黒色の仮面を顔に付ける。


「行くぞ…」


 ヴォラクが小さな声で発した言葉にサテラはネーベルを取り出し、シズハは床に置いていたステイメンを持ち、構えたのだった。そしてヴォラクは音を立てずに前に歩き始めたのだった。

 サテラとシズハは黙ったまま音もなく歩くヴォラクに静かに着いて行くのであった……

























 3人は泊まっていた宿から出ると、ヴォラクは自分の目を疑った。さっきまで血雷と手を繋ぎながら歩いていた平穏で楽しそうな雰囲気を残していた街は今何処にもなかった。今ヴォラクの目に映っていたのはただおぞましく、見るに堪えない光景だった。

 先程まで綺麗だった道端は血で汚れていた。血を流しながら倒れる人々の死体。叫び声を上げながら逃げ惑う人々しかし逃げてもすぐそこにいる魔物に殺されていった。その光景は少し前まで見ていた光景とは程遠い醜い姿だった。怒りが浮かび上がってくる。こんな光景を見ていれば誰でも怒りが浮かび上がってくると思う。僕は人を躊躇いなく殺してきたが、今は人が死ぬのが嫌になった。今までヴォラクが殺してきたのは罪がある人間。しかし今死んでいるのは罪のない人達だった。残忍で狡猾な性格に変わりゆくヴォラクでも今は人を殺してゆく魔物に大きな怒りを覚えたのであった。

 ヴォラクは大きな怒りを露にして超高速でツェアシュテールングの銃口を魔物に向け、人差し指でツェアシュテールングの引き金を引いた。ドバァ!と耳を刺す様な轟音が鳴り響いた。ヴォラクは人差し指を引き金にかけたまま魔物を不気味な仮面を顔に付けたままで睨み付けた。しかし知能があまり高くない魔物はヴォラクに考えもなしに突っ込んできた。

 溜め息を一度ヴォラクを着いた。そしてすぐにツェアシュテールングの引き金引き続けた。

 銃弾が切れれば、空の回転式シリンダーから薬莢を排出しポケットに戻した。そして予備のマガジンを取り出して再びツェアシュテールング本体に装填する。これを繰り返してヴォラクは戦っていた。これを繰り返していると魔物はまるで溶ける様に死んでゆくのであった。


 サテラとシズハもヴォラクの傍で共に戦い続けていた。サテラとシズハが共に戦ってくれていたお陰でヴォラクは少しだけ安心した。

 サテラは装備しているネーベルを魔物に対して容赦なく発射した。連射が可能なネーベルは高速で銃弾を連続で銃口から発射する。サテラは女なので華奢だと思って油断していた魔物は多数でサテラに襲いかかってきたが、サテラが使っているネーベルの餌食となってしまった。魔物達は何の抵抗も出来ずに一瞬で死に絶えたのだった。サテラは血を吹いて声も上げる事が出来ずに死んでゆく魔物を見ながら、軽く笑っていた。顔に魔物の返り血を付けながら。


 シズハもサテラやヴォラクに負けじと重いステイメンを両手で取り回し魔物に向けて発射した。ステイメンは連射が出来ないにも関わらず、自分にどんどん迫ってくる多数の魔物を撃ち殺したのだった。銃弾が切れればマガジンを取り替え再び銃弾を放ち、周囲に存在している魔物達を悲しむ事も怒ると言った感情を見せる事もなく容赦なく殺していった。たとえ身体に返り血を浴びようとシズハはそんな事を気にする事はなかった。

 気が付けば周りは魔物の血で埋め尽くされていた。ヴォラク達にとっては見慣れた光景になっていた。周りに人間の血と魔物の血で染まり、血だけが周りを染め上げていた。

 ヴォラクは周りの魔物を全て殲滅した事を確認すると、足を動かし始めた。さっきまで血雷と歩いていた道を戻る為に走り出したのだった。サテラとシズハは走っていくヴォラクに着いて行ったのだった……














 街の中を探しても、血雷の姿は何処にもなかった。街のあちこちを首を回しながら血雷の事を探し回っていた。

 しかし見つかるのは自分達に襲いかかってくる魔物と血を流して、目を閉じながら倒れている人間の死体だけだった。どれだけ探して見つからない。辛い気持ちが湧き上がるだけだった。悪い考えが頭の中に思い浮かんできた。


 もしかしたら……もう既に血雷は死んでいるのではないのか?と魔物に襲われてしまい魔物に殺されているのではないのか?と悪い考えが自分の心を蝕んでいく。不安な気持ちが浮かんできた。心拍数が上がり、悪い考えばかりが頭の中に浮かんでくる。

 しかしヴォラクの心の中に残っていた不安の心は突然消え去った。何故なら……血雷は僕に勝っていた。今ヴォラクは死んでいなかった。僕が死んでいないのに、血雷が死ぬ訳がない。血雷はきっとヴォラクよりも強い、きっと今、血雷は1人で戦っているだろう。もしかしたら今僕の事を探しているかもしれないと思った。そんな事を考えていれば、不安な気持ちなどなくなってしまった。道端に捨てる様に不安な気持ちは消え去ってしまったのだった………





 そして血に染ってゆく街をヴォラク達3人は駆け抜けていた。そして道の角を走りながら曲がった時だった。


「うぉ!?」


「うぁぁ!?」


 ヴォラクは角を走って曲がった時に誰かにぶつかってしまった。ヴォラクは後ろに倒れてしまった。身体の所々が痛かった。ぶつかった時の痛みと倒れた時の痛みがヴォラクを襲った。黒色の仮面の下で、ヴォラクは苦い表情を見せていた。


 そしてその場に倒れ込みながらも上を見ると、そこには……


「おぉ!ヴォラクか?……大丈夫か?」


 そこにはヴォラクがずっと探していた血雷が立っていた。赤と白色が基調の動きやすそうな和服を着ていて、長く後ろに束ねられた血雷の赤い髪は今吹く風で揺れていた。彼女の刀は服の部分に自分の刀を差していた。それも刀は二本差されていた。


「だ、大丈夫だ問題ない。後…姉さん、生きてて良かった」


 その言葉に血雷は安心した表情を見せた。


「ほら、立てよ。いつまでも倒れてんじゃねぇ!」


 そう叫んで血雷はヴォラクに手を差し出した。ヴォラクは血雷から差し出された手を握った。そして手を握り、立ち上がった。

 その光景を見て、サテラとシズハは羨ましそうな目をしていた。ヴォラクは血雷の手を握り立ち上がった後「そんな顔するなよ」と言った。サテラとシズハは「は~い」とやる気のなさそうな声で言った。しかし今の状況でこんな事をしている暇はなかった。やる気のない声を出したり呑気に話している余裕はなさそうだった。


「ヴォラク、かなりマズイ事になった。この街に魔界の奴らが攻め込んできた。理由は分からんが今存在している敵の数はかなりだ。今の中で一番強い奴は魔界の中ではかなり有名な奴だ…そいつを叩く方が良いと思うが……勝てるか?」


「ああ…こいつを使って…勝つ」


 そう小声で言ってヴォラクはツェアシュテールングを取り出し、ツェアシュテールングの銃口を空に掲げた。ヴォラクが固めた決意に血雷は軽く微笑んだ。


「今からはアタシも一緒に行動する。今は人数は多い方が良いだろ?」


「あぁ、僕は守るよ。姉さんを絶対に守るから」

 

「誘ったら殴るからね~」


「し、信頼してるからね!」


 4人の話はまとまった様だった。4人は共に行動を始める。行く場所は分からない。ただ闇雲に進み、敵を見つけて殺す。これがヴォラク達の作戦だったのだ。



























 今この街は人間と魔物の血に染まっていた。この街は血雷の故郷だった。

 血雷の心の中は悲しみと憎しみに溢れていた。理由も分からずに自分の故郷を破壊され昨日まで話していた大切な人達が道端で血を流しながら死んでいる。それを見た血雷の悲しみは計り知れない大きさだった。そして憎しみの心が湧き上がった。理由もなく人を殺してゆく魔物を見て、憎しみだけが浮かび上がってきた。罪も無い人を殺すなど血雷にとっては耐えられない事だった。血雷は血に染まる故郷をこの目で見る事は出来なかった。

 血雷は決めた。この街を破壊した魔物を殺し、復讐をすると心に決めたのだった………

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